72 演説
私は特設の檀上に立つ…嫌がらせかな?台が高くて国民が見えない。下の国民が爆笑する声が聞こえる。
「そりゃ姫様の身長じゃ隠れるわな」
「頭しか見えねえ」
ぐぬう。仕方ないので【浮遊】で少し浮き上がり高さを調整する。そこ小さい脚立を持ってこない。大人な私には不要な代物だ。何故この場に存在するのか小一時間ほど話し合いしようかアリシアさん?
「……行き成り話せと言われても原稿も何も無い。本来の予定なら今年こそ屋台で買い食いなる物を嗜む計画だったのに…」
「毎回怒られてたな」
「流石にそりゃ無理だ」
思わず呟いた言葉は拡声魔法が掛かったマイクっぽい物(私製)に拾われて広場中に拡散した。何この羞恥プレイ。お父様達も横を向いてピクピクしてるし、国民も笑ってる。うん。最初の受けが良かったと思おう。決して深くは考えない。
「取りあえず皆に質問。この国には何が足りないと思う?」
「「「「酒だ‼店から酒が無くなりそうだ‼」」」」
どうやらこの場には酔っ払いの国民しか居ないようだ。よく見ると広場に居るのは大人で子供は出店とかに群がってる。狡いぞちびっ子共‼私はまだ買った事が無いのに。
兎も角酒が無いと騒ぐ一角に【剛力】を使って宝物庫から出した酒樽を投げる。
「うっとと。ん?酒だ‼これが無いとやってられねえ」
「初めて飲む酒だな。異国の物か?ウメぇ」
流石アーランドの国民。飛んできた酒樽を片手で受け止め、酒と分かるとそのままコップに注いで飲み始めた。周りの人達も同じく飲み始める。
「それをあげるから少し大人しくしててね。それと羨ましそうにしてる人達の分も作って来たから後でね」
「姫様の手作りだ‼」
「奪い取れ‼」
何故か乱闘を起こしそうだったので宝物庫から100個程取り出してアリシアさんの方に投げる。アリシアさんはそれを受け止めるとピラミッと状に積み上げると何処からか松明を持ち出して、その松明に火を付けた。何で‼
「静かにしないと、このお酒は燃やしますよ?」
「「「「「おっしゃぁ‼皆静まれ、酒が燃やされるぞ。あのメイドさんの目は本気だ。
それと国王を取り押さえろ‼酒を独り占めされるぞ」」」」
「離せ‼あれは俺の物だ~俺が飲むんだ~」
私製と言う事で親馬鹿のお父様は即座に強奪する為に動こうとしたが、国民側の席でお酒を飲んでたのが災いと化し、国民に紐でグルグル巻きに縛られた。騎士も目を見開く手早さだ。まるで樽のようになってる。流石にあれは暫く動けないだろう。心なしか膨らんできてる気がするから、千切れるのも時間の問題だろうけど…ていうか国王なんだから国民に縛られないで欲しいのだけど。
「難しい話はめんどくさいし、どうせ皆寝るから省くとして、この国に足りない物は基本的に無い。自国で大体生産出来るからね。でも留学して思った。何故かこの国は馬鹿にされてる」
広場中の国民がこっちを見る。
「私はこの国が大好き。でも何故か馬鹿にされる。全部皇国が悪いと思う。だから嫌がらせを思いついたの。他の国には作れない物をどんどん作ってみせると。馬鹿にする人はアーランドに頭を下げて買うしか無い物を作ってみせると。だから簡単に作れそうな飛空船を作ってみた」
「「「「飛空船は簡単には作れねえ‼」」」」
うん。何故か作れないらしいね。バランス調整を失敗するとあっさり墜落するからね。でもそれさえできれば簡単なんだよ。だって空飛ぶ帆船だし。魔法技術以外ならどの国でも作れる…海や大きい川がある国なら。
「今は根幹部分を私が作ってるけど、将来的には私無しでも建造できるようにする。この国は私の技術も自身の物に出来るだけの素地はあるんだよ?お父様が国を守るなら私はお兄様と協力して国を発展させたい。それには色々と運べる飛空船は絶対に必要だし、数も必要。将来的には市民の皆も好きな場所に旅行に行けるようにしたい。空なら盗賊とかの心配も無いし、早いからね」
さっきまでの喧騒が嘘みたいに静かになった広場で私は話す。
「今日、この日を持ってアーランドは古代の技術を甦らせた。そして私はこの日を持って宣言する。私は更にそれを改良したと‼既存の飛空船はもはや時代遅れになった。私は全く別の系統の飛空船も作った。これを見て」
そう宣言すると、更に城の方から先ほどを上回る大きさの飛空船が出てきた。
それは金属の船。地球ならこんな物を浮かべるなど不可能に近い代物だ。2つの翼にはプロペラが付いており、それが素早く回転している。船の後方には煙突から少し少ない煙を出してる。火魔法を推力としてるが、基本的に魔法はそこまで大気を汚さないので、煙も少ない。それが一直線に広場まで飛んできて通り過ぎた。
驚くべきところは、今日は無風の日なのだ。風が無ければ自由に動けない飛空船は無風の日は魔術師達が風を起こすが、それで動く飛空船よりも遥かに早い。
「…すげぇ」
「でけぇ」
巨体でありながら、その飛空船は王都を高速でグルグル回ってる。
「これが私の考案した新しい飛空船。気候の影響をさほど受けずに自由に動ける。それに速度も従来の飛空船より早い。
これからこんな物をどんどん作ってみせる。私は魔物と戦うのは怖いと思う臆病者だし、人と戦うのだって凄く怖い。でも私にも出来る事はある。だからお父様から頂いた役職に相応しい働きをする。
