閑話7 3人の気持ち②
私の名前はケーナ・リリウムです。父は真面目だけが取柄な人でオストランドの子爵です。
多分アリスと仲良くなるのに一番反対だったのは私だと思います。だって何を考えてるのかまるで分からないのです。
実は私があの子の事を知ったのはあの子がオストランドに来て直ぐです。
父はアリスが謁見の間に来た時にその場に居たそうですが、「過ぎたる才能だ。オストランドで生まれてたら確実に混乱を巻き起こす」と酷評してた。容姿、血筋、才能全てに恵まれてて足りない物は何も無い。実際礼儀作法も完璧で後に知った事だけど婚約者が居ないのがおかしい子です。
でも、何故かアノンを見てるような感じがします。周りに混乱ばかり起こす幼馴染と似た部分が多いのです…最もアリスの方が上ですけど。
学園に入れば直ぐに決闘騒ぎを起こすし、魔法の腕だけじゃ無く魔道具すら作り出す実力は周りから孤立するのに十分でした。
アリスは才能が高すぎたのです。あの子に近づく人はまだ幼く、アリスの容姿に惹かれた同年代の子供か、その才能を妬んだり盗もうとする人ばかりでアリスも次第に他の人に興味を持たなくなりました。
多分私もアノンが近づかなかったら話す事は無かったと思います。
貴族は異端を嫌います。アノンがただ髪を切っただけで孤立したのと同じです。自分とは違う者を恐れます。だからアリスが孤立したのはある意味必然でしょう。でもアリスは異端であるが、それを恐れない強さを持ってます。そこはアノンと一緒です。自分は自分。そう言いきれる子です。私には出来ません。だって一部の人間が向けるあの嫉妬等の視線に耐えれないと思うのです。でもアノンが仲良くなってそれに引きずられるように話し出すと意外にも普通?いえ、普通を知らないだけでした。彼女もある意味被害者なのでは?と思ってしまいます。確かに英才教育を受けてるでしょうけど、それはあくまで礼儀作法に関する事だけで常識的な事は何も知らない子でした。普通が何なのか。それをまるで理解してませんでした。貴族的な礼儀は知っててもそれを実践した事が無いので相手にどう接すれば良いのか分からない…だから自分の考えで生きてるのです。今更それを教えてももう遅いでしょう。だってアリスは既にそこから自分を作ろうとしてるからです。
まあ所詮は他国の貴族の令嬢だからいいや。と現実逃避しながら付き合いを始めましたが、結構気が合います。私は読書も好きなのですが、アリスも好きでした。私は物語系が好きで、結構際どい物も読みますが、アリスはそう言うのを読んだ事が無いそうです。教育方針なのか物語系の小説は検閲が入ってるらしく際どいシーンが丸ごと削除されてるとか…勿体ない‼そこが一番面白いのに‼と言ったら妙に興味を持ってしまって、メイドに隠れて貸し借りをするようになりました。
アノンは読書何てする性格じゃないし、シャロンはどっちかと言うと園芸の方が好きなので、話が合う事は余り無かった。それでも私達3人に問題無かったけど話の合う人って意外と話してて楽しくなります。アリスは素直なので知らない事は興味深々でお姉さんぶれるのも大きいでしょう…最もアリスの方が博識ですけど。
仲良くなるのにそこまで時間が掛かる事は無かったと言えます。最初はあれだけ警戒してたのにいつの間にか仲の良い友達が3人から4人になってる。そんな感じです。
でもスタンビートが起こって、もうアリスには…皆には会えないと思いました。
だって周りの人達の表情を見れば分かるんです。どうやっても勝てないと。でもこの国に生まれた以上は逃げれません。だってここが私達の国ですから。国を捨てるのは覚悟が必要なのです。それこそ死んだ方がマシだと言うくらい。
