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60 オストランドの混乱⑦

 城壁を開けた瞬間魔物が王都に侵入しようとしてきた。しかしその魔物が中の人間に危害を加える事は出来ない。

10門のミニガンによって侵入してきた魔物は肉片に変わり、自らの死体が防壁のように積みあがる。

 城壁に邪魔され、城門からしか入れない飛べない魔物は待ち構えるミニガンに近づくことすら許されずに死んでいった。


「行くぞ」


 私達は魔物が余りの被害に王都侵入を躊躇った僅かな瞬間に城門から出る。でなければ物量で王都内に押し込まれるからだ。

 私は城壁から空に。50m程の高さだ。魔物は魔法や飛び道具や体の一部を飛ばして私を落とそうとするが、私は自分の下に【イージスシールド】を展開てる為に全て弾かれる。


「笑えグラディウス」


 私はグラディウスの剣先を地面に向けると手から放す。グラディウスはそのまま落下し、地面に根本まで突き刺さる。


「GYAAAAAHAHAHAHAHAHAHAHA」


 すると地面が黒く染まり、その地面に立つ魔物の動きが止まる。よく見ると目が黒く染まり互いを攻撃しだした。自分がどれだけ傷ついても殴り合い牙を向け合う。私のここでの役目が終わり、城壁に向かう。常に城壁に背を向ける事で戦闘領域を制限するのだ。


「ついでに一発【アイスジャベリン】多重起動」


 私は竜杖から普段使ってる杖に持ち替えて投影で空を覆い尽くす程の無数の魔法陣を出す。そこから氷の槍が魔物めがけて殺到する。

 魔物はそれすら無視して互いに殺し合っているが、数が大分減った気がする。


「こっちはOK」


「最後のが酷いが、まあ魔物相手だし良いだろう。後はこっちだな」


 お兄様がオーガを棍棒毎真っ二つにしながらこっちを見る。余裕そうだ。アリシアさんは姿が見えないが、周りの魔物が首を行き成り切られたりしてるので【隠形】を駆使して戦ってるのだろう。一部それを察知して追い掛け回してるが、周りには意味不明に走ってる魔物にしか見えない。

 多分泣きながら逃げてるのでリボルバーで追ってる魔物の頭を撃ちぬく。


「助かりました~姫様~」


 姿を出したアリシアさんはやはり泣き顔だった。アリシアさんは結構強いけど本来の戦い方は敵の背後から討つなので、発見されるとそこまで強く無い(アーランド基準で)、だけど気が付かれなければほぼ無敵でもある。


「手当たり次第に行くぞ。アリシア、アリスを護る事に専念しろ。私はデカいのを引き受ける。アリスは後方から好きに魔法を撃ちこめ」


「分かりました」


「分かった。降り注ぐ氷の剣よ全てを貫き凍結せよ【氷流剣】」


 周りに氷の剣が出現し、魔物に向かって飛んでいく。反応出来ずに剣が刺さる魔物はまだ死んでないが、刺さった所からどんどん氷漬けになる。それでも物量に任せて魔物はどんどんこっちに来る。ちらっとグランツさんの方を見ると…うんアカン状態だ。

 足を広げ、杭を打ち込むと低姿勢…地面ギリギリまで本体を下げ、関節を固定する。そして低位置からレールガンを撃つスパイダー。近づく魔物は前後2門のミニガンで殲滅され、放つレールガンで射線上の魔物は見る影もない程グチャグチャになってる。打ち終わると直ぐに姿勢を戻し、前足で魔物を踏みつぶしたり鉤爪で切り裂いてる。そこに城壁から弓やバリスタ、魔法等で援護が入る。稀に弓矢が当たると砲門を城壁に向けて城壁の上の方に低威力でレールガンを撃ち込んでる。城壁にも人にも当たって無いけど城壁の人達泣いてるんじゃ…。


