54 オストランドの混乱①
その日は何かおかしかった。夏休みも終わったばかりなのに多くの竜籠が空を飛んでるし馬車も多い。兵士達も慌ただしく走りまわてます。それに王都中が何やらピリピリしてます。
今日から週末なので学園も休みでさあ大冒険だ‼と意気込んでた私をアリシアさんがストップを掛けた。別に珍しくない。だって普段から私が冒険者活動を出来ないようにスケジュール管理してるのだ。今日も危ないから駄目だと典型的な否定を受けるのか?と考えてたら今日は違うようです。
アーランドから帰国の指示が来たそうです。少し前に戻ったのにもうお父様が発狂したのか?それともこの休みに政務の勉強でも入れられたのか、それかマダムが再教育をしようとしてるとか再び何かが発覚してお母様のお説教なのか心当たりが多すぎて何故戻るの分かりません。
「姫様、準備は出来ましたか?申し訳ありませんが私と殿下も一緒にお願いします」
まあ今日戻るのは別に良い。どうせ大冒険以外に予定は無かったのです。どうしても今すぐ冒険したい訳でも無いのでアーランドに戻るのに否はありません。だけど明日はシャロンちゃんがこっちに戻るので皆で買い物に行こうと約束してるので、日帰りになります。それか明日の朝に戻る。転移って便利です。私の魔力なら別に苦になるほどじゃないので(アリシアさんが使うと魔力切れで失神する)今日くらいは大人しくしてやりましょう。ここで無理に断ってお母様の怒りゲージを溜めたくはないのです。
「準備は…出来たけど」
準備は出来た。と言うか直ぐに戻るので持っていくほどの物が無い。精々筆記用具程度ですね。私は使い慣れた物以外は使わない派なのです。
そして戻って来る王城の自室。
しかし誰も居なかった、否、外には誰か居ますね。しかしこういう場合ってお父様が今か今かと待ってると身構えてたのですが、出落ちですかね?お兄様は急ぎ足で部屋から出て行った。特に何かを言うと言うより焦って何処かに向かったようです。因みに気が付きませんでしたが爺やさんも一緒に転移したみたい。本当に影が薄い。まあ居ても魔力的には何ら問題は無いのでかまいません。
「何かあったの?」
「私はこれから姫様の警護関係の会合に出るのでここで大人しくしててください」
アリシアさんは私の質問に答えずに部屋から出て行った。何ですかね?何かやらかしましたっけ?心当たりが多すぎて何が何やら分かりません。
ガチャ
「ん?」
アリシアさんが部屋の外に出ると不穏な音が聞こえた。この状況下で聞こえる可能性は皆無の音…外から聞こえる筈の無い音です。つまり鍵を掛ける音です。
よく見ると私の部屋のドアが違う…かなり頑丈にしたのに自動ドアから普通のドアにチェンジされてます。ワイバーンの一撃も余裕で跳ね返す装甲板の筈でしたが無骨な金属扉に変わってます…と言うか私の作ったドアを壊して一部に流用して強度も取ってる。勝手に壊された挙句、代わりのドアの材料にされてました。
これはどう考えても中の人を外に出さないようにする扉ですよね。ここって私の部屋ですよね?何時から私は罪人になったのでしょうか?これでは明らかに軟禁です。それに外に居るのは恐らく魔術師ですね。魔法を妨害する結界が展開されてます。
「この程度で私を拘束できると思うとは…笑止‼」
私は即座に対抗魔法を展開する。結界の術式に干渉して内部でも魔法を…と言うかこの結界は空気中の魔力に干渉出来ないようにする結界なので自分の魔力だけで魔法を使えば何も問題は無い。寧ろ問題はこの結界内で魔法を使うと外の魔術師が感知する探知系の魔法も使われてる事です。
なので私はその探知系の魔法に干渉して術式の一部を改ざんし、内部で魔法を行使しても外からは感知出来ないように細工します。
まあ外の魔術師くらいの腕なら戦っても勝てますが、どうしても相手を負傷させてしまいます。だって向こうの方が遥かに実戦経験が豊富なのです。かと言って怪我をさせないように戦ってら確実に私が無力化されます。それほどの経験をアーランドの魔術師は積んでるのです。なので今回は気が付かれずに転移で移動しましょう。
「世界よ我が望む場所へと我を導け【限定転移】」
限定転移は現在3種類あります。
1.魔法陣間の移動。
2.視界内での移動。
3.私の認識の強い所への移動。
緊急回避1型は3の認識の強い私とクート君との位置情報の入れ替えや視界内の移動の複合ですが、基本的にこの3つです。
今回は3の私の認識の強い所への移動です。これは私の部屋とかは出来ますね。まあ1より負担は大きいのですが出来るには出来ます。今回は対象を人…お父様に指定してます。なのでお父様の近くに転移出来るでしょう。
尚、3で移動指定に出来る人間は現在三人です。それはお父様とお母様とアリシアさんの3人です。
何故行き成り閉じ込めたのかは、命令を出したであろうお父様に直接聞けばいい。だから私はお父様の居る場所に飛ぶ。
「んな‼」
「やっぱりあの程度じゃアリスちゃんを閉じ込めるのは無理よね~」
「流石は私の妹」
跳んだ先は謁見の間です。珍しく正装の両親にお兄様も王太子の椅子に座ってボロボロの貴族風の人の謁見を受けていた。
珍しいですね。国王と言えば謁見の間ですが、実際は余り使いません。会議室もありますし基本的にお父様が居るのは執務室か王都の酒場です。
「お願いします。どうか我が国に援軍を‼」
どうやら謁見に来た人は私に気が付いていない。と言うかかなりボロボロで護衛と思われる人達もかなり傷ついてる。
「我が国としても救援を出す事を断る理由は無いのだが、帝国が国境砦に攻撃を仕掛けてる現状で他国に手を貸せん」
何処かの国の使者が救援の要請に来たのだが、間が悪い事にまた帝国がちょっかいを掛けてるので手を貸せないそうです。本当にあの国内乱で滅びませんかね?
