65 今後の方針
「反省した?」
「ファック‼」
ソファーに横たわる私にお母様が反省したかと聞いてきた。反省などしない先ほどまでのしおらしさは捨てた。自由とは闘争なのだ。私もいい加減自由を勝ち取るべきだろう。
しかしファックと言う言葉はこの世界には存在しないのでお母様は首を傾げるだけだった。
「ま、まあまあシルビア落ち着け。アリスティアがここまではしゃいでるんだから余程の事なんだろう。それに元気になって良かったじゃないか」
「そうですよ母上」
お父様とお兄様のフォローによりお母様の怒りも鎮火した。私も治療魔法でお尻を治療する。今回は何も言われていない。多分大丈夫だろう…きっと大丈夫とお母様を見ると微笑んでるだけ…後ろに般若は居ない。セーフ。
「私は遂に大発明をした。これで天下は私の物‼」
ジャーンと魔法の櫛を天に掲げる様に皆に見せる。
反応は、お兄様は首を傾げた。お母様も同じ…しかしお父様は興奮してるようだ。そりゃそうだろう。欲しいでしょう。
「完成したのか‼早速量産だ‼これで鬱陶しい奴等を黙らせられる。少し法外な値段でも文句は言うまい」
「しかし量産は出来なかった」
私はお母様に術式を見れるメガネ(これ自体はレア物ではないが、私製なので高精度)と櫛を渡す。お母様は10分位それを見続けると、私に返してお父様に首をふる。
「これの量産なんて不可能よ。古代魔道具時代でも作れない代物ね。術式が積層し過ぎて魔導士レベルじゃ魔力不足、知識不足、解析不能ね。私にも何が何だか分からないわ。用途は兎も角大発明なのは確かよ。因みに値段は…そうね、アーランドが3個は買えるかしら?見れた術式は全て既存の術式じゃないからアリスちゃんのオリジナルでしょう?どれも他の魔法に応用できるし、すれば魔法学自体が大混乱を起こす代物ね。やってくれたわね馬鹿娘‼」
ふふん。魔導炉ですら材料から作るのに約3か月くらいかかるが、これを最初から作ったら半年は掛かる。私はある程度の用意を他と並行して用意するから一気に作れるだけだ。つまり魔道具時代の最大の発明品である魔導炉より複雑な作りなのである。
因みにここまで複雑なのには理由がある。まず難航してる魔導炉の開発は趣味であるから遅れてるのだ。使えれば良いな~位で作ってたものであるが、これは私の執念を掛けて作った物だ。これがあればアリシアさんを侮辱する貴族でも獣人の貴族は黙らせられる。私のメイドを侮辱する人にはこれは貸さないと暗黙の脅迫が出来るのだ。ふふ、私も悪くなったものだ。
因みに私は再びお母様にお尻を叩かれてる。しかしドヤ顔だ。
「頼む、それの劣化品で良いから市場に流してくれ‼これ以上獣人貴族を抑えるのは無理だ。アリシアの誘拐計画まで出てるぞ」
「そんな奴は粛清する。主にそれを計画した人以外に貸し出す」
すると私の後方で肉を叩く音が高速化した。だが反省はしない。痛みは既に魔法で遮断したので問題ない。
「………せめて3個で良いから作ってくれ。王城でのみ使わせる事にする…金は…ちょっと竜の谷に行って来るわ…ギルお前も手伝え」
「父上?私には私の仕事があるのです。これを期に再び貴族が騒ぐのでしゅくせ…コホン、きょうは…話し合いをしなければなりませんから。アリスを馬鹿者に奪われても良いのならついて行きますが」
「お前は好きに動け。良いか絶対に一人も残すなよ?そう言う輩は一人残すと増殖するからな?根絶やしを忘れるな」
「お任せあれ」
お兄様は頷くと再び書類仕事に入った。何の話かは分からないけど王族だし忙しいのだろう。Gの話だったら私は逃げる。虫はゴブリンと同じくらい嫌い。
しかし値段か…国が3つ買えるのは驚きだが、3つなら直ぐに作れる。試作品故に術式を刻んだ櫛は結構残ってるから追加で刻めば良いだけだしね。
「値段は今回は無しで問題ない。唯王家に忠誠を誓わないと使えないって徹底すれば王家の支持率も上がると思う。但し‼アリシアさんに不敬を働いた場合は破壊する。アリシアさんに非がある場合は良いけど、言い掛かりを付けたら即破壊‼」