「横を向いてる暇は無いぞ‼」


 お兄様が巨大種を相手に私に怒鳴る。確かにあっちは大丈夫だ。私の役目を果たそう。


「地獄の業火よ現世に現れよ全てを焼き尽くせ【ヘルフレア】」


 隕石のような炎の塊が魔物の集団に落ち、その身を焼き尽くす。すると蟲系の魔物の統制が乱れた。私達だけじゃ無く、他の魔物にも攻撃しだした。さっきので統率者の一匹が死んだのだろう。お兄様は好機とばかりに魔物を切りまくる。

 体が鎧で覆われてる鎧ムカデも、冒険者辺りから奪った防具をつけるゴブリンも関係無しに真っ二つにしてる。時折魔法を撃ちこんでるが、主に【身体強化】を使ってるようだ。

 魔物の攻撃を最低限の動きで躱す。その間に軽く刀を振るうと豆腐を切るように魔物が切られる。どれだけ頑丈でもあの刀の前では意味が無い。


「キリが無い。竜杖、力を貸して【疑似≪オルタナ≫ドラゴンフレア】」


 私が口を開けると口より少し前にビー玉サイズの赤い焔の玉が生まれる。それを見た魔物達はその身の本能に従い逃げ出した。これはドランゴンの一撃だ。全てを焼き尽くす破壊の一撃。竜杖の記憶から再現した魔法。

 限界まで溜めた一撃をお兄様から1キロくらい離れた前方に放つ。物凄いスピードで射線上の魔物を蒸発させながら飛んでいく。そして目標地点で火球は一気に爆散した。大よそ30m大の焔のドームが出来た。そして、それが消えるとそこには何も無かった。地面は焼けてガラス状になり、近くの魔物にも大打撃が与えられた。私はそのまま5回程打ち込む。すると魔物にも動きが出てきた。


「やはりこっちを狙うか。しかも低級の魔物ばかりだ。明らかに私達の体力切れを狙ってるな。今回の統率者は相当頭が良いらしい」


 ゴブリン等のランクの低く、数の多い魔物がこっちに攻め込んで来た。しかしその程度の魔物では私には勝てない。


「お兄様下がって【疑似≪オルタナ≫ドラゴンフレイム】」


 お兄様が下がると火炎を吐き出す。それを横に向けて半円状に吐くと魔物達は碌な抵抗を出来ずに焼かれた。ランクの低い魔物何て何匹居ても私には勝てないのだ。

 そしてお兄様はまだ生きてる魔物を無視して後ろに居る、ジェネナル級の魔物に襲い掛かる。アリシアさんは生き残りを討伐してる。物凄い速さで周りを駆け回って、魔物の生き残りを処理してる。私はポーションを半分程飲んで魔力を回復する。


「眠い…」


 限界が近い。まだ魔物が多いこの状況で寝れない。もう少しでも減らさないと。

 それからかなりのスピードで魔物を殲滅する。私が大半の魔物を倒して、お兄様は私に手強い魔物が来ないように間引く。そしてアリシアさんは露払いをして私の邪魔をさせない。余りの被害に統率者が怒ったのか、今度は中級から上級に分類される魔物を投入するも、お兄様にあしらわれて私まで来れない。

 ポーションを飲みながら、【疑似≪オルタナ≫ドラゴンフレア】で何度も魔物を燃やし尽くしていくと、どんどん魔物の統率が乱れ始め、ついに逃げる魔物すら出てきた。

 そして私達の遥か前方に新しい魔物が出てきた。


「敵の追加か?流石にこれ以上は厳しいぞ」


「あれは敵じゃない。私のペット」


「ああ駄犬ですか。そう言えば置いてきましたね」


 魔物の群れを突破してクート君が遂に合流した。


「主よ待たせてすまない。少々邪魔が入った。まあそのお蔭で我は新たな眷属を手に入れたぞ」


 クート君の後ろには歴戦の魔獣とも言える魔狼型の魔獣が居た。どれを見ても一角の魔獣で、彼等が群れのトップでもおかしくは無い。

 恐らく邪魔をする魔獣を倒して見どころのある魔獣を引き抜いてきたのだろう。


「それ群れのトップばっかり。他は?」


「…旨かった」


 哀れにも弱い魔獣は摘み食いされたらしい。数は100匹程ですが、どれも最低Bランクの魔獣です。使い方次第ではオストランドの王都程度なら落とせる戦力だ。これで勝ちへの道筋が出来た。


