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閑話4 メイドの主人観察日記②

 どうもこんにちわ。メイド兼護衛のアリシアです。

 本日は私の一日も紹介しましょう。

 まず朝です。姫様を起こす時間より2時間は早く起きます。姫様に仕えるのに相応しくする為に念入りに身支度を整え、食事を取ります。そして今日の予定を確認して夜間の警護担当から報告を受け、それを処理する頃には姫様を起こします。

 本日の姫様はオフです。夏休みなのに忙しい姫様は優先的に休みが与えられます。まあ宰相閣下が折角の休みなので書類仕事をしましょうと姫様を誘ってましたがあの方は仕事を休暇先にも持っていく方なので返答は転移でした。速攻で逃げたとも言います。警備上行き成り転移されると大変困るのですが、城から勝手に出る事は無いので大丈夫でしょう。何処に居ても直ぐに見つかり陰から守るへんた…コホン、優秀な騎士達が過剰なくらい巡回してます。城内なら問題ないとの判断だそうです。しかし騎士達は大丈夫ですが姫様に良からぬ事を企んでる貴族が接触するのは心配です。まあこれも姫様は露骨に権力関係を嫌ってる(面倒がってる)のでその手の話題を出そうものなら再び転移で消えるでしょう。最近城内で姫様出現事件と言われるくらい普通の事になりました。今では姫様が何処に居てもそれほど驚かれません。

 本日は留学先での警備関係の会合の為、私は姫様の身の回りのお世話を最低限しか出来ません。本来なら寝る時以外は一緒に居たいのですが、これを怠ると姫様を誘拐された挙句いやらしい事を色々される姫様が浮かぶので怠る事は出来ません。ちょっと医務室で鼻に詰め物を入れないと…


「ちょっと」


「はい?」


 会議も終わり、今後の護衛は10倍にする程度で妥協する事になり少し不機嫌気味に城を歩いてるとドレスを着た獣人の御方に声を掛けられました。確かシャーㇽ・ケレスと言う子爵家令嬢でしたね。何度か絡まれてるので名前を覚えました。

 特徴としては変わり映えの無い顔にどうでも良い犬耳、髪は栗色です。こんな方と話すより姫様の護衛が何故100倍にならなかったのか理解出来ません。私は考えるのに忙しいのです。


「最近調子に乗って来てない?姫様のお気に入りだからって粋がらないで欲しいのよ」


 何を持って粋がってるのか理解出来ません。それとも代わってみますか?恐らく姫様を起こす段階で心が折れますよ?まあそれも含めて姫様の傍仕えを辞めるつもりは毛頭ありません。私の寿命は長いのです。姫様の人生が終わってからでも結婚は出来ます。今は全力で姫様の傍に居るだけです。えへん。


「ご指摘の意味が分かりかねます」


 正直忙しいのです。副王家設立による親衛隊の設立もいつの間にか私が上級騎士になった事で私が集め、管理しなければなりません。取りあえず手頃な暗部メンバーを引き抜いて精鋭部隊を姫様に捧げる所存です。


「貴女が姫様を籠絡して恩恵を独り占めしてるのは分かってるのよ‼」


 籠絡されてるのは私ですが。それに恩恵?まさか例の脳内保管が何処かに流出したとかですか‼馬鹿な、私の頭の中を誰かが覗いたのですか‼私の首が、私の幸せライフが‼


「姫様が作ってる魔法の櫛を独り占めするなんて私だけじゃ無く全ての獣人を敵に回したいようね」


「仰る意味が理解出来ません」


 この方は何を言いたいのでしょうか?別に私が独占してる訳ではありません。あれは姫様が納得した出来になっていない為に売りに出されないだけです。

 私的には十分な出来ですし、私の毛並を見た貴族が金貨300枚でも買うと言う程なのですが姫様が納得していない為、表に出ないのです。ああ見えて姫様は完璧主義…特に自分の作る魔道具には絶対性を追求してます。なので少しでも不備がある物は陛下に頼まれても表に出しません。

