表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
93/377

78 対中央同盟②

 その日オストランドは喧騒が広がっていた。それは復興が特に問題無く行われている事への国家の未来への期待や、特需により活気が出ているのである。

 そもそも王都が落とされると言う事はこの世界では国家の消滅を意味する。中央が落ちてその後も国が存続できる時勢では無いのだ。それに彼等は潜在的に帝国を嫌っている。文化の発展したオストランドでは文盲率は大陸で最も低く、他国の情報も話し手等で容易に手に入る。王都では新聞すら発行されているのだ。先の一件は帝国の侵略に対する危機意識が生まれるには十分だった。かの国の卑怯さも伝わっているのである。

 しかし一度は落ちかけるも奇跡的な事に何とか生き延び、復興も好調。それどころかあれ程のスタンビートが起こったのに死者は1000人程である。普通ならあり得ない被害の少なさだ。

 王家も復興の為に国庫を開けるなど資金の投入も行われ、復興は一気に進んでいる。そして今日、オストランドは隣国のアーランドと同盟を結び、飛空船を輸入する事が公表されている。

 国民は喜びに満ちている。一部は王女の所業は差別的だと言うが、死者を全て生き返らせる等、神の所業で個人ではどうしようも無い事だと理解出来るし、命がけで救われた事を理解している為、大体の国民は王女に好意的だ。と言うか正真正銘の英雄扱いである。その英雄にして聖女と呼ばれる王女が自ら作り上げた飛空船をオストランドが最初に輸入するのだ。

 アーランドは極めて強力な軍事国家だが、他の国と同盟を結ばない事でも有名である。これまで同盟を結んでいたのは既に滅んだ連邦だけで、他はどれだけ頼んでも認める事は無い国家である。それがオストランドと同盟を結ぶと言う事はアーランドが味方になると言う事だ。

 普通なら教会やそれを率いる皇国を頼りにするが、恩人に仇成す皇国や教会は既にその信頼を失っている。対してアーランドは特殊な技術を有する国で、多種族主義を除けば信頼出来る国である。更にかの国が他国に攻め込まないのは大陸でも有名な話なのだ。

 帝国のように領土的野心も無いので、外の脅威も減ると言う事である。更にアーランドは技術者等を貸す事も確約してるので復興も更に進むだろう。拒否する理由は余り無かった。


「おい来たぞ‼」


「あれが新しい飛空船か。隣に飛んでるのは…なんだありゃ?」


 国民は自らの目を疑った。それは見た事も無い飛空船が2隻飛んでいる事だ。まあそれは良いだろう。輸出する以上はそれ以上の物を持ってるのが当然とも言える。しかし、その周りを高速で飛んでる物体があるのだ。それは驚くほど高速で飛び回っている。時折魔法で花火を上げている事から敵ではないだろう。

 多くの国民がそれを目撃して察した。敵に回すべき国じゃない。何かは分からないが、下手な竜より遥かに早いのだ。誰だって運用法に見当が付く。だが、無事に調印式が終われば味方なので見世物として扱われていた。彼等は長年平和だったため、警戒心が少なくなっていたのだ。それより問題なのは感謝してもしきれない王女が一緒に来てるかどうかである。彼等は調印式が行われる広場…これは公な政を好むオストランドとアーランドの意向により、国民の前で調印を行うと言う事が理由であるが、それのせいで今日の広場は邪魔な物や屋台などを撤去して多くの国民が集まっていた。彼等も自国の未来を知りたいのである。この歴史的瞬間を自らの瞳で見る為に多くの国民が集まり、広場に入れない国民は広場に面してる建物の窓際や、屋根に上ってみている。


 そして飛空船が広場に到着した。全ての飛空船が泊まれる程広い訳では無いので王族が乗ってる一隻だけが着陸して、残りは空で待機である。


「アーランド王国、ドラコニア陛下及びギルバート王太子殿下の御成り~」


 飛空船から伸びてきた赤いカーペットとその脇に整列する空軍が一糸乱れぬ演奏し、残りが2人の王族に敬礼する。

 そして出てくる国王と王太子は王族に相応しい豪華絢爛な服を身に纏い、ドラコニアは国王の王冠。ギルバートは王太子用の王冠を付けているが、ギルバートの方は儀礼用の軍服であった。

