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81 精霊を統べる王②

 さて不審者は捕縛された。クート君が吠えると魔法陣が出現し、わんこーずはアーランドに送還され、衣服だけボロボロのヘリオスも戻って来た。


「………」


 顔色は分からないがクート君は多分青褪めてる。だって私からご褒美用のジャーキーを強奪すると言う反逆を犯したのだ。

 一方ヘリオスは凄い不満顔だ。余裕こいて突撃してもデコイ程度の戦力だったのだ。ある意味人間状態ではデコイとしてしか使えない事を証明したとも言える。


「クート君は活躍したから少しは許すけど、後で罰を与える。取りあえず今日は夕飯抜きねヘリオスは…今後デコイとしてしか使えないね」


「吾輩人間のような見た目になったのは初めてである!戦い方など知らないのである」


「じゃあ後で屈強なアーランド兵に一から叩き直して貰おうね。かなり防御力高いから多少痛い目に合っても問題ないよね?それとメイド3人はしょうがないので許す。行き成り私を入れて行動するのは無理だし」


 集団転移はしっかりメンバーを頭に入れておかないと忘れていく事が発生するから仕方ない。アリシアさんはもっと許されない事を仕出かしてたから何も言わないだろう。ヘリオスはやる気満々だ。私のペットである以上は常に竜状態では居られない。今回の件で未熟さが理解出来たのだろう。

 それとヘリオスは一応古代竜に分類されるが、他の古代竜に比べると格が低く、弱い分類に入るらしい。どうやら古代竜の中でも所謂若手に分類され、自分より強い他の種族に会った事も無いのだとか。

 まあ竜自体が最強種でもあるから滅多に倒される事は無いので仕方ない。

 クート君は燃え尽きていた。


「姫様…」


「ごめん、今は冷静に成れないから今日は話しかけないで」


 ちょっと距離が出来てしまったが多分許せると思う。でも次は無いと暗に示す。これだけは簡単に許す訳にはいかないのだ。


 さて護送される襲撃者だが、気になる事がある。何故精霊はあの人達から離れなかったのかだ。精霊に悪意は基本的に無い。つまり悪意ある行動を取る精霊が居ないのだ。彼等は人に怒る事とかはあっても悪事に進んで手を貸す種族では無い筈だ。なので聞いてみた。


(それは精霊との契約が人間主体で組まれる物だからだ。恐らく先ほどの奴も昔は良い人間だったのだろう。しかし人間が主体で組まれた契約は精霊と言えど一方的な破棄が出来ない。だから渋々従ってたのだろう。最も人間と契約する精霊は皆甘いと言えるからな。過去の思いに囚われて見切りをつけれないのだ)


 成程。何故人間が主体の契約なのは言われなかったがそう言う物らしい。つまり悪事に手を染めた彼を苦々しく思ってもどうにも出来なかったと。


(精霊の契約を破棄出来るのは精霊王だけだ。最も君が将来会うであろう精霊王は仮の王だな。本来王とは数百年に一度生まれる人間――つまり君だ)


「……え?」


 何それ聞いてない。と言うか精霊の王様に会わないと名前を聞けないとか言ってたじゃん!


(仮に王が居ると言っただろ。奴は人と接触するのを嫌う。当然奴より格の低い我等もその意向には逆らい難い。我等は奴に名前を明かす事を禁じられてるのだ。君はまだ幼いから余り多くを知る必要は無いと伏せていたがな)


「どっちにしても私は名前を聞けるんだよね?ずっと精霊王に会うのを楽しみにしてたのに私ってどういうオチ」


(まだ…早い。我等はまだ君を見極めきれない。名を明かせば我等は君に絶対服従なのだ。その危険性は君にも分かるだろう?強い力には意志が要る。それを見極めきれない状態で名を明かせば君は力に溺れ、全てを破壊してしまうのだ。申し訳ないが少しだけ待ってくれ)


 よく分からないが、身に余る力を手に入れるのはよく無いね。別に精霊の力を我が物にして世界を我が手に‼とかめんどくさい事は考えないし、精霊王?私の場合は精霊女王になるのか。それも自覚が無いのでどうにもならない。

 まあ何であっちの精霊が私を攻撃しなかったかは理解出来た。確かに王に攻撃は出来ないわな。

 さて、では彼等を解放しよう。処刑されるか鉱山に送られるか知らないけど、精霊をそこまで着きあわせるのも可哀そうだ。彼等を自由にしよう。


(方法自体は難しく無い。我等が言う事をそのまま伝えればそれだけであ奴等は解放される。元々あの人間より君は遥かに精霊に干渉する権限を持ってるのだ)


