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何事も用心が肝心

あれから更に5分以上逃げ続けて、やっとトレントの群れから逃げることができた。

「はぁ…はぁ…ち、ちょっと休ませて」

「ああ、そうだな」

息を切らしながらのチビの訴えに頷き、二匹揃って倒木の上に腰を下ろした。

ひたすら逃げと回避に全力を費やした結果攻撃の全てをかわすことは出来たが、さすがにしんどかった。

「ほら、チビも食べなよ」

「ありがとう、お兄ちゃん」

そういって袋から蜂蜜草を取り出すと、二匹揃ってむしゃむしゃと自然の甘味を堪能した。

休憩して少し落ち着くと、チビに合図して再び歩き始めた。

北へと真っ直ぐ向かいながら、魔物の気配がないか警戒しながら歩くのは、けっこう精神的に疲れるということを知った。

「…む?」

しばらく歩いていると、左前方の木々の先に何か気配が感じられた。数は2。

「この先に何かいる。迂回するか?それとも―」

「いや、戦ってみよう。それで勝てそうになかったら逃げようよ」

相手がトレント、もしくはそれ以上に強い魔物だったときのことを考えてチビに聞いてみたが、返ってきたのは意外にも勇ましい返事だった。

確かに、今後も魔物が出るたびに逃げ続けるのでは旅など続けられない。

それよりも、チビとのタッグでどこまで戦えるのか把握しておくのも悪くない。「よし、俺が先に仕掛ける。チビは後方から弓で援護してくれ」

「うん、分かった」

チビが頷くのをみた後、こっそりと木々の先にいる気配へと近づいていく。

木の幹に背中をつけながらそっとその向こう側を覗くと、そこにいたのはグンタラビット×2だった。




種族,グンタラビット

HP,14/14

MP,0/0

筋力10

敏捷14

器用度5

賢さ4

耐久力6

攻撃力13

守備力7


技能、突進、気配探知


種族特徴、尖角




なるほど、今初めてグンタラビットのステータスを見たがこうなっていたのか。決して弱くはないが、気を抜かなければ今の俺なら勝てるだろう、と判断した。チビに合図を送ると、意を決して手前にいるグンタラビットへと一気に襲い掛かった。

ウサギ達もこちらに気付いたようだが、反応される前に渾身の一撃を食らわせてやる、と一角剣を振りかざして一気に貫いた。

一角剣を引き抜いた直後、派手に血を吹きながら俺に貫かれた1体はそのまま動かなくなった。

残る1体が敵意のこもった視線を向け突進してきたが、今の一撃に全身全霊を込めていた俺は反応が間に合わない。

一撃は食らう覚悟を決めたちょうどその時、後方から飛んできた矢が一角ウサギの前足に命中した。

「助かったよ、チビ!」

今の一撃で怯んだのか、足を止めた一角ウサギにこちらから追撃を行う。

一角ウサギも必死に回避しようとしたが、足を傷つけられ動きの鈍った今の状態ではかわしきれず、一角剣に胴体を貫かれ絶命した。



経験値40を手に入れた!

チビのレベルが2に上がった!

技能、弓の心得(習熟度1)を習得した!


種族,コボルト

名前,チビ

レベル2

状態,健康

HP,12/12

MP,1/1

筋力5

敏捷8

器用度11

賢さ7

耐久力4

攻撃力:10

守備力:8


技能、【薬草学(習熟度2)】、【釣りの心得(習熟度1)】【弓の心得(習熟度1)】


種族特徴、 長毛(耐久+1)



おお、レベルが上がったせいか、それとも弓を使って敵を倒したからか弓の心得という技能をチビは覚えていた。

「やった、勝ったよ!僕、役にたったよね?」

「ああ、もちろん。チビのおかげで助かったよ」

俺が剣の血を拭っていると、嬉しげに問いかけてきた。

「本当?やったー」

はしゃぎ回るチビを見ながら、これまでカーティスや集落の皆に守られてきたと言っていたチビのことだ、誰かの役に立つというのが人一倍嬉しいんだろう、と俺まで嬉しい気分になった。

グンタラビットの角を切り取って道具袋に入れ、ウサギの肉は後で食べようと別の皮袋に入れて歩みを再開した。

その後更にトレントと遭遇するも、単体であったことと俺とチビの能力が上がっていることもあり、さほど苦戦せずに倒せた。




経験値30を手に入れた!チビのレベルが3に上がった!



