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63 宝物庫

 ギルバート視点


 あれから3日経った。アリスは教会騎士との戦闘で、さらに体調を悪化させたらしくまだ起きない。アリス(仮)はかなりアリスの体に負荷を掛けてたようだ。

 今回の一件はかなりお粗末な物だった。偶然。ただそれだけだ。今回来た教会騎士団の289番隊らしいが、使役してた異世界人を使ってオストランドの混乱を観察してたらしい。

 どうやら感知系の異世界人は千里眼やそれを他の人間に見せる事も出来、アリスの結界内も見る事は出来たらしい。しかし転移持ちの異世界人が使う転移ではアリスの結界に干渉出来ず、アリスの活躍と、周りの話からアリスがアーランド国第一王女にして副王家当主である事を知り、手柄を独り占めする為に独断で動いたらしい。

 丁度アリスが結界を解除した上に倒れたので、彼等は好機とばかりに碌な準備も無く異世界人の転移で飛んできたのだ。

 基本的に転移は自分の知ってる場所にしか行けないが、探知系の異世界人と相性が良いらしく、その2人が揃えば何処にでも行けるらしい。

 異世界人らしく身体能力も高かったのと、戦闘後で私達が疲弊してる事から奪うのは容易に出来ると思ってたらしい。そして、オストランドで何をしても揉み消せると考えてたのが第一の敗因だ。

 100人中80人はその日の内に王都の広場で首を落とされた。最後まで喚いてたらしいが市民に石を投げられながら首を切り落とされ、未だにさらし首のままだ。私はもう終わった事なのでどうでも良い。ただ次が起きれば絶対に負けない。今回はアリスも無事だったが、次は無い。私ももっと強くならねばな。




「姫様ばんざーい」


「………」


 あれから更に三日。スタンビードから一週間が経つ日の昼頃にアリスは起きた。

 しかしアリスは心が抜けたように何も反応しなかった。私達はかなり慌てたが、どうやらアリシアはアリスに聞いてたらしく、一見動揺はしていない。姫様が1ヵ月で元に戻ると言ったのだから元に戻ります。とアリシアは気にして無いような素振りだが、忙しない。内心はかなり堪えてるのだろう。

 私達も出来るだけ医者に見せたが、何も異常が無いそうだ。寧ろ何故こうなったのかと私達が聞かれた。

 考えられるのは精霊魔装なる物だろう。アリスは基本的に秘密主義だ。自分に危険があっても誰にも相談しない。あれにもし、何かの代償があり、それのせいでこうなったのなら行き成り戦場で眠りについたのも納得できる。意識を保てなかったのだろう。

 ただ寝るだけで1ヵ月程で元に戻ると明言されてるので、私達は暫く様子を見る事にした。念の為にオストランド中の医者だけでなくアーランドからも小型や中型の飛空船を用いて医者を呼び集めて検査はしている。


「先ほどから何をしてるんだ?」


 アリスは目が覚めてから無反応に近いが、私達が言った事は行動している。食事や入浴にトイレなども自分で出来るようだ。イグナス老師の診断では意識はある。唯心は動いてないだけなので、普段の行動をしてるだけで、本を読んだりする動作を行っても実際には本を読むと言う習慣を繰り返してるだけのそうだ。寧ろ心が動かなくても一日の大半を窓際で読書してる。最もページは一切動いてないが。


「いえ、体を動かしてたら目を覚ますかと思いまして」


 アリシアはアリシアなりに考えてるようだが、体操してるようにしか見えない。律儀に従ってるアリスもレアだな。


「よ~~まだ嬢ちゃん起きないのか?いい加減あれの改造したいんだが」


「グランツ卿、何故あの時に助けに来なかった。あれが有れば教会騎士なんぞ目でも無いだろう」


 あの時グランツ卿は来なかった。オストランドより練兵場を借り受け(スパイダーに手を出すと容赦なく王都内でも主砲を撃つので隔離された)整備をしてたらしい。

 混乱には気づいていたが、助ける気は無く、そのまま整備してたらしい。


「ああ?寝てる嬢ちゃんを誘拐するなんてドラコの坊主でも無理だろ、それよりバランサーを何とかしてぇんだよ。あれじゃ揺れが酷過ぎるぜ」


 確かにアリスを誘拐するなら脅迫するのが一番楽だろう。王族としてどうかと思うが、アリシアを人質にすれば確実に捕まるだろう。最もそうなればアリシアは自害するだろうが。

