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73 護国会議①

 建国祭が終わって1週間が経った。祭りは三日三晩続いたけど、貴族や王族が祝うのは初日のみで、残りの2日は国民が自主的に祝う…と言うか飲み放題の日を1日でも伸ばそうとしてるだけらしい。

 元々は1日で終わるけど、飲み足りないから祭りは終わらせねぇ‼と少しづつ伸ばしてるらしい。お父様の話では10年後には1週間は祭りが続くかも知れないとの話だ。

 私と工兵やグランツさんはこの一週間はお休み。工兵に至っては寝て酒を飲んで寝るの繰り返しだったとかどれだけお酒好きなんだろう。


「姫様も遂に護国会議に参加ですか。羨ましいです」


「お兄様より1年早いけどちょっと緊張するね」


 私の元には一枚の書状が届いた。それには護国会議の参加を認めると書いてある。

 護国会議は貴族議会より権威のある会議だ。参加するには会議のメンバー数人の同意が無ければ王族でも参加は認められない。

 過去には時の国王が認められずに王不在の期間もあったらしい。まあその時の王様はそれを非常に恥じて3年間の努力の末に認められた程の会議である。

 この会議に出るには、まず貴族階級である事。それにメンバーの同意。つまり実力者にその実力を認められた者だけと言う事だ。メンバーは別に秘匿されてないけど、公にメンバーだって言う事はしない。だって言うと賄賂を贈られたり、家族や部下を人質にしてでも参加させろと言う貴族も居るからだ。

 貴族階級であり、実力を認められれば騎士等の最下級の貴族でも参加出来るが、アリシアさんは参加資格が無いので私に同伴は出来ない。会場にも入れない徹底ぶりだ。


「貴族に成った者は誰でも一度は思いますよ。私も護国会議に呼ばれる貴族になりたいと。まさに姫様は名実ともに国になくてはならない人材になったと言う事です」


「自覚が全然無い。それほどの事をしたっけ?それよりメイドーズはまだダウン中なの?」


 楽しみにしてた建国祭だけど、3人中2人が風邪をひいて全員出てこなかった。どうやら楽しみ過ぎて夜遅くまで薄着で話し込んでたのがいけなかったらしい。可哀そうなので、お土産は送っておいた。


「そうですね。もう大丈夫だと思いますよ。全く姫様のメイドになる者が風邪をひくなど言語道断ですよ。私は姫様のメイドになってから一度も病気になった事はありません」


 えへん!と胸を張るアリシアさん。確かに病気の類は無いけど死にそうなまでに疲れてる時とかしょんぼり状態な事が多いのは良いのだろうか?



 と言う訳で会場に来ました‼


「姫様、これは異界のスイートポテトなる物を再現した物ですが、評価をお願い出来ませぬか?」


「いやいや私は異世界のパティシエを雇う事に成功しました。我が領地特産のチーズを使ったチーズケーキは絶品ですよ」


「貴様‼そんな者を雇われたら我が領地のお菓子産業が貴様の領地に後れを取るではないか‼」


「偶々我が領地に飛ばされてきたのを保護しただけですよ。はっはっは‼」


 会場は円卓を5重に並べた物で、中央に近い程会議での発言権が高いのだが、何故か私が会場に入るとあれやこれやで中央に移動させられた。

 そして始まる謎のお菓子自慢?何故か私に味見を頼んで来る。皆フレンドリーで、若輩者の癖に生意気な‼とか表情に出てる人は一人も居ない。純粋に私が来た事を喜んでくれてる感じがする。


「えっと…あの…何で私?お菓子は好きだけど…」


「姫様の御墨付が貰えれば王都での販売は勝ったも同然なのです‼無理にとは言いません。何卒評価を」


 近くに居たお兄様に説明を求めると、どうやら私の行きつけの店は何処も大繁盛になる。特に私がお気に入りに発行するおススメ印が多い店はそれだけで高いステータスなのだとか。

 確かにおススメ印は押す事があるよ。アリシアさんが1週間掛けて自分で彫ったデホルメされた私の顔の絵がある奴だね。でもあれって余り発行した事無いのだが。


「立地等の条件で売れない店も実力があればアリスがそれを認めるからね。王都限定だけど、経済効果は高いんだよ。実際お気に入りだと取り寄せじゃ無くてアリス自身で店に通う程だからね。今じゃ銀月ぎんげつの奇跡と呼ばれてるよ」


