71 建国祭
「良いか絶対に出るんだぞ。そんな嫌そうな顔をするな。役職持ちは出るのが義務だ。流石に俺も庇いきれん」
忙しい中、毎朝特攻してくるお父様だけど、建国祭の数日前に行き成り建国祭に参加するように言ってきた。
別に毎年出てるんだけどな…市民側で。
流石に役職を持ってると貴族側で出ないといけないらしい。知らない間に役職持ちは決定して新規の技術開発局局長に就任した。これと言ってお披露目的な物はしてないし、今まで武具調達局が開発も行っていたのでそこが私の傘下に入る感じで発展統合されたのだ。それと今までトップだったグランツさんが議会の反対を押し切り引退宣言も行った。
「嬢ちゃんに任せる。俺は技術屋として傘下に入る事に異はねえ」
泣きながら辞めないでくれと言う議会のお偉いさんを無視して息子に爵位譲渡して完全に引退してしまった。最も国から数多くの勲章を貰ってるので年金は出るからお金に困らないし、工具か酒しかお金を使わない人だから個人資産も意外と持っている。
さてそこで困るのは私だ。実務系は今まで武具調達局の貴族がそのまま引き続き仕事をしてるのと、代理でお父様が責任者をやってるので問題ないのだが、忙しいのだ。建国祭までに飛空船を作って一緒にお披露目する予定なのに、貴族との挨拶とか色々と仕事が発生した。取りあえず現在開発を行ってるとアリシアさんに代理で仕事させてるが、どうやらここで貴族が私が何かしてると察知した模様。しきりに会わせろと圧力をかけてきた。
「頑張ってお父様。今回の事業成功はお父様の踏ん張りにかかってる」
「しつこいんだよなアイツ等…どうせ噛ませろって言いたいだけだし」
これで私が公爵なら会うのも拒否しきれないが、ここは王権を発動して、お父様が「娘の邪魔をするな。落ち着いたら考えてやる」と今の所は跳ね除けてる。
「もう少しで完成する…突貫工事は流石にもう嫌…」
余りの忙しさに工兵の飲むお酒の量も日に日に増えてるし、舌が肥えたのか、私謹製のお酒ばかり要求するようになった。因みに私がお酒をふるまってるのはお父様には内緒だ。どうせ文句を言うか何時も騎士や市民を追い掛け回してるのと同じ事をするので邪魔になる。後で請求書を出してやろう。
「まあ俺は俺で何とかするし、こういうのはギルの得意分野だからな。安心して作業を続けてくれ」
「どうにか間に合うかもしれないね」
「旧型は既に完成してるからな。こっちは…このエンジンって奴の制作に手間取った。流石に工兵クラスのドワーフじゃないと制作・整備は無理だろ。時代を先取りし過ぎだ。お前の頭の中身がどうなってるかが一番の疑問だな」
ようやく完成しつつある4発エンジン搭載の新型飛空船は細かい作業に突入している。期限は残り半月。普通なら間に合わないが、ドワーフは工作系の魔法も得意分野なので、一気に作り上げてる。
旧型は全長50mほどなのに対して新型は100mの大きさなので、作業に時間が掛かる。防錆加工も必要だしね。
旧型は大航海時代の帆船をイメージしてるから、基本的な推力は風だけど、魔法使いが居るから運用は楽だろう。
それに対して新型はマストを積んでない。その代りに煙突が付いてる。魔玉の魔力を使って小さい爆発魔法を連続で起こしてるのだ。これも意外と難しかった。見た目は船に翼とプロペラが付いてる感じだろう。飛行機と同じくフラップ等で操作する事になるし、最悪一人でも操縦は出来る。自動はまだ無理だけど。
「間に合うと良いな」
その日アーランドは喧騒と言っていいほどの活気に溢れていた。建国祭は国民にとって一年を生き延びた記念日である。彼等はそれを祝い、戦で死んでいった者達を称えながら次の年も国を守る決意をする日でもある。
しかしアーランド人と言う者達はお祭り大好きだ。暗い雰囲気で飲むより皆笑ってた方が死んだ奴等も少しは喜ぶだろうとお祭り騒ぎを毎年起こすのだ。
この日に限って身分は関係ない。王族も王都の広場で演説した後に市民と一緒に酒を飲む事も珍しくない…今代の国王は普段から珍しくないが。
しかし今回は少し事情が違った。まず混乱が起きたのは貴族側である。
「姫様が出ていない。これは慰霊祭でもあるのに何たることか‼」