 しかし酷過ぎる。アリスへの信頼…と言うか寝起き…具体的には代理人が今回は対処したが、普段の寝起きのアリスでもあの異世界人では対処出来ないだろう。父上ですら目で追えない速度で近づいて片手で2mを超える巨体の父上を持ち上げるばかりか、抵抗も許さずに窓から捨てるアリスに3人の異世界人では荷が重い。唯一転移持ちが暫く耐えれるくらいか。私も修業が足りんな。このままでは空気扱いされそうだ。別に妬ましくは無いが、私もあれくらい強くなりたい。


「……は‼こうも姫様が言う事を聞いてくれると言う事は…姫様‼是非宝物庫に入れてください‼」


 突如アリシアが天啓を得たとばかりにアリスに懇願しだす。

 調子に乗り過ぎではないか?流石にそれは…え?開けちゃうの?入って良いの?

 アリスは普通に鍵を取り出して宝物庫を開いた。流石にこれは看過出来ない。中に何があるのかは宝物庫の存在を知る者全員の疑問だ。流石に父上と母上を呼ばないとな。


「…納得出来んな。こうも簡単に入れるとは…」


「絶対に嫌‼って言ってたものね」


「新しいバランサーでも置いてれば良いんだが」


 ちゃっかりグランツ卿も入るようだ。どうやらアリスの作業スペースが気になるらしい。但し、グランツ卿の判断で、絶対に中の物に勝手に触れるなと言われた。グランツ卿の作業場もそうらしいが、素人が触れると何が起こるか分からない物が散乱してる可能性があるらしい。


「そう言った物を城の工房に置いとかないで貰えませんか?何の為に保管庫まで作ったと思ってるんですか」


「うるせぇ‼俺以外が勝手に入らなきゃ何にも問題ねえんだよ。当然ここから先も同じだ。本人以外が入る事なんて想定してねえんだから勝手に触れんじゃねえ」


 そうして私達は宝物庫に入る。普段はアリスの結界よりも遥かに頑丈な結界に守られたアリスだけの宝箱…少し気が引けるが、確かめるべきだと誰もが思っている。



 感想は………かなり豪華だった。壁は一面、一流の細工師でも作れない模様が彫られ、幻想的な柱が何本も立っている。何故か宝物庫なのに中に噴水も付いていて、傍に椅子と本棚がある。私はグランツ卿と母上に確認を取る。魔道書だった場合、作者の意図でトラップが掛かってる事がある。そう言うのは出回らないが、作者がアリスの可能性もあるのだ。


「ん~別に魔道書じゃないわね。唯、紙の質が良すぎかしら」


「だな、俺達なら作れねえ事は無いが、基本的に自分で使うから本にするほど出回らん」


 問題ないようなので本を取る、しかし読めなかった。母上曰く、アリスの使う暗号で書かれてるらしい。一度アリシアが見た文字を暗部に送ったそうだが、文字の法則すら分からなかったようだ。


更に奥に行くと、木箱やら、包帯らしき物でグルグル巻きにされた物が乱雑に置かれていた。流石にこれはグランツ卿に触るなと厳しく言われた。どうやら何かの魔道具を保管封印してるらしい。

 そしてさらに奥に…どれだけ広いんだ‼先が見えない。しかし5分程歩くと小さい家が見えた。


「これは…」


「何でこんな所に」


 クート君のおうち。


 家では無かった。扉も無く、屋根と壁があるだけで、中に毛布がひかれていた。犬小屋である。何故あるのかはアリスしか知らないだろう。ここに存在するには違和感が強すぎる。しかし近づくと、その陰に少し大きい小屋が見えてきた。


「こっちが本当の作業場かしら?でも結界が張ってあるわね。どうやらこの宝物庫の結界をこっちにも張ってるみたい。アリスちゃんここに入れて」


 母上が頼むとアリスが先に入る。すると結界は音も無く消え去った。但しブーブーと音が響きだした。


『クッキーは1日5枚までです。』


「作業部屋じゃ無くおやつの保管庫ね」


ひたすらクッキーは一日5枚と部屋中に聞こえる。その中は多くのお菓子で埋め尽くされていた。流石はアリス。これほど隠し持ってたとは。一軍の兵糧並だな。しかも保存の魔法が掛けられてるらしく劣化もしない。部屋の中央の魔玉で制御してるようだ。