 銀月は立地が少し大通りから外れた場所にある喫茶店。獣人の人が店主なんだけど、開業資金の関係で大通りに出せなかったらしい。そこに迷い込んだ私(アリシアさんは一応横に居た)はそこのケーキの余りの美味しさにおススメ印を押したのが始まりだ。今でも唯一10個以上のおススメ印を保有するお店である。私はお菓子毎や紅茶毎にハンコを出すから、複数持ってるお店もある。


「そんなに混んでたっけ?私が行った時は必ず奥のスペースが空いてるけど」


「その席は今じゃアリス専用だからね。貴族が行っても使わせて貰えないんだよ。それで銀月の売り上げが前年比300%を突破したせいで、アリスのお墨付きを欲しい職人が多いんだ。別にお菓子以外でもあげてるだろう?」


 服関係とか装飾品関係でも出してるけど、まさかそこまでになるとは…恐るべし。少し控えた方が良いのかな?


「左様です。だから王都でお菓子を売りに出すには姫様に認められるのが一番早いのです。当然審査が厳しいのは理解してます。何卒アドバイスなどがあれば教えていただきたい」


 取りあえず、ケーキとスイートポテトを食べて、感想を言う。ケーキは十分美味しいからその場でハンコを押したが、スイートポテトはもう少し改良の余地があるので、そこら辺を言うと真剣にメモを取ってた。ケーキを持ってきた人は横で小躍りしてるよ。

 取りあえず前半部分で凄い混沌としてるのだが。


「テメエ等うちの娘に近づきすぎだ‼会議の為に来たんだからさっさとやれや!あとアリスは席こっちだからな」


「陛下‼いい加減娘離れしなされ‼」


 私の席はあるのだが、お父様の膝の上に乗せられた。それに周りの一部の貴族がキレた。会議の品格が落ちるとかじゃない。そんな感じじゃ無くて、私情が入ってるような…


「お前等娘が居ないからって嫉妬すんなよ。羨ましいだけだろ。こんな可愛い娘を持てば嫁に出す気なんか起きなくなるからな」


「ぐぬぬぬぬ」


「確かに息子しか居ませぬが…ぬぐぐぐ」


「っそ、そうだ。姫様も席があるのですからそちらに」


「絶対に嫌」


 貴族の人が指さした先にあるのは子供用の足の長い椅子。あからさまな子供扱いを受けるくらいならお父様の上に居た方が…どちらも変わらない‼

 ぐぬぬ。普通の椅子だと座高が足りないし…流れに任せよう。私は何も知らない。

 その後も兎に角私を降ろせと要求する人達に舌を出して断るお父様。話し合いの結果私は何故かお兄様の横に座る事になった。当然ながら一番中央の円卓だ。

 何故そうなったかって?私には分からない。お父様と娘の居ない貴族の醜い争いの最中に残りの貴族全員に何か囁いてた。その後騒いでる人達を無視して私はお兄様の隣と言う謎の決まりを構築したのだ。

 既に過半数の貴族が賛成してるので、お父様も断れない。私は別に隣に座るだけなら何も問題は無い…あるのは新参者が中央は不味いと言う事だけだ。

 ちゃんと普通の椅子を貰ったしね。ちょっとテーブルが高いけど。


「私は一番外の円卓の筈。ズルは良く無い」


「何を仰いますか‼姫様は古代の技術を甦らせると言う偉業を成した御方ですよ。中央でも誰も文句は言いませんとも。っな‼」


「お、おう。確かに何も問題ない。殿下の言うように中央に座る程の偉業ですぞ」


 私の困惑に賛成派の貴族が慌てて反論した。何やらちょくちょく泣きそうな顔でお兄様を見てるけど、お兄様は涼しそうに微笑んでる。一体何を囁いた‼

 ここに居るからには実力者なのだろうが、既に過半数がお兄様に弱みを握られてると言う事か。貴族なら皆後ろめたい物を抱えてるだろうし、そこを脅迫されたのだろう。哀れな。


「クソ、ギルの奴やりやがった」


「まあ我等は別にそれでも構いませんが。真剣に会議が出来るのなら姫様が中央でも何も問題ありませぬ。問題なのは姫様を膝に乗せてると陛下が会議に集中しないと言う点だけですので」


 ここでお父様と争ってた貴族もお兄様派に入ったのでお父様の意見は却下された。確かに私を膝に乗せてると仕事しないね。

 さてこれで会議も開催出来ると言う事だね。お兄様曰くこの場に居るのは変わり者の国の中のトップクラスの変わり者ばかりだから会議が普通に進行する事は余り多く無いらしい。

 だけど、一度始まれば何処までも真剣に会議する。つまりは始まるまでがオフの状態と言う事なのだろう。会議場に入った時点でオンには出来ないのだろうか?


