閑話6 3人の気持ち①
私の名前はアノン・シェフィルドだ。父が騎士爵を持つ貴族の娘何だがうちは変わってる。
まず貴族風の生活をしない。自分の事は自分でするし、食事も自分達で作る。本来は子爵になっててもおかしくは無い家なのに代々「騎士が子爵ではおかしい」と絶対に昇爵を受け入れないのだ。
オストランドの兵士や騎士は弱い。父は酒を飲みながら呟く。何時も我が国の騎士もアーランドの如き強さを持って欲しいと口癖のように言ってるが、私にはよく分からない。
あの国は知ってる事が少ないのだ。情報が流れ出ない、出ても大した情報じゃないらしい。
私が父から初めて貰った物は鋼鉄製のショートソードだ。貴族の娘になんて物を寄越すんだと思わなくもないが私も結構気に入ってる。実戦はした事無いけど結構強いって皆褒めてくれるしね。実際父の道場では父より私の方が強い。
流石に実戦経験が無いので実戦では分からないけど木剣を持った訓練ではいい感じに強くなった。
そんな私には幼馴染が居る。生まれた時からの付き合いで将来派閥なる物を作る為に引き合わされたらしい。けど意外と仲が良い。ケーナは真面目で私の知ら無い事を結構知ってるし間違うと怒ってくれる。
シャロンは恥ずかしがりやだけど意外と根性があるし、大人しくて貴族令嬢って感じだ…皆令嬢じゃん。
私は全然貴族らしくないから学園に入っても他に友達が出来なかった。髪を切っただけで父や母だけじゃ無く他の令嬢も近づかないのだ。だって邪魔じゃん。
父は他にも友人を作れって何時も言って来る。貴族は他の貴族との繋がりも大事らしい。だが私の育て方を間違ったのは父だ。私に令嬢らしい生活を送らせたいのならもっとお淑やかに育つようにすべきだったね。最初に剣を渡した父が悪いって速攻で諦めた。
だけど気になる子が居たんだよ。何時も一人で本を読んでたり連れのメイドと話してる令嬢。名前はアリス・フルール。
コイツも私と一緒かな?と思った。まるで人脈を作る気が無い。寧ろ他の人間に興味を持ってるのか分からない変わった子。私は話しかけてみた。だって絶対に伯爵令嬢何て嘘だろ。座ってる時とかの仕草が私でも分かる位に洗練されてる。私だって貴族令嬢だからパーティーは出た事無いけど茶会くらいは出た事がある。あそこに出てくる高位貴族のお姉さん達と対して変わらないか上回る仕草を身に付けてる。話してると時々メイドが泣いてるけど、その時は全然何で泣いてるのか分からなかった。
結果はかなり変わった子だった。話しかけたら最初気が付かないし、気が付いたら行き成り慌てだした。どうやら人付き合いが得意じゃないらしい。最も仲良くなると普通で、同年代の人と話す事になれてない感じだった。
面白いって思った。だってあそこまで礼儀作法が出来てるのに同年代の付き合いは一切無いって言ってるんだよ。じゃあ何で覚えたのさって聞いちゃったよ。そしたら。
「だって周りが覚えろって…」
どうやら本人の意思じゃないらしい。しかもこの子は既に魔術師らしい。最近入学早々に二つ名付の魔術師が出たって聞いた事があるけどコイツだったか。
無論ケーナとシャロンは知ってたらしい。アイツ等は私以外に友達が居るから良いよな。私なんて髪を切っただけで一人だぜ。
読んでる本も読めない文字の物だったり歴史書だったりと絶対に難しい物なのに普通に読んでるよ。試しに読ませて貰ったら今と文字が違うし、私は10分で眠りについた。難し過ぎる。
ケーナ達は最初は抵抗があったみたいだけどアリスと意外と仲良くなった。私に似てる部分が結構あって馴染むらしい…主に問題児な所が。嫌味か‼
アリスは変わってる。授業は完璧なのに悪戯する事があるらしい。魔法の的当てでは的を壊す物だと勘違いして普通なら壊れない的を壊したり、他の貴族の息子と決闘して勝ったり使い魔を空に飛ばしたり…話を聞くと私達とは違う生き物なんじゃ…と思わなくもない。
本人は何で駄目なのか分からないらしい。聞くと礼儀作法は習ったけど常識的な事は全然だった。それを聞いた時のメイドさんの表情が面白かった。忘れてた‼って思いっきり顔に出てたもん。凄い頭が良いから教え忘れたんだね。そのせいで変な成長を遂げたんだろう。ケーナは私に剣じゃ無くて杖をあげてたらアリスに近い成長をしてたって言ってきた。ほっとけ。