父は剣を持った事はありません。典型的な文官で穏やかな人です。その父も剣を持って私やお母さんを護ると覚悟を決めてました。
でも王都を魔物の群れが攻撃しだして、直ぐに魔物が王都の中に入ってくると学園の講堂に避難するように騎士の人達が指示を出しました。流石に父も騎士に混ざって戦う事は出来ません。だって戦える人じゃないから。だから私達は逃げ惑う人に流されてはぐれないように手を繋いで逃げました。鳥のような魔物が人の臓器を生きたまま引きちぎってても、子供が一人で泣いてても無視して生き残ろうと講堂に向かいました。
「やはりそう簡単にはいかないようだ」
もう少しで講堂に突くと言う所で私達は10匹以上の鳥の魔物に囲まれました。
その魔物達は体中を血で染めてて思わず腰が抜けるような感じがしましたが、ここで腰を抜かせば確実に死ぬし、両親を危険に晒します。父は私達を庇うように魔物に剣を向けますが、剣先は震えてて、見てるだけで危ないです。そこで私は思い出しました。アリスがくれた物を。
「お父さん結界を使うからその隙に逃げよう」
「そんな物は無いだろう‼」
「アリスが危なかったら使ってってくれたの。起動‼」
精一杯の願いを込めて、腕輪を付けた左手を前に出すと、半透明の膜のような物が、凄いスピードで私達を包むと魔物をそのまま吹き飛ばした。
「今だ‼」
父が剣を捨て、お母さんの手を持つと引っ張るように魔物から逃げる。凄い結界だった。だって吹き飛ばされた魔物はそのまま動かない。
「あの子には感謝しないといけないね。ケーナ。お前の友達を悪く言ってすまない」
「ううん。まだアリスを知らなかったんだから仕方ないよ。あの子もアノンと一緒で問題児だし」
「そりゃ両親もさぞ苦労してるだろう」
額に汗を流しながらお母さんも含めて3人で笑う。もう騎士団の人達が居る講堂前に付いたのだ。これで暫くは安全だろう。
講堂内は酷かった。布を掛けられて動かなくなった人や、その周りでなく人に血の滲んだ包帯を巻かれて力なく座り込む人達。父はそこに陛下も居るのに気が付いて、私達にここで大人しくしてるようにと言うとそっちに向かってしまった。
「壊れちゃったか…」
腕輪はやっぱり一回で壊れちゃった。凄い結界だったけど、それだけ負担が強いんだろう。腕輪は2つに割れていた。
「大事な物だったの?」
「ううん。アリスは危ない時に使ってって言ってたから…でも『次』が来たら…」
お母さんの問に首を振る。しかし次が怖い。魔物絶対にここまで来る。私はまだ死にたくない…ただ震える事しか出来なかった。
「………ケーナあちらにシャロンちゃんが…居るらしい…手を合わせてきなさい」
シャロンは腕輪を渡されなかった。運悪くその場に居なかったせいで、戻って来る前にアリスが帰国させられたせいで身を護れなかった。だから逃げてる途中に魔物に襲われたらしい。私はそのまま泣く事しか出来なかった…でもアリスは凄かった。アリスならもっとスマートにオストランドを助ける事が出来たかも知れない。アリスならもっと犠牲を減らして王都に結界を張れたかも知れない。なのにアリスはシャロンを選んだ。
シャロンは生き返った。途方もない魔法、まさに奇跡の体現者の手で。その後は色々ありました。少しぼんやりしてたり思考が止まる事も多くて、何故かアリスとゲームしてたくらいしか覚えてないけどやっぱりアリスが助けてくれた。アリスが王族なのにも驚いたけど納得も出来た。アーランドの王族はそれだけ異端揃いだからです。
アリスの活躍で30万の魔物のうち、10万は壊滅。残りは統率者が倒れた事で逃亡したそうです。でもアリスは倒れた。だって人を生き返らせて結界張って魔物の駆逐なんて物語の英雄だって出来ない事ですから。だからオストランドの人達は言う「聖女アリスティア」と。
