06 その杖何てチート?
さて杖を作ってから3日が経ちました。私の魔力も回復(魔力がほとんど無くなると回復に時間がかかる)しそろそろ杖に封入をしようと思います。
今回の封入は魔法一つじゃなく汎用性のある呪文を入れられるだけ入れるので少し時間が掛かるが杖を作るほど魔力は要らない。
「~~♪」
歌うように呪文を唱え杖に封入していく。すると無色だった魔玉は色を帯びて行き杖の持つ魔力は研ぎ澄まされていく。そして全てが終わると無色だった魔玉は色々な色に変えて揺らめいている。
「ふむ…中々の出来これならいけそう」
完成した杖を手に取ると私は理解した、これは私の想像を超えている。ただでさえ多い私の魔力が3割ほど増えた。普通は1割も増えないと言うか私の魔力で3割だと魔術師数人分だ。
「姫様、杖も出来たことですし儂と手合せをお願いできますか?」
「アルバートさん、私は人に魔法を撃てない」
何やら私の杖完成を待ってた人が居たようです。アルバートさんは王国近衛騎士団の団長さんなのでよくお父様と一緒に居ます。たまに目が死んでる事もあるけどお父様に次ぐ実力者らしいです。
「はっはっは姫様に傷つけられるほど弱くはないですぞ」
「無理」
考慮する必要すらない私は人に攻撃魔法を向けたくはない例え訓練でも御免だ。私が魔法の制御に失敗したら人くらい簡単に死んでしまうしアルバートさんが死んじゃったら娘のフィール姉さまに申し訳がたたない。
「相変わらずですか…しかしこれは王命、陛下からの命令です。貴女に拒否権はありません。姫様は王族なのですせめて自分の身を守れる力…いえ意志を持ってもらわねば」
「……分かった」
お父様がここまで強硬に出てきたのは初めてですね。今日の朝から妙に私を避けていた理由も分かりました。もし近くに居たら私は取り消しをお願いしお父様も私に甘いから取り消すでしょう。なので私から離れ私がこの王命を拒否できないようにしたのでしょう。父ではなく王としての命令なら私は逆らえない。私も王位継承権第2位ですが王命を遵守すべき立場でこれを拒否すればお父様の権威に傷をつけます。
私とアルバートさんは訓練場に来ました。まるでコロッセオのような場所です。年2回闘技祭が行われる場所でもあるので結構広いし観客席もあります。
「では姫様、今日は儂から一本取るのが条件です。それ以外仮令何があっても訓練は終わりません」
厳しいですね。私どころかお兄様ですら一本を取れないのにお父様は何を考えているのでしょう。
「分かった」
ですがアルバートさんはどう見ても本気です。私が泣こうが喚こうがこの訓練は終わらないでしょう。私はどうすればいいのか分かりません。
「では始め!」
審判役の兵士が開始を告げるとアルバートさんは私の目でぎりぎり追えるスピードで接近してきました。手には訓練用とは言え鉄剣です当たれば私の骨は砕けるでしょう。
「プロテクト」
何とか防御が間に合いましたが私は杖ごと5mは飛ばされました。痛くは無いですがヤバいです容赦ないです。
「姫様!身を守るだけなら誰でも出来ます、殿下なら躊躇わずにこちらに剣を向けますぞ!」
「…ファイヤーボール」
魔法を唱えますが火球は一瞬で消えアルバートさんの所に飛ぶ事は無かった。原因は分かります私が集中出来てないのです。
「姫様!それでは終わりませんぞ!」
一瞬の間にアルバートさんの鉄剣が私を吹き飛ばしました。
「ぐ……」
痛い、さっきは痛くなかったのに私の集中力が足りないからプロテクトが弱まったんだ。油断出来ない攻撃魔法が使えなくても私は他の術でアルバートさんを無効化してみせる。
「ライトボール」
杖を振るい複数の光球を連鎖的にフラッシュさせアルバートさんの動きを止めます。
「大地よその力を持って我が敵を束縛せよ!アースプリズン」