まあ結論としてアリスは貴族としての繋がりは求めて無かった。
「私はもっと強くなりたい。大事な物とか人を守れるくらいに」
脳筋だな~。今だって凄いじゃんって皆で言ったけど全然だって謙遜じゃ無くて本気で思ってるみたい。だから私は試しに聞いてみたんだ。
「じゃあ、どれくらい強くなりたいんだよ」
「ドラゴンが来ても余裕で返り討ちくらい」
そりゃ無理だ。でもアリスなら遠からずに出来る気がするのが不思議なんだよな。何気に何時も自信満々だし。
それからも結構仲良くなったんだけど私達は夏休み期間は会えない。だってアリスはアーランドの実家に帰るし…本当は会う予定だったんだけど眠らされてまで連れ帰られたらしい。メイドの範疇超えてるって。
アリスは何時も連れてるアリシアってメイドには甘い。人によってはメイドは物扱いなのにアリスは絶対に認めない。ケーナ曰く、「あれはメイドじゃ無くて護衛らしい。アリスは凄い魔法使いになるかもしれないから国が派遣してるって決闘の時に言ってたらしいよ」将来安泰だね。
私達が会話してると後ろでニコニコしてるだけだけど、私達が離れると普通に話してる。どっちかと言うとメイドが姉みたいな感じだ。ちっとも似てないから姉のような物だと思うけど…あの人ちょっと怖い。
だって絶対に私より強いし、隙が無さすぎる。普通の騎士じゃないね。私だって父の部下の騎士達を見てるからよく分かる。ケーナ達も少し距離を取ってるし。
そして夏休みが終わって再会したらアリスの雰囲気が少し変わってた。ちょっと大人っぽい感じ?よく分かんないけど少し違ってた。でも悪い感じはしないね。アリスって無表情な事が多いけど話してると機嫌が良いとか悪いとか直ぐに分かる。雰囲気が表情の代わりみたいな感じだ。アリスの雰囲気はちょっと自信が付いたって感じ…何時もより自信満々だ。
お土産に魔道具を持ってきたのには驚いたし、お土産ってレベルじゃない凄い物だった。使い捨てでも結界系の魔道具は凄く高い。だって需要って言うの?つまり欲しい人が多いから数が足りなくて何でか高くなるらしい。何で安くならないんだろ?後でケーナに聞いたら凄い物だって言ってた。私にはよく分からないよ。父も魔道具は触らせてくれないし。
「皆で週末の休みに王都で買い物をしよう」
私は皆に言ってみた。3人で買い物は偶に行くけど4人で行った事は無い。アリスは学園が終わるとそのまま図書館で魔道書とか読んでるから放課後に会えないのだ。本人曰く。
「しつこい人があっちには多い。ちょっと疲れるから気休め」
アリスは特進クラスの連中と上手く付き合え無いらしい。皆年上で頑張って特進クラスに入ったのに入学早々に特進クラスに入ったアリスを認めてないらしい。あっちでは誰とも話さないって。唯一の例外はお兄さんがあっちに行ってる事くらいか。何時もこの教室に迎えに来るんだよね。だってそうしないと最近のアリスは行こうとしないし。
お兄さんギーシュ様って人で学園で知らない人はいない程の人気者だ。剣が凄くて頭も良い凄くモテるらしい。ケーナもちょっと顔が赤い。シャロンはぼ~としてるけど。
私?かっこいいけど…何か私より強いのが気に入らない。おかしいな?私はそこまでコンプレックスを持つ方じゃないのに、あの人見てると超えてみたいと思う。今度アリスに頼んで手合せをお願いしよう…絶対に負けるけど。
結論を言おう。
「ふざけんな~~~‼」
買い物の少し前にスタンビートが起きた。しかもこの国の歴史に無い規模で。無論外国の貴族子弟や令嬢は国外退避だ。混乱を起こさない為に他の国の貴族子弟や令嬢には詳細は話されなかった。アリスも訳も分からずに帰国したのだろう。正直私達3人も逃げたいよ…シャロンが心配だ。あの子アリスにお土産を買う為に領地に戻ってて今日に帰って来る予定だから…鉢合わせしないと良いけど…。
ってそれどころじゃない。この馬鹿親父は8歳の私に行き成り実戦に出ろとか言い出しやがった。もしかしたら戦闘狂なんじゃと思ってたが本当にアホだったとは。
「黙れ、国家存亡の危機だぞ。何処の家も戦える者は戦う。我がシェフィルド家も同じだ。何の為にお前に剣を渡したと思うんだ。他の装備も用意したからさっさと支度しろ」
