82 お茶会
ここはオストランドで借りてる宿の一室。この宿は王族や高位の貴族御用達の所謂高級宿に分類されてる。故に普段から警備が厳重なのだが、今ではアーランドの兵士や騎士がその警備を手伝う事で更に警備レベルが上がっている。理由は私達アーランドの王族3人が泊まってるのと、先日の襲撃が理由だ。
まあそれ自体は自国でも警備が厳重なのでどうでも良い。問題は襲撃者から精霊を剥奪して、お兄様に全て押し付けた後に、皆で先日出来なかった新作ケーキを食べる集まりを今日行う事だ。
私達の中でケーキを食べた事が無いのはアノンちゃんだけで物凄い楽しみにしてたらしい。一番先に来てた。
これもケーキが結構高いのが理由だ。物流網が整って無いこの世界では趣向品は高い。特にチョコレートとかが滅茶苦茶高い。故に贅沢品なのだ。それにアノンちゃんの家は貴族に珍しく、物凄い節制を心掛けてるらしい。財産に余裕はあれど、後の世代の為に散財を禁止してるらしい。なのでお菓子類は滅多に食べないのだとか。
「にゃははケーキケーキ」
「分かったから落ち着きなさい。それと、それはいい加減外しなさいよ」
「気に入ったんだよ」
アノンちゃんは剣とガントレットが大層気に入ったようだ。ケーナちゃん曰くお風呂の時と寝る時以外は外さないのだとか。尚寝る時は抱いて寝てるらしい。危ないよ。
それとシャロンちゃんが前に持ってこれなかった果物を作ったパイも一緒に持ってきてくれた。今日はお菓子会だ。私もお気に入りの果物のミックスジュースを出して皆で心行くまで楽しもうとしてたのだが……
「…ねえアリス、良いのアレ?」
「いい加減許してあげなよ。私達も慣れてるからもう気にしてないし」
「絶対に嫌」
そう部屋の隅で土下座してる物体が私達の邪魔をしてるのだ。下げた顔の下の床は涙で水たまりが出来、その体が纏ってた強者のオーラは霧散して今にも死にそうな気配を漂わせている…………お父様だ。
「見苦しいから消しておく。影を纏い欺け【幻影】」
「シクシクシクシクシクシク」
お父様の居た場所が一瞬だけぶれるとお父様が消えた。幻影を纏わせて居ないようにしたのだ。しかし、そこからひたすら泣く声が聞こえる。今ここでお菓子会を開いてるメンバーは私達4人とメイド4人の計8人だが、物凄い空気を壊してる。それが余計私の怒りに触れてるのに気が付かないのだろうか?
「えっと…アノンちゃんで慣れてるから許してあげて?」
「…う、うう…だって言ってくれれば良いだけなのに…あんな事に成らなかったのに…騎士の人達魔眼に引っかかってたし」
「グフ‼」
隣の部屋から何かを吐き出すような声と、ほんの少しの嗚咽が聞こえた。誰かが泣いてるのだろう。
「許してあげて?」
「……」
シャロンちゃんの珍しい強気に気圧された。こう強く言われるとかなり揺らぐ。しかし私はそう簡単には…
「許してあげてね?」
「分かった」
負けた。無理だよ。シャロンちゃん強すぎる。無言の圧力に屈してしまった。
「次は無いよ。もし次が有ったら国王陛下と呼ぶ。ついでに城から出て行く」
「分かった‼絶対に事前に報告します。それとお願いだから出て行くとか言わないでくれ~生涯城に住んでいいから」
「将来は領地を貰ってそこで生活する」
「絶対嫌だ‼領地開発に熱中して絶対に王都に来ないだろう‼………っは、つまり俺が退位した後にそこに住めば良いのか。構わん好きな領地をやろう‼」
自分に都合の良い妄想を膨らませるお父様。まあ忙し過ぎて王都には滅多に行かなさそうだね。でも多分戻るよ?それに領地が欲しいのは本当。私の資金は物凄い事になってるので資金力と技術力と無数のゴーレムで未知の領域に突入した領地を作ってみたいとは思ってる。今は帝国と皇国を黙らせるのが先決だけどね。
「王様って…どこも変わってるのかな」
「アノン、アーランドの王族が凄い変わってるんだってお父さんが言ってたよ。と言うかアリスだって黙って無いと王族には見えないよ」
「失敬な」
アノンちゃんとケーナは何か残念な物を見る目で私と私に抱き付くお父様を見ていた。シャロンちゃんは少し誇らしげに頷いてる。
さて、機嫌を直し復活したお父様は何か用事があってここに居るのだ。無論私が無視してたから聞いてない。何を話しかけても無視するので泣きながら土下座で謝っていた。
「少し前に資料庫でアリスティアの望みの物がある可能性がある書物が見つかった。資料整理で出て来たらしい」
「詳しく」
どうやら古い資料を纏める作業を行ってた人が石油と思われる物が出た記録を見つけたらしい。しかも200年以上前の物だとか。
場所は小さい盆地で鉱石の類が無いか200年以上前に調べた人達の報告書だ。それによると、地面を掘ってたら油のような物が噴き出て来た。それを調べると、突如調べてた小屋が爆発炎上し、悪魔の液体だと皆で逃げたと言う報告書らしい。
まあ昔だし、迷信深い時勢で、それ以降はそこを調査する事は無かったらしい。それに結局鉱石の類も無かったのと魔物が多数生息してるから調査の価値なしとして処理されてるのだとか。
