64 目覚めは天国と地獄
新しい朝が来た。っと思ったら既に目が覚めてた。アリシアさんが私のネグリジュを脱がして着替えてる最中だ。何故?と首を傾げたらアリシアさんの目が見開き、行き成り抱き付いてきた。。流石に何が起こったのか分からない。何故か眠気も無いのでぼんやりしてる訳じゃ無い。
「やっと元に戻った~~」
「苦しい。元に戻るって言ったじゃん」
「口調が大分変ってますよ‼マダムに怒られますよ」
うん、何か変わった気がする。もう別にこのままでも良いと思う。
さて何故にこんな状況になったかを聞いたら、どうやら私は三日程で起きたらしい。
何故記憶が無いかと言うと、私のコアたる魂が活動してなかったので起きては居たが反応が乏しく、一言も喋らなかったらしい。つまり魂の修復中は目が覚めても魂の抜けたような状態だと言う事だ。私の予想では活動すらしないと思ってたが、習慣付いた行動を繰り返すようだ。
「何かあったの?」
「………ナンデモナイデスヨ」
「じ~~~」
睨みつけるが視線を逸らすだけで口を噤むアリシアさん。
兎に角大丈夫かと聞かれたので自分の体をチェックしようとしたら…
「魔力回路がボロボロ。暫く魔法は…治せば良いか」
私は流れのおかしい魔力を力技で制御すると改造した時と同じように一つずつ回路を治す。流石に汗がダラダラ出てくるが、魔力が体中から漏れてて気持ち悪いし、これじゃ魔力の回復も遅くなる。30分程で治った。
しかしこれでも全力で魔力を使えば耐え切れないので今度また改造する。基本的に魔力回路は棒人間のような簡易的な流れだが、これを魔力眼で見ても私と判断できる程に張り巡らせれば問題ないだろう。
着替え途中から服が汗だらけで駄目になったので、魔法でお湯を出して体を拭くと違う服に着替えた。それだけで意識が戻ってから1時間が経っていた。
「元に戻ったな‼」
「父上、ドアを粉砕しないでください。これも私対策にかなり強化されてて私にも壊せないのに…」
現在は寮の部屋だけど、ちょくちょく入って来るお兄様対策にドアを変更してたのだけどお父様には無意味だったみたい。寮は部屋の中やドアを自費でなら好きに変えて良いらしい。寧ろこれを駄目って言うと貴族の子弟や令嬢が文句を言うとか。
お父様は私が元に戻ってるのを確認すると抱き付き頬ずりしてくる。髭がモジャモジャで鬱陶しい。お兄様も反対側から抱き付いてる。何この状況?。
「ア~リ~ス~」
2人に抱き付かれてると地獄の底に居る鬼の雄叫びの様な不吉な声が聞こえた。私は途端に直立不動になり、お父様もお兄様もピシっと背筋を伸ばした。
「何時も何時も危ない事ばっかりね。少しは反省と言う事を学べないのかしら?」
「……」
私は即座に元に戻る前のように無表情にする。頭の中を無にして一切の感情を隠す。元に戻って無いとアピールしてお説教を回避するのだ。
お母様は静かに優雅に近づくと、私の頭を鷲掴みにしてそのまま持ち上げ…あだだだだだだ‼
しかし私は表情を変えない。震えそうな体を叱咤して無反応を装う。このままでは地獄に連れてかれる。
「ふ~ん。そんな態度を取るんだ?こんなに心配してるのに酷い娘よね~起きてるでしょう?」
「お、起きてにゃいもん」
思わず声が出てしまい、私は口を押えた。それが致命的だった。お母様の口が三日月のように吊り上がる。正直魔物の大群より恐ろしい。途端に体が震えだした。ちょっとトイレに行きたいので降ろして欲しい。
「やっぱり起きてるのね♪ちょっと、こっちにいらっしゃい」
「アリシアさんも一緒‼」
再び不用意に近づいていたアリシアさんの耳に神速の突きを放ち、鷲掴みにする。主が地獄に行くのなら従者も共に行くべきだ。一人安穏としてるのは認めない。
「ノ――――――‼尻尾だけじゃないんですか‼離してください」
ミシミシと危険な音がする私の頭蓋と苦悶の表情を浮かべるアリシアさんの攻防が…すみません大人しくするので、それ以上握らないで…本当に潰れる…嗚呼意識が…何で目覚めて早々こんな目に…。
「取りあえず300回ね♪」