これは譲れない。ハーフがなんだ‼アリシアさんは私のメイドで騎士なのだ。本人が偉ぶってる訳じゃ無いのに馬鹿にすんな‼
それにお金には困って無いし、趣味品…執念品だからアリシアさん用があれば別にどうでも良いやとしか思って無い。今回は獣人の人に恩を売る事にしよう。余り仲良く無かったし…人間を嫌ってる影響か王都以外に住んでる獣人は王族が何だ‼って感じで睨まれる事がある。
五候家はそこら辺大らかだから問題ない。それに王都の獣人は割と私の事を妹扱いして飴とかくれる。何で持ってるんだろうと思いながら貰う事は結構ある。
因みに普通に貰えるようになったのは解毒と解析の魔法が使えるからだ。絶対に調べてから食べる事と家族に厳命されてる。
「まあそれは助かるが、最終手段だな。アリスティアに報酬無しだと貴族がアリスティアをそそのかすからな「貴方は王家に良いように使われてます。ここは毅然とした態度で立ち向かうべきです」とな。アリスティアがそそのかされる心配はしてないが、そう言う輩はしつこいから気を付けろ」
「王座とか面倒だから要らない。私は研究がしたいだけ…女王になったらボルケンさんが暇をくれなさそうだし、国が二分するとかこの状況下で起きたら亡ぶ。私が望む理由が無い。寧ろお兄様がもっと頑張れば問題ない。と言う訳で頑張って」
私は本当に玉座が要らない。国は好きだけど自由に動けないのだ。それに私の発明品を生み出す時間が無いので却下。それとお兄様と殺し合いするくらいなら城の塔に幽閉される方がマシ。どうせそこでも自由くらいはくれるだろう。家族の性格上政治に関わらなければ幽閉中でも自由と判断する。
「うちは兄妹仲良くて楽だわ。帝国とか反乱・裏切り・クーデーターなんでもありだから兄弟で殺し合いとか普通だし。それに今の皇帝も前の皇帝の5男だった筈だ。上の兄妹を全員暗殺して下の奴等も謀殺した奴だし」
本格的に終わってる国だな。よく続くものだ。
お父様も将来の兄弟間の遺恨が出る心配が無いので大喜びだろう。子供同士で殺し合いとか家族主義のお父様達には耐えれないだろうし。
「はっはっは。私は嫌がるアリスを玉座に座らせる変態を野放しにはしないさ。何、貴族など叩けば埃が出る物だ」
「まあそっちはお父様達にお任せで。所で飛空船どうするの?」
兎に角そっち系の面倒な話は終了。問題はアーランドの大型飛空船が全部壊れた事だろう。
「アリスティアに任せる。壊れて駄目なら破棄だな。素材は好きに使え…殆ど老朽化してるが。それと宝物庫の中身を見たが……予想以上だった」
「まあ使えるのは貰うし、直せるのは直すけど…って勝手に入ったの‼」
どうやって入った‼あそこに抜け道等無い…ん?私は起きていた…でも記憶が無い…まさか‼
「その通りだアリス。正直見ても分かる物が全然無かったが、お前のお菓子を守護してたゴーレムは危険に付き父上が破壊した。いいか?『父上』が破壊したんだからな。私は関係ない。いや止めた気がする」
「ちょ‼」
「お父様サイテー」
「チクショー‼だって危ないじゃん?パパ娘が自ら危ない目に会うとか耐えれないし、あんな危険なトラップを自分に向けるとか駄目じゃん。一番の驚きだったよ」
アワアワと弁明するお父様だが、私は守護ゴーレムが破壊された事がショックで少し泣いていた。そこをお兄様が優しく抱擁してくれて、お兄様の胸でぐずってる。
「あれはアリスちゃんが悪いわよ。自分に銃?を向けさせるとか絶対に駄目でしょう」
「違うもん‼クート君が食欲に負けるから置いてるんだもん…私にも撃ってくるけど」
「有罪ね。せめて、せめてそう言う危険な事だけはしないで。もうおやつ禁止はしないから」
「……分かったけど…クート君が食べちゃうし…私も食べたくなる事あるし…でも何時も深夜に作業してるから食べちゃ駄目な時間だし…うーん」
因みに初弾はゴム弾だ。床の血は偶々私の鼻に直撃しただけだと説明したが、3人に怒られた。銃を装備してる理由は、最初は暴漢を捕まえる二股の槍?役所とかにある奴だったけど、ゴーレムの出力不足でクート君に壊されるからだ。