種族,コボルト

名前,チビ

レベル3

状態,健康

HP,14/14

MP,4/4

筋力7

敏捷11

器用度13

賢さ8

耐久力5

攻撃力:12

守備力:9


技能、【薬草学(習熟度2)】、【釣りの心得(習熟度1)】【弓の心得(習熟度1)】


種族特徴、 長毛(耐久+1)



この調子でいけば、トレントが複数出てこない限り苦戦せずにすみそうだ。

そう考えながら先に進もうとしたところで、チビに呼び止められた。

「あ、待って。このトレントの葉っぱは煎じると薬になるんだ」

そういってチビは今倒したトレントから葉っぱを数枚取ると袋にしまった。

「へぇ、そうなのか。チビは物知りだな」

「えへへ」

少し照れたように笑うチビの頭をなでたあと、再び歩き始めた。


一時間ほど歩いた所で森を抜け、草原地帯へと出た。その先に、カーティスの言っていたセレナ湖と思われる湖が見える。

「わぁ、僕森を出たの初めてだよ」

初めてこの異世界に来たときも草原地帯にいたが、きちんと確認するのはこれが初めてだ。

所々に大岩が転がっている以外、特に目につくものはない。

ざっと見渡した所魔物の姿は見えないが、空や地中から襲ってくる魔物がいないとも限らない。

周囲の警戒は怠らずに、湖を目指しひたすら進んだ。4時間ほど歩き続け、幸運にも魔物と出くわすことなく湖までたどり着いた。

「ここがセレナ湖で間違いなさそうだな。湖畔に建物が見える」

それにしても大きな建物だ。

外見は別荘のような雰囲気だ。

すぐ近くに木造の小屋が建っているが、あれは多分別荘の管理人の家か何かだろう。

「ねえお兄ちゃん、どうするの?」

「うーん、人間に見つかったら下手したら殺されるかもしれないし、今日は湖の東にある林でさっきのグンタラビットの肉でも食べながら一夜を過ごそう」

「うん、分かった」

既に日も暮れかけている。疲れた体を癒すためにも今は休息が必要だ。

俺とチビは湖で水をくみ、林でグンタラビットの肉を食べようとしたのだが…。

「そういえば、どうやって火をおこすんだ」

生でも食べられるかもしれんが、元人間だったからか、やはり火で焼いたものを食べたい。

「ああ、それはね。こうやるんだよ」

と言ってチビが袋から取り出したのは鉄製の小箱だった。

「何だそれ?」

「見てて」

チビは小箱から赤い鱗のようなものを取り出した。

それを集めていた小枝や落ち葉の上に乗せると、煙が上がり始め、しばらくして火がついた。

「僕もよくは知らないんだけど、カーティスの話だと炎の魔人の一部らしいよ」

「へぇ、ちょっと触らせてくれよ」

「いいけど、気を付けてね。それとっても――」

「大丈夫だって」

そう言ってチビの言葉を遮ると、いまだ小枝の上に置かれている赤い鱗を手にとった。

それはほんのり温か…ってあちいぃぃ!!

「あちちちちち、手が、手が燃える!」

手にとった瞬間は確かに温かい程度だったが、すぐに手では持てないレベルまで発熱しだした。

あまりの熱さに鱗を放り投げた。

赤い鱗が触れた場所は毛が焼けたらしく、ちりちりになっていた。

「あっ、それ投げちゃ駄目だよ!」

チビの制止の声も間に合わず、草むらに落ちた鱗は発熱し、周囲の草を発火させた。

「や、ヤバい!火を消さないと」

「僕、湖から水を汲んでくる」

チビが走っていくのを横目で見ながら、確か砂をかけたりして火元に酸素がいかなくなれば、火は消えると昔聞いたことがあるのを思い出した。

「一か八かだ」

既に煙が狼煙のように上がりつつある火元を見ながら、一生懸命穴をほった。

そして皮袋一杯に詰めた土を一気に火元へとぶっかけた。

二度、三度と続けていくうちに火元は見えなくなり、ちょうどそのころチビが戻ってきた。

「あれ、火は?」

「その山の下だ。念のため、水をかけといてくれ」

そう言ってついさっき作り上げた土砂の盛り上がっている部分を指差した。

チビはすぐに鱗を掘り当て、水をぶっかけると鱗は最初に見た薄い赤色に戻っていた。

「これでよし、と。もうお兄ちゃんには貸さないからね」

「…すまん」

鉄製の小箱に鱗をしまいながら、チビのお説教が始まった。

まあ確かに、悪いのは注意をろくに聞かなかった俺だからな。

ここは素直に怒られておこう。

「気をつけてよ、一歩間違えばお兄ちゃんも大火傷してたかもしれないし、火事になったかもしれないんだから」

「すいませんでした」

今回の失敗で、年下に怒られるのってなんだか情けない気持ちになるということを学ぶ事が出来た。


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