 「私は完成した物しか表に流さないし、誰にもあげない」と姫様は言ってました。殿下にあげた剣は危険なだけで魔武具としては完成してるので渡したそうです。


「何で貴女だけが魔法の櫛を使ってるのよ‼どうせ貴女の我儘に姫様をつきあわせてるだけでしょう」


「あれは姫様が納得できる出来では無いそうです」


「どうせ貴女は貰ってるのでしょう?」


「貰ってません。私だけが特別扱いを受けてると言う指摘は甘んじて受けます。姫様が私の何処を気に入ってるのかは私には分かりませんがそれとこれは別です」


 実は一度姫様から私に下さると言う事はあった。しかしそれも使用感想を書類で提出する事が前提でしたし、私もこうなるのを予想出来たので丁重にお断りしました。

 そしてその後自室で大泣きですよ。姫様がくださる物なら路傍の石ころでも家宝にする程嬉しいのです。私は家宝を手に入れる機会を自分で放棄してしまったのです。しかし持ってれば私だけでは無く姫様の評判にも響くので売りに出るまでは私も貰う訳にはいきません。

 自分のお気に入りだけに気を使うような姫様だとは思われたくないです。今でも私をご執心だとか言われてますが、大体子供が近所の年上に懐いてる程度だと思われてます。


「あの櫛も完成出来れば姫様は売り払うでしょう。それまでは待つしかないと思います。私は単に姫様の作った櫛の実験に付き合ってるだけです。実際稀にですが調整に失敗して凄い状態になる事もあるので姫様自身で使わせる訳にもいきませんから」


「そう言われてからどれだけ経ってるのやら…」


 まあ姫様には珍しく一年以上は作り続けてますからね。流石に焦れてるのでしょう。実際陛下も獣人貴族からの圧力で姫様に未完成品でも良いから10個程売ってくれと依頼してました。ですが結果は凄惨な物です。珍しく怒った姫様に一ヶ月以上も無視され視界に入れられなかった。最終的には陛下が土下座して許しを乞う事になってました。恐らく納得するまでは絶対に手放さないでしょう。


「正直かなり手を加えているので完成すれば素晴らしい物であるのは間違いないと思います。しかし姫様もこれだけ時間を掛けてる以上はそれだけの物を求めてると言う事です。残念ですが何処のラインで姫様が納得するかは私には分かりかねます。なので何時売りに出るとは私からは言えませんし、私が誰かの為に作って欲しいと依頼する事は出来ません」


「貴女からも・・・出来ないのね…」


 あらら。さっきまでの威勢が無くなりましたね。まあ実際に私が独占する理由も無いのです。姫様の名前を出してまで嘘をつく等姫様の臣下である私には出来ないですし、もしこの状況で嘘をつけば姫様の名前に傷を付ける行為になるので彼女も信じてくれたのでしょう。

 しかし私には一つだけ心配事があります。姫様の櫛って物凄いバージョンアップなる物を繰り返してるらしいのですが、量産出来るのでしょうか?一度術式を投影で見せて貰ったのですが多くの術式が重なり合って構築されてました。何やら術式を置けるスペースに限りがあるので重ねてるとか…何が何やら私には分かりませんでした。

 さてショックで放心してる令嬢に何時までも付き合う程暇じゃないです。そろそろ姫様が悪さをしてる筈です。私の対悪戯レーダーがビンビン反応してます。絶対に碌でもない事をしてる筈です。

 そう考えながら城を進むと何やら周囲が騒がしいですね。


「陛下がまた脱走したぞ。直ぐに捕縛して宰相閣下の待つ執務室に放り込むんだ‼出なければ俺達が大量の報告書を書かされる‼」


「そりゃないぜ、今日は結婚記念日なんだ。陛下には犠牲になってもらおう」


 臣下にあるまじき発言を聞きましたがこれくらいは日常茶飯事です。別に逃げた陛下を捕まえて執務室に放り込むのは誰も咎めません。寧ろ賞賛されます。全ては逃げる陛下が悪いのです。

 捜索に向かおうとする騎士達に一人の騎士が合流した。よほど焦ってるのか肩で息をしてます。確かあの服装は城の奥。つまりは後宮の警備担当でしょう。この国の後宮は王族の部屋などがあります。


「大変だ‼陛下が姫様を町に連れ出してるぞ‼姫様の部屋から陛下と町に行くと手紙が残ってたらしい‼」


「あのクソ野郎‼護衛を連れてけよ‼姫様に何かあったら殴ってやる」


「袋叩きにして宰相閣下に引き渡せ‼」


 ‼何ですとー。護衛兼監視の為に違うメイドを配置してましたが姫様の幻術に引っかかりましたね。私は即座に城門の方に向かいます。恐らく姫様は姿を偽って無いでしょう。あの方は自国内では幻術で姿を変える事はしないのです。つまり王都内なら何処に居ても分かります。

