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別話4 解放作戦

「何で殺さない。お前なら分かるだろう。俺は……もう死にたいんだよ。うんざりだ‼勝手に呼び出されたのに周りは俺を化け物扱いするわ、俺を道具扱いした挙句に何の罪もねえ人間を生贄にする手伝いをさせられるなんて、何で俺がこんなめに会わねえといけねえんだよ‼」


「今のお前を見たら爺さんもブチ切れるだろう。府抜け過ぎだ。お前なら、そうさせた奴に牙を向けろよ」


 大の字で倒れる和仁に拓斗は冷たく言い放つ。和仁に罪は無い。教会の連中に無理やり手伝いをさせられただけだ。そこに和仁の意思は無い。どうにも出来ない事なのだ。


「だがよ…おりゃ何の為に獅子堂流を習ってきたのか分かんなくなったんだよ」


 折れた両腕を見ながら和仁はつぶやく。こんな事をする為に強さを求めた訳じゃ無い。和仁は自分自身に負けない強さが欲しかっただけなのだ。だが結果は捕まり、無理やり奴隷以下の扱いで働かされて恨まれる。報われない。


「まあ、死ぬ前に教会連中に一泡吹かせようぜ。こっちなら俺達がつるんでも誰も文句は言わないし、手を貸してくれよ。アイがこっちで生きてるんだよ。何処に居るかは分かんないけど…また皆で昔みたいにさ…」


「通りでテメエがキレる訳だ。まだ諦めてねぇとか舞も報われねえな」


 拓斗は苦笑いをする。幼馴染が死んで落ち込んでた時に舞は拓斗の近くに居てくれた人だ。


「所で舞の方も助けるべきだと思うけど…大丈夫なのか?あいつ等かなり下種揃いだったけど」


 本田舞。彼女も拓斗の幼馴染の一人だ。拓斗が探してる幼馴染を入れた4人は昔からの付き合いだが、拓斗は幼馴染が死んでから鍛錬に集中してたので疎遠になりかけていた。

 彼女は美少女だ。胸は大きく、腰は括れている。町を歩けば芸能界のスカウトマンに声を掛けられる事もあるほどだ。その彼女が教会に捕まってるのは色々な意味で危険が一杯だろう。


「あっはははは‼お前もそう思うだろ、だけどよ、そりゃ無意味な心配だ。俺達異世界人にちょっかい掛ける奴なんて居ねえよ。あの首輪はそこまで万能じゃねえ。それにアイツ襲い掛かった神官の股間を灰になるまで火魔法で炙ったらしいぜ。本人もそんな事はさせないとさ」


 隷属の首輪は完全とは程遠い。強い異世界人には効きにくいし、壊される事もある。よほどの事が無ければ壊れないが、彼女は強い。拓斗に惚れてるのと身持ちが硬いので、下種に身を穢されるのを命を賭ける程嫌ったようだ。結果として彼女に襲い掛かった哀れな神官は宦官にジョブチェンジしたと言う。それを聞いた拓斗も思わず自分の代物を押さえて後ずさった。少し顔色も悪い。

 さらに異世界人に性的な行為を犯すのは教会でもタブーに近い。1000人も異世界人を呼んでればそれなりの確率で可愛い少女も出るが、犯すと言う行為は肌を合わせないと出来ない。つまり無防備だ。過去かなり手酷い反撃を受けた事が多いので手出し無用…暴力程度しか与えられない。

 教会としても暴走されると困るし、壊れても困る。それに女は腐る程囲ってるので困って無いのだ。多少の危険なら兎も角、殺そうと反撃してくる異世界人を抱こうとする神官は少数だった。