「遅刻などあり得ない事だ。これだから子供に役職を与えるなど反対だったのだ」
主に騒いでるのは普人貴族である。
次に混乱が起きたのは市民側である。
「姫様が居ねえぞ?何時もならそこら辺を歩いてるのに」
「俺達の情報網に入らないと言う事は城から出てねえって事だ。もしかしたら噂通り怪我が酷いんじゃ…」
「馬鹿言え、姫様は治療魔法の名手でもあるんだぞ。生半可な怪我なら自力で治してるだろう…でも帰国してから一度も見てねえ」
酒を飲みながら普段なら居るはずの王女を探す市民。彼等に取って王女は妹のような物だったり娘的な扱いだ。兎に角居るだけで市民は落ち着くのだが…居ないと途端に挙動不審になる。何かあったのではないかと。
彼等も王女のオストランドでの活躍は知ってる。それこそ友達を助けに行ったと言う事まで知ってるのだ。ある意味皇国の諜報網に匹敵する情報収集力を持っている。
王女は帰国してから一切表に出てこなかった。それこそ王都にすら。
流石に何かあるのだろうと市民達は心配になっていたのだ。それに今日は王女の初めての演説も予定に入っている。彼等の期待は高かった。
「畜生‼台の上で噛む姫様を見たかったぜ」
「馬鹿野郎。姫様がそんな所で緊張して失敗するか。何時もみたいに普通に話すだけだ。俺も見たかった‼」
一部紳士が騒いでいるが、基本的に王女の人柄はフレンドリーなので話しやすいのだ。知り合いにならないと人見知りを起こす事はあるが、アーランドの人間なら割と仲良くなるのに時間は掛からない。早いと5分で仲良しになれるほどだ。貴族は除くが。
「あーあー俺の話なんて誰も聞いてねえや。だから去年で辞めようって言ったんだよ。酔っ払いの前で演説しても無意味だろ」
檀上の上では国王がめんどくさそうに愚痴っていた。威厳何て物は今日は置いてきてるので普通のオヤジである。
アリスティア視点
「姫様急いでください。絶対に遅刻してます」
「もう少し…ドレス邪魔、裾破いて良い?」
「駄目に決まってるでしょう‼職人も泣きますよ」
建国祭は既に始まってる。まさか最後の最後で出口の細工を忘れてる事を思い出したとは。危うくお披露目する前に船がドックから出れなくなる所だった。
工兵は地下で力尽きてる。まあグランツさんはお酒飲んで出番を待ってるし、このために一部工兵も残してる。力尽きてるのは作業に従事してたグループだ。
私は軽く体を洗うと、少しだけ香水を掛けて、ドレスに着替える。苦手なんだよなヒラヒラで動き難いし。それに髪も梳かす。魔法の櫛のお蔭で枝毛一つ無いね。その後窓から【飛翔】でアリシアさん毎飛び立った。歩いて行くには人が多すぎるし、この日は馬車も全面禁止だ。道は市民で溢れかえってるのだ。
「遅れました。申し訳ありません」
流石に口調は少し前の私に戻す。ため口は不味い。
「遅いぞ」
着いて早々お父様に怒られた。まあお父様も本気で怒ってる訳じゃ無くて国王としてのポーズだ。視線が「仕方ないんだよ嫌わないでね」と訴えかけてきてる。
「やはり子供に役職を与えるのは失敗でしたな。今日の出席が貴族・王族は義務ですぞ。今までのように子供だからと見逃される事はありませぬ。ここは他の物に任せるべきだったのではないかと愚考致しますな」
「やはり伯爵もそう思いますか。私も同じ思いです。まず未成年者が役職を持つ事は法に認められてませぬ。例外はいけませぬぞ?」
ぬお‼オークが増えてる。
流石に少し後ずさった。餌を持ってきてないんだけど…お酒を与えたら喜ぶのかな?って違う。多分人間だ。しかし兄弟なのかな?凄いそっくりだ。
「念の為に言っておくが親類でも無いし一応人類だ。目に毒だから見なくて良い」
お父様がアドバイスをくれた。大臣クラスの人とか国の有力者は一応顔と名前は知ってるけどオークっぽい人の知り合いは居ない。つまりは無役か余り高く無い役職の人なんだろう。遅れたのは私の責任だから文句は言うまい。
「父上、まずはアリスの言い分も聞くべきです。アリスも役職を得た以上は責任も理解してる筈です。一方的に叱責するのはいかがなものかと思います」
「そうだな。まずは本人の言い分を聞こう。当然何か理由があるのだろう?」
