66 変態が来たので国に帰る①
国王視点
儂の名前はロウディウス・フィル・ネクタル。オストランドの国王じゃな。
最近仕事が忙しく、乏しい我が草原が荒野となり始めてる事が気がかりじゃな。儂の代でまさか国が亡ぶ規模のスタンビートが発生したのは想像外がったが、運よくオストランドの命運は尽きなかった。アーランドの副王には感謝しかないの。
しかし王都は大分壊されたし、城壁の修理で自ら壊した部分も多い。暫くは我が国の教育機関も動けないじゃろう。国家として大打撃じゃが、それ以上に問題も多い。
「アーランドに手を借りたのは不味いですね。帝国や皇国に睨まれる結果になりましょう。かの国より、今後貴族子弟や令嬢の留学は無いと通達が来ております」
「面倒な連中じゃの~受け入れてた事を感謝して欲しいぐらいじゃな」
あの2つの国の貴族は腐敗しきってるから受け入れる我が国も大分被害を受けた物じゃ。民間人を好きに出来てると勝手な事をしたり我儘放題で、儂の緑の乏しい草原に甚大な被害を出しておった。まあそれは玉座に着く者特有の悩みじゃから大した物ではないが、市民達の被害を最小限に抑えるのにどれだけ苦労してきた事か。
アーランドの貴族子弟や令嬢の方が遥かに楽じゃった。市民に勝手な狼藉をする者はアーランドの法で裁かれるからの。証拠を送るだけで十分じゃわい。
「しかしこれ以上かの国を刺激すれば再びオストランドは滅びの道へと進んでしまいます。今後の方針を明確にしなければ」
面倒じゃの~。まあ儂の中では既に答えは出ておる。連盟は既に帝国と皇国の傀儡なのは明らか。加入してても帝国は平気で攻め込むからの。抜けるのが一番じゃな。魔法王国が連盟を脱退したのも、付き合いきれんのじゃろう。
「我が国は連盟を抜ける。今後はアーランドと組む事になるじゃろう」
既にアーランドの国王とも話は済んでおる。かの国もいい加減引き籠る事に嫌気がさしてるらしく、反帝国・皇国連合を作り出す用意があるらしい。
さらに、かの国の技術や兵力は大陸でも無視出来ず、下手な侵略にも興味を持ってないので加盟する国家は多いじゃろう。帝国と皇国は周りの国に恨みを買い過ぎじゃわい。
「それでは我等が国は意味を成しません‼我等が何故武力では無く文化を選んだのか忘れたのですか‼他国を刺激する物は何も無く、奪う価値すら無いようにと他を犠牲にしつつも文化のみに力を注いできたのではありませぬか」
各大臣が騒ぐのも無理は無いの。我が国は他国にとって脅威では無い事を示し続けてきた。教育の国とはそうして出来た物じゃ、しかし時代は常に変化する。大陸動乱の時代は既に目の前に来ておる。今後手を結ぶべき相手は選ばなければならないじゃろう。そしてアーランドは手を結ぶ国としては上出来過ぎる。他国を侵略する意図は無く、国民もその意思を持ってない。そして手を結べば、今まで密かに行ってきた交易路を大々的に拡張出来る。
今や何処の国もアーランド製の武具を持っておるからの。帝国に睨まれない程度の交易じゃったがアーランド製の物を流通させる交易の中間地点はオストランド以外には成れんじゃろう。アーランドはオストランド以外には帝国としか面しておらぬからの。
「大陸はそう遠くないうちに動乱の時代を迎える。このままではオストランドを守る事は出来んであろう。帝国や皇国もアーランドの力を借りつつも自力で何とかする他ないの。
それに交易路の開拓はオストランドの新しい在り方にもなるじゃろう。既に時代は変化しとる事を理解してほしいの」
そう言うと大臣達も黙り込む。アーランドの強さと無欲さは大陸でも有名じゃからの。信頼は出来るし、オストランドを傀儡化する心配も無い。あの国は外を侵略すると言う事を望まん。自らが他の国に排斥されて、それらが集まって出来た国なのだからの。ある意味大陸を見捨ててるとも言えるが、仲間と認めればそれ相応の態度で接してくれるからの。こちらから手を出さなければ問題は無い。
会議は終了した。皆新しい国家の体制に概ね好意的じゃな。今まで大陸中に文化以外に何も無いと馬鹿にされてきたからの。鬱憤は溜まってたのじゃ。
それに今後は文化と交易の国として生まれ変わる事で税収なども大いに増える。それらを上手く使えば国内開発も一気に進められる。手を結びたいと言う意見は大昔から出ていたのじゃ。
儂は満足げに茶を飲んでると部屋のドアからノックの音が聞こえた。少しは老体を労わらんかとも思いながら部屋に迎えると…馬鹿息子じゃった。
「父上、お話が有ってきました」
「何を言おうとも王太子の席は空いとらんぞ?」
この者は儂の息子じゃが、第5王子で末の息子じゃな。名前はアルマール・フィル・ネクタル。母親譲りの青い髪に眼も同じくスカイブルーの色をしておる。顔は…まあ親馬鹿とまでは行かんが良い方じゃのう。宮中でもモテると評判じゃからな。歳は16歳。よく子供が出来たと感心した物じゃ。