「命令、魔物を駆逐して。手当たり次第全部」


「了解した」


 クート君が吠えると新しいクート君の部下が周りの魔物を襲いだす。元々群れを率いてた強力な魔獣達は、その牙で、その爪で、特殊な能力で魔物を圧倒する。

 クート君の目には勝ちしか見えていないのだろう。クート君自身は戦わない。恐らく自分の群れに入る資格があるのか最終確認をしてる。なので私の傍で護衛に徹してる。でもアリシアさんとお兄様のお蔭で私に魔物が近づく事は無いので基本的に私の傍でお座りをしている。恐らく魔物が来たら動くのだろう。心強い護衛だ。


「くそ、キリが無い。アリス。あの精霊魔装は攻撃に使えないのか?」


「使えるけど次に使ったら確実に私が寝落ちする。精々10秒が限界」


「……それでどれだけの魔物を駆逐出来る?」


「数千は確実に燃やす。攻撃は火の精霊の得意分野」


 燃やしたり燃やされたりが大好きな火の精霊。火属性の精霊魔装なら一気に燃やし尽くせる。

 だけど既に私も限界を超えてるし、お兄様たちには内緒だが、私の魂を傷つける可能性がある。

 元々無茶な魔装なのだ。無理やり自分を精霊に近づけてるので反動も大きい。現状で使えば次の手が無い。


「なら使ってくれ。一度撤退する。これ以上は私達の体力が保たない。ここらでもう数匹の統率者を倒しておこう」


「分かった。精霊魔装展開」


 自身の魂だけなら何とか変質させる事は出来る。当然精霊の力を借りないと出来ないけど、2度目でも変質時の苦痛には慣れない。

 これは自分自身を一度壊す事だ。失敗のリスクはあれど、1段階上の強さを手に入れられる。私は溢れる炎に囲まれ一瞬で精霊魔装を展開した。

 見た目は赤目赤髪の巫女…何故巫女‼この世界にそんな物は無い……倭の国はあるかもしれないけど…いや、何でこうなった‼


――見タ目ハ、アリスノ知識カラ取ッテルヨ~


 寧ろ火の精霊魔装で何故に巫女になるのかが理解出来ない。私の前世はどんな人間だったんだ?色々と間違ってる気がするけど、まあ良い残り9秒。

 私は舞う。魔物の溢れた大地に火柱が一つ立つ。

 私はさらに舞う。火柱が増えていく。魔物は悲鳴をあげる事も無く消えていく。その身を余すことなく焼き尽くされて。


「【焔の理】」


 そして魔物の集団に焔の津波が襲う。魔物は逃げる暇も無く、焔の津波に飲まれ、それが過ぎた時にはガラス化した大地と多くの灰しか残って居ない。火柱はまるで意志を持つように動いて魔物を駆逐する。世界を火で満たしたような光景だ。

 そして10秒。火の精霊が私から飛び出す。


――コレ以上ハ駄目ダヨ~アリスガ壊レチャウ


 どうやら精霊が私の異変を察知し、飛び出したのだろう。


「姫様?」


「暫く寝る。多分1ヶ月以上様子がおかしいだろうけど気にしないで。1ヵ月もすれば元に戻るから。お休み……」


 魂に5%の損傷。魂も傷を治す自己治癒能力があるので1ヵ月程で治るだろう。精霊の性質に引き寄せられた結果だ。

 火の精霊は怒りに反応し易い。私の怒りで必要以上に力を使った。この精霊魔装を考案した時に闇の精霊が私とは絶対に精霊魔装を行わないと言った理由が何となく理解出来る。

 私の持つ怒りや悲しみも増幅してしまうのだ。勿論楽しさとかも増幅するけど負の感情は他よりも強いからね。

 多分闇の精霊魔装を私は制御出来ないだろう。闇は破壊も司ってる。危険過ぎたと若干後悔。

 それでも役目は果たせたし、別に死にはしない。少し休むだけだ。ちょっと休めば元通りのせいか…つ……が…。

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