05 杖
杖は魔法の発動を補助する物。杖があれば魔法を繊細に操れるし封入は呪文を省略出来る。つまり杖とは魔法使いとして生きていくなら必須のアイテムなのだ。
だが杖は自作しなければならず量産品では性能が低いし私みたいに魔力量が多いと暴走して爆発してしまう。そして杖を作るのは魔法使いとして一人前の証でもあり、自分で自分の魔力にあった素材を探し魔術を封入して自分だけの杖を作り上げる。そして魔法使いの作る一品物の杖は作った人しか使えない、どうやら魔力とはDNAみたいに個人で少し違うようで無理に他人の杖を使うと魔力が乱れ気絶、最悪魔法を使えなくなる事もあるらしい。
杖は魔玉と呼ばれる宝石と貴金属や魔物の素材を合わせる事で作れるが所謂【杖】と言う形状でなくても良いみたいだ。一般的なのは自分の背丈ぐらいの大きさの杖か小さい棒状の杖が使われるらしいが偶にアクセサリーが杖だったりと個人の特色が出る物らしい。ついでにお母様は小さい杖だ…ちょっとゴツイけど。
「素材は無属性の魔玉に火竜の牙と地竜の骨と水竜と風竜の皮」
「‼どんな杖を作る気だ!」
あれから3日、ついに杖制作の許可を貰ったので材料を提示したら怒られました。
「封入は魔法じゃなくて呪文、汎用性のある呪文を入れて詠唱時間の短縮をするから全属性の素材が必要」
「それを集めるのにどれだけの苦労が必要か分かってるのか?竜なんてそうそう狩れるものじゃないぞ!…待て?魔法を封入しないのか?と言うか呪文なんて杖に封入出来る物なのか?」
「理論上可能。それに成功すれば初級魔法なら魔法名だけで発動できる」
「そうか…だがそんな素材早々手に入らないぞ。どうやって集めるんだ?」
「お父様は竜程度に負けないって前に言ってた」
そうお父様に取って来て貰えばいいまたはコネで。
「俺かよ!確かに負けんが仕事があるし国王が竜狩りに行くっておかしくないか?」
確かにおかしいだろう。でもお父様は似たような事を何度もしては宰相さんに怒られてるとお母様は言っていた。つまり一回も二回も同じだね‼
「言い訳…やはり個人で竜を倒せる人なんて居ないんだ……お父様には幻滅した」
そう言って私は部屋を出ていこうとするとお父様に肩を掴まれ止められた。
「負けんよ?100匹くらい狩ってくるわ‼父の凄さを見せてくれるわ‼」
そう言ってお父様は高速で走って行った。ドアを粉砕して。
3日後
「ふははは‼見よアリスティア、竜を狩ってきたぞ大猟だった」
高笑いするお父様とは対照的に付いて行かされた人達は疲れ切っていた。
私の目の前には竜の素材が山のように置かれている。数は数えきれないくらいあって魔玉もかなりある。確かに凄いでも多すぎる気もするね、ゴメンね竜達、私は解き放ってはいけない人を向かわせてしまったらしい。
「丁度名前持ちの竜が何匹か居てなそいつらが眷属率いて争ってたから全滅させてきた。いや~面白かった何処見てもブレスが飛んでるわ一番デカいの倒したら一致団結してこっちにくるわでお前等喧嘩中だろって思いながら倒してきたぞ」
竜の抗争ですか。あれは国が亡ぶ原因ランキングでも上位に君臨していた筈ですが真っ向から参戦して全滅させるとはお父様は人間の枠組みから外れてるのだろうか?しかもこれだけの数を倒したのに鎧に傷一つ無いとか周りの人達は怪我してるし武器や防具なんてボロボロでまるで敗残兵ですよ。
「お父様凄すぎです尊敬します」
本心からの言葉だった。私はお父様を甘く見ていたのだろう優しいし私の前では滅多に怒らないから強くてもここまで規格外だと思えなかった。しかもよくお母様にボコられてるし。
「ふははは、そうだろうそうだろう父は凄いんだぞこれだけの竜を相手取れるなんて俺くらいだそらそら」
私は上機嫌のお父様に持ち上げられクルクル回されている。確かにこれも凄いけど目がまわりますから下ろして欲しいです。だけど今はお父様の好きにさせましょう。ここまでのおねだりをして不愛想とか酷過ぎですしお父様は私の為にこれを集めてきてくれたんですから。
「でもこれだけあると使いきれない」
「余ったら他所に売り払うから欲しいだけ持っていくがいい」
ほほう、なら私は遠慮しない。魔玉は魔道具に使えるから全部貰うとして素材も良さそうなのを片っ端から集める…おや竜の涙がありますねこれは滅多に出ないレアドロップ的な物で使い道がありそうだ。決してお父様の暴虐に竜が泣いたとかではないだろう。綺麗な宝石みたいな結晶になってる。
「どれだけ使うんだよ。まあ俺には必要ないからいいけど」
ならばこそあるだけ貰うのです。これだけあれば用途別に杖を作れますし、そもそも竜の素材なんて年に一度市場に出れば良い方だ。これだけの品を見せられれば私は我慢しない。この素材は杖以外にも魔法の実験の為にストックしておかねば。
「これだけ貰います他は付いて行った人にあげてもいい?」