「姫様…」


「どれだけ隠し持ってるんだよ。ある意味驚きだ」


 よもやこれだけ溜めこんでるとは、誰もが驚いた。グランツ卿は大爆笑してた。


「グハハハハ‼俺と同じじゃねえか。俺も保管庫は酒樽で一杯だ」


「てめぇ‼だから工房に危険物置いてるんじゃねえだろうな」


 あそこも一応、国の施設なのにやりたい放題である。アリスの自由奔放さは間違いなくグランツ卿から伝ったのだろう。酒樽とお菓子の違いしかない。しかも食べ過ぎないようにこの部屋に居る限り警告が続いている。ある意味ストイックだ。クッキー5枚じゃ満足できないだろうに。


「アリシアどうだ?」


「ほぼ私の作った物ですね。市販品はどれも姫様お気に入りの店の物です」


「何時から溜めてたのかしら。お金はあっさり使うのにお菓子だけは溜めこむのね」


「アリスにとってお金より価値があるのでは?」


 そうとしか思えない。元々アリスはお金に無頓着だ。困った事が無いし、今後も困らない。自分で稼いでるので今後お金に困窮する事は無いだろう。

 しかし厳重だな。ここだけかなり厳重な警備が敷かれてる。完全武装のゴーレムが銃と言う物を持って四方に立ってる。恐らく勝手に食べれば攻撃されるのだろう…と言うかおかしくないか?


「これってアリスが勝手に食べれないようにしてるんですよね?自分自身に厳し過ぎでは?」


「そこまでしてでも溜めこみたいのでしょう。そこら辺に血痕も残ってるわね。多分急所を外して攻撃してくるのでしょう。これは後でお説教ね。もう少し自分を大事にして欲しいわ。何で自分よりお菓子が大事なのかしら」


 何とも言えんな。グランツ卿は大爆笑してるし、俺も保管庫に同じの付けるか、最近飲み過ぎて秘蔵の酒が無くなりそうだし。とか言ってるぞ。

 殆どグランツ卿と同レベルではないか。流石に危険と言う事で父上が全て破壊した。(お菓子を護る結界は破壊できなかった)


「恐ろしく強いゴーレムだな。頑丈だし、銃がウゼェ。ストイック過ぎないか?たかがお菓子だろ」


「それをアリスに言ったら口を聞かなくなるんでしょうね父上」


 大事な物は大事にする。それ以外は割と無頓着…せめて大事な物に自分自身を入れて欲しい物だ。

 流石に奥が見えないので、何処まで探せばいいのか分からないっと考えてたら小屋の後ろが作業場だった。

 これと言った物では無い。多くの工具や棚があるだけだ。壁や屋根も無いな…近くにクレーターとか出来てる場所もあるが、基本的にここで物を作ってるのだろう。今は中央に何かがある。流石にこういうのは私達では専門外なので、分かる可能性のあるグランツ卿に聞いてみた。


「こりゃぁ…飛空船じゃねえか?流石に内部機関は俺も作れねぇが設計図が似たような物を使ってたな。多分一人乗りの試作品だろう。これじゃまだ飛べねぇな」


「別に作れるのは本人も言ってたから驚かないが、私が持ってる小型の飛空船はここまで複雑じゃないですよ?実際再現出来ないのは動力部と浮かせる魔法の制御なんですよね?これは…別系統なんじゃ」


 私も当然小型の飛空船くらいは持ってるがこんな複雑なカラクリ式では無かった筈だ。


「嬢ちゃんの趣味だろう。そこに仕様書とかがあるから見てみろ。多分現存する飛空船より航続能力に速度もかなりかけ離れてる。これが出回れば帝国が自慢してる飛空師団は一気にチープ化するな」


 アリスの設計図なので暗号で書いてると思いきや、普通に読める物だった。多分出来次第父上に売るつもりなのだろう。


「こんなん買い取ったら国が破産するわ‼飛空船の建造技術なんぞ小型でも残ってねぇ‼」


 父上もまさかこれも売り払うつもりだったとは考えて無かったようで、頭を抱えてる。現存する飛空船より遥かに優れた飛空船の造船技術なんぞ適正価格で買えるのは皇国ぐらいだろう。もっともあの国の場合は適当な理由を付けて没収するだろう。金は絶対に出さないな。