泣きたいね。だって勝ち目無いじゃん…あ~あ災難だよ。アリスともっと仲良くなれると思ったのに…。
それでも貴族としての義務だし、既に王都囲まれて逃げれないから諦めて戦う事にした。でも私の筋力じゃ致命傷は与えられない。だって王都は城壁で囲まれてるのに王都内に入れる魔物だよ?無理じゃん。ゴブリンとかならまだ勝ち目はあるけど、あの翼の生えた狼っぽい魔物とか絶対に無理。避けるのが精いっぱいだって。切っても傷一つつかないし。
「無理~~」
「弱音を吐くな‼」
「だったら私を囮にするな‼」
何故か配置された場所に居た者達の中で私が一番身軽だった。だからって子供を囮にするとか大人汚い。
だけど何度も避けれる訳じゃ無い。どんどん切り傷が増えてってついに転んでしまった…その時思い出した。
「危なくなったら使って」
あの時アリスに貰ったのはずっと着けてる。
「き、起動‼」
腕輪を前に出すと半透明の膜のような物が私の周りに出て、私を爪で切り裂こうとした魔物が物凄いスピードで近くの家に激突した。これって結界だけじゃ無いじゃん‼しかし助かった。
「お前それを渡せ。前衛に必要だ」
「もう壊れちゃったから無理。てへ」
誰がこんなアホにあげるか…それにしても助かった。多分あれじゃ死なないから少し呼吸を整えよう。そして魔物がよろけながら出てきた時には少し余裕が出た。あの魔物に私はダメージを与えれないけど攻撃は大分かわせるようになった時に魔物の背後にアリスが居た。
一瞬幻覚だと思ったよ。だってあんな冷たい目をしたアリスは見た事無いし。
その魔物は抵抗するどころか、一瞬でアリスに倒された。行き成り雷が落ちて空を飛んでる魔物や市民を殺してる魔物を焼き払った。生き残りも結構居たが、アリスが高速で腰から何かを抜くと一瞬の発光を起こして、それと同時に魔物が倒れた。よく見ると額に穴が開いてる。また何かしたみたい。
アリスは凄い冷たい目をしてたけど、私を見ると泣きそうな目になった。どうやら魔物に怒ってたらしい。アリスは絶対に怒らせちゃいけないタイプだ。容赦ないね。
「家出してきた」
案の定アリスは帰国の事情を知らなかったようだ。どうやってこんな短期間で戻って来たのか知らないけど私達の為に来てくれたのは嬉しかった。実際に来なかったら私はあの魔物に食べられたし。でももっと驚いた事があった。
アリスは王族だった。しかもアーランドの王族の直系だ。家出して良いのかな~と思わなくもないが、アリスは手伝いを要求する騎士を黙らせると他の2人の場所に移動しだした。当然私も付いて行く。
アリスは腰と背中の2つの魔道具を駆使して片っ端から魔物を倒す。全部ミス無く命中してるのは凄い。だって構えてないし、あれは多分飛び道具だから。
目に映る全ての魔物を倒して2人に再会するとシャロンは死んでた。アリスは偶々戻って来るのが遅れてたシャロンに腕輪を渡せてなかったんだよ。運が無い。私も涙が止まらなかった。だって私も命を賭けたんだよ?シャロン達が無事で居るくらい奇跡があっても良いじゃんと思った。
でもアリスはやっぱり凄かった。私には分からない方法でシャロンを生き返らせた。私だってそれがどれだけ途方もない物なのか理解出来るよ。だって教会では1人でも蘇らせる事が出来れば歴史に名を残す聖人に認定されるんだよ?それをアリスは100人以上も甦らせた。でも奇跡はそれで終わり。アリスはその時に張った結界の維持以外に何も出来なくなっちゃった。不気味なスライムを出して魔物を駆逐させてたけど、そこまで多くは倒せないし、アリス自身が既に限界を超えてる。
だって死者蘇生をしたんだよ?普通なら魔力が足りない奇跡のような魔法だし、それを結界を維持しながらやったアリスの負担は計り知れない。ちょっと情けなくなった。
でも意外とアリスは変わらなかった。何とかなると良いねって皆でゲームしてたし。
だって何もしないとか暇だし、結界内の変な人形には触らない方が良いってアリスに言われたから暇なのだ。死が近づくと意外と大人しくなるもんだ。
でも今度はアリスに奇跡が起きた。お兄さんがポーション持って助けに来たのだ。最も兵士何て殆ど連れて来てなかったけど、アリスの魔力が回復すればアーランドが来てくれるかも知れ…え?反撃?