 しかし王女は何時まで経っても飛空船から出てくる事は無かった。やはり来なかったかと若干の落胆が広場に広がるが、ドラコニアとギルバートが広場中央に設けられた檀上に着くと、突如空を飛んでいた物体が急降下し、逆さまのような状態で急停止した。そのまま空中で泊まってる謎の物体。しかし、それのガラスと思われる部分が開くと、青を基調とした軍服に身を包み、同じく蒼いマントに身を包んだ王女が飛び降りて来たのだ。そして空中で静止していた物体は突如現れた豪華な門の中に入っていき、そのまま門と共に消え去った。国民は再び己の眼を疑った。転移か‼とも思える所業である。まして見た事も無い物に乗っていたのが王女自身である。

 ざわざわと騒がしくなる広場だが、王女はしてやったりと言う雰囲気を醸し出していた。流石にオストランド側も驚きを隠せなかったが、アーカード4世は笑いながら周りを宥めていた。


 アリスティア視点


 中々好調な出だしだね。皆ビックリした顔をしてる。悪戯が大成功して凄い楽しいね。


「ほっほっほ中々愉快な登場じゃな。相変わらず元気そうで何よりじゃ」


 王様も笑ってる。怒られるかもしれないとちょっとドキドキしてたけど良かった。やっぱり悪戯大好きだねお互いに。


「私は何時でも元気ですよ。元気過ぎて周りを困らせる程です」


HAHAHAと笑う私。まあ表情は相変わらず変わらない。テンションが上がっても基本的に無表情なんだよな。


「まあ話は追々と言う事で先に調印を済ませるかの」


 面白出だしだったけど、その後は真面目に調印式が始まる。

 これは魔法契約を用いた相互制約だ。この制約がある限り両国は互いに不可侵を決める。最も抜け道も多い為、今では結ぶ事も少なくなった古い制約なのだが、それを用いる事で互いに本気で制約を護ると言う意思表示らしい。

 しかしここで暇になるのが私。だってやる事が無いのだ。大人しく座ってるだけである。クート君は飛空船の中で待機状態だしね。

 そして無事調印も終わり、誓約書を2枚書き、互いに国民に見せる。これを持って正式に制約が結ばれたのだ。


「ご報告‼王都に向けて炎竜襲来。どうやらスタンビートの影響で近くの魔物の領域で食料不足が起こっているのが原因です」


 しかし同盟に湧くオストランドの国民も一瞬で静かになった。


「アリス…」


「私のせい‼いいもんお父様、私ちょっとペットにしてくる。開け宝物庫の扉‼師匠重戦仕様に換装してマーク1を飛ばすよ。32ミリ機関砲装備だね」


「おっしゃ任せろ‼トカゲ狩りだ」


 どうやらスタンビートで発生した魔物がそのまま国外に逃走した為、魔物の領域内で魔物が減り、トップがお腹を空かせて近くの人間――つまりここを目指して飛んできたらしい。よし、ここは新しいペットにしよう。

 取りあえず単座のマーク1は機銃しか積んでないので、下に機関砲を積んで攻撃力を上げよう。今回は準備万端だから問題ない。いざと言う時はお父様と言う最強の元冒険者が居る。どうせ装備も持ってきてるだろうから危なくなったら助けて貰おう。


「…良いのかのう?まあ炎竜に対抗する軍備等無いしの~頼めんか?」


「しっかり金は貰うが、同盟国の安全保障に入ってるからしょうがねえ。それにアーランドの武力を見せるには丁度良いだろう。古代竜だったら楽しめたんだがな」


 換装を僅か30分程で終わらせて出撃する。目指すは炎竜。しかし周りには100匹程のワイバーンが居る。クート君は飛べないし、他の魔獣は飛べてもワイバーンの相手は単体だと無理と言う事で、今回は大人しく待ってて貰う。最もクート君以外はアーランドの王城に居て、お母様の警護をそれと無くしているので連れて来てない。


(小癪な人が空を犯すか‼)


 おや、この炎竜知能を持ってる。と言う事は古代竜だね。唯の属性竜ならこれと言った知能を持ってないし、念話も使えない。


(大人しく私のペットになるか、飛空船の一部になるか選ばしてあげる今日の私は機嫌が悪い)