「それじゃテメエ等さっさと出るぞ。長居していい場所じゃねえ。ここは職人の居場所だ。素人が入って良い場所じゃねえしな。クソ、バランサーの一つくらい予備を作っとけよ。面倒だが俺が作るか」


「最初から自分でつくりゃ良いだろ。クソ爺」


「ああ?テメエこれを一から作るのがどんだけ面倒だと思ってんだ?第一そこの飛空船だってドワーフの中でも一握りの奴しかパーツ一つ作れねえんだぞ‼ミリの半分も誤差も無く加工するのなんか俺の弟子か…まあ嬢ちゃんも弟子だが普通に出来るのは俺か嬢ちゃんくらいだ」


 父上が毒を吐く。アリスに近づく男は誰でも気に入らないらしい。私も良いとは思わないが、流石にグランツ卿は大丈夫だろう。酒と物作りにしか興味を持ってない。確か奥方が亡くなってからは異性にすら興味を無くしたそうだ。

 その後も色々散策しながら帰り道を歩いたが、出るわ出るわ異世界の技術の産物らしき物が大量に置いてある。宝物庫と言うより武器庫だな。最もグランツ卿の話では動かせないそうだ。動力の問題や、他の細かい問題を解決出来て無いと指摘してた。


「数百年先の技術ってとこだ。普通なら生み出すのも出来ねえし、運用何て夢のまた夢だな。第一どれも唯の魔玉じゃ動かせねえ。魔玉と魔晶石をセットにしても本来の性能が出せねえだろう。俺のスパイダーもあれが限界じゃねえ。元々魔導炉を積む予定なんだろ」


「あれはグランツ卿の物では無いのだが」


 勝手に私物化しないで欲しい。グランツ卿が気に入ってるのもそうだが、グランツ卿に差し出すとアリス同様何をするか分かった物じゃない。アリスが元に戻り次第直ぐに封印だな。

 こうして宝物庫の探索は終えた。入口の近くに武器を置いた棚があったがグラディウスの高笑いとアリスの竜杖の咆哮が余りに五月蠅かったので、誰も見に行かなかった。と言うか戦闘中に眠って仕舞う暇など無かったのに、何故宝物庫にあれらが入ってるのだろう。仲良さげに笑いあい叫びあってる。アリスがうっとおしいと思うのはしょうがないと思う。

 結局よく分からないが危険極まりないと言う結論しか出なかった。


「まあ、あれが全部動けばアーランドでも亡ぼせるわな。アーランド兵が大陸一屈強でもあれの相手は無理だ。嬢ちゃんが反乱を起こしたら速攻で降伏するか」


「テメエの場合は一緒に作業してぇだけだろ‼うちの娘はそんな物騒な思考なんて持ってねぇ」


「流石にアリスは反乱なんて起こさないでしょう…出奔は分からないが」


 それが絶対に無いと私は断言できる。アリスは身内には劇甘だ。アリシアの自由すぎる発言も叱らなし、友達の為に父上にまで逆らう程だ。

 多分アーランドの全てが保護対象ではないだろう。五月蠅い貴族は本気で嫌ってるから、自分独自の判定があると思う。


 結果はアリスの説教が確定した。場合によっては反逆と取られる物まで隠してたのだ。うちだから疑われないが、普通の国で勝手にあんな物ばかりを作ってたら逮捕だろう。幸いアーランドは外敵が恐ろしい程しつこいのでオーバーテクノロジー大歓迎である。寧ろ低コストで国を護れるのなら、それを使って国内開発を行いたい。なのでお説教程度で許そうと言う結論が出た。

 当然今回の件もお説教だが、公的な罰は無い。次代を担う王族は私とアリスだけだし、ここで貴重な才能を潰すのも惜しいから、アリスには国の法を曲げてでも国に縛り付ける必要があるそうだ。流石に放置出来るレベルじゃない。役職を与えて自分自身の立場をしっかり教育すると言う事になった。

 そしてアリスが眠ってから1か月後、アリスは予告通り目覚めた。

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― 新着の感想 ―
[一言] うわ…こいつら最悪やな 絶対にダメだっつってんのに相手がまともな判断をできないことを良いことに勝手に侵入した挙句に説教とか 自分の場合だと絶対許にせないやつだ
[一言] 覚悟も持てない糞雑魚だから仕方ない。
2021/03/28 20:11 退会済み
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