70 建国祭に向けて
遅れてすみませんでした‼
建造に入ってから1ヵ月が経った。私は遂に造船エリアの整備を終わらせた。ドワーフの工兵の目が死ぬほどの忙しさだけど、私はやっぱり王女よりこっちがしょうに合ってるのだろう。ピンピンしてる。当初は乗り気じゃ無かったグランツさんもノリノリになってる。やっぱりこの時代初の飛空船建造は職人魂に火を付けるには十分なのだろう。
「時間が掛かったがこれでアーランドは古代技術を甦らせる事が出来るんだろ?」
「旧型何か甦らせる価値があるのか疑問だけど、必要性はあるしね。これを作って予算を貰おう」
正直言って旧型は新型には及ばない。既に新型の建造も同時進行で進める方針なのだ。
まあ比較対象として旧型を作るのもアリだし、今後の飛空船の扱いも変わらざるおえないだろう。私の方針を王国が許可すれば、確実に帝国と皇国の影響力は落ち込む。何も武力だけが戦争をするものでは無いのだ。
「取りあえず出来る限りは簡素化して、建造速度の向上やコスト削減はしてみたけど…現存する飛空船よりマシなのは・・・」
「まあ残ってるのなんか古代でも旧型で、古代の新型は戦争に投入されて沈められたって話だしな。それもこっちの新型には及ばんさ」
設計図を見た限りではこれだけ簡素化しても尚性能が現存してる飛空船より少し上だ…これは売れる‼予算が入ればそれを使って建造して更なる予算を…良いスパイラルが出来そうだ。ボルケンさんも仕事が増えて喜ぶだろう。今は知らないっぽいけど。
「姫様~酒が切れたぜ‼追加だ追加」
「昨日作ったばかりなのに…」
最初は試作したお酒を飲んで余りの不味さにメッチャ怒ってたドワーフ工兵は私のお酒が気に入ったらしい。因みに日本の純米酒である。魔法を使う事で多くの手間を省けた。色々と省いちゃいけない工程もある筈だけど普通に作れるから問題ない。私は飲めないから改良も解析もする気も無いし。
仕方ないので即興で20樽程製造してドック完成の宴をしてる皆に渡す。私はオレンジっぽいジュースを飲んでるけど、他は全員酔っ払いだ。
「まあいずれは拡張するから暫定ドックなんだけどね。最終的には数十隻の建造・整備が出来る縦穴式ドッグになる予定だし」
「溶岩が出ないと良いな」
そこは出たら封鎖するしかない…魔法で漏れ出ないようにすればいい。
しかし魔法って便利だな。数年かかる筈の地下施設を1ヵ月で終わるなんて普通ならあり得ない…この世界でもあり得ない事だけど。
次の日。
「オーライオーライ…ちょっと右…行き過ぎ左…OK」
クレーンで建造部分に船の基礎となる竜骨部分の素材を建造スペースに置く。魔法で置くのも出来るけど、最終的に私が居なくても旧型を建造出来るようにしてほしいからそこは手伝わない。最もここから竜骨部分を変形させたり、船の骨格は【ファクトリー】で一気に行う。その後に内装やマストを工兵達が付けるから、旧型は時間が掛からない。木造船だし。
問題は新型の方だ。あっちはガチの金属製だから工程も多いし、今の所高出力魔玉を精製出来るのは私だけだから時間が掛かる。いずれはこれの精製も自動化しなければならないが、魔道具化が出来て無い。これも魔道具で行うのは難しい作業なのだ。魔導炉は積まないよ?だってあれ国家機密だし、この新型は軍用じゃないから、そこまで魔力も食わない。軍用だと積むけど。
「この溶接機?使い勝手が良いな。仕事が楽に進むぜ」
「この服もポケット多いし、工具入れる小物入れ付ベルトも良いな」
「じゃあそっちは午前中までに終わらせてね」
「ちょ‼」
時間が無いので仕事時間中にサボってる人には重労働が待ってる。しかし休憩時間は1時間に一回は取るし、昼も1時間取ってるから大丈夫だろう。それに毎日定時操業だからね。お酒飲み放題付きだから誰も文句は言わない。
「間に合うのか?少し工兵に残らせた方が良いかもしれん」
「貴族やお母様に見つかると五月蠅くなる。時間外に動かすとボルケンさんが嗅ぎ付けてくるから駄目」
給金の関係で決まった時間に上がらせないと、ボルケンさんか、財務系の貴族に見つかる恐れがある。この忙しさで相手にしてる暇はない。唯でさえお母様が何かしてると疑い始めたのだ。
「ノ――――‼姫様、何でこんなに汚れてくるんですか‼嗚呼髪に油?埃‼お風呂に行きましょう‼」
作業を終えて部屋に戻るとアリシアさんが待ってたのだが、私の姿を見て悲鳴を上げた。まあ作業着で髪は一纏めにしてるが、油とか埃とかはどうにも出来ない…出来なくはないが、そんな事を気にしてる暇が無い。
