気がつけばもっふもふ!?
これが初投稿となります。色々と誤字脱字や拙い表現などあるでしょうが生暖かく見守ってください
どうしてこうなった…。
とりあえず現状の把握が第一だ、そう思い先ず己について確認する。
…もふもふだった。より正確に言うならば、全身から柔らかそうな毛が生えている。どう見ても人間ではない。更に、今までとは違い頭の上に耳が付いている。端から見れば、直立した犬が間の抜けた様子で立っている様にしか見えまい。
「ワォーーーン!」
どうなってるんだー、と叫んだ筈が聞こえてきたのは犬の遠吠えだ。
俺は確かに人間だったはずなのに、どうしてこんな姿に?
せめて、何か一つでも自分にぴんとくるものがないかと周囲を見渡すも、目の前は川と草原、背後には森が広がっている。自分の記憶にこのような風景はない。
「ワゥ…」
はぁとため息をつくも、やはり聞こえてきたのは犬の、ちょっぴり切ない鳴き声だった。
「いやぁお困りのようだね!」
「!」
突然何もないところから聞こえてきた声に驚き、周囲を見回してみたものの人っ子一人見当たらない。
気のせいか、そう思って再び現状把握に努めようとした所で、再度声が聞こえてきた。
「あれ、無視かい?ひどいなぁ、せっかくお困りのようだから助言してあげようと思ったのに」
さっきと同じ声。どうやら気のせいではないようだ。こっちが心底困っていると言うのに、やたら明るいこの声は少々耳障りだったが今は他に頼るものがない。仕方なく耳を傾けることにした。
「おっ、やっと聞いてくれる気になったのかい?いやぁ、やっぱり転生させといてそのまま放置は気が引けたからねぇ。聞いてくれるなら嬉しいよ」
「ワン、ワンワン!!」
ちょっ、待てお前今…と言いかけて、そう言えばさっきから人語が話せないことを思い出した。
「あ、そっか。人語話せなくなってるのか。こりゃうっかりだった。それっ!」一瞬周囲が明るくなったと思ったら、
言語理解(習熟度1)を習得しました!
というフレーズが脳内に浮かび、一瞬で消えた。
「おい、今のは一体…って、あれ?」
「人語を話せるようにしておいたよ。これで意志疎通もばっちりだね」
相変わらず、どこから聞こえてくるのか分からない能天気な声が響く。
「ああ、そりゃありがとう…って違う!」
「え、嬉しくないのかい?」
「いや嬉しいけどそうじゃなくて、先ずここはどこだ。お前は誰だ、そしてどうして俺がこんな姿になってるんだ!」
やっと言葉が話せるようになり、話し相手がいる。それは幸せなことなのだとこの時初めて理解した。
しかし、そんなことは今は二の次だ。未だに姿を見せない正体不明のこの声が、今の俺の不可解な現状について何か知っているらしい。ならこいつから早く聞き出さないと気が収まらない。
「ここは君がついさっきまで生きていたのとは別の世界。
詳しく説明するのは面倒だからざっくり言うと、あったかもしれない可能性の世界の一つに今君はいるわけだ」
「分かった。とりあえずはそういうことにしておく」
「おや?ずいぶんと物わかりが良いんだね」
ああそうですかと納得した訳では断じてないが、ひとまずそういうもんだって思わないと話が進まない。今は黙ってこいつの話を聞くことにした。
声の主は俺の内心を知ってか知らずか、先ほどよりも気分の良さそうな声で先を続けた。
「それじゃ次の質問の答えだけど、二つ目と三つ目の質問はリンクしてるから合わせて答えるよ。まず、僕は神だ」
「……は?」
「いや、は?って返されても困るなぁ」
いや、困るのは俺だ。未だかつて自分のことを神などという奴には会ったことがない。
頭が常にハッピーな奴か危険人物か…。どちらにせよ、相手にしない方がいいかもしれない。
「なんだか失礼な事を考えてそうだね」
「失礼も何も、素直な気持ちを思い浮かべただけだ」
「ひどいなぁ、さっき人語を話せるようにしてあげたこと、もう忘れたのかい」
そういえば、そうだった。どんな手品かは知らないが、こいつが話しかけた後俺が言葉を話せるようになったのは事実だ。
「分かった、今は疑った所でしょうがないからな」
「なら話を続けようか。君は元の世界で死んだ。あれは即死だった。でも、そんなあっさり死なせるには惜しい、と感じたのでね。それでチャンスをあげようかなって転生してあげたんだよ♪」
「色々と突っ込み所はあるけど、とりあえず何で俺は人間の姿じゃないんだ?」一々突っ込んでいたらきりがない。
俺が死んだだの転生しただのと、それらも気にはなるが目下最大の問題は何故俺が直立した犬の姿なのかってことだ。
「うーん、そのまま人として転生するよりその方が面白いだろ?」
声の主はしばらく黙っていたが、やがて返ってきた答えはやっぱり俺が苛つくほど陽気な声だった。
「おまっ、神様なんだろ?転生させるならさせるで、きちんと元に戻してくれよ」
「君、蜘蛛の糸ってお話を知ってるかい?」
「?ああ、知ってるけど」「基本的にはあれと同じさ。既に糸は垂らした。あとは君の頑張り次第ってわけさ」
駄目だ。今の一連のやりとりで、こいつは話を聞いてはくれるが、自分の考えを変えることはないだろう…とそのように感じた。
「そうそう、これは最後のアドバイスだ。ここから森の方へ一時間ほど歩いた所に集落がある。ひとまずはそこで情報収集するといいよ」
「とりあえず礼は言っとく。ありがとな」
何が何やらさっぱりだが、一つ分かったことはこの世界での俺の行動次第で、元の世界に戻れるかもしれないということだ。
ならば善は急げ、くるりと向きを変えて森へと向かう。
「ああ、それと自分の基本的な情報なら脳内で自身について思い浮かべようとすればいくらかは分かるよ。それじゃまた来るよ、頑張ってねー」
最後まで能天気そのものだった(自称)神の声はそれで聞こえなくなった。
「はぁ…とにかく、その集落とやらに向かうしかないか。と、その前に」
さっき神様が言ってた言葉を確かめるためにも、自分の情報を確かめたい。
出来るだけ心を平静にしながら、自分の事を思い浮かべるように努めた。すると、
種族,コボルト
名前,????
HP,12/12
MP,0/0
筋力4
敏捷3
器用度6
賢さ3
耐久力3
技能、言語理解(習熟度1)対象言語:人語、初級蛮族語
種族特徴、 長毛(耐久+1)
所持品、なし
所持金、なし
といった一連の情報が流れ込んできた。なんかRPGのステータス画面を眺めているような気分だったが、とりあえず自分はコボルトという種族らしい。このステータスはどう見ても弱いだろ?
それに、所持品も所持金もないんだが…今時裸一貫でやってこいなんてRPGやアクションゲームでも皆無だぞ。
「鬼畜神め…」
神様と言えば、きっと空の向こうにいるに違いないと考え、大空に向かってぼそりと呟いた。
くそ、この世界で大活躍して絶対に元の世界へ戻ってやる。
覚悟を新たに、裸一貫のコボルトは森の入り口へと足を踏み入れて行った。