 それと…陛下…騎士達に意外と嫌われてません?恐らく仕事面ではそこまで期待と言うか信頼されてないのでしょう。確かに賢王とは言われません。堅実な国王とは言われますが基本的に武王です。しかも成り上がりなので結構騎士の人達と仲が良い。ですが日常的に逃走する陛下に騎士達も憤りを隠せないのでしょう。

 しかも陛下が町に行くと大体酒場に居ます。そんな所に騎士達の癒しになってる姫様を連れて行ってったとしたら、確かに袋叩きにされますね。別に多少痛めつけても宰相閣下が黙殺させるので何も問題は無いのでしょうね。私は姫様を早く見つけないと。

 町の建物の屋根を走る事一時間。何故屋根を走ってるかですって?それは人通りが多くて見渡せないからです。あ‼路地裏で肉屋の店主が黒づくめを肉を叩く棍棒で殴ってます。普段は温厚な人なのに珍しいですね…と言うか黒ずくめ怪しい。


「どうかしましたか?」


 取りあえずおります。彼も姫様とはそこそこ仲が良い方です。


「おう、同志。こいつ姫様をつけ回してたんだ‼話を聞いたら行き成り切りかかって来やがった。どうせ姫様に何か変な事をするつもりだったんだろうから俺がぶちのめしてやってたんだ」


 成程。彼は裏姫様ファンクラブのNo100049なので姫様を傷つける輩を容認出来なかったのでしょう。


「適度にボコって騎士団に引き渡してください。生きてれば腕の2~3本砕けてても誰も文句は言いません」


 姫様は割と町に出るので知り合いも多い。それに姫様お気に入りのお店はそれだけでステータスになりますし、目の前に怪我人が居れば無償で治療もするので人気もあります。なので姫様に心酔する一部住民が姫様をストーキング…もとい観察…もとい陰から守ってるのです。なので同志に聞けば何処に居るかは直ぐに分かるのです。因みにNo1は私ですが何か?


「因みに姫様は現在何処に?」


「数分前まで喫茶店に居たぜ。今はあっちの方に向かってた。同志がそれなりに見張ってるから余計な奴は近づけない筈だ。後変態を数人程同士がぶちのめしてたぜ」


 これは早急に向かわねば。不審者はまだ良い。陛下が助けてくれます。しかし変態は駄目です。最近は裸にコートを着て女児に己の汚いソーセージを見せつける新手の変態が出るそうです。そんな汚物を姫様の視界に入れる訳にはいきません。下手をしたら男性恐怖症になりかねません。もし私が近くに居れば姫様が感知する前に汚物ごと真っ二つ…姫様に血を見せたくないので即路地裏に引き込んで同志に引き渡します。どうせそう言う輩も死刑です。王族にそんな物を見せるのはある意味ツワモノですが、この国にそんなツワモノは要りません。


「ご協力感謝します」


「おう」


 肉屋の店主さんと別れると再び屋根伝いに姫様を捜索します。早急に姫様と合流しなくては…。

 しかしこの環境は良く無いですね。なるべく早くメイドの増員を掛けなくては。現状姫様に対抗出来る従者が私だけなので、私が居ないと割とやり放題の状態です。何か姫様に対する対抗要員を確保しないと私だけでは止め切れません。私だって死ぬほど忙しいのです。


「捕まえた‼」


「わきゃ‼」


 通りを歩く姫様を視認すると屋根から飛び降り、即捕縛しました。無断外出です。断固とした態度を取らなければ反省して貰えません。


「勝手に出歩くのだけは容認出来ませ…ん?」


 確かに姫様を捕まえた筈なのに私が抱きかかえてるのは憎らしい駄犬でした。


「グルㇽㇽう」


「オイ駄犬、姫様を何処に隠した。大人しく案内しないと生き埋めにしますよ」


 しかし私は犬語等理解出来ません。わふわふと抗議してますが、私には挑発してるようにしか見えない。この駄犬は姫様に可愛がられてるので嫌いです。別に嫉妬なんかしてませんよ。

 駄犬を放り投げると屋根に飛び乗り再び周りを確認する。駄犬が姫様と離れて町を歩く事などあり得ません。恐らく何からしらの方法で私の接近を察知して姫様と入れ替わったのでしょう。もう姫様がどんな魔法を使っても私は驚きません。

 だけど、私が慌てて探す必要は無かった。姫様は近くのケーキ屋を覘いてました。恐らく甘味に釣られて逃走するのを忘れたのでしょう。


「捕まえまし…た?」


 しっかり捕まえた筈なのに何故か私の腕の中には駄犬が…呪いでしょうか?

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