しかし頭の中身は残念過ぎる。儂も相応の教育を施し、将来は息子の補佐にと考えてたが、今では、どう廃嫡するかしか浮かばんのう。
頭の中は権力か女の事ばかりで手当たり次第に令嬢に手を出して、勢力を広げてる…と本人は思ってるだろうが、親からは相当嫌われてるからのう。
兄弟とも仲が悪く、王太子の座がどうしても欲しいのか何度も自分の方が相応しいと苦言を言いに来とるが、能力・人柄的に無理じゃのう。今後アーランドとの交易を考えるとコヤツ相手じゃオストランドの未来は無いじゃろう。無駄に怒りを買って報復されるのがオチじゃな。
「いえいえ、それよりも私の婚約者の事ですよよ。何時になったら決まるのですか?」
はて?廃嫡予定のコヤツに婚約者など決めとらんのじゃが…
「予定は無いの~お前が態度を改めなければ何処に送っても問題しか起こさんじゃろう」
「丁度良い者が居るではありませぬか?オストランドとの交流を盛んにするには最も婚姻を結びたい者が」
「貴様…」
それは儂も望む事じゃが、アーランドが認めん。儂もコヤツを送るなんぞ戦争を起こす事になると理解出来ておる。王太子が独身なら…と考えた事もあるが、孫は可愛いし、アルディウスは妻一筋で側妃すら娶らんからのう。無理に話を進めれば自害も厭わんじゃろう。
「この国の未来に繋がる事ですよ?如何に蛮族の集いのアーランドでも受けざるおえないでしょう?」
コヤツはここまで愚かじゃったのか…このような愚か者をあの武に生きる王族が受け入れる訳がない。副王も興味すら持たんじゃろう。無理に進めるも、アーランドの方が国力も武力も上なのじゃから侮辱してるとしか思われん。この重要な時期にそんな事をすればこの国が詰んでしまう。
「あの国を侮辱するような輩を受け入れる訳が無いじゃろう‼貴様には失望した。貴様がかの者に受け入れられる事は無い。部屋で謹慎しておれ。馬鹿な事を言ったのう。処罰は追って決める」
「私は仮にも王子ですよ?何故そこまで言われるのですか?ご安心を小娘一人を口説くなんて朝飯前ですよ。手綱を握ればこちらにとって有用に使えるのでしょう?」
「出ていけ‼」
もう馬鹿息子じゃからと放置出来ん。儂は騎士団の中でも信頼出来るジュド・シェフィルドを呼び出す。
「お呼びでしょうか陛下」
「直ぐにこの書状をアーランド側に送ってくれ。馬鹿息子が聖女に眼を付けた。どうしようともオストランドは関与しない。もし変な事を言い出せば即座に無礼討ちして構わんとな」
「…それは…あの方がいくら愚かでもそこまでの事は…」
「起こってからでは遅い」
「畏まりました。城の警備を厳重にしますが…抜け道などがありますので…」
「構わん。向こうがどのように罰してもこちらは文句も言わん。出来れば内々に処分したいが…」
あ奴の母親が国内でも有力な貴族の娘なのが悪かった。未だに罪状も無く裁く事が出来ん。じゃが、もし副王にちょっかいを掛けるのなら奴に未来は無いじゃろう。これ以上愚かな者を王家に置いとくわけにもいかんからの。
それに王族しか知らない抜け道が警備上の問題で警備出来ない。誰も知られないからいざと言う時に使えるのじゃ。しかし抜け道も古くからある物じゃから警備しようにも構造が不明じゃ。警備する前に見つかって無い抜け道も多いし、あの馬鹿息子は昔からそう言うのを見つける事だけは上手いからのう。勝手に使って女を口説きに行くと言うふざけた事も平気でする。
「そこは私から言っておきましょう。それに娘を助けていただいた礼もしなければなりませんから」
「そうじゃな。あの3人も連れて行くと良い。副王も目が覚めたとの事じゃから国に戻る前に色々話したいじゃろう」
副王の友となった娘は他の貴族に手出し無用を厳命したので、そう危険は起こらんじゃろうし、この者が居れば大丈夫だろう。コヤツは騎士団でも屈指の実力者じゃからの。
「それはありがたいですね。何時も会わせろとせがむので」
「いい加減伯爵位を受け取ってくれんかの~」
「私は騎士です故、騎士爵で十分です。こうして王家にお仕えするのが代々の務めですから、それで昇爵する事はありません」
変わっとるが、代々の王族に信頼されるのも納得じゃわい。
「頼むぞ。あの国との関係で我が国の未来が変わる」
「お任せください。聖女と娘の関係は良好…ドラコニア国王も娘には甘いですからね」
儂としてもそこを使いたくはないが、そこから交流を持つのも仕方ないじゃろう。それに悪いように動かす訳じゃ無いしの…そんな事をすれば副王の怒りも同時に買うからの。繋がり程度で十分じゃわい。後は外交で何とかするかの。




