57 オストランドの混乱④
ドラコニア視点
娘が一人で戦場に出てしまった。俺達は抑えきれなかった。このまま放置すればいくら膨大な魔力を持つアリスティアでも死ぬだろう。俺だって一人で20万の魔物は倒せない。俺の場合は体力でアリスティアの場合は魔力が持たない。
「どどどどどどどどどうすれば‼アリスティアが死んでしまう‼」
俺は頭を抱えた。国王としては放置するしかない。国境に援軍に向かわないといけないのだ。オストランドでのスタンビードはアーランドにとっては対岸の火事で帝国軍は放置できない案件なのだ。優先度が違い過ぎる。娘一人の為に国を亡ぼす事は出来ない。
「落ち着きなさい‼」
バシ‼っと頬を叩かれた。
「まずは帝国軍を壊滅させてそのまま急いで向かうしか方法は無いでしょう。兵士達には負担が掛かるけど全飛空船を動員して速やかに兵力を移動させるわよ。あの子が耐えてれば間に合うかもしれないのだから。全てはあの子の頑張りと貴方の采配しだいよ、助けたかったら直ぐに帝国軍を壊滅させなさい」
それしか無いだろう。もしかしたら籠城してるかもしれないし、アリスティアの魔道具で防衛に徹してる可能性も無くは無い。もっともかなり可能性は低いだろう。
それに兵士の運送に最適な大型の飛空船は5隻しかこの国は持ってない。間が悪い事に先日1隻壊れて使えなくなった。アリスティアなら直せるのでは?と考えていた矢先の事だ。
もっともそのせいで残りの4隻は現在王都で点検を受けている。最悪乗り潰す可能性もあるが、娘よりは安い。
3日後、帝国軍は鬼神を見たと言う。いや、鬼神の群れが帝国軍に襲いがかり僅か1時間で2万の帝国軍は壊滅した。いつも以上に…いやあり得ない程鬼気迫る勢いでアーランド軍は帝国軍の前衛を突破し、本営に群がり、指揮官達を皆殺しにして何処かに去ったと言う。この戦場に出た帝国兵は退役者が続出し、国境沿いの砦の人員がかなり入れ替わった。その後、帝国ではアーランドには稀に鬼神が群れを成して出現するとさらにアーランドを警戒したと言う。
アリスティア視点
「何これ?」
私は自分の状態を確認して驚愕した。白い羽根と光輪が出現していた。魔紋は既に解除してる。結界の維持だけなので逆に使ってるコストの方が高い為です。流石にまだ動けません。なのでアリシアさんの膝枕を堪能しつつ、腰から生えてる羽根をモミモミしてる。普通背中から生えませんかね?しかも凄い恥ずかしいのですよこれ。
「ぷぷ‼天使になってやんの」
アノンちゃんは調子を取り戻すとここぞとばかりに私を弄って来る。と言うか抵抗出来ないのを良い事に私の頬をひっぱたり羽根をひっぱたりしてる。身分を明かしたのに無礼過ぎませんかね?
「メイドさんの耳はふわふわなのね、これってどっちで音聞いてるのかな?」
ケーナちゃんはアリシアさんの狐耳の方をモフってる。尻尾は何故か強硬に嫌がったので耳で我慢してほしいとアリシアさんが言っていました。どうやら尻尾を触って良いのは私だけのようです。
「あ…あの2人とも…凄い無礼なんじゃ…その私も触りたいけど…」
唯一ケーナちゃんだけがちょっと距離が出来てしまった。恐れ多いと行き成り跪かれました。
「いいじゃんアリスも気にしないって言ってるし。それに私もこのメイドさんには興味があったんだ。今はアリスの羽根をモフるけど後で耳を触らせて貰おう。それに動けないんだから刺激して寝ないようにしないといけないだろ?ほら、あれだ仕方ない?」
「やり過ぎないようにね。しかし戻り方を考えて無いとかアリスらしいね」
そう。私の最大の誤算はこの精霊魔装の解き方を考案していなかった事です。精霊は現在休眠に入ってるので何も聞けないし、魔装状態では光の精霊との会話も出来ない。恐らく私の意識が途絶えれば勝手に解けると思うけど、この状況で寝れば私は永遠に起きる事がありません。なので周りの市民に何故か傅かれながらこうして大人しくしてるしかない。本気で辞めて‼って言っても誰も聞いてくれませんでした。泣いて良いかな?
