51 学園へ戻ります
2か月は早かった。普通なら長い夏休みの筈なのですが、この世界では留学は珍しく無いのです。なので移動を考えると普通は長く無い。往復で1ヵ月を超える生徒など珍しく無いのです。
私も暇を作っては地下に潜り、今では壮大な地下空間が出来上がりました。後は土の部分にコンクリートを張り付けましょう目標は海底トンネル的にコンクリートを土部分につけるのです。
実際は不要です。だって土魔法で鉄並みの強度にしてありますから。でもそこからさらに強化したコンクリートを張り付ければさらに強度を上げれますし所詮土壁なので埃っぽいのです。
残る工程は内装と建造ドッグですかね。魔力で動く魔導クレーンとか作らないと大型艦を作れませんから。それに作業用のゴーレムも作らないといけません。この2か月で大分良い動きを出来るようになりました。ノリと勢いでミニガンを両腕と胸に計4つ付けた武装ゴーレムを作ったのですが危険と言うレベルじゃないのでお蔵入りです。
結局ミニガンの設計図は売らなかった。王家の秘密兵器扱いにするらしい。確かに早々公には出来ませんね。でも凄い武器を作ったと言う噂は流れてるらしいです。それと対物ライフルは目立たなかった為、気づかれなかった。近くに居る竜に比べれば小物ですからね。皆音には反応したらしいのですが何の道具かは分かって無いらしい。
「行ってしまうのか…もう帰って来てもよくね?」
「偶に帰って来る。私の部屋にマーキングしたから、魔玉を常に置いておけば何時でも帰ってこれる」
逆に言えば魔玉が設置されてなければ帰ってこれない。くそう、魔導炉を設置しておけば良かった。今あるのは色々と設置したお蔭で余剰魔力がそこまであるわけではないのです。それに研究用だったのを設置した為、私の手持ちの研究用を作り直さないといけません。
まあ良いでしょう。どうせ素材は残ってます。今後に期待しましょう。
「身分の件は最悪何時発覚しても対処出来る体制を整えてますので…もうどうにでも…」
最近疲れでやさぐれてるアリシアさん。既に死んだ目をしてます。そんな状態だから何時までも毛並が酷いんですよ。コンディションを整えてください。このままじゃクート君に負けますよそのモフモフが。
「アリシアさん…私が隠す気が無いような言い方だよね」
「正直バレるのも時間の問題ですからね。それにどうせ姫様が厄介毎に巻き込まれるか特攻するかで発覚するのでもう考えるのに疲れました。なので何時発覚しても大丈夫な警護体制を取れば良いが親衛隊の判断です」
信頼が足りない…フム、まあ仕方ない。秘密なんていずれはバレる物ですからね。隠し通す方が遥かに難しい。
まあ城に設置した魔導炉は地下に隠されてますし、表向きは城に有った魔玉を私が加工して動力源にした事になってます。この時代に魔導炉を復元したなど誰も思いもしませんよ。すんなり受け要られました。
「それとこれ。冷たい風が出る物と暖かい風が出る魔道具の設計図。出来るだけ簡単に作れるようにしたから再現できると思う。それと風を出す魔道具と埃を吸い取る奴と馬車と車輪の間に設置すれば衝撃を緩和する奴も作ったから何時もの様にお願い」
私は分厚い書類をお父様に渡す。お父様は複雑な顔をしてます…ああそう言えばやっと仕事がひと段落したんでしたね。別にこれは急ぎでは無いので休んでからでも…宰相さん……休ませてあげようよ、そんな餌を貰った犬みたいな顔をしなくても…。
因みに渡したのはヒーターとクーラーと扇風機と掃除機の設計図です。出来るだけ簡素化したのでこの国でも作れるでしょう。それと馬車の改造パーツは余りにも乗り心地が悪いので妥協点として作りました。これでかなり乗り心地が違うでしょう。
「また…仕事なのか…助かるのだが…助かるのだが…誰か手伝いを…誰も居ない」
お父様が振り返ると重臣の人達は誰も居ませんでした。いえ一人居ましたね。確か宰相補佐の人が宰相さんに首根っこを掴まれもがいてます。彼だけは宰相さんも逃がす気は無いのでしょう。因みに名前は知らない。だって話した事無いですからね。
「後お父様にプレゼントがあるから元気出して」