それとあの船は暫く王都周辺を回るから乗ってみたい人は乗っても良いよ。皆も将来使う物だから乗り心地とか知りたいでしょう?」
「マジでか‼」
暫く静かだった広場が行き成り沸いた。無論機密に分類される所は厳重に警備されるが、今度はこの飛空船が空を飛び交うのだ。国民もよく見るべきだろう。
「と言う訳で演説しゅーりょーアリシアさんお酒ふるまって良いよ。お父様はちゃんと別に持ってきてるから大人しくしてね。私は買い物に行ってくるから」
「待ちなさい」
お父様の如く国民側の席にトンずらしてオーク種に成りつつある貴族から逃げようとしたのだが、行き成り首根っこを掴まれて持ち上げられた。
そう!私は猫のように持ち上げられた。恐怖で動けない。だが私は既に対策済み。そう死ぬのは私だけでは無いのだ。
「この件はお父様の許可を得ての事ですので私は悪く無い」
「私は聞いてないわよ?後で色々とお話しましょうか。所で何処に行くつもりなのかしら?買い食いは絶対に許さないって何時も言ってるよね?」
くそう。周りの魔術師が防音の結界を張ってるから国民に声は聞こえてないけど、私の様子を見て爆笑してるよ。アリシアさん?鳥に餌を撒くように樽を投げてるよ。普通に渡す気は無いみたいだし、国民も平気で受け取ってる。凄い光景だね。
「お祭りなのに買い食いできないのはおかしい。私もちびっ子達に混ざるの‼」
「貴方は王族でしょう?ドラコの悪い部分ばかり真似しないの。こっちにお菓子を用意したから大人しくして居なさい」
こうして私は連行された。
特別席に座る私に群がる貴族たち。中には構造を聞き出そうとする貴族や、純粋に運用法を聞いてくる貴族も居る。性悪な人も居るけど有能な人はとことん有能だからね。しかし彼等は・・・お母様は気が付いていない。そこに座ってるのはモアイ像だと言う事に。
「魔法は完璧。私は既に逃走済み」
「最近気が付いたら横に居るよな」
私は日頃忙しいお父様の慰労の為にお酌をしてるよ。お酒の匂いだけなら嫌いじゃないからね。嫌いだったらお父様には近づかなくなるくらい酒臭い事が多いから。
「それで、ドックの方は順調か?足りない資材とかは出来るだけ用意するから後で見積もりを出すように。どうせ他の貴族じゃ何を材料にしてるのか分からんだろうしな」
「分かった。ドックは現在B1階の5隻分かな?中央の発着艦用のルートを掘り進めてB2階も建造予定。崩落とかは大丈夫だから何処まででも掘り進めれる」
柱とか色々と魔法で強化・保護してるから余程の事が無ければ問題は無い。だけど…
「でもゴムが足りない。今はゴム質の魔物の皮を代用に使えてるけど、あれは滅多に人里に出ないし討伐される事も少ないから…何処かに石油でも出れば合成ゴムでも作るんだけどな」
ゴブリンより弱く、逃げ足が速い怪鳥の皮なのでギルドもそこまで素材を保管してなかった。まあ使い道が無い物だったらしいから捨て値で買い占めたけど。
「石油か。聞いた事が無いな。しかし調査はしてみるとしよう。それと南方にも天然物が無いか暗部を派遣して調べさせる。今まで使い道が無く知られてなかっただけの可能性もあるからな」
ゴムが作れる木が生えてればそこから輸入すれば良いんだけどね。まあ輸入より自国生産の方が安定するんだけど。
それと作業員の補充も頼んどいた。新型は兎に角この世界に今まで無かったエンジンとかを利用してるので、それらの整備とかも教えないといけない。まだまだやる事はいっぱいだ。それに運用は何故か私に一任されてるんだよね。実を言うと今日発表する前にお父様とお兄様は旧型の存在を知ってたし、私の性格上それ以上の物を作る事を予測してた。だからこの際だから空軍を私に任せるつもりらしい。
アーランドの空軍は不遇な職業だ。何故なら飛空船は常に王国内で動き回ってる為、実践的訓練は中型艦クラスでしか出来ないし、特に戦果をあげた事が無いので馬鹿にはされないが、存在を忘れられる事が多いらしい。お父様も忘れる事がある。
兎に角使い道が無かった部隊だし、製作者の私以上に使い方を知ってるのはグランツさんくらいだ。それもグランツさんは指揮等嫌がるだろう。
「まあこっちは操作方法から変わるから基礎訓練を続けるしかないね。どうせすぐに増産するから軍も常時保有出来る余裕はあるから」
「まるで夢のようだ」
お父様は満足気にお酒を飲む。ここで私は背後に殺気を感じたので入れ替えっこでモアイと入れ替わり別の国民席に逃げた。
転移の応用で2つの物の場所を入れ替えるのが【入れ替えっこ】
私は転移して市民の隙間からお父様の方を覘くとどうやらお母様が私の違和感を察知して探してるらしい。くそう。どうやって見破ったんだろう。さり気なく国民の皆がバリケードを作る感じで目の前に集まってるからあっちからは…こっち来た‼
「あら~何でここに居るのかな?」
「何で分かったの?」
何故バレた。アリシアさんでも見破れない幻術を掛けてたのに。
「簡単よ。貴女が大人し過ぎるから怪しかったの」
私の信用は地面にめり込んでるらしい。流石に国民の前なので怒ってると言う感じではないが、だ~めって感じで叱られた。流石に後が怖いので私は特別席のモアイと入れ替わり戻るのだった。
ああモアイ像はゴーレムだから壊そうとすると地面から体を作って6m程の巨人になるよ。