隆起した土がアルバートさんを捉え首から下を埋めてしまう。
「流石ですね。ですがこの程度ぐおおおおおおおお」
「させない。星の力よ我が敵を捉えよその力を持って押し潰せグラビティープレス」
重力を限定的に操作する中級魔法を使うと流石にアルバートさんも動けないようです。ですが私も動けませんこの魔法もミスをするとアルバートさんを傷つけてしまいます。魔法使いは集中して制御すると動けません。動けるレベルもありますが中級でも上級よりのアースプリズンと上級の上位グラビティープレスの同時行使&制御は難しいです。でもこの2つじゃないとアルバートさんは止まらないでしょう。
「ぐうううう動けん!俺の負けだ!」
「勝負あり姫様の勝利!」
審判が勝利宣言をすると魔法を消し…ついでに土も元に戻してアルバートさんの所に向かいます。
「大丈夫ですか…」
「ぬぐぐ…さすがは陛下たちの娘ですね。まさか最初から負けるとは」
「‼すぐ治すからじっとして」
アルバートさんは擦り傷ですが怪我をしてました。私は魔法で洗い流すと治療の魔法を行使する。
「…やはり人を傷つけるのが怖いですか?」
「怖い…人は簡単に死んじゃうから」
「そこまで青褪めなくても大丈夫ですよ。この程度なら日常茶飯事ですので」
「この程度じゃない。傷は放置すれば病になる。見逃せない」
この世界の医療は魔法ありきなので病気の原因とかを深く考えて無いので私はいつもドキドキします。お父様とかお兄様とかはかすり傷を放置しますし、騎士団の人達は洗浄すらしないで重症化したりしてそのたびに私が治しに行きます。
「申し訳ない、だが姫様の看護のおかげか騎士団の士気はいつも以上に高いですな。何せ姫様直々に治療していただけるなど他国…いやこの国ですら聞かない話ですから若造共なんか訓練を頑張れば姫様に会えると張り切ってますぞ」
…この国の騎士団はアホばっかりです。確かに怪我は治しますがその後に嫉妬の権化と化したお父様とお兄様に追い掛け回されるのに…
「終わり。怪我したら綺麗な水で洗うのは徹底して。それだけでも少しは違う」
「ありがとうございます。その件は儂から伝えておきましょう」
そう言ってアルバートさんは訓練場から出て行った。
アルバート視点
儂は姫様に礼をして訓練場を出た向かうはこの訓練場客席だ、勿論王族専用の物で外から中は見えないし音も漏れない。
「陛下訓練を終えました」
儂は臣下の礼を取りながら報告する。
「お前から見てアリスティアをどう思う…」
「正直甘いですな、最初の魔法は中級魔法ですが上級に近い物です。そして最後のは恐らく精霊魔法で上級に位置するかと。何故姫様が覚えてるのかはしりませんがそれを儂に怪我をさせないように行使するなどどれだけの負担か姫様も理解はされていたでしょう。ですが姫様は直接的な攻撃を選択せず儂の動きを止める事に拘りました。これがもし姫様と同等か準ずる魔法使いとの戦闘なら確実に姫様は負けるでしょう」
普通上級魔法に分類されるのは人を殺す魔法だ。治療や補助もあるがあれは違うだろう。もし戦場であの魔法を制限なしに使ったのなら数百…いや千は殺せる。どう考えても戦略魔法の筈だ、それを儂を傷つけない為に威力を制御し結果姫様は動く事すら出来なかった。敵は一人とは限らないのだ。あれを実戦で行ったら姫様はよい的だろう。
「俺もそう思う…アリスティアは生まれる時代を間違えたのかもしれん。あの子の才能は平和であればより輝く筈だ、国の為、国民の為にあの子がこれまでどれだけの発明を行ったのか…多くはまだ検証段階だがそれをこなせば我が国はさらに豊かになるだろう。だがアリスティアは本来受けるべき賞賛に無関心だ。あの子は王族として国に力を知恵を捧げるのが正しいと信じてるのだろう」