「さて今回緊急招集を掛けたのは娘が古代技術を復活させたばかりか、予想外の改良を施して未知の飛空船を建造したと言う事だ。今後どう使うよ?」


 お父様が最初に切り出した。結構な問題になってるのか。


「そもそも我々は飛空船を建造してる事を知らなかったので何とも言えませんな。それに未だに何処にドックがあるのかすら我等には分かっていませんからね」


「頼まれたから作った。でもしょぼいからもっと大きく安定して使えるようにした。取りあえず資料はあるから」


 取りあえず何も分からないと会議のしようも無いので飛空船の基本スペックや主だった運用法を提出する。


「ふむ、貨物型…確かに今後飛空船を好きに作れるのなら別けるのが効率的ですな」


「確かに。しかし、この新型は少し高すぎはしませんか?もう少しコストを…酒代…」


「何故建造費に酒代が…」


「工兵に飲ませないと効率が落ちるので…生産性が落ちて反感を買っても良いのなら飲ませないけど…責任は取ってね?」


 この世界のドワーフはお酒が無いと4割程能力が落ちる。これは長い歴史と多くの学者が検証したから、学術的には一般的な常識だ。知らない人も多いけどね。

 それを知ってて無視すれば工兵は怒るだろう。唯でさえ神経を使う作業を行ってるのに褒美も無しでは彼等は動かない。お金よりお酒の種族なのだ。

 まあ、今回の異常な建造スピードはお酒の力だから、今後はそこまで異常なスピードは出せないんだけどね。

 取りあえず酒代については思う事はあれど追求はしないと言う結論になった。私はお酒飲めないからね。こんな所で不正請求なんかしないし、してもお兄様やボルケンさんなら僅かな挙動から嘘を見抜くだろう。


「問題となるのは建造費か…ボルケン、国家予算の余りでどれだけ作れる」


 お父様が、同じ中央の円卓に居るボルケンさんに問う。


「余り作れそうに無いですな。ですが、他から持って来るのも問題があります。やはり予算の問題が大きいです。唯でさえ国民の負担を抑えなければならないのにこれほどの建造費を何度も払う余裕はアーランドにはありません」


 ボルケンさんは書類を見ながら眉を顰める。やはり予算の問題を抱えてたか。

 私も出来るだけ調べたが、今大きい事業と言えば、国境砦の改修の為にアーランドは予算を溜めてる状況だ。当然予備費があるので今回はそれでどうにかなるが、何度も使う訳には行かない。

 それ以外にも長年帝国との戦で出来た孤児の保護や、国外からの流民処理等、問題は数えきれない。それに年々大きくなってるスラムの問題の問題もある。

 スラムが若干先送りになってるのが気になるが、やはり予算無くては何も出来ない。この世界には銀行も国債も無いからね。作れない事も無いけど、まだ早いだろう。それに国債で国が潰れる危険性も出てくる。安易に頼るべきじゃない。国家予算は赤字にするわけにはいかないのだ。


「長期的には数倍になるが、やはり短期的にでも国家の予算が減るのは問題だな」


「しかし、折角手に入れた技術を生かせないのは…そうだ‼姫様、何かお知恵を」


「そうだな。ここは新しい意見を聞くべきだろう」


 何故か場の雰囲気が私に頼れば何か意見が出るんじゃないか?と言う感じになった。


「あるけど」


「あるのですか‼」


「あれを輸出する」


 私が窓の外に浮かんでる飛空船を指さす。現在新規建造された飛空船は空軍が市民を乗せて王都近辺を遊覧飛行してる。


「……我が国の法では大型の飛空船の売却は禁止されております。それは姫様もご存じの筈ですが…」


「左様。飛空船は軍事力です。他国に流すのは…」


「それよりも議会が許さんだろう」


 まあ現在帝国の内通者を抱えてる議会は確実に邪魔をするだろう。だけどね、私の前世に住んでたであろう日本は法を解釈で捻じ曲げるのが大好きな人達の国なんだ。だから法を変えなくても何とでも出来るんだよ。


「今あそこに飛んでるのは、もう大型じゃないでしょう?だってあれは新型より小さいんだから。中型の飛空船は貴族や他国が買うのを認められてる筈」


 会議の皆が黙り込んだ。そう、私が比較対象として同時に新型を出したもう一つの理由――それは飛空船を他国に輸出する事で膨大な利益をアーランドが得ると言う事だ。


「新型はほぼ全ての性能で旧型を上回る。アーランドから買い取った旧型を使った所でアーランドに牙を向ける事は出来ない。議会も法を犯してない以上は邪魔できない。だって今までの大型が中型に落ちただけだからね」

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