49 訓練
「っは!たあ‼」
訓練場に木剣のぶつかり合う音が響き渡る。しかし余りにも軽い音だ。
当然だろう。だって私は非力なのだから。現在は『偶々』時間が開いていたお父様が基礎が出来てるかの確認の為に木刀を持ってる。お父様は片手剣で私の攻撃をいなしてるし私は小太刀を振るっている。
「腰が入って無いな。それに振りも甘い。やはりアリスティアには武器は難しいだろう」
分かってますよ。だけどそれだけで諦めるなんて嫌です。私は切れそうな体力を【体力回復】を使い無理やり回復させる。でないと全力で5分も動けずに倒れます。
「武器の訓練はしないって言ったのに‼っそこ‼」
渾身の突きもお父様の木剣に弾かれる。もはや剣術で打つ手は無いでしょう。
お父様のメインウエポンは戦鎚です。剣は使える程度ですし、使っても強度が持たないので嫌いな分類だそうです。しかしそれでも隙は無い。お父様は真に英雄なのです。それに碌な訓練を受けて無い私が隙を見出すのは不可能です。まず経験の差があり過ぎます。
「戦闘では何があるか分からん。本気で来なさい。アリスティアの実力は魔法戦だろう?」
「術式解凍【フレイム・バレット】及び、【ファントムシャドウ】」
瞬時に私の両手に炎の弾丸が現れる。そして黒い影がお父様を囲む。それは私の影で私と同じ形をしてるが細部は無い。所詮は影なのだ。
「幻覚…違うな‼」
お父様はそれの正体を瞬時に理解し影を切り裂く。しかし影に実体は無い。しかし切られた影はお父様に纏わりつく、それは切れば切る程纏わりつきお父様の動きを封じる。
【ファントムシャドウ】は影を使った拘束術だ。実体化も出来るし任意で影特有の無実体化も出来る。これを消すには魔力で干渉するしかない。
「装填…12連射‼」
私は瞬時に両手の弾丸計12発をお父様に打ち込む。今回は怪我対策もばっちりしてるので多少の怪我など気にしない。私に関しては【ヒール】を自動発動させえてるので怪我は直ぐに消えます。まあお父様は明らかに私に怪我をさせないように動いてるので、主に自傷した時に発動します。
「甘いわ‼」
お父様は炎の弾丸が発射された瞬間影を吹き飛ばし12発の炎の弾丸を迎撃する。
あり得ない事だった。【フレイム・バレット】は炎の弾丸だが発射しても私の意思に反応して弾道が変えられる。私は油断無く全方位から同時に着弾させるように撃ちこんだのだ。それを全て木剣で切り裂いた。
私は即座に突風を起こして後ろに飛ぶ。明らかに何かが変わったと直感が告げ、私の思考に反して後方に逃げたのだ。しかしそれは正しかった。下がった瞬間に私の視界にはさっきまで私が居た場所にお父様の木剣が突き刺さっていた。
あり得ない。木剣をあの速度で振り下ろせば地面にぶつかった衝撃に耐え切れず木剣は折れる筈です。
「だから甘いのだ‼その程度のこけおどしは戦場では役に立たん。少ない魔力を闘気に変え、体や武器に纏わせれば身体強化より数段上の戦闘力を得られる」
魔闘流と言う武術の纏いですか。確か魔力を闘気にと言う体や武器の強化に特化させた物を自分や武器に纏わせれば魔法への抵抗力や身体能力を上げれる技法ですね。
魔力剣は武器の切れ味などを上げれる魔法ですが纏いはそれの上位互換と言う訳です。これを使えれば戦士として一流だそうです。因みに私は使えません。
「じゃあ術式解凍【イージス・シールド】」
私は光り輝く盾を自分の前に出す。
「今度は身を守るか…な‼」
私は盾をお父様めがけてパージする。【イージス・シールド】の強度はかなりの物です。当然ですがお父様にはさほど効果が無いです。時間が経てば物理のみで破壊してくるのがお父様ですが短時間では壊せない。そんな物を高速でお父様に飛ばせば流石のお父様にも効果は出る筈です。
「クソ」
お父様は至近距離からの盾の射出を回避した。しかし木剣は回避しきれずに高速で飛来した盾に切り裂かれた。木剣を破壊されたお父様だけどお父様は多くの武器を使う人だ。持ってる木剣も一つじゃない。腰に差してた予備の木剣を抜き、神速の如きスピードでこちらに迫る。流石に驚いても隙は作らないみたいです。だがそれは読んでます。
「術式解凍【短距離転移】」
お父様の木剣が空を切る。私は練兵場の端の方に転移したのです。しかしこれもお父様は動揺しない。
「風よ舞え、炎よ渦巻け、風と共に焦がせ‼【バーントルネード】」
風が竜巻を作り炎を巨大化させる。それは炎の竜巻です。それをお父様に向かわせると私は再び【短距離転移】で別方向の練兵場の端に飛ぶ。どうせこの程度ではお父様の足止め程度にしかなりません。そして私はここで結界を張る。
中級防御魔法【ウィンドフィールド】これは私の防御魔法ではかなり弱い。それこそ子供のパンチすら防御出来ない不完全な物だ。しかしこの魔法の使い方はそこじゃない。空間内の空気を術者の意思で操作するのだ。燃焼に必要な物質の透過を許すがそれ以外は排出する。すると結界内は可燃性の気体で満たされ、酸素等を潤沢に供給された炎の竜巻はその規模を加速度的に増大させる。当然結界内には常に酸素が足りない。供給される酸素は常に消費されてるのだ。
「我が望みは孤高の騎士。狂気に溺れ力に染まりし恐れを知らぬ戦士【バーサーク弱】」
私は狂化魔法を自身に掛ける。これは本来の効果をあえて下げる事で自分の自我が飛ぶ事を抑える事に成功した為だ。当然本来の【バーサーク】よりは効果が落ちるが落ちるのは身体能力だけです。
「【クイック・ドロー】収集品01魔剣グラディウス」
私は店で手に入れた魔剣を出す。今回の訓練はそもそも木剣を使った物じゃない。木剣を使うのはお父様だけで私は全ての力を使うように言われてます。
そしてこの魔剣は術者の精神を汚染するが、その代わりに歴代の持ち主の経験を得る事が出来る。当然その経験は持ち主を経る毎に強くなっている。そしてこの剣は精神攻撃も得意とする生きた魔剣だ。精神干渉魔法は私の得意技ですし精神汚染は私には効かない。そして改造と言うお説教をした結果この魔剣に懐かれました。
「GYAAAAAAA」
グラディウスは笑う。潤沢な魔力を私から供給されるので、その能力の全てを私に貸してくれる…魔剣なので油断できませんが。多分私に隙があれば取り込むでしょうし。
「クソ、全く面倒な魔法を覚えおって。呼吸を封じるとかどんな嫌がらせだ‼」
「それで尚無傷のお父様に言われたくない‼」
燃え盛る炎の竜巻と風の結界を食い破って私にボロボロの木剣を振るうも再び空を切る…いや、確かに私を切ったと思ったのでしょう。当たる