確かにそうかもしれない。姫様の優しさと知恵は平和であれば次代を任せるに値しただろう…それでも。
「儂には姫様の力を見極めきれない。姫様の優しさやあり方は陛下と王妃さまから強く受け継がれていますが肝心の戦う心を持っていない。それでは姫様はいずれ周りに良いように使い潰されてしまいます」
「そうだな…もしかしたらアリスティアは自分を恐れているのかもしれない。あの子には身の丈に合わない力と責任が生まれた時からのしかかっている。だが強すぎる力は恐怖しか生まない。だから居場所を守りたいのだろう。誰かの…国の役にたてれば畏怖される事も無い、だから自分の力を知恵を全て国に捧げる。だが俺達ですらそこまでやらん!国は大事だがその為に娘に自分を捨てさせるなんて…」
そう言って陛下は拳をテーブルに叩きつける。最強と名高い陛下の一撃に木製のテーブルは耐え切れず壊れてしまった。
陛下の気持ちは儂も少し理解出来る。姫様の持つ可能性に我等は少し頼り過ぎなのかも知れん。その結果姫様は生き急ぐのだろう。自分を価値を示す為に…だが
「姫様は気が付いていないようですが姫様を怖がる者などこの国には居ませんぞ。姫様は負傷した者なら誰だろうと治療してくださる。町の者達はいつ姫様が来るのか楽しみにしてる様子です」
実際に姫様は町でも騎士団でも人気が高い。自分の生まれを誇っているがそれは陛下たちを尊敬するが故のもので傲慢さなど欠片も無い。身分に関係なく礼儀正しく感謝も忘れない。困った人を助ける事もあるとよく報告書が儂の所にも来ている。
「そうだな少しアリスティアと話してみよう…すまないな最悪アリスティアに恨まれるかもしれない役回りをさせて」
「どちらかと言えば儂より陛下の方に怒っていそうですがな」
儂らも長く一緒に居る。陛下がまだ冒険者だった頃から仕えている儂はこう言う場で軽口を言える仲だ。
「ぬう…嫌われて無かったか?どうすればいい‼アリスティアに嫌われたら俺は生きていけん!その時は退位してアリスティアを可愛がりまくろう」
「それこそ怒られますぞ。責任を放棄するなぞ姫様の逆鱗に触れるようなものですな」
「ぬぐぐ…」
「さてもう一つ本題があります」
ふざけるのは終わりじゃ。儂はもう一つ気になってる事がある。これを陛下に報告しなくては。
「ん?」
「姫様の杖の事です」
普通上級魔法を接近戦で使うなぞあり得ない。あれは詠唱だけでもかなりあり味方に守られながら唱える物だ。それを姫様は無詠唱とまではいかないが殆ど詠唱をしていなかった。
「あれか…俺にもよく分からんが魔法ではなく詠唱を込めたそうだ。汎用性のある呪文を込める事で詠唱を短縮出来るらしい」
「あの杖は余り表に出さぬ方がよろしいかと、愚か者共の目にとまりでもしたら…」
あれ程の魔法を僅かな時間で行使されると魔法使い以外に対処できぬ。それにどう見てもただの杖ではないだろう。あの杖には目の前にドラゴンが居るような威圧感がある。例え他者に使えずとも構造を読まれでもしたら。
「問題あるまい、そもそもあの杖はアリスティア以外に触れる事すら出来ん。本人も意図した事では無いようだが防御機構が入ってるらしく俺も持とうとしたが電撃を食らった」
「は?」
杖に防御機構?何かの魔法を常駐でもさてれるのか?
「アリスティア曰く地の精霊の仕業だそうだ」
確かに姫様は精霊と一緒に居るがそこまで精霊がそこまで勝手にするものなのか?儂の経験上精霊使いは精霊は加護を与えた者に従うがそこまで自分勝手に何かをするなぞ聞いた事も無い。
「アリスティアだけでなくアリスティアの周りに居る精霊も変わり者らしいな」
儂と陛下はそろって溜息を吐いた。姫様が精霊と何かをする事はいつもの事だが我等は姫様の教育を間違えたのかもしれん。