「命だけは…アリシアさんの耳をモフモフナデナデする権利をあげるから」
取りあえずアリシアさんの素敵装備で許しを乞おう。
「要らないわよ?」
なん……だと?この素敵装備を触る気が無いと言うのか‼私が長い年月をかけて野良狐から一流の毛並に仕立て上げた最高級品…今は割とボサボサになってるけど…これでもまだ素晴らしいモフモフ具合なのにこれを要らないと申すか‼
ゆ、許せんケモナーの端くれとして、この無関心は到底看過出来ない。直ぐにお母様にもこの素晴らしさを伝授しなければ。
「お母様は間違ってる。これこそ至宝。国を挙げて保護するべき案件だと思う」
「今は関係ないでしょう?貴女反省してないでしょ?もう少し増やしましょうね具体的には100回くらい。それとアリシアも一緒だったのに止めなかったから貴女も来なさい。いくらドラコの盟友だからってやり過ぎよ。騎士なら止めるべきだったのよ?この子の命と他国の命運は天秤にかける物では無いのよ」
あれ?アリシアさんも連れてかれる?いや、連れてくつもりだったけどアリシアさんは関係ない‼私の我儘でアリシアさんを罰せられるのは看過出来ない。確かに止めるべき立場だけど、アリシアさんは私に対して抑止力にはならないのだ。
私はアリシアさんのケモ耳を離す。
「…アリシアさんは怒らないで…大人しくするから…お願い」
「じゃあ500回で手を打ちましょう。アリシアがアリスを止め切れないのは最初から分かってたから」
こうして私は別室に連れて行かれた…頭を掴まれ持ち上げられながら…。
2時間後。やっと解放された。私は寮の自室のベットにうつ伏せになって寝っ転んでる。お尻には氷嚢が乗ってる。魔法で治すのは禁止されたのだ。この痛みを忘れちゃ駄目ってめいいっぱい怒られた。
凄い怖かったし、痛いと言うよりお尻が熱い。途中から意識が朦朧としてたから余り何を言ってるのか分からなかったけど、凄い心配させてしまった事だけは理解出来た。もっと私が強ければ…誰にも負けない程強ければここまで心配されなかったかも知れない。私なら絶対に大丈夫って思われるくらい強くなりたい。
「反省出来ましたか?正直言ってあり得ない事を仕出かしたんですよ?止めれなかった私が言えた事では無いのですが…」
「ちょっとは反省した。でも次は心配させない。私はもっと強くなる。あの程度の魔物なら私一人で余裕だって思われるくらい」
アリシアさんは駄目だこりゃと言わんばかりに額を押さえる。
しかし何時までもお尻が痛いのは嫌なので宝物庫から治療用のポーション(市販品)を取り出して下着を脱ぐと軟膏を塗るように広げながら塗る。お母様も数は多いですが、痕ならないように配慮してたので直ぐに腫れと痛みが引いた。別に道具を使って治すなとは言われてない。私は魔法を使ってないから多分問題ない…駄目だったら…その時考えよう。しっかりと反省もしたから今後は勝手な行動も慎もう…多分。
「怒られますよ?」
「だ、大丈夫。それよりアリシアさんまた尻尾がボロボロ。ちょっと櫛で梳かす」
「まだ試作品を持ってたのですか」
何故1ヵ月程でここまでボサボサに…私のせいか。獣人は精神状況で毛並が凄い変化する。半分とはいえ、アリシアさんも獣人の血が流れてるので、その特性は同じようだ。凄い心配を掛けたのだなっと反省しつつ毛を櫛で梳かす。これも40番台だな~と思いつつ梳かしてたのだが、何時もと違う?いや、これは…完成だ‼
アリシアさんの毛並が獣人で五候の一人のリリンさんを上回った。リリンさんは獣人の至宝と謳われた人で、結婚した今も求婚が止まない程モテる。そして獣人は毛並が良い程綺麗だと言う文化がある。
ハーフは普人以外の種族が苦手意識を持ってるし、基本的に純血の獣人より毛並が良く無い。アリシアさんは珍しいのだ。それでもアリシアさんのお母様はさらに凄いとか自慢してたけどって、そこじゃない‼
ハーフと言うハンデを持ちながらアリシアさんは獣人の至宝を上回ったのだ。私は手の中にある魔法の櫛を見つめてしまった。何て代物を生み出したのだろう。これをクート君に使ったら素晴らしい結果が出るのではないだろうか?