良い物は殆ど私が貰いましたがまだ山のように残ってる素材。なら皆に褒美としてあげるべきだろう。だって皆武器とか壊れてるし疲れてるし、残りを分け合ってもかなりの値がするだろうから丁度いい。
「別に構わんがならお前らにくれてやる。壊れた武器や防具の代わりを作るもよし売るもよし好きにしろ」
「「「ありがとうございます」」」
敗残兵のようだった部下の人達が速攻で復活し残ってた素材に群がりました。
「竜の翼膜あるじゃん!俺これで新しい皮鎧作ろっと」
「ずるいぞ!なら俺はこの竜骨で槍でも作るか」
皆さんとても楽しそうです。武器や防具の残骸を見る限り竜素材を使えば前より良い装備になるでしょうね。今後もお父様をお願いしたいものですが今言葉にすると折角盛り上がってるのに水を差す事になりかねないので大人しくしてましょう。
「それじゃ私は工房に籠りますから用があったら工房に来て」
私は素材を工房に運ぶよう頼むと工房に向かいます。私は好奇心の赴くままに実験などを繰り返していたらお父様が建ててくれました。ようは隔離ですね偶に私でも首をひねる物とかありますし。
さて現在工房で杖の製造を行います。普通は杖自体を工房に頼んで出来た杖に魔法等を込めるのですが地の精霊が居る私はその工程を必要としません。最近気が付いた事ですが地の精霊は物の加工や造形が好きでよく土や木を加工して私にプレゼントしてくれます。なので最近は一緒に何かを作る事が多いのです。まあそのせいか他の精霊と追いかけっこしてるのをよく見かけますね、他の精霊は地の精霊ほど何かを頼むことが少ないので嫉妬してるのかな?
さて杖の造形ですがよく物語に出てくる魔法使いのおじいさんが持ってるような身長ほどある杖にしようかと思います。素材は杖に合成されるので皮などを使っても木製みたいな出来になると精霊に聞いてるので竜革などもどんどん使いましょう。素材の質はそのまま杖の質に繋がるのでケチらず行きましょう。
私は魔法陣を描きます。地の精霊が行う造形は精霊魔法に分類され魔法と同じように詠唱や魔法陣を使う事で繊細な作業を行えます。今回は私主導ではなく地の精霊主導の魔法ですから私は補助に徹します。
魔法陣が完成し私は詠唱を開始する。この場には私しか居ない。普通の魔法と違ってこれから行う精霊魔法は繊細だ、素材を変質させ目的の物を作るこの精霊魔法は補助と言っても精神統一が必要で私は他に意識をさけない。
どれくらい経ったのだろう、永い詠唱が終わり私は膝をついて息を荒げていた。
「疲…れた…でも」
出来た。私の私だけの杖が、将来を考え長さは150cmくらい、きっと私の身長も伸びるだろう!って思いで作った。形状は杖の先端に大人の拳大の魔玉が付いて全体的に竜の装飾が浮き出ている。まるで勇者の剣が杖に成ったみたい。
「出来たのか、中々の出来じゃないか」
いつの間にお父様が後ろに居ました。どうやら周りが見えないくらい疲れたようです。私の魔力はかなりありますが今回は全部使う勢いで使ったのでしばらく魔法も使えないでしょう。
「疲れました。甘い物を要求します」
私はぐだーっとソファーの上で伸びています。
「行儀が悪いぞ…ほらアリシアから差し入れだ」
アリシアさん…私専属のメイドさんだ。性格に難があるがアリシアさんが作るお菓子はお店の物より凄く美味しく私の好物ランキングでもぶっちぎりのトップだ。
「ありがと…癒される」
アリシアさんの作ったクッキーを食べながらくつろぎます…癒される。
「それで…これを作ったのか…こんなの見たことも無いぞ全部アリスティアが考えたのか?…これだけの杖を作れるなんて帝国の筆頭魔術師でも不可能だな」
魔法使いにはいくつかのランクがある。普通に魔法を使える人は魔法使い、魔法使いより優れた魔法使いは魔術師と呼ばれ全体の8割以上が魔法使いか魔術師だ。学園の魔法科を主席か次席で卒業すると最初から魔術師を名乗れるらしい。
そして私のお母様は魔導士で魔術師より上だ、魔導士は基本的に国に仕え戦術レベルの魔法を行使出来る人で大陸でも100人ほどしか居ない。それとその上には大魔導士が居るけど数百年間空席だ。
「基本的な事だけこの造形は精霊がやった」
「ほほう中々のセンスだな。アリスティアに任せるとシンプルに作るからな、だがまだ魔法は込めて無いんだろそれなのに中々の性能だぞ」
確かに魔法を込めて無いこの状態でかなりの力を秘めている。きっと最高の杖に仕上げられるだろうが私の魔力が全然残って無いので少しの間作業ストップですね。
「残りは2.3日経ってからやる、魔力が切れた」
「どれだけ魔力込めたんだよ…」
確かに杖なしで初級の火球を数百発撃てる私が魔力切れを起こすって前の花火以来ですね。空に近いだけでマイナス域にはなっていない。ただ魔力切れで怠いけど。
数日待ったら魔法を込めて私の杖は完成だ。