しかしまだやる事はあります。まずは結界の拡大。まだ結界の外に生きてる人は大勢居ます。それらの人を助けるにはこの結界に入れるしかない。勿論あっちから逃げてくる人は受け入れてるので人数は増え続けてる。聞いた話によると城壁の破損個所はそこまで多く無いらしい。王都内の魔物も偶々私が集団に遭遇しただけで、多くは無いそうです。ですが多く無くてもかなり強い魔物が入ってたので被害が甚大だとか。それともう一つ。王様は結界内にログインしました。どうやら城は完全に落ちた模様。
「まさか其方が居るとは思わなんだ。助かった。感謝する…しかし禁術は…そのだな…流石に不味いと思うのだが…」
「何かするんだったら結界から弾き出します。私の邪魔はさせませんよ?それに王都中に結界を拡大して欲しかったら黙認してください」
「……儂に其方を追求する資格はないの。今は其方無くして王都は守れん。今後もこの件は追求しないと約束しよう」
割とあっさり交渉成立しました。と言うかここまで状況が悪化してる時点で交渉も何も無い。結界の拡大は一応出来るし、強度は空間から違うので早々壊されないので問題は無い。但し、私は結界の維持で、仮に3日を乗り切っても暫くは動けない…最悪全く役にたたない。
それとどうやら私の魔力回復は周囲の魔力を簒奪する事で異常なスピードを誇ってるみたいですが、この空間内では既に魔力が無いので一般人並の回復力に落ち込んでいる。仮に王都中に結界を展開して維持できるのは宝物庫内にあるポーションを使っても1週間で限界が来ます。後1週間の徹夜は無理。
「ジリ貧ですけどね」
「アリス何か出して」
アノンちゃんが私に要求してくる。魔力の尽きた私は魔道具の多くを使えない。何故なら高性能の魔道具は魔導炉か、私を動力源にする事を考慮して作ったのでこの世界の魔道具みたいに誰でも使えるとかでは無いのだ。勿論そう言うのもあるにはあるけど、この状況を打開できる程の物は無い。竜の魔玉は全て使ったか、アーランドの研究所予定地に置いてきてしまった。最近はあそこで魔導炉のコアを作って隠れ家気分を味わってたツケがここに来て最悪の結果を出しました。
「アノンちゃんもお兄様と同じ事を言うんだ…私にも出来ない事は出来ない。今は精々ここの維持で手一杯…まあちょっと考えてみる」
何か無いのか…魔導炉はアーランドに設置しましたし…作りますか?しかしあれを作ると結界維持出来る期間が半減します。結構魔力を使うんですよね。まあ結界は破壊されなければそれほど魔力を使わない。もっとも壊されれば死ぬし、死ななくても残存魔力から再展開は不可能です。
「出来るのは3つ
1つ救援を待つ。
2つ無謀に突撃して散る。
3つ揺り返し後にアリシアさんが私を抱えて外を走り回って魔力を回復する…10時間程移動してれば勝手に回復する。」
「それって、私死にますよね?魔物に隠蔽系の魔法って効かない事があるんですよ。種類によっては使った瞬間察知されます。万能じゃないんです」
3つ目はアリシアさんが泣き出したので無理っぽいです。確かにアリシアさんって暗殺者っぽい感じで直接的な戦闘力はそこまで高く無い。もっともそこら辺を混ぜるとかなりの実力者っぽいけど私的には唯のしょんぼりメイドさんだ。
となると…素材を調達して現地で作る…駄目ですね【ファクトリー】なんて使ったらマッハで魔力が尽きます。かと言ってこの世界の技術で作れる代物で20万の魔物は対処出来ない…まずは結界を拡大して城壁等の修理をして最悪の場合に備えるとかしか出来ないでしょう。王都内の建物とかを壊して建材にすればそこそこの城壁に修理出来る筈です。
「まあ、それしか無いの。幸い王都内なら城壁の修理道具も資材もある筈じゃ。じゃが、王都内の魔物は結界を拡大したら入って来るのではないか?」