「私は絶対に魔物を許さない」
アリスの怒りは既に限界だった。アリスは優しいからシャロンを傷つけたのがどうしても許せないらしい。お兄さんと一緒に来たドワーフのおじさんと一晩で変な魔物モドキを作ってたった3人で出撃してしまった。
私達には壊れた腕輪の新しいのを複数ずつ渡してから城門から出て行った。
「ねえアノン。多分私達が貰った腕輪ってアリスが作ったんじゃない?」
「きぐーだね私もそう思うよ」
「アリスちゃん…優しいから」
物語に出てくる英雄みたいだった。誰かを助ける為に自分の命を賭けるのは普通なら出来ないのに何事も無いように行うし、私達が友達なだけで最上級の守護をしてくれる・・・それこそ自分の立場を危うくしても。
私はその後馬鹿親父に見つかって城壁で弓矢とか運んでたけどアリス達は凄かった。寄って来る魔物をなぎ倒すばかりか、ドラゴンみたいなブレスを撃ったりして魔物を圧倒してた。偶に変な魔道具?みたいなのがこっちを撃ってきて凄い怖かった。実際3つ貰った結界用の魔道具が一個壊れたし…何でこっちを撃つのさ‼
「お前もよく見ておけ。あれが武に生きるアーランドの王族だ」
馬鹿親父はアリス達の戦いを私に見せたいようだ。悪趣味な。
だけどいくら強くてもあれだけの数は無理なんじゃって城壁の人達が諦めかけた時にアリスが次の手を打った。何かアリスが変わって赤くなったと思ったら戦場なのに踊り出した。そして大地が割けて火柱が立って魔物を蹂躙したと思ったら今度は焔の大津波が出て魔物を焼き尽くした。私だけじゃ無く城壁に居た人達全員が口を開けて思わず迎撃する事も忘れた。
私はただ綺麗だな。って思った。火を纏ったアリス。遠目でも分かる見た事の無い装束に身を包んで踊ってる。そのだけなのに焔はアリスに従うように魔物を焼き尽くす。そしてそれが消えたら魔物は逃げ出した。私が魔物でも逃げるね断言する。
そして周りに魔物がいなくなったアリスから何かが離れるとそのまま倒れた。
「アリス‼」
城門から王都に戻ったアリスに私は駆け寄った。城壁の連中はまだ茫然としてたし、王都の連中は火柱しか見えて無い。だから思った以上に人は少なかった。
「大丈夫…だと思う。命に別状は無いよ。唯疲れただけだ」
アリスのお兄さんが駆け寄ろうとする私の前に立つとそう言ってくれる。でもアリスには近づけない。多分駄目って事なんだろう。隙間から見えるアリスは凄い顔色が悪かったけど呼吸はしてた。
アリスは聖女になった。そして英雄になった。皆がアリスに感謝してる。私は王様に意識が完全に戻るまでは会っちゃ駄目だって直接言われたから屋敷で待機してたけど、教会の連中がアリスを攫いに来た。
でも私達3人は屋敷から出ちゃ駄目だって皆部屋に閉じ込められてた。私達はアリスの友達だから危険な目に会う可能性があるとかで国内の他の貴族の人達に王様が釘をさすまで部屋で大人しくしてないといけないんだって。何で私達が危険なのか知らないけどアリスが危ない目に会ってるのに何も出来ないのが凄く悲しかった。もっと強くなりたい。アリスが胸を張って友達って言える大人になりたい。私は唯ベットでアリスの無事を祈る事しか出来なかった。
結果はアリスが返り討ちにしたらしい。詳細は教会騎士が暴れたせいで市民は大混乱だったから目撃者が全然居ないらしく、アリスが魔法で倒して王様が全員捕まえて殆ど処刑したんだって。
当然だよね。アリスは王族だし。
良し決めた。もっと強くなって『次』は私もあの隣に立ってやる‼もう足手まとい何かにならないぞ。私だって剣と体力だけならアリスに負けないんだからな。待って…無くても良いけど絶対に追いつくぞ。ファイト私‼