結局援軍は出せないと言う事で使者の人は城で怪我の治療と言う事になった。
何が何やら分かりません。仕方ないので使者と護衛の人を治療魔法で治療しておきましょう。
「貴女様は?…感謝します」
まあ引きこもりで何故か有名になった私の顔等他国の人が知る訳もなかろう。普通に感謝されたが、項垂れながら謁見の間を出て行った。
しかし私は見た。彼等の護衛が付けてるボロボロの鎧に刻まれた紋章を、オストランドの紋章を…。
「どういう事‼」
「……」
お父様は渋い顔をして答えない。周りは国境砦に援軍に向かうために慌ただしく動き回ってる。これからお父様達も国境付近に移動するのだろう。
しかし私も看過できなかった。あれはオストランドからの使者なのだ。しかもここに来るだけであそこまでボロボロになる筈もない。あの国に何かあったのだ。怪しい部分はかなり有ったけど私も少し考えれば分かったはずだろう。街中を兵士達が走り回ってたのだ。どれだけ平和ボケしてたのか…。
「……言えばお前はまた動くだろう」
「…否定しない。でも隠し通す気だったの?友達を見捨てて何も知らずに全てを終わった後に教える気だったの‼」
「……20万だ。史上類の無い規模のスタンビードが発生した。オストランドの兵力は15万だ、しかも練度など無いに等しい兵力だ。勝ち目は無い」
魔物を倒すのは難しい。冒険者なら同ランクの魔物を安全に倒すのなら3人は居ないと逆に倒される可能性がある。しかも基本的に冒険者と違って兵士は対人に特化してる為、5人は居ないと魔物を倒すのが難しい。魔物より少数で魔物を駆逐出来る練度を誇るのはアーランド位なのだ。なのでこの戦力差は絶望的だとお父様は言った。さらに、長年平和だったオストランドは練度も低いし既に逃亡者も出てるらしい。それにオルトアの城壁もそこまで堅牢では無い。寧ろ古くなり現在改修工事をしてるらしい。
アーランドが手を貸してどうにかなるのか?それは結局王族の力次第だろう。強さを求めたアーランドの王族は強者の血を入れ続けてる。なので潜在的に常人より遥かに強いらしい。私の魔力も歴代の王族には魔法が強い者も多い為にそこまであり得ないものではないらしい。
だけど帝国がアーランドを攻撃してる現状で王族を他国に送る余力は無い。
「帝国も今回アーランドが出てくるのは認めれないのだろう。アーランドは現在そこまで外交を結んでる国は無い。交易はあるが他国に対して不干渉を貫いてる。ここでオストランドに手を貸して対帝国・皇国連合を結ばれたくないのだろう」
つまり帝国の事情で私は友達を見捨てなければならないと…………もういいよ。
「何処に‼」
私は踵を返すと謁見の間を出る。私の不穏な気配を察知した家族が慌てて追って来るが決して私に触らない。私の強い拒絶を理解出来てるのだろう。
着いたのは、私の旧自室です。入口の両脇に屈強な兵士が見張りとしてついてる。
――やるのか?――
闇の精霊が私に問う。この子がこの部屋を守護してる。基本的に私と一緒に居るが、ここだけはある意味彼の領土なのだ。
「汝の封印を解く」
扉は私が触れていないのに勝手に開く。この部屋は最初の自動ドアなのだ。ドアノブに触れて開けた時点で正しい入り方じゃない。その時点でトラップが起動する。
中は少し埃っぽい。まあ私が入った時しか掃除出来ないから仕方ない。隅に幾つかの木箱が並んでる。そしてそれを守護する者達も私の前に現れた。
何も知らない者はスライムと呼ぶだろう。だが違う。これは液体金属を素材とした名状しがたいスライムのような物達だ。まあスライムっぽいけど全然違う。
お兄様の剣と同じ合金を加工して液体化させた物だが、普通に硬質化も出来る。モチーフは某未来ロボットです。あれと同じ事は大体出来ます。
これは本来私の防具なのだ。形状変化で私を護る防具にもなるし近づく敵を自動で迎撃出来るように魔法生命体とした物です。前に武器庫で良い防具無いかな?とお父様と散策したのですが、武骨な全身鎧を着せられ動けなくなったので作りましたが、今の所使い道が無かったので私の部屋の番人をしていた。あの時の屈辱は忘れて無い。
「【クイックチェンジ】集え」
【クイックチェンジ】それはアリシアさんの仕事を奪う魔法として長年封印してきた魔法です。まあ一瞬で着替える魔法です。これで宝物庫のバトルドレスを呼び出し着替える。そしてスライムのような者達がガントレットやグリーブ、胸当てとして勝手に設置されてる。かなり軽量化するように薄くなってるが私にはかなり重い。だけどこのくらいは無いと身を護れないだろう。実際に私は【身体強化】などを使うから実戦では特に問題ない。どうせ避けるとか器用な戦い方は出来ないのだ、ならば最低限身を守る防具も必要…普段から自爆特攻を掛けるのに各方面から辞めてくれと懇願されたからでは無い。どうやら治療魔法を全面に出した自爆特攻は周りを憔悴させる程、心臓に良く無いそうです。
「まさかこれを自分で使うとは思わなかった」
【クイック・ドロー】で呼び出したのはポシェット。狐の絵柄が付いた普通の?ポシェットです。そして壁際の小箱の中身は…………コルト・パイソンだった。