あと、銃でも痛いだけでさほど効かない程度に抑えてある。(クート君感覚で)
「自分を大事にしなさい。それとペットの教育が出来ないのなら処分します。何やら勝手に増えたようですからね」
「了解です。直ぐに調教して盗み食いを辞めさせる。後、あれは私のペットじゃないクート君の眷属」
これは直ぐに調教しなければ…最近食べ過ぎで太り気味だし…おデブ狼に価値は無い。
「それとせめてアリシアだけでも入れなさい。貴女は自分を大切にすると言う感情が足りません。掃除や破棄はしないように私からも言っておきますが、アリスちゃんが危ない場合は止めて貰いますからね。後、あの剣を黙らせなさい。五月蠅くて仕方ないわ」
「分かったけど…グラディウスは無理…だって何時も笑ってるし」
あの剣は鬱陶しいのだ。私と相性が良いけどいつの間にか竜杖と仲良しで叫びあってる。
まあ邪魔をしないなら…勝手に捨てたり掃除しなければ、そろそろ良いと思う。隠し通すのも家族と不仲になりかねないし、概ね好意的に受け取ってくれてるから大丈夫だろう…割と爆散する宝物庫だけど、大丈夫だろう。
「じゃあ飛空船の修理してくる。思った以上に簡単な仕事でしょんぼり」
既存の飛空船の構造はしょぼいの一言だ。空飛ぶ帆船だし、何故作れないのか小一時間問いただしたい。直すだけなら新しい魔玉置いて術式入れるだけだし。
「それが出来ないから困ってたんだけどな。それと学園は1~2年休校だそうだ。暫くアーランドに戻るように…友達と遊ぶ時はアーランドに呼んで良い。それと今日から技術開発局局長就任だ」
はい?
「まだ未成年」
「アリスは自分の重要性を役職を持つ事で理解すると良い。君の命に比べたらオストランドは路傍の石ころだ。友達が大事なのは分かるが、それでアリスが死んだら元も子もないんだよ?少しは私達の思いも理解してくれ」
お兄様の言葉は少し冷たかった。でもそれは私を心配してるから出る言葉だと理解出来る。だから私は頷いた。
しかし私の価値が他国より上って…まあ所詮は他国と言う扱いなのだろう。
「分かった。例の件でも進めてる。建国祭にはお父様にプレゼントを容易するから楽しみにしてて。暫く忙しいから社交界には出れないけど仕方ないね」
「そこについてはいい加減考慮して欲しい。お前がパーティーに出ない事が大分問題になってるんだぞ。マダムは俺も苦手だ…何時になったら表に出すんだ。いい加減娘離れしろって何時も文句言って来るしな。俺は生涯離れる気はねえ」
お父様は王家の血筋では無い筈だけど、歴代の王族は基本的に娘大好きな人が多いらしい。お父様もお母様との結婚する際に「神竜くらいは討伐出来ないと娘はやれんな~」と鼻で笑われたらしく、討伐する事で認められたとか…神竜ってメッチャ強いどころか平気で国を亡ぼすんだけどね。何で討伐出来たんだろう。と言うかアーランドに生息してたのか。
「父上、ここは毅然とした態度で否‼と言うべきです。アリスを貴族の玩具にするなど言語道断です。私が社交界に出れば何も問題ないでしょう」
最初は兎も角、お兄様が社交界に出てる以上はこれと言った問題は無い。私は別に王家を継ぐ訳じゃ無いし、貴族でも社交界に出ない変わり者は意外と居るのだ…エルフとかトップが領地から出てこない事で有名だし、滅多に城に居ない。知り合いだけど人と距離を持つ事が決まりらしい。
取りあえず今後の目標は飛空船に関する事を行おう。丁度暇が出来たし建国祭まで2か月もあるので早速建造しよう。空飛ぶお船を一杯作れば国内の流通も良くなるし、利用費も下げる事が出来ればさらに流通も良くなる。具体的に300隻くらいあれば困らないだろう。
「忙しくなるから出れない。それとドワーフ工兵隊を借りるね。いい加減あっちを進めたいから……それとその子達誰?」
先ほどから壁際で置物と化してる人が3人居る…日本人?アジア系の人だ。歳は3人とも私より少し上だろう。私が視線を向けると視線を逸らされた。何故に?
 