「まあ大丈夫なら良いけど…リーン、和仁を治してあげて」


「…リーンは死ぬかと思ったのです…異世界人怖いのです。貴方方は何処かの戦闘民族出身なのですか‼懐に相棒を入れたまま暴れないで欲しいのです」


 拓斗の胸元から出てきたリーンはゲッソリして居た。彼女も治療魔法を使えるのだ。そして彼女の治療魔法で和仁の両腕は直ぐに治った。


「んじゃ、やりますか」


「だな。俺らを好きに出来ると思ってる奴等に現実ってもんを教えてやる。償いは今後考えるわ」


 この日、拓斗はミーニャの町から姿を消す。影も追っ手を放つが、拓斗と和仁の行方は知れなかった。



 1ヵ月後


「てーーーーき襲‼」


 拓斗たちは再び皇都に戻っていた。数ある教会騎士の詰所の一つに襲撃を掛けているのである。

 和仁は堂々と門から入り、迎撃してくる教会騎士を血祭りにあげる。

 素手で兜や鎧毎教会騎士を殴ってるが、拳に硬化魔法を掛けてるのでさほど痛みは感じないし、時折教会騎士の足を掴んでは即席鈍器として他の教会騎士にぶつけてる。まさに人外…勇者の戦い方では無い。敵対する教会騎士すら武器にする男だ。この男を勇者と呼んでは勇者は外道と世界に言われてしまうだろう。


「糞が‼今まで好き勝手に俺を使った礼はさせて貰うぜ‼」


「貴様‼主に仕える我等に牙を向けるかッがああああ」


 和仁は教会の腐った部分を直接見ている。故に彼等に対して憎悪しか持ってない。それに和仁も拓斗も日本出身で、日本は地球有数の宗教的無法国家だ。仏教や神道にキリスト教何でもござれの日本人に主に忠実と言う生き方は存在しない。

 故に彼等の怒りは2人には届かない。2人にとって彼等は頭のイカレタ狂信者で同じ人間と思われたくない種類の連中だった。


「糞、こいつイカレてやがる。化け物を呼べ。さっさと首輪を付けさせろ‼」


 数人の教会騎士が戦場と化してる詰所の前から詰所の中に戻っていく。暫くすると数人の異世界人を伴って戻って来たが……


「それは悪手だろ」


 戻って来た男は縦に真っ二つにされ、連れてきた戦闘系の能力を持った異世界人5人の首輪を首を傷つけずに切り離す。この機会を拓斗は隠れて待ってたのだ。そして解放された異世界人の中に本田舞の姿もあった。彼女はローブに聖銀の杖を持ってたが、拓斗の速度に反応出来なかった。それは他の異世界人も同じで、自分の首を触って地面に落ちてる首輪が自分の物だと理解すると狂喜しながら教会騎士に向かっていった。隷属時の恨みは大きいらしい。

 流石高位の戦闘力を誇る異世界人が拓斗と和仁・舞を含めて7人も居ると1000人居た筈の教会騎士は即座に逃げる者が出てきた。彼等を縛る首輪は無く、冒険者上がりの教会騎士は拓斗達に勝てないのは長年の経験による感で察知してたのだ。

 冒険者は国や教義より命を選ぶ。その次が金で、教義を守る意識は低い。故に教会騎士は舞達が解放されて暫くすると600人にまで減っていた。


「拓斗…ううん、今はまずここから逃げる事だよね。さっさと逃げよう」


 舞は拓斗との再会を喜びたいが、今は戦闘中なので先に教会騎士の掃討に専念しだした。彼女は火魔法しか使えないが、その威力はこの詰所を灰燼に帰す程の火力が軽々出せる。その本領を発揮し、火炎の大津波が詰所に襲い掛かる…和仁諸共。

 火炎の津波が治まるとそこに立ってる人間は僅か10人だった。9人はここの指揮官級で結界の魔道具を持ってたり自身の魔法で耐え切った者達だ。

 そして残りは……。


「殺す気か‼」


 プスプスと煙をあげてる和仁だった。彼は避けれないと判断すると即座に顔を隠して闘気を解放して、文字通り耐え切ったのだ。彼はこの世界に来た事により人間の枠組みから外れてしまったようだ。生き残りの教会騎士だけでなく助けた他の異世界人や拓斗も口を開けて茫然としている。