私は部屋で考える。アリスと今後どう接すれば良いのか分かりません。だって王族ですから。雲の上のような人ですよ?今まで通りに付き合って良いのか…今度本人に聞いてみよう…お礼も一緒に。
私は寂しそうに慌てる凄い友人の顔を思い、やっと静かになった自室で眠るのだった。
シャロン視点
私の名前はシャロン・ヤースティン。オストランドの準男爵家の令嬢です。
私には仲の良い友達が居ます。今回は新しい友達の中でも最も仲の良いアリスと言う子の話をします。
最初は不思議な子だなって思いました。なんかアンバランスな感じで凄いのか普通なのか分かりませんでした。でも父はアリスと仲良くなれって言うんです。
「あの馬車の製造法を知りたい。仲良くなって聞き出せ」
少し強欲な人ですが、子供を利用しないで欲しいです。私も流石に気が進みませんが、何故か仲良くなるとアリスに懐かれました。
アノンと言う友達もそうですが、何故か一部の子とは仲良くなると懐かれるんです。
いつの間にか私とアノンとケーナの3人の輪は4人になってました。凄い普通に輪の中に入って来たアリスも凄いけどアノン達もアリスは気に入ってるらしい。だから私も父の要求は無視する事にしました。どうせ聞いても難色を示すでしょうし、友達を利用するのはいけない事ですから。
父はよくどれだけ仲良くなったとか聞いてくるけど当たり障りのない事を言って誤魔化す。もし酷くなったらアノンとケーナに相談しよう。私は手伝わないと決めましたから。
そして夏休みになって、私は領地に戻った。領地の特産であるウーミンの実や、それを使ったお菓子を購入する為だ。王都でも買えるけど、家の領地の方が新鮮だし、知り合いの職人も領地に居るので、購入に向かったのだ。父もアリス達にお土産を買いに行くと言ったら反対しなかった。
でも帰り道に行き成り魔物が襲ってきて、護衛の人達が倒しながら何とか王都に付くと、王都も魔物に襲われていた。幸い何とか城門から入る事が出来たけど、入って直ぐに馬車が壊されて徒歩で逃げる事になった。
王都はいざと言う時は学園の講堂が避難場所だと告知してるので、そこに向かってたのだけど、気が付いたら講堂に居た。友達達は皆泣きながら抱き付くし、久しぶりに見たアリスはぐったりしてた。
私は魔物の爪が偶々心臓に当たって死んでいたらしい。私は魔物にそんな事をされた何て覚えてないし、死んでたと言う感覚も無い。気が付いたらここに居たのだ。よく分からないけどアリスが助けてくれたらしい。
死者蘇生ですか。凄い事なんだろうけど実感が無いからよく分からないです。それにまだ魔物の大群に襲われてるらしいけど、何となく大丈夫な気がする。
実際何とかなった。アリスが凄い頑張って魔物を撃退した。言葉にすればそれだけだけど、凄い事だ。アノンもあり得ない事だって言ってた。普通なら逃げる手段を考える段階だったんだって。
アリスって凄いんだね。でも無理はしないで欲しいかな。だってアリスが倒れてからアノンは落ち込んでるし、ケーナも少し変な感じ。私も無理して倒れては欲しく無い。何時もみたいに4人で…ふふ、私も何時の間にかアリスが居るのが当たり前になってるみたい。
王女だけど、予想外の事しかしないお転婆で凄い頭が良いらしいけど、それを意識しないと忘れてしまうくらい変な子。どう接すれば良いのか分からないけど、もっと仲良くなりたいな。今後はもっと仲良くなれる気がする。何か手の掛かる妹が出来た気分です。見てないと何をするか分からないから落ち着かない感じでとても可愛く感じます。もっと表情豊かなら良いんだけどな…今度くすぐってみましょう。