「まあ領主が居ないから王家直轄地だし、もしそれが石油ならアリスティアの個人領地にするわ。どうせアリスティア以外に使い道も分からんだろう」
アーランドは領主の居ない土地は全て王家の物で、開発なども国に許可を取る必要がある。まあ基本的に申請すれば、そこに領地的問題が無い限りは許可される。
例えば鉱石が眠ってる可能性が有ったり等、必要性が無ければ誰が統治しても良いと言うのが王国の方針なのだ。
「何の話?」
「私達聞いて良いの?何か凄い話をしてるような?」
「まあ大丈夫かな?どうせ聞かれても私も王国も困らないし」
聞かれた所で、石油を掘られた所で有効性を見つけて無いこの世界では何の問題にもならない。それに皇国の異世界人達も石油からゴムが作れる事をしってても詳しく作る方法を知ってるのはどれだけ居る事やら。また、知ってたとして一から道具を作るとなると、私のように特殊な魔法を作って自由に機材を生み出すか、周りの技術力を上げて作って貰うしかない。どちらにしてもこちらの方が早いのだ。
「ウマウマウマ」
「地球でもこっちでも碌な物が食べれなかった。ここで食い溜める」
「一生分食べましょう」
「貴方達は食べ過ぎよ」
メイドーズは最初から一心不乱でケーキを食べ続けていた。余程甘い物に飢えてたのだろう。あっちでこっちでも碌な扱いされてなかったらしいから仕方ない。余りの食べっぷりに私達は若干呆れ気味だね。だけどアノンちゃんは触発された。
「私だって食べた事無いんだから‼」
「食べきれないくらいあるから張り合わなくても良いよ。それにそこの3人は太るよ?今後も食べる機会何かいくらでもあるんだからほどほどにね?」
「…良し、2人とも今晩は模擬戦しよう。食べた分は運動だ」
「「異議なし!モグモグ」」
どうやら無意味らしい。アノンちゃんと4人でテーブル中のケーキを食べまくってる。尚石油に関しては今度調査隊を派遣する予定らしい。どうやら詳しい場所が虫食いで紛失してるので、そこから探さないといけないらしい。
「美味し~~‼凄い美味しんだけど」
「私も久しぶりだけど、知ってるお店より美味しいかも」
「パティシエを……雇いたい」
ふふん。アーランドの王都でも1・2を争うお店だもん。何時でも行列が出来てるお店なんだから。お客さんは主に高位の女性冒険者らしい。貴族も結構来るが、やっぱり庶民的には成れてないね。今度業務用の冷蔵庫と冷蔵付きのガラスケースでも作ってみようかな?いや、それより物流をもっと効率かして物価を下げるのが先決かな?そうすればもっと国民の皆も食べれそう。物流が良くなればもっと経済が成長するしね。飛空船事業の結果次第では鉄道計画も進めよう。何年先になるか分からないけど…むう弟か妹が生まれる前に…あ。
「そうだ。私おねえちゃんになるんだ‼」
「マジかよスゲ~私一人っ子だから憧れるよ」
「私は…姉が少し怖い…最近ちょっとね」
「私は結構仲が良い。一緒にお風呂とか、庭で一緒にお花を咲かせるとか」
皆色々と憧れとか楽しみがあるらしい。ケーナちゃんは何が怖いんだろうか?
「だから空にでっかい神殿を建てたいって言ったら皆反対するんだ。将来おねえちゃん凄いって言って欲しいだけなのに…」
私はまだ諦めた訳じゃ無い。魔法技術の進歩で島すら浮かべる事は可能の筈だ。それを成し遂げれば十分誇れる姉だろうと思っている。しかし予算と王国の許可が下りないのだ。これでは作れない。それにそれを行う暇も無いだろうと言われてしまった。まあこっちは近々どうにかなる予定だ。現在私と師匠で攻略の装備を整えてる。
「神殿って…流石に…ね?アリスなら平気で浮かべそうだけど…ちょっと」
「確かに自分の姉が神殿を浮かべたらスゲーって思うよね。必要なのかは別として。それに飛空船を甦らせたんだから十分じゃね?あの変な乗り物も凄い早かったし」
「十分誇れると…思うかな」
「むう、私は飛空船だけじゃ全然満足しない。もっと色々作ってる。でも足りないもっとあの子の為に何かしたい」
新しい家族だ。楽しみ過ぎる。お祝いは盛大にするのがアーランド流なのに。
「まあ、追々で良いんじゃね?実際誇れる姉にはなると思うよ?まあかなり変わってるお姉ちゃんって思われるかもね」
アノンちゃん酷い。しかし変わり者なのは否定しない。楽しみだな~まだお母様のお腹は大きくなってないし、まだまだ生まれるのは先だが、凄い楽しみだ。
無論それまでに外敵を何とかしたい。今回ここに来たのはそれの最短手段を手に入れる為だ。あの地下迷宮を攻略して古代の大魔導士の魔法を我が物にしてみせる。最も見るだけで持ち出しまでは許可されてないが。
「っあ、それと地下の迷宮は私も行くことになったから。オストランド側としてね。アリスも知らない人と一緒だと面倒だろ?だからそこそこ実力のある私が選ばれた。
大丈夫アリスの使う魔法とか誰にも言わないし。全く、私みたいな子供を偵察に使う貴族とか最低だよね~思わず王様とアリスのお父さんに告げ口しちゃったぜ」
何気に変な事を企んだ貴族を破滅に追い込んだアノンちゃんはクリームをたっぷり顔に付けて微笑みを向けるのだった。