「ごめん。マジで居る事忘れてた。まあ和仁だし大丈夫でしょ、実際に大丈夫だったし」


 拓斗との再会を早く喜び合いたい舞は味方の存在を忘れ一緒に焼き払うと言う暴挙に出ていた。恋する乙女は暴走特急である。


「…化け物め…」


 先ほどの魔法で生き残った教会騎士9人だが、5人は魔術師である。その5人は先ほどの魔法を防御するのに全魔力を使ってしまい崩れ落ちる。それを他の異世界人が容赦なく止めをさす。生かす道理は無いのだ。外道には外道の末路が待っている慈悲は無い。


「まさか気絶しても止めをさすなんてな」


 流石の拓斗もドン引きだが、彼は他の異世界人がどういう扱いだったのか知らないので仕方がないのだろう。


「生かしても後々敵対するだけだからな。ここで殺しといた方が良いだろ。それに残りもどうせ殺すつもりだ…お前以外はな」


「そうね。そこの生き残りも私に酷い事をしようとした前科持ちの性犯罪者だし」


どうやら隊長らしき無駄に高い装備を付けた奴の後ろに居る奴は宦官にジョブチェンジした暴行犯のようだ。舞を見て震えている。怖いのだろう。

 隊長と思われる男は結界で耐え切ったが、その際に結界を作る魔道具が壊れたので現在は結界は無い。見た目は…オークの様だが、オークは意外と筋肉があるのだが、この男は贅肉である。一見悪徳騎士団長にしか見えないが中身もそのままなのだ。


「化け物共が…この私にこんな事をして只で済むと思うなよ。教会の名において貴様等は神敵としてガフ‼」


「そう言うのは聞き飽きたし、お前らがまともな信仰心を持ってから言うんだな」


 何か典型的な悪徳神官の言いそうな事を言い出したので拓斗が心臓を一突きにして殺す。豪華で無駄に金を掛けた鎧は一級品だが、容易く貫通してしまった。隊長は名乗る事無くその人生を終えたのだった。


「さて、どうしたものか。ここまで派手に動いた以上は皇国もかなり本気で動いてくるだろうね。さっさとこの国からオサラバするべきだと思うけど…金が無い」


 拓斗は空の財布を振っている。情報屋に金をつぎ込んだ後は和仁と共に森を抜けて皇都に戻って来たのだ。食料は野生動物や食べれる魔物の肉等で金は無い。和仁も奴隷に近い扱いだったので装備を渡されるだけで金を貰った事は一度も無い。寧ろ拓斗よりこの世界の経済に疎いだろう。そして残りの異世界人も同じである。


「取りあえず助けてくれた事には感謝します。私の名前は法月由香里ほうづき ゆかりです。得意な事は武器の軌道を空間毎歪ませる事です。転移までは行きませんが防御が難しくなる異能です」


「俺は佐東明さとう あきらだ。蹴りの異能を持ってる。連撃する程に威力を上げれる異能だな」


「その…僕はナット・フォーマスです……水を操れます」


「私は倉井朱美くらい あけみよ。倉井流槍術を使えるわ…後獅子堂流の事は知ってるから。異能は槍術特化よ。槍を体の一部と同じくらい使いこなせるの」


「まあ私の自己紹介は飛ばすとして、私は火の異能ね。小説に出てくるような火魔法は大体使えるよ。それと皆和仁の事は知ってるから」


 法月由香里は剣を持った17~19才程の少女である。ショートカットの黒髪にくりっとした瞳の子だ。身長は160ちょっとだろう。

 佐東明は野球をやってるような丸坊主で手にはガントレット。足には棘の着いた金属製の靴を履いている。和仁と同じ戦い方をするようだが、パワーファイターで体格に優れる和仁とは違い身長は150㎝ほどだ