流石にこれ以上の仕事は可哀想だったので気合いを入れて貰う為に小物を作りました。それは懐中時計です。しかも魔力を使わない純粋のカラクリ式です。一日一回ネジを回せば次の日までは動くでしょう。後は時計台を作りたいと言ってたので大型の魔導時計ですね。こっちは前々から有った物の放出品です。
「見たことが無いな。魔力を感じれないが」
「魔力使わないし」
懐中時計職人では無いので意外と難しかった。素手で作ってたら不可能でしたね。ファクトリーの魔法で一気にパーツ生成から組み立てまでやったからこそ作れた代物です。正直私は器用ではないので手を使った加工は基本的にしません。なんせ刺繍をすれば前衛的と言われる腕前ですから。
「俺は何も驚かない。このネジを一日一回回せば良いんだな?これは便利だ。しかも時間が凄い細かく分かるな」
まあ秒針まで付いてますからね。
ファクトリー本当に便利です。部品を作る所から組み立てまで半自動で行えますからね。前みたいにかなり集中しないと失敗すると言う事も既に無いのでイメージがしっかり出来てれば大抵の物は作れるのです。この魔法のお蔭で生産スピードがかなり向上しました。
でも欠点があるんですよね。この魔法はその多様性から未だに魔道具化出来ない。だってある意味万能工場ですからね。
しかも私以外にアリシアさんとお母様に教えたけど限定的にしか使えなかった。精々部品の必要の無い置物くらいです。お母様曰く、細かいイメージが難しいとの事です。
まあ仕方ないでしょう。あっちの世界はミリ単位で工作精度を求められますし、凄いとさらにそれ以下とかですからね。素材さえあればパソコンだって作るんですけど、素材が面倒過ぎるし無いのもいくつかあります。全ての物が向こうと同じでは無いからです。
「そろそろ私は行くね。手紙は…面倒だから良いや、どうせちょくちょく帰って来るし」
「娘からの手紙って昔からの夢なんだ」
「将来は領地生活だからその時に気が向いたら出す」
面倒です…っは‼異世界で活字離れ…いえ普通に本読んでるから活字から離れて無い。しかしこのままめんどくさがってると書く事すら辞めるかもしれない。流石にそれは拙いでしょう。まだ字は上手いとは言えませんからね。
「仕方無いから定期的に書く」
ブーブー文句を言ってるお父様にそう言うと行き成り笑顔になった。本当に子供っぽい人ですよね。既に結構な歳なんですけど、未だに衰えと言う物とは程遠い人です。若々しい?子供心を捨てて無い?そんな感じです。威厳は私の中では既に無いのですけど。良いのかな?
「待ってるぞ‼さて娘から素晴らしいプレゼントを貰ったからな、しっかり仕事しよう。貴様等逃げてないで手伝え‼」
即座に逃走を試みた重臣の人達に一声かけるとピタリと重臣の人達が止まり項垂れた。どうやら逃げれない上に巻き込まれるのが確定したのだろう。
「父上、私には何も言う事は無いのですか?」
「ギルは問題無い。アリスティア程問題を起こさないし上手く学園に馴染んでると報告を受けている。剣の実力も上げてるそうだな。その調子で頑張れ」
そっけないです。温度差がありませんか?男同士だからでしょうか?まあお兄様も普通に頷いてるので特に問題は無いのでしょう。しかも私がディスられてる。問題は……………起こしてるけど。
さて私達は庭に書かれた魔法陣の上に移動する。これは魔玉を砕いて作った物で、使い捨ての魔法陣です。ここに一定量の魔力を注ぐと対になる魔法陣の上に移動できます。今回はかなり離れてるので私かお母様位しか起動できないでしょう。
「?」
「どうした?」
「何でもない」
何か一瞬嫌な感じがした。針が刺さったようなチクっとした感じです。私は何か忘れ物でもあるのかと持っていく物をチェックしますが、特に忘れ物は無い。きっと気のせいでしょう。
――貴女の直感は当たるのだけどね――
「?」
「大丈夫ですか?」
「え?うん…」
う~ん。何か調子が出ない。何時もあるピピーンって感じがしない。
ちょっと疲れ気味なのかな…対して休んでないから寮に戻ったら早めに寝ましょうか。暫くは研究もお休みしよう。
こうして私は転移魔法陣に魔力を流してあっちの王都近くに飛んだ。