後光がさすようにキラキラの白い尻尾。触ると絹より柔らかい。先ほどまで少しボサボサだったのが嘘みたいだ。アリシアさんも口を開けたまま自分の尻尾を見てる。
「素晴らしい物が出来た。これこそ世紀の大発明」
「まままあまま不味いですよ。これ内乱を起こす代物じゃないですか‼これ一つで獣人が反乱を起こしかねません‼血で血を洗う抗争を起こしてでも手に入れようとしますよ‼しかもリリン様と同じくらいって私殺されます~」
ふむ、確かにお父様も獣人貴族が五月蠅いから欲しいって言ってたな。試作品だから嫌だって言ったのに妙にしつこかった気がする。まさか獣人が此処まで毛並に情熱を注ぐ種族だとは…新発見だね。アルバートさんは素で毛並が良い人なので、そこまで毛並に注視してない…と言うかあの人原種と呼ばれる人だからよほどの事が無いと毛並が落ちないらしい。
「取りあえずお父様に報告してくる。アリシアさんはそのドアの残骸を片付けておいて。確かここの寮の一部屋を借りてるんでしょ?」
「現在学生は全て家に戻ってるので寮毎アーランドが借りてます。周囲には獣戦士隊も居るので寮の敷地内なら姫様一人で動いても問題ないですよ。城と違ってアホ貴族も居ませんから」
私の部屋があるのと、誰も居ないと言う事で空き部屋を借りてるらしい。流石に女子寮なのでオストランドが使用中の部屋は封印処置をしてるので廊下を歩いてると結界だらけだ。中からも外からも開かない魔法で、お母様も立ち会ったとか何とかで寮の7割は立ち入り禁止の状態だ。騎士達は寮の外でテント暮らしか、墜落したらしい飛空船の中で生活してるとか。後人員が多すぎるので、一部徒歩か馬車で帰国かオストランド内で魔物を狩ってお小遣い稼ぎに勤しんでるらしい。アーランドの人間が何処でも生きていける証でもある。
しかし飛空船が落ちたのには驚いた。何でも急ぎ過ぎと、恐らく寿命だろうとの事。動力源兼重要な魔法を込められた魔玉が割れ、一隻が墜落。残りは徐々に高度を落としたので船体に損傷は無いけど、同じく動力源破損だとか。
因みに墜落した飛空船での死者はゼロである。即座に乗ってた魔術師が衝撃を緩和する魔法を使ったので骨折程度でその人も皆に笑われたらしい。後で治療に向かわなければ。取りあえず私は走って…いつの間にかドレスのような私服になってるが、これは恐らくアリシアさんの趣味だろう。物語のお姫様のような格好で動き難いがスカートを少し持ち上げながら、アリシアさんから聞いた場所にダッシュ‼この素晴らしさを家族に自慢するのだ。きっと褒めてくれる。
「おと~さま~‼」
途中に出くわしたメイド等を避けたり、スライディングで股下を通り抜けたり天井を走ったりしながら部屋に向かう。そして部屋の外に完全武装の騎士2人が立ってる部屋を発見。あの部屋にお父様が居るはず…ええいドアが邪魔だ。私は足に【豪脚】と土の精霊に頼んで【豪脚】を強化する。そしてそのまま某ライダー的なキックをかます。
「あれ?」
「どうやらまた反省したいようね?」
渾身の蹴り…それも警備の騎士が目を見開く程の勢いで飛んだのに、足が扉に接触する前にドアが開き、私はそのまま部屋に飛んでいく。そして私の体がドアを通過した時に横から手が出てきて私の頭を鷲掴みにした。それと同時に私の周りの精霊が部屋の外に逃げ出した。裏切り者‼
「な・・・何故ここに…」
「ドラコのマネしちゃ駄目って何時も言ってるよね?どうしてお母さんの話を聞いてくれないの?」
そこには驚きつつも難しい顔をしたお兄様やお父様に、知らない子が3人居た。お母様は妙にニコニコしてるけど、背後には鬼が立ってる気がする。私は救いを求める様にお父様とお兄様を見るが、2人とも私と視線を合わせない。即座に横を向くか、近くの書類を手に取って、自分は知らないと言うポーズを取り出した。
「ちょっとこっちにいらっしゃい」
「にょわあああああああああ‼」
再び私は別室に連れてかれるのだった。
ここら辺から主人公の性格に変化が現れます。今までの非戦主義が崩壊気味になります。