「結界を拡大した時に範囲内に居た魔物は弾かれます。最悪城壁にめり込んでるたりするかもしれないけど、基本的に結界内では存在できません。無理に入れば居ないものとして消えます」
許可なき者はこの結界内には存在できないのです。ここでは私は神のような物で、ある意味結界内の全ての生殺与奪権を持ってます。まあ今回は魔物の存在を認めないしか設定してない。ルールを作るのも魔力を使うのです。精々入って来た魔物を弾くしか出来ない。
「便利じゃの~」
「まあ、制限も大きいですけど、余り言えないですね。正直聞くとドン引きしますよ?」
何でも出来るのは危険過ぎる。もっともこの結界内から外に何かを持ち出す事は出来ない。近くで合戦してるクマの人形を結界外に持ち出しても消えます。元々私の精神世界を具現化してるのです。持ち出されると私にどう影響が出るのか分からないのですが、持ち出せないなら大丈夫でしょう。生き残った子供とかがクマの人形を追い回すのも何も問題ない…反撃されなければ。
「…………何も浮かばない…もう駄目だ…せめてアリシアさんと友達だけでも逃がそう…自爆して逃げ道を…」
「ちょ‼行き成りネガティブにならないでくださいよ。それに姫様を残して私が逃げる訳ないじゃないですか。死ぬなら一緒に死にます」
「アリスでも無理か…にゃはは、こりゃ最悪の状況だ」
「困ったね。私は魔物と戦うなんて出来ないし」
「えっと…私はもう一度死ぬのかな…何か死んでた事もまだ理解出来てないんだけど…」
友達達と途方にくれました。ここに居る限りは安全です。しかしここを維持するのもそう長くは保たない。いくら考えても打開策が思い浮かばない。全てにおいて私の魔力が足りないのです…せめて魔力があれば……クート君を忘れて来なければヒット&ウェイで多少は戦えるのに…怒ってるでしょうね…と言うかクート君の気配が凄いスピードで接近してるんですけど。後数日したらこっちに来そうです。契約してるので大まかな場所は分かります。
「仕方ない。名状しがたいスライムのような者達に出来るだけ魔物を駆逐して貰おう」
「何それ?」
アノンちゃんが顔を近づける。私がやらかすのは日常的で驚く事では無いを明言してる彼女は私は何でも持ってると思ってる節があります。好奇心旺盛なのです。
「私のグリーブとかになってるけどスライムっぽい魔法生命体。正直見れた戦い方をしないから視線を逸らす事をお勧めする」
そう言って【クイック・ドロー】で、あるだけ全部のスライムのような者達を出して結界の外に放つ。まずは王都内の魔物を駆逐させ、安定してから一気に結界を広げましょう。もし強いのが居て結界の拡大を妨害しないとも限らない。キングクラスでもスライムのような者達なら勝てるでしょう。あれの戦い方は凶悪なのです。
そうしてオストランドの王都に500キロのスライムが放たれた。結界から出た瞬間に分裂して手のひらサイズになると何処かに移動していったのだった。あれは個にして全の魔法生命体なので消滅以外に倒す術はない。そして私の作った特殊合金なので、数十分はドラゴンブレスを当て続けないと消えて無くならないでしょうね。打撃は効かない。斬撃は増える。魔法は効くけど消し飛ばさないと倒せない最悪のスライムっぽい者達です。頑張って魔物を間引いてきてください。
「おお?」
不意に体がブルりと震え、ポンっと私から精霊が切り離された。その結果、精霊魔装も解けた。何もしてませんけど…
――中々ノオ持テ成シデシタ‼――
「何もしてないけど私の中で何してたの?」
何故かハイテンションの光の精霊。
――マタオ茶シマショ~~オヤスミナサイ――
そう言って一方的に光の精霊は休眠に入った。本当に私の中で何をしてたのだろう。物凄い機嫌が良い感じです。私の中にお茶が入ってるのですかな?ん~~分からない。どっちかと言うとクッキーは詰まってるかもしれないが何故に精霊魔装中にお茶してるのでしょうか?これは後々聞き出さないといけませんね。