 まあ理解した事にしておく。どうせ自覚など無いし。本当に何でそうなってるのかとか全然分からないけど、アリシアさんでなく、近くの騎士に頼み、拘束されてる精霊の契約者と面会する。当然お父様が反対だって騒いでたけど私はお兄様に頼んだ。お父様は無視だ。


「精霊魔法の使い手を拘束するのは難しいと君もよく知ってるよね?実際にアリスを拘束する事だって失敗してるからね」


「私に精霊魔法は通用しないし、精霊も力を貸さないって。これは私の精霊達から聞いた。私はあの人達から精霊を剥奪しないといけないの。彼等を自由にする為に」


 お兄様は何を言ってるんだ?と言う顔になった。精霊との契約を第三者が破棄させるのは難しい。殺した方が早いと言われるくらいだ。それに契約してる彼等でなく、私に従うのも同じくおかしいだろう。精霊は契約者第一の性質も持ってるのだ。だけど私が冗談を言ってる訳じゃ無いのは理解出来てるみたいだし、私ならあり得るかと言う顔になった。


「それだけ言えるなら事実だろうね。こういう時に嘘をつく娘じゃ無い事も私は理解してる。何か必要な物は有るかい?儀式を行うのだろう?」


「何も要らない。精霊に契約の破棄を命令するだけだから」


「……………後で部屋で詳しく聞こう。父上は…居ると邪魔だよね?私から伝える事にする」


 横で大泣きする物体を無視して、お兄様と共に拘束してる部屋に入る。一応オストランドの牢屋を借りてるが、ここは特別な重犯罪者用で、他には誰も居ないらしい。なのでアーランドが交渉して一時的に借り受けたのだとか。

 普通は貸してくれる施設じゃ…どうせ構造知られてるから恩を売ろうとか考えられたんだろうな。

 取りあえず牢内にはボロボロの契約者達が居た。放置すると精霊に頼んで逃げる可能性が高いから素で動けない程暴行されたのだろう。一瞬だけ治療を考えたが無理だ。彼等は悪事を働いた。

 彼等には何処でも生きていける能力がある。精霊と契約した者なら何処の国もそれなりの待遇で雇ってくれるし、民間でも色々と仕事はあるのだ。それなのに悪事を働いた。もしかしたら誰かに脅されて…それ以上は考えない。結果は王族に対して危害を加えようとしたのだ。情状酌量出来ない。私一人で隠蔽出来る範囲を超えすぎてる。前のおじさんみたいに隠せる範疇を超えてるのだ。だから私は彼等から精霊を剥奪する。二度と精霊の力を悪用出来ないように。


(良いかよく聞くんだ。精霊王に契約を剥奪された人間は精霊の加護を失う。二度と精霊達は彼等に力を貸さないだろう。彼等は他の人間より生き難くなる。それはこの世界の人間なら大なり小なり我等の加護を受けてるからだ。彼等の場合碌に魔法も使えなくなるだろうし、破棄した所で契約してた事実は消えない。どんな儀式を行っても再契約も出来ない)


「分かった。汝精霊を統べる王の名の元に精霊の加護を剥奪する。精霊との契約を剥奪する」


 ビクンと動く契約者達。暫くして彼等から精霊が離れた。少し寂しそうに別れを告げる精霊に襲撃者は半狂乱で暴れ出した。


「嘘だ嘘だ嘘だ。何故何故俺から離れる。行くな‼お前は俺を選んだんだろ‼俺が必要だったんだろ‼」


(バイバイ…昔の君のままなら何時までも一緒に居られたのに)


 最初に闇の精霊が離れた。どうやらかなり人間に好意的な精霊らしく流暢に話しながら彼と別れる。精霊も悲しそうだ。だってそうだろう。精霊と契約するのは殆ど子供の時だ。大人になると儀式を経て、呼び出した精霊に気に入られると言う低確率の難関が待ってる。儀式で呼ばれる精霊は人間に興味を持ってないのが多いのだ。

 男は暴れながら魔法を唱えるが、発動した魔法は余りにも小さかった。小指ほどの【火球】が壁に当たるが、壁や鉄格子は元々対魔法用でそれの100倍でも傷つかない設計だ。当然鉄格子の間から魔法を放つなども出来ない。