ドラコニア視点
「よくもまあこんなに置いていくものだな」
俺はアリスティアの置いていった魔道具やそれの設計図を重臣達と確認を取っている。アリスティアの作った物なので安全性は問題ないだろう…しかし何かしらのギミックが付いている事は多い。本人は遊び心だと言ってたな。
「陛下、やはり身分を隠し続けるのは不可能かと思われます」
「我が国の貴族も一部が帝国側や皇国側に寝返ってる可能性があります。何処から漏れるかは分かりませぬ」
「やはり他国に置いておくには危険すぎるかと」
大臣達は元々アリスティアの留学には反対の立場を取っている。
彼等は信頼出来る。だが俺とシルビアはあえて遠くに送ったのだ。あの子は甘い。本人も自覚してるようだが、その甘さで傷つく事が無いように強く育ってほしい。別に戦場に出る必要などないのだ。あの子が自分の思いを貫ける強さを持てればそれだけで良い。
俺は元冒険者としてそれを理解出来ている。一時でも家族と離れるのは辛い事だからな。俺は既に親族は居ない。全員死んだ。だがあの子は俺達が居る。何時でも戻ってこれるこの環境は何時まで続くかは分からない。経験は積める時に積むべきだ。
「出来る限りの事はする。だがもし発覚した場合にアリスティアが自分の身を護れないのなら城に戻すしかないが、まあ大丈夫だろう。アリスティアも自衛能力は高いからな。下手な工作員より強いぞ」
「しかし‼」
彼等も心配なのだろう。アーランドの王族は少ない。一人でも失う訳にはいかないのだ。そしてアーランドが多種族国家で居られるのは王家が多くの種族と盟約を結んでるからだ。当然王家が亡びれば盟約も消える。分断された場合に各種族が生き残る道は無いだろう。つまり王家の血を絶やす事は国の存続に関わるのだ。
「アリスティアには足りない物をあの国で学んで貰う。俺達は出来る限りそれを見守るだけだ」
きっとあの子なら得られる筈だ。幼いあの子を遠くに行かせるのは苦渋の選択だ。しかしこの国の教育レベルではあの子を成長させる事は出来ない。何故なら文化大国でも既に持て余されてるのだから…。
見れば聞けば大体一回で殆ど記憶してしまうあの子を教育するのは恐ろしい程の情報量が必要だろう(覚える気の無い物は全く覚えない)。
何処まで育つかがとても楽しみだ。道を間違わなければこの世界に多大な影響を与える者に育つだろう。
「……分かりました。それでは我等は早急に裏切り者を調べ上げます」
「それでいい。いざと言う時に後ろから襲われたら面倒だからな」
内部腐敗は取り除くのが難しい。しかしそれを取り除き、出来る限り柔軟に新しい事を取り込み続けなければ国は先細りするだけだ。奴等は排除して空いた席を有能な者に渡せば良い。
「スマンな」
「いえ、我等もこの国が無ければ平穏に暮らせませぬ。戦はいい加減うんざりしますが、姫様さえ育てば王国も安泰でしょう。殿下と姫様がこの国の未来をきっと作ってくださる。我等はそれまでこの国を守りましょう」
大臣達は会議室を出て行った。
さて大量に残った魔道具をどう扱うか。今回はほぼ日用品だな。城の工房に量産させて表に出すか。特に危険な物ではないし機密と言う程でも無い。唯有れば生活が楽になる魔道具。
無くても生活は出来る。だが有れば生活にゆとりが出来る。魔道具をここまで自由に作り出す娘と政治手腕と正しい志を継いでくれた息子。きっとこの国の未来は明るくなってくれるだろう。俺はふと天井を見上げながら感慨にふける。
暫くすると部屋の外が騒がしくなってきた。誰かが慌てて走ってるのだろう。
「申し上げます。帝国が国境沿いに兵を集めてる模様です‼」
全く、ゆっくりさせる事も出来んのか。
「兵を集めろ。恐らくまた小競り合いだろうが油断は出来ん」
最近はこういう事が多い。油断すれば大打撃を受けるのが戦だから油断無く叩き潰す。
アーランド王国の王都シャンデールは帝国よりにある。ここは国の中心であるが、国土の中心では無い。元はここが中心だったが長い歴史の中で魔物の領域を解放したので魔物の森側に広がってるのだ。故に急げば国境常駐軍に合流するのもそう時間は掛からないだろう。今回も蹴散らしてやるか。




