勇者への第一歩…の筈が!?
チビからお説教を受けた後、改めて火をおこしてもらって先ほど仕留めたグンタラビットの肉を取り出した。
近くに落ちている小枝や石ころで即席の肉焼き場を作り、枝に突き刺したウサギの肉をまんべんなく焼くためにぐるぐると枝を回していく。
肉を焼き始めて10分ほど、いい感じに焼けたのを確認して肉焼き場から肉をとりあげた。
「上手に焼けましたー♪」
何故か、無性にこの文言を口にしたくなり上機嫌で言ってみたが、冷静になるとだんだん恥ずかしくなってきた。
ひとまず、本当に上手に焼けたか一口かじってみる。「おっ、旨い」
肉質は柔らかく美味しいのだが、何も味付けをしていないからか少々味気なく感じた。
まあ無い物ねだりをしてもしょうがない。
もう一匹のウサギも枝に刺してじっくりと焼き、出来上がったところでチビと一緒に食べた。
「ねぇ、お兄ちゃん。これからどうするの?」
あらかた食べ終わったところで、チビが今まさに考えていたことを聞いてきた。「うーん、人間と蛮族の関係が分からないことには…そこんとこどうなんだ」
「僕は人間のこと嫌いじゃないけど、好きでもない。でも、集落にいたほとんどの仲間は人間のことを毛嫌いしてるよ」
なんとなく想像はしていたが、やっぱりそうか。
俺が人間だったら、暴れ回っている魔物を倒しまくっていけばいいのかな…と考える所だが、今の俺はコボルトだ。
じゃあ逆に蛮族の脅威となっている人間を倒せばいいのか、とも考えたが元人間だし人類の敵にはなりたくない。
「うーん、今は明確な目標が立てられないから、自分の中の考えをまとめるためにもしばらく旅をしたいと考えてるんだが、チビはどう思う?」
「分かった、じゃあそうしよう」
ひとまず食事を終え、寝床はどうするか…と考えていた時、何かが近づいてくる音が聞こえてきた。
既に日も暮れ、暗くなっている中で目を凝らしてみると、100メートルほど先からこちらへと近づいてくる何かが見えた。
数は1。背丈はどうやら俺と大差ないようだ。
「どうするの?」
小声でチビが聞いてきた。「ひとまず、どんなやつか見極めないと。相手に敵意があるかどうかも分からない内から攻撃をしかけたくはないからな」
そう返して静かに近づいていく。
影との距離は徐々に縮まり、20メートルを切った所で声がした。
「そこにいるのは分かってるわ。素直に出てきたら少しは加減してあげてもいいわよ」
女!?いや、暗くて姿が見えないから魔物かもしれないが、聞こえてきたのは間違いなく女の声だった。
突然聞こえてきた声に二匹揃って混乱しているところへ、畳み掛けるようにまた声が聞こえてきた。
「そう、出てこないってことは遠慮はいらないってことね」
その直後、影はこちらに腕らしきものを伸ばし呪文を唱えた。
「火球」
俺なんか一瞬で火だるまになってしまいそうな、巨大な火の玉が飛んでくるのを見て我に返った。
「って、やばいやばいやばい!」
全力で横に向かってスライディングしてなんとかかわすことが出来たが、立ち上がる前に新たな火の玉が飛んできた。
毛皮が摩擦で焼けるのも無視して再度スライディングし、かわすことは出来たが案の定足の毛皮の一部が焦げている。
しかし、全身黒焦げになるよりはるかにマシだ。
とにかく、このままではじり貧だ。
三つめの火の玉を全力ダッシュでかわしながら、チビにサポートを依頼する。
次の火の玉をかわしたあと、チビが矢を放って敵を牽制。
その隙に俺が一気に接近して攻撃する。
相手が女であることを考えると殺したくはない。
そう考えて一角剣は使わず素手で殴ることにした。
殴ることも抵抗はあるが、俺達を焼き殺そうとしているやつだ。それぐらいは覚悟してもらうしかない。
「まったく、ちょこまかと…」
相手の苛ついた声が聞こえる。
俺がちょこまかと逃げるもんだから頭にきているのだろう。
再び火の玉が飛んできたが、苛立ちのためか狙いが甘くなっている。
しゃがんだ俺の真上を火の玉が通過した後、ひゅっという音と共に矢が飛んでいくのが見えた。
「今だっ!」
体勢を建て直し一気に走りよると、拳を握りしめ影目掛けて振り抜いた。
…いや、正確には振り抜こうとしたが出来なかった。「炎壁」
突如出現した炎の壁に当たって、チビの放った矢は一瞬で炭となり、ギリギリで止めた俺の拳も毛が焼けてチリチリになってしまった。
「あちちちち!」
なんとか拳丸焼けは避けられたものの、周囲を炎の壁に覆われては手の出しようがない。
こちらも魔法を使えれば話は別なのだろうが、俺は剣か徒手空拳での攻撃しか出来ないし、チビの矢ではあの炎を突破できない。
「あら、もう諦めたのかしら」
お手上げか…、そう思っていた時、炎の向こう側から声がしたと思ったら炎の壁が消え去った。
「でも、久々に楽しめたわ。生身の人間相手に魔法を使うなんて久しぶりだったから」
周囲の草木の一部が燃え、火の粉が舞い散る中で俺は初めて女の顔を見た。
炎に照らし出された女は、ただ綺麗だった。
先ほどまで放っていた炎と同じ、燃えるような赤い長髪。
年齢は少女から女性へと変わりつつある、二十歳ごろだろうか。
自信に満ち溢れた顔は楽しげに笑みを浮かべており、強さ云々の前に、この女性には勝てないと感じさせる何かを、目前の女は持っていた。
「あら、人間だとばかり思っていたけど、まさかコボルトとはね」
目の前の女性もまた、今初めて俺達の姿を視認したらしく少々驚いていた。
「私のお気に入りの別荘のお気に入りの場所に、勝手に忍び込んだ盗賊か何かだと思ったけど」
そう口にすると、女は俺達を値踏みするかのようにしばらくじっと見ていた。
そして、何かを思い付いたのか再び口を開いた。
「…そうね、あなたたちには2つの選択肢があるわ。今ここで私に丸焼きにされるか、それとも私のもとで働くか」
俺は丸焼きにされるなんて御免だ。
しかし、逃げられそうにもない。
チビの方はと見ると、諦めたように俺の方を見て首をふった。
どのみち、死ぬよりは目の前の女のもとで働く方がマシだ。
「分かった、あんたの元で働くよ」
「人間の言葉が話せるのね、コボルトにしては珍しいじゃない。気に入ったわ、今日からあなたたちは私の番犬よ!」
「…え?」
番犬?いや確かに姿は犬だけどさ。
こうして、チビと始めた旅は第一日目にして思わぬ方へと転がることとなった。