「あれば良いですね」
これってマッチポンプ?まあお父様は国王だから叱らないといけないけど、お兄様がそれを嗜める。一応怒ってはいますよ?と言うアピールだろうが、実際は結託して私に嫌われないように手を打ってるだけだろう。
それと最後のオーク種はナチュナルに会話に混ざる方が問題だろう。
「ええ、当然あります。今日の祝いの場に何か手土産にと技術開発局局長である私と王国軍工兵共同でとある物を建造してたのですが、ギリギリまで作業してたので遅れました。宜しければここでお披露目したいのですがよろしいでしょうか?」
キラーンと目を光らせる2人。理由があって助かったと思ってるんだろう。背後に居るお母様は今度はどんな悪戯をしたのか?と少し威圧感を出してる。
「ふむ、仕事なら仕方ないな」
「確かに」
「お待ちください。技術開発局は未だにこれと言った活動はしていない筈です。予算も使われた形跡はありません」
貴族の一人が騒ぐ。恐らく技術開発局の財務系に居る人だろう。当然使ってないよ?まだ請求を出してないから全部私の私財で建造したし、工兵の給金は国からの支給だから技術開発局の予算は関係ない。
「最初だし自己予算を組んで作ったんだろう。アリスティアは意外と金持ってるし」
「普段から予算の請求をしたことが無いな」
確かに全部お父様のポケットマネーが私の財布に流れ込んできてたから正式に予算をくれと言った事は無い。一度お父様が買い取って国に売ると言うめんどくさい手続きを取ってたからね。
「面倒だから成果を見れば誰も文句は言わないだろ。アリスティアこの場で国民にもお前がこの2か月間何をしていたのか教えなさい」
「分かりました……グランツ師匠?飛空船起動。規定のルートでこっちに飛ばしてきて」
(あいよ)
私は携帯を取り出すと師匠に連絡する。何故か周りの貴族が凄い驚いた顔をしてるんだけど?まだ何もしてないよ。
「あの魔道具は…」
「何故姫様が所有してる」
まあざわざわ話してるので聞き取れないが、私が王城の方を指さすと貴族や市民がそっちを向いて…口を全開に開けた。
王城の城壁の中から飛空船が出てきたのだ。当然そんな物が城内に有れば誰でも気が付く。それに遠目でも分かるが明らかに真新しい。つまりは新品である。
今までの飛空船は古代の遺物なので、遠目でも意外とボロいのが分かるが、王城までそれほど距離も無いのでよく見えるのだ。中には遠くを見る魔法で見てる魔術師も居る。
「飛空船だと‼」
「あれをたった3ヶ月で建造してたのか‼」
「待て、あそこは練兵場だぞ。あそこであんな物を作ってれば誰でも気が付くだろう」
飛空船はゆっくりと広場上空に来るとゆっくり旋回している。広場の国民は皆空を静かに見ている。
「あれが今回建造した『旧型』の大型飛空船3隻です。今後のアーランドの為に建造しました。当然量産も可能です」
お父様とお兄様があ~と言う顔をした。旧型と言う時点で新型の存在に気が付いたのだろう。因みに新型の事は話してないが、基本的に私が依頼通りの物を作る事が無いのは2人とも知ってるので直ぐに分かったっぽい。
「旧型だと‼」
「待て、量産?あれを量産できると言うのか‼我々は何も聞いてないぞ」
「どういう事だ。魔法王国ですら建造出来なかった飛空船の建造技術を何故我等が国が持っているのだ」
貴族の人達が騒ぎ出す。飛空船で難しいのは断続的な魔法の行使だ。魔法は一瞬の発動は得意だけど、同じ効果を断続的に行使するのが魔道具だと極めて難しい。当然重い船を浮かべ続ける技術等現代では無い。古代文明と一緒に滅んだからね。
「静まれ‼まだ話は終わって無い。アリスティア、お前が自分の思いを伝える番だ。この為にお前の演説も入れておいたからな。俺とギルは終わってるから好きに伝えると良い」
まだ新型を出してないが、話しながらでも良いだろう。
私の考えは変わらない。この国をもっと豊かにしたい。皆が誰も恐れずに笑って暮らしたい。その為なら何でもするし、邪魔者を排除するのも厭わない。
帝国よ私は一手を投じる。貴方達のこれまでの行いがこれからも続けられると思わないでね?




