52 友達
遅れてすみません。諸事情により時間が取れません;;
「おはよー」
「休みどうだった」
「俺、海見に行ったんだぜ‼スゲ~デカかった」
新学期が始まると皆休み中の話をしてますね。私ですか?そんなに休んでは居ませんが家族で王都近くの湖には行きましたね。これと言って問題も起きなかったので昼過ぎには退屈で寝てしまったけど。
現在学園の幼等科に居ます。基本的に私はここに居ますね。授業の半分が特進クラスに移動しますが所属はこっちです。
こっちは居ると癒されます。一部不穏な空気を醸し出すオブジェが居ますが所詮子供の集まりです。老獪貴族や性悪な一部生徒に比べればコソコソしてるだけで何も害はありません…今の所。
それにこっちには友達も出来ましたし‼同年代のお友達ですよ‼生まれて初めての経験です。流石に私も友達って言われた時はあたふたしましたし、後ろでアリシアさんが声を出さずに号泣してました。
流石に泣くことは無いだろうと後で言ったら「姫様が友達を作ってくれた‼しかも同年代の‼」と泣くばかりでした。
どうも私の知り合いが年上ばかりなのが凄く心配らしかった。しかしこれは仕方ない。だってアーランド内の貴族に私と同い年が居ないのだ。精霊の祝福だとか色々言われてるが詳細は不明です。偶然…では無いでしょう。そこそこ貴族が居るのに一人も同年代が居ないのは明らかに可笑しいですね。
まあそんな誰も不利益の出ない現象を調べる程暇な人間は…まあ居ますね。私はどうでも良いですけど。どうせ生まれた時から大人に囲まれて生きてきましたし、良い人達に囲まれてきたので寂しさを感じた事もありません。
「ア~リス‼久しぶり‼」
「わきゃ‼」
私に被さってきたのはアノン・シェフィルドちゃんだ。
彼女は栗色の髪を肩まで伸ばしてるがこれは貴族階級の令嬢では基本的にありえない事だ。基本的に貴族階級の女性は髪を伸ばす。これは地位や権力の象徴でもあるのだ。この世界ではお金が無ければ長い髪を維持できない。例え長く伸ばしても日々の生活が厳しい為ボサボサになってみすぼらしくなってしまうからだ。
しかし彼女は長い髪を邪魔だと言いきり、肩までしか伸ばしてない…いや、肩まで伸ばしてるのも親の懇願らしい。とても元気っ子なのだ。私達の中心メンバーである。
シェフィルド騎士爵家の一人娘であり、彼女自身も剣の心得がある。と言うかこの国では天才と呼べる実力者だ。まあお兄様には勝てないとアノンちゃんも言ってたけど私のお兄様と比べるのは可哀想すぎる。でもアーランドの兵士相手でも善戦出来そうな実力だ。
お兄様も名前は知ってるらしい。私と同い年でここまでの剣の腕があるのだから、将来が楽しみな人材だって言ってましたね。
「また悪さして怒られてたんだろ。自由気ままに今度は何を仕出かしたんだ?」
「人聞きの悪い」
反論出来ないのが悲しくなる。だってやらかしたし、だから帰るのを拒否したくらいですから。
「アノンも夏休みに会えなかったから機嫌が悪いのよ。アリスって直ぐに帰っちゃたんだもん」
もがいてると近くから凛とした声が聞こえた。
この声はケーナちゃんですね。リリウム子爵家の次女だと聞いてますが、私はこの国の貴族事情は全く分からないので知らない家です。確か財務系の世襲職についてるとか言ってました。
彼女は委員長的な人です。メガネの似合う可愛い子です。唯一の欠点が悪役と勘違いされる鋭い目ですが、基本的に悪い事が嫌いな真面目な子です。緋色の目と同じく緋色の髪で髪は紐で一纏めにしてます。
「それに関しては後ろのアリシアさんに文句を言って欲しい。私は最後まで抵抗したけど眠り薬まで使われて連行されただけだから」
