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04 小国の天才姫

 私がこの世界に転生して5年が経ちました。


「アリスティアよ…その…だな、外で遊んだりしないのか?」


「忙しいから暇がありません」


 私は簡潔に答えると視線を本に戻す、今日読んでるのは魔法工学の本です。内容は複雑ですが、私はこの5年間自分の知識を増やす事を意識し、周りの観察や勉強を怠らないのでついていく事ができています。


「だがな…それ以上の本となるともうここには置いてないぞ」


 3歳で字を読めるようになり、今では書くことも幼いながら出来る私は、空いた時間を読書する事で過ごしています。ただ、まだ幼いのでやる事が少なく、読書の比率が高くなったため本を読みつくしてしまったそうです。


「なら学園に入学します」


 中央国家連盟立ヒュール学園

 そこはこの世界で一番大きい学校らしく、試験に受かれば入学を許されるらしいです。そしてその学園は差別こそあるが国家の干渉すら跳ね除け教育の邪魔をする事は皇帝ですら出来ないと言われているそうです。


「あのな…ギルですら12歳で入学したんだぞ、アリスティアには早すぎる!」


「知識が足りません」


「何故知識欲だけが高いんだ…」


 仕方ないですね。私には時間が無いのですから。あれから5年国境沿いで小競り合いこそありますが侵攻は起きていません。今を逃すと私は入学出来ないでしょう。あの学園以外に私の安全と他の干渉を防げる学園が存在しないのです。

 私は知識しか無い。お兄様はこの歳で短剣を貰い腕を磨いていたそうですが、私は…その…少し、ほんの少し平均より成長が遅いらしく短剣ですら振れません。ならば私は知識を磨きそれを武器として生きるのです。確かに生き急いでいますが、時間は有限なので私は無駄が嫌いなのです。


「お父様お願いします」


 私は本を閉じるとお父様に頭を下げる。


「ぬぐぐ…そ、そうだ!アリスティアは精霊魔法を使えるのだったな。ならば最低限杖を作れないとな!作れたら考えよう」


 そう言ってお父様は逃げていった。


 魔法や精霊魔法には詠唱の他に杖が必要です。無ければ使えないわけではないですが、自分の魔力の増幅や発動補助をしてくれます。そして最大の特徴は魔法を封入出来る事でしょう。基本的に封入出来る魔法は一つですが、封入した魔法は詠唱や魔法陣を使わずに使えると言う特徴を持っているため、魔法使いに不意打ちは出来ないと言われる理由でもあります。

 例え封入したのが初級の火球でも人は殺せるのです。それが詠唱も無く瞬時に構築出来るメリットは大きいです、しかし、この封入には一つの欠点があります。それは魔法の封入は難易度が高いうえ術者本人以外使えず他人の杖は使えない。つまり完全ハンドメイドなのです。勿論封入の無い汎用型の杖もあって、学園に通う生徒はこれを使いますが、これは魔法使い曰く、子供用の玩具で発動は遅く魔力の増幅量も雀の涙と悲しい性能だそうです。


「直ぐに作れます」


 そう、私は無論作れますとも、本物の【杖】をね。今まで蓄えた知識は無駄では無く前世の知識と合わせれば良い物が作れる筈なので、お母様に材料を貰いに行きましょう。


「と言う訳で材料をください」


 現在お母様に懇願中です。


「流石に早すぎよ、アリスちゃん。私でもこの杖を作れるようになったのが18歳の時なんだから、他の方法じゃ駄目なの?」


 18歳ってお父様は間接的に国から出さないと言っていたのでしょうか…だが私は作る。作ってみせます。


「大丈夫です、杖の考案はしてあります」


 そう言って私は杖に込める魔法やコンセプトをお母様に話す。


「面白いけどそれじゃ危ないでしょう、普通は攻撃魔法を入れる為の物で、そう言う事をするなんて聞いた事がないわ。それにアリスちゃんも杖を持つならいざと言う時の為に攻撃魔法にしておきなさい」


「人に向けれない攻撃魔法じゃ脅しにもなりません」


そう私が知識を選んだ理由がこれだ。私は人を傷つける事が出来ない。自分の魔法が及ぼす結果が分かるから…例え悪人でもその人に魔法を撃とうとすると手が震え精神の集中がきれてしまうのだ。