疲れて動かない私を抱えるとダッシュでお風呂場に運搬された。
「うう…だから嫌なんですよ。王女らしくしてくださいよ…こんなに泥だらけになって…それにあの服なんか工兵達まで使ってるじゃないですか」
ああツナギね。使い易いと普及したからね。工兵=ツナギの方程式が出来上がりつつある。
半泣きで私を洗うアリシアさん。
「子供だから泥だらけは仕方ないね」
「こんな時だけ子供のフリをしないでくださいよ」
アワアワモコモコで真っ白になった私の体に温めのお湯を掛けて洗い流す。綺麗になったのでお風呂に浸かろう…何か居る。
「あらあら最近何処かに巣作りしてるアリスちゃんじゃないの~」
私は即座に反転して浴槽から出ようとしたが、お母様に捕まった。うぅお母様のスタイルを直視すると何故か敗北感が…まだ子供だし…うん大丈夫。寧ろあれが私の将来…羨ましい。既に40近い筈なのに20代と間違われるお母様若々しい。
「ちょっと泥遊びしてただけ」
「ふ~ん。体調は悪くなさそうね。寧ろ機嫌が良いほうかしら?まあ元気な方が私も嬉しいけど、余りオイタしちゃ駄目よ?」
帰って来てから家族が妙に私の体調を心配する。お父様なんか毎朝ドアを粉砕して私が健康か確認しに来るし、お兄様も私用に医者を集めたらしい。何処にも異常は無い筈なんだけどな…。
そう言えば新しいメイド―ズが居ない。
「あの子達は?」
「ちょっと栄養が足りないっぽいのよね。今は静養中よ。体力はあるし、体は頑丈だからってかなり雑な扱いを受けてたみたいなのよ。だから今はしっかり食べて適度に運動させてるところね。それに仮にも王族のメイドになるのだからしっかり教育をしないといけないのよ。後3か月は傍仕えにはならないわよ」
確かに王城のメイドは身元もしっかりしてて、教育もしないといけない。アリシアさんも最初の頃は頻繁に出かけてた。その度に捕まえて離さなかったな。
物語みたいに即傍仕えは警備上あり得ないのだ。この世界で生きていく以上は必要な知識を与えないといけないのだろう。
「一緒にお菓子とか食べて良い?」
「そうね…今は料理人が栄養を管理してるから、建国祭の後なら大丈夫でしょう。その頃なら元気になるでしょうから」
まあ見た時から凄い疲れた顔をしてたからね。保護されて1ヵ月経ってもあれ程なのだから、保護された時はどれほどの疲労だったのか。
まあゆっくり彼女達が治るのを待とう。栄養状態を魔法で何とかするのは危険だからね。前にやったら全部お腹のお肉になったし。
さて余計な追求を受ける前に撤退しますか。
「余り目に余る事をしてばっかりだと御婆様式のお仕置きに変わるからね」
‼あのアーランドの歴史上でも異端扱いの曾祖母式だと。
私の曾祖母は既に他界してるけど、戦闘狂で有名だ。ガントレットだけ付けて戦場を渡り歩き、血装のシンシアナと呼ばれた。血装と言うのは敵の返り血で真っ赤になる事が多すぎた為に、「きっと王妃様の防具は敵兵の血なんだろう」と言われた始めたせいだとか。
あの曾祖母の事は皆口にしない。兎に角凄まじかったのと、最後の事しか知らないのだ。一体どんな恐ろしい目にあうのだろうか…恐ろしい。
「き…気を付けます…グス…」
「ふふ、おいたしちゃ駄目よ?」
怖すぎるのでダッシュで逃げた。最近お母様が怖すぎる。
「曾祖母式のお仕置きとは一体…」
「姫様。知ると気絶する事になるので余計な詮索をしない方が良いですよ。私も思い出したくないですから…陛下も話さないと思います」
アリシアさんは少しの間だけ会った事があるらしい。お父様とこの国に来た時は健在だった筈だからその時に何かあったのだろう。
それと曾祖母の死因は戦場での負傷だ。時の帝国皇帝が50万の軍勢を率いて攻め込んで来た。
しかし、いざ決戦と言う時にアーランドは内部の裏切りが起きた。曽祖父の指揮で裏切り者を即座に排除するも、王国軍は大混乱。曾祖母は何とかアーランド軍を逃がす為に手勢1万を率いて帝国軍に突撃。帝国皇帝の首を落として30万の敵を道ずれに死んでしまったそうだ。その時に突撃したアーランド軍の精鋭も全滅で誰も戻ってこなかったとか。
その後10年は帝国軍が国境に近づく事が無い程のトラウマを与えたそうだ。未だに生きてるのでは?と言う説が帝国内にあるらしい。
怖すぎるよ。兎に角暫く大人しくしよう…いや、既に手遅れか…お父様やお兄様も噛んでるから怒りは分散する筈…多分大丈夫、きっと大丈夫。