 故に【火球】は壁を焦がす事も出来ずに消えてしまった。彼は尚も暴れ、鉄格子の外に居る私に跳びかかって来た。特殊な鉄格子のせいで隙間から腕を出す事も出来ない。男はそれでも私に憎悪の視線を向け、言葉に出来ない罵詈雑言を吐く。だが私は何も言わずに他の精霊達の解放を待った。

 精霊はどうやら全種居るようだ。だが、どれも低位と言う最下級の精霊らしい。私の精霊は光と闇が中位の中でもトップクラスで残りは中位に上がったばかりらしい。私の魔力を食べまくって急成長したとか自慢された…何してんのさ。

 中で精霊達に見捨てられた襲撃者達が喚くのを無視して牢から出る。だがここで一つの問題が起こる。

 私は自分の強権を発動する事で精霊を強制的に彼等から引き剥がした。人間と契約する精霊は人間が大好きだ。彼等の次の契約者を私が紹介しないといけないらしい。


「何で私が…自分で見つければ良いじゃん」


(お願いします。女王様のおススメなら今度は良い子と契約できそう)


 どうやら精霊達も彼等を更生出来なかった事がかなり堪えたのだろう。元気が無い。

 結構な年月を苦楽を共にした友人を捨てる選択をさせてしまったのだ。しかし私も適当な人に契約を進める訳にはいかない。友達に頼むのも手だが、迂闊に契約すると政治の道具になる可能性が出る。まあ王様なら止めてくれるだろうけど、周りは騒ぐだろうし、誰がそうしたかなど一目瞭然だろう。次は自分にと次々依頼が来そうだ。

 なので一番安心できて、人格や能力のあるお兄様に全部押し付けよう。どうせ陰で精霊に気に入られてないのでは?とか意味不明な噂も流されるのだ。恐らく脅された貴族のささやかな仕返しだろうが、今の所見つけ出されて追加の脅しが入ってるのだろう。変な事をしなければ良いのに。


「と言う訳でお兄様も今日から契約者」


「…何故に私が契約者になるんだい?そう言うのはやはり儀式で正式に呼び((((よろしくね‼))))……分かった。私が面倒を見よう。但し私は精霊魔法について殆ど知らない。だから今度教えて欲しい。無論2人きりで何処かの部屋で」


「練兵場でみっちり教えてあげる。騎士の人達の前でね」


 何か不穏な気配を感じたので即拒否った。人目のある場所で凶行を行うお兄様では無いだろう。少し不貞腐れてるが、無事精霊はお兄様を認めた。お兄様は両手の甲の部分に契約の紋章が出現した。良し、これで私だけが精霊と契約してる訳じゃ無い。いっその事、家族全員精霊に進めてみるか。


(アリスの父親は精霊も近寄らないと思うぞ。あそこまで暑苦しいと火の精霊くらいしか近づかん。しかも我等の助けを求める程の者では無いので力を貸す意義を見出せないな。寧ろ本当に人間なのか?)


 闇の精霊先生にまで人外扱いされるお父様。確かに人間なのだろうか…少し心配になって来た。ある日突然角が生えたり、「ぐはははは我こそ魔王なり」とか言われてもやっぱりかと思いそう。普通魔法も無しで3階から落ちたら怪我するし、最悪死ぬよ。無傷で平気とかありえない。今度お母様に聞いてみよう。


(アリスのお母さんも無理っぽいかな~だって怖いって精霊中に知れ渡ってるし)


 何故に私のお母様の暗黒面を知ってるのだ。光の精霊も震える様に揺れている。


(あれだけ君の折檻を見せられてるんだ。我等は何処にでも居るし、アリスの事は生まれた時点で全ての精霊が存在を知っている。最も存在だけしか知らない精霊も多いがね。その我等の王に対してあれ程の猛威を振るう人物を恐れるのは普通だろう。寧ろ何でアリスは懲りないんだ?)


「私は…負けない。きっと何時かお母様を上回って…………………みせるんだ」


 言ってみてはなんだが、心が折れそうだ。確かにお仕置き怖い。思い出すのは辞めよう。

 それと面倒だから私に対する説明はお兄様の精霊に任せた。私は今日の午後から遅れていたオヤツタイムを満喫するのだ。一応私の泊まってるのは貴族向けの宿でも一番いい部屋だから、人はいくらでも入れる4階丸々貸切なのだ。そこでやっと銀月の新作ケーキを心行くまで皆で食べる狂乱の宴が始まる。

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