 ナット・フォーマスは金髪に赤と青のオッドアイの少年だ。まだ小学生くらいの年齢だろう。自分の身長程の杖を持っている。

 倉井朱美は腰まで伸ばした黒髪をリボンで一つに纏めている。体つきはスレンダーで引き締まってると言う印象だ。歳は拓斗と同じくらいだろう。

 聖銀製の槍を持ってるが、装飾は一切ない。まさに実戦向けの物を持っている。


「俺の名前は獅子堂拓斗だ。君達を助けたのは正直に言うと舞のついでだけど、これからどうする?流石に君達だけで暴れてもいずれ捕まると思うけど」


 拓斗は正直に助ける気は無かったと伝える。拓斗も危険を犯して舞を助けに来たのだ。微レベルで捕まる可能性はあった。

 舞を除く4人が少し話し合いをする。拓斗はその間に死体から金を回収する。まさに盗賊行為であるが、彼等の金は他の異世界人に渡すつもりだ。慰謝料として。

 そして僅か2分程で話し合いは終了した。彼等もここが敵地で暫くすれば応援が来る事を理解出来てるのだ。故に速攻で今後を決めた。


「「「「着いて行きます」」」」


「やっぱりそうなるか。しかし物資も金も…金は少し手に入れたけど流石に逃亡生活じゃ少ないよな…」


 拓斗は集めた金を見る。金貨40枚だ。本来なら十分過ぎるが、逃亡しながらではまともに稼げないだろう。今までは皇国の動きが拓斗の戦力分析だっただけなので何とか動けてたのだ。流石に指名手配はされまい。公には異世界人が脱走した程度で収められるだろうが、襲撃者は確実に増える…しかも今まで以上の手練れを送って来るだろう。金や物資はいくらあっても足りないのだ。


「あっちに皇都の物資保管庫がありますよ。装備の予備や食料にお金も大分集まってます。近々アーランドとか言う国に攻め込む為に蓄えてるとか教会騎士達が話してた」


 朱美の言葉に全員が声を失う。その言葉の意味する事はそこから奪うと言う事だ。


「流石に不味いんじゃないか?警備も厳しいし、そんな物資を持っていける装備を俺らは持ってない。暫くはダッシュで逃げるから多くの荷物は持てないぞ。流石に市民から略奪するのは賛成できんし」


 和仁も困惑している。


「まあ…それでも良いか。どうせ他の国に迷惑をかける為の物資なんだろ。俺は収納系の異能も持ってるから俺と和仁と舞の3人で奪うよ。残りは皇都内の詰所を襲撃して出来るだけ異世界人を救助して貰える?ヤバい相手の居る所とかは無視したり逃げて良いから。集合は2時間後の外壁で」


 拓斗は即採用した。他人に迷惑をかける物資なら罪悪感も少しは薄まる。これが飢饉で援助に使う物資なら流石に手は出さないだろう。

 他の異世界人も仲間が多い方が逃げ易いのは分かってる。異世界人は身体能力や魔力資質がこの世界の人間より優れてるので集団で動いても迅速に動ける。それに仲間が多ければ教会や皇国の追ってから逃げるのも負担は少ないのだ。

 それともう一つ。ここに居る異世界人で皇都以外を知ってるのは拓斗と和仁だけである。慣れない異世界で慣れない環境で逃亡するなら少しでも仲間が欲しかったのだ。


 そしてその日皇都は大混乱に陥った。高位戦闘系の異世界人30人を含む異世界人100人が突如襲ってきた賊に奪われ、多くの詰所や駐屯所が襲われた。皇国はアーランド戦に向けて兵力を…特に異世界人を皇都に集め過ぎていたのだ。そしてその襲撃でアーランド戦で使う筈の食糧5トンと予備の武器や防具等も多くが奪われた。

 皇都の多くの場所で火が上がったが、市民には一人も死者が出なかった。燃える建物も計算されたように他の建物には被害を出さなかった。精々混乱で転んだりして軽傷を負った者が相当数居ただけだ。重症でも骨折程度である。

 これは後に異世界人の反乱と呼ばれる。

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