「アリスちゃんの優しさは美徳であり悪徳よ。覚悟が無ければそれは自分と大切な人に災いとなって帰ってくるのよ。だから貴女には魔法使いに成って欲しくないの」


お母様の優しさが身に滲みますが、私の考えを変えるには足りません。私はお母様やお父様みたいに立派な人になりたいしこの力をこの国の為に使いたいです。

 私はこの5年で色々ありました。暗殺者や誘拐犯に狙われたりもしましたし、多くの人達も見てきました。

 この国の人達は楽しそうです、500年も争い続けてるのに笑って生きている。家族や知り合いが死んでしまった人も多いでしょう。けど、この国が好きだ‼俺達の居場所なんだから俺達が守るんだって皆で頑張ってる。

 でもこの国にも戦争の弊害があります。この国は西に良質な金属等が出る鉱山があり、北は人類未踏の地である魔物の森があり、東は海があります。海は大規模な港町が作れる地形じゃないが海の幸と農業で国民を何とか養えてるらしいです。そして魔物の森で取れる魔物の素材は最高品質とも言われ、高額で輸出してるし剣や防具なども他の国より高額で輸出出来る、だがこれらの利益は国を守る為に使われ他に回せないそうだ。戦争するのも金がかかるとお父様が嘆いてました。


「魔法はこの国に足りない物です、だから役に立てたいのです」


「確かにこの国には魔法使いは少ないけど子供に背負わせるほど堕ちてないわよ?」


 お母様の怒りはよく分かる。この国は大人は子供を守り、子供が大人になったら子供を守ると言う考え方が主流で、(これは元々獣人のある種族の考え方だったらしいが他の人達が賛同し広まったらしい)子供である私の考えを理解してくれる人が居ない。


「背負うのは私も王族ですから。お父様がいつも言ってます。王族は国の為に居るって」


「だからって生き急ぐ事はありません。貴女は確かに天才でしょう。でも優しい子供よ。だから自分の力を価値を重く見てしまう。けど私達は貴女にそんな物を背負わせたくないの。せめて後数年は我慢して」


 こうなってはもう無理だろう。お母様は私より頑固で一度決めたら絶対に変えてくれない。


「学校の事は分かった。でも杖は作る」


「アリスちゃんなら作れそうですけど欲しいならお店に売ってるじゃない?貴女のお小遣いはかなり残ってるでしょう?」


私とお兄様は王族としては珍しくお小遣い制です、毎月銀貨6枚貰え、それでやりくりします。服や装飾は王族として必要だから国が出すそうですが私物等は自分で買って金銭感覚を養い無駄のない生活を心掛けるらしい。そして私は偶に本を買ったり喫茶店でお茶を飲む程度なので貯金箱に金貨単位で貯めています。


「あれは性能が低すぎるので使えません。前に買って使ったら爆発しました」


「魔力も私より大きくなっちゃったか…」


 魔力は使えば使うほど増えるが、増える早さは微々たる物なのです。しかし私は日常的に魔法を使い激増させた。小さいときほど増えやすいが普通の子供は魔法の制御が出来ないので知られてはいるが実際に行われる事は無いらしい。


「学校は待つけど杖が無いと不便」


「そうね~アリスちゃんは一人前を名乗っても問題の無い魔法使いだし……そうね。数日待っててね。あの人に相談してから決めます。でも無理をするのなら取り上げますからね」


「分かりました」


 これで私の出来る事も増えるでしょう。でもまだこれからです、私は色々知りたいし家族の邪魔者とかになりたくありません。優しい人に囲まれてる自覚があるだけに私は努力が必要だと痛感する毎日なのですから。

 この5年で私の為に死んでしまった人も少なからず居る事を私は知っています。私に強い意志があればあの人達は死なずに済んだはずですし、あの人達にも家族が居たはずです。だから私は頑張ります。頑張って胸を張って生きていくために。

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― 新着の感想 ―
[一言] 実際何かあった時に何もせず自分が死ぬのは自業自得だけど、何もしないせいで身近な人間が死ぬのを良しとするかだよな。
2021/03/28 16:41 退会済み
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