 こんな日を滅茶苦茶にされたら私の楽しい休暇が無くなる。邪魔をするなら殲滅‼今度はお父様が万全な態勢で居るから炎竜何か怖く無いんだから‼


(ほう。吾輩に対してそういう態度を取れるとは、小娘にしては見どころがあるな。しかしその脆弱な身で何が出来る‼)


 その時、炎竜の周りのワイバーンが突如落下を始めた。いや、お父様が鉄球を戦鎚で飛ばしてるのだ。砲撃を受けたように次々とワイバーンが落下し、数を減らしていく。地上ではスパイダーの予備砲身を流用して作った即席の固定砲で落ちてきても生きてるワイバーンを消し飛ばしてる師匠。聞こえない筈の高笑いが聞こえる…門を閉めるの忘れて、中の物を勝手に使って組み上げたようだ。それ私の‼


(大人しく私にちゅーせーを誓うなら命だけは助けてあげる。下のお父様は神竜を狩る凄腕の冒険者だったんだよ?貴方に勝ち目は無い)


(下の者が神竜様を殺しただと‼消し炭にしてやるぞ虫ケラが‼)


 激高する炎竜。しかし神竜は人間に被害を出し過ぎたから討伐されたのであって自業自得である。最強の竜だと言うプライドのせいで好き勝手し過ぎただけだ。

 2時間後、炎竜は地面で私に頭を垂れていた。そう私は勝利し、炎竜を配下に加える事に成功したのだ。足元にはドヤ顔が怖い子犬モードのクート君。オストランド側は唖然としていた。


(…吾輩…貴女様に忠誠を誓わせて頂きます…どうか命だけは…グス…)


「うむ、分かればよろしい。それと私のペットに成るんだから同僚とは仲良くね。それと私の許可なく人を傷つける事を禁じる。但し自己防衛の為なら良し」


 戦闘はあっさり終わったのだ。まず炎竜の攻撃はこちらのスピードが遥かに上回ってる為に当たらず、ちょこちょこ飛び回る私にキレた炎竜のデカいブレスを平然と回避し、機関砲と機銃を防御力の低い翼膜に当てると、翼はズタズタにされ落下した。そして地面で待ってるのは全てのワイバーンを処理して待ってたお父様。

 炎竜は尚抵抗した。しかし攻撃しようにも上と下からの攻撃し放題の状況で反撃する事は出来なかった。鱗は殆ど吹き飛ばされ、手足をお父様に叩き潰されて結局命乞いが今回の顛末だ。


「わーい新しいペットゲットだぜ」


 取りあえずボロボロの翼と砕けた鱗は時間経過で勝手に治るらしいので、傷口を魔法で治療してると王都の門からアリシアさんが歩いてきた。


「………ヒメサマ?」


「アリシアさん‼見て、私の新しいペットだよ?かっこいい炎竜が私のペットだよ。これで私も竜使いの仲間入りだよ」


「………神よ私が何かしたのですか…何故こうなってしまったのですか…王妃様助けて~~‼」


 騒ぐアリシアさんを無視して契約を結び、ヘリオスと言う名前を与える。これは太陽神からとった名前だ。すると炎竜が人型になった‼何故に?


「フム、どうやら主の魔力の情報で擬態が出来るようになったのだろう。そこの獣モドキと同じ物だな。流石に人型になるのは驚いたが、竜と契約すると人型になる事は馴染みの同胞から聞いた事があるので不思議でもなかろう」


 炎竜は切れ目の15歳程の少年になった。最も服は無い。瞬時に私の視界はアリシアさんに塞がれ、炎竜は再びお父様にボコられた。


「ぐおおおおおおおおおおおおおお」


「娘に変なもん見せてんじゃねええええええええ」


 その後平然と戻り調印式が再開されたが、誰も調印に文句を言う人は居なかった。寧ろスムーズに式典は終わり、お祭り騒ぎになったくらいだ。

 炎竜は飛行船の医務室送りにされたけどね。


「我は人型にならず良かった」


 まるで死体を運ぶかのように、白い布を掛けられ担架で運ばれるヘリオスを見てクート君が呟いたが、私以外には聞こえなかった。

炎竜の名前を変更しました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