2人はジト目でアリシアさんを見てる。まあ普通ならやり過ぎです。メイドの範疇を超えた手口ですが、2人も私がアリシアさんを慕ってるのは知ってるので特に文句は言わない。
しかし思う事はあるらしくある程度の距離感が出来てます。もうちょっと仲良くして欲しいのですが本来メイドが行う事の範疇から逸脱してるのはアリシアさん…だが分かって欲しいアリシアさんが悪い訳じゃ無いのだ。メイドの範疇を超えるのはそうしなければならない場合の時です。
「…まあアリスが忙しいのなんて何時もの事だから仕方ないけど、一言言ってから帰ってよ。折角一緒に町に行ったりとか考えてたのに…」
「仕方ない。私が戻らないとお父様が仕事しないから」
あの強硬策の裏にはお父様が強権を発動してたらしい。放置すればお仕置きを恐れて卒業まで戻ってこないのでは?と思われたそうです。実際無理に連れ戻さねば卒業まで帰らなかったかもしれない…3割くらいの確率で。
「アリスのお父さんって絶対に変わってるよね」
「よく言われる」
アノンちゃんとケーナちゃんと今は居ないシャロンちゃん…シャロンちゃんは家の都合で戻るのが遅れるそうですが、この三人が私の友人です。
入学しても一人だった私に声を掛けてくれたのがアノンちゃんで他の2人は幼馴染の関係で自然と仲良くなりました。
私も最初は動揺してアワアワしてましたが、それが3人には意外だったそうで盛大に笑われた…後ろでアリシアさんも笑ってた。酷い人達ですよ。だって私は全く知らない人…しかも同年代の同性に声を掛けられる機会が無かったんですよ?学園では1歳程歳を誤魔化してるので引きこもりと言うか箱入り娘扱いです。
因みに誤魔化してるのは私の生まれた年に生まれた貴族階級の子供が私だけだからです。なのでそこから発覚しないように今は9歳と言う事になってます。
幼等科…と言うかこの世界の学園は何処も年齢毎に分けられてる訳では無いので多少のバラつきが出てます。
「所で…お土産忘れてないよね?私は領地から特産のキーの実を持ってきたよ。今年は甘いのが良く取れたんだ」
「私はシンシア王国から来た珍しい小説を持ってきた。私の家は法衣貴族だから領地なんて持ってないから。それにアリスって読書好きだしね。メイドさんには内緒だよ?ちょっと内容に際どい所もあるから」
アノンちゃんは桃のような甘い木の実を持ってきたらしい。それにケーナちゃんは読書友達なので本を持ってきてくれた。因みに私が普段読める本には検閲済みと言うハンコが押されて一部削除されてます。なのでアリシアさんに取られる前に仕舞う。
「アリスって意外と狡いよな。何時も思うけど何処に仕舞ってるん?」
「内緒。私は私特製の渡り鳥の置物。魔力を流すと毛繕いしたり動くよ。それとお父様が持ってきた結界の魔道具」
私は【クイック・ドロー】で置物と腕輪型の魔道具を取り出し2人に渡す。シャロンちゃんは会った時に渡します。
「…これって青水晶だよね…凄い高いんじゃ…」
「腕輪カッコいい。良い趣味してるなこの製作者」
ケーナちゃんは物の値段に若干引いてる感じがしますがアノンちゃんは普通に腕輪に喜んでる。まあ青水晶って意外と高いらしいのですが、アーランド国内では結構出るのでそこまで高くは無いとアリシアさんも言ってました。高いのは他の国での希少性から凄く関税を取られてるからだそうです。
「アーランド国内でならそこまで高く無い。本当はアノンちゃん用に目覚まし機能を付けたかったけど…つけたらアリシアさんがああなったので毛繕いとかにしといた」
現在アリシアさんの額には絆創膏のような物が貼ってあります。あれも魔道具で使い捨てになりますが傷の修復速度を異常なまでに引き上げる物です。大きい傷には使えませんが、傷跡も残らないので試験的に使ってます。もし残る場合は私が消しますけど。
「嫁入り前の乙女の額に傷を付けられる所だったのか…ナイスメイドさん」
「いや、行き成り人体実験しないでよ。そんなんだから怒られるのよ」
「大丈夫…もう慣れたから…それにそこまで傷つくとは思わなかった…大分柔らかい素材にしたのに…」
原因は単純動作で魔力が余った為だった。超高速でキツツキの如くアリシアさんの額を蹂躙した目覚まし渡り鳥は現在お父様の執務室のお父様のデスクに鎮座している。多少の改造を施し居眠り防止用になってお父様が居眠りしないように監視要員としてボルケンさんに持っていかれた。
私はボルケンさんと交渉したのだ。アリシアさんの額に傷を付けた件を揉み消す為に…まあアリシアさんにはかなりしっかり謝った。お蔭で今度宝物庫を見学する事になったけど苦笑い程度で許してくれました。
「それでそれでこの魔道具どうやって使うの!」
アノンちゃんは割とポジティブだ。自分に被害は無かったので既に話は終わった物として流したようです。現在は腕にはめた結界発動用の魔道具に興味津々です。
「起動と唱えれば起動する。使ったら壊れるから本当に危ない時だけ使って。お父様には悪いけど私は自分で使えるから要らない」
「確かにアリスに使い捨ての魔道具は不要そうよね…何で持ってきたの?」
普通なら親が使うとか色々と使い道があるのです。自分で特に私のように無詠唱や詠唱保持で常に自衛手段を持ってる娘には贈る物では無い。
「要らないって」
「要は不用品なのね…これも高そうだけど…アリスの家ってかなり変わってる」
「いいじゃん。私達はアリスとは違ってこう言う物は有っても困らないし、いざと言う時の為にアリスがくれたんだろ」
まあそうですね。アノンちゃんは意外と鋭い。もしかしたら私が用意したのに気が付いてる可能性もあります。しかし思う事は有っても特に何も追求はしません。
基本的に貴族階級に属する人間は――この世界の人間は普人や他種族の総称です。自衛を先決に考えます。基本的に貴族は色々と狙われるのです。例えばケーナちゃんの場合は世襲制の役職についてるのでそれを欲する無役の貴族から狙われます。何か不祥事を起こしてないか等が主ですが、後が無い貴族の場合はケーナちゃんを誘拐するなど悪事を働く事もあります。
それに誘拐の危険は常に付きまといます。一部変態には貴族令嬢は奴隷として人気だそうで、それ目的やいかがわしい場所で働かせたりなど危険がいっぱいなのです。なので自衛手段はいくら有っても良いとこの学園でもかなりの魔道具を身に着けてる子供をよく見ます。
「私はアリシアさんも居るしクート君も強いから問題ない。それに私だって逃げるくらいは余裕」
「運動出来ない癖に凄い自信だ。運動の授業じゃ何時も先に倒れる癖に」
むう、私は肉体派じゃ無いのです。魔法併用ならアノンちゃんにも負けませんよ?それに最悪緊急回避1型でクート君と入れ替わるので危険は少ない。私に触れた瞬間怒ってるクート君と入れ替わる…気構え無しにクート君と戦うのはかなり不利ですからね。
「魔法ばっかり使ってるからよ。少しは自分で動かないとふと…少し太った方が良いと思うわね」
「失敬な‼」
私も女です。太れは無いでしょう。
「いや、全然細いだろ。もう少し食べた方が良いと思うよ」
「お母さんも子供は食べないと成長出来ないって言ってたね」
食べるのは苦手です…学園では基本的に学食ですが、決まった量を取るのが難しく全部食べるのに時間が掛かります。
残すのは色んな人に悪いので頑張って食べますが、食後は動けない…お腹ポッコリで昼休みは木陰で休んでる事が多いです。
むう。もっと大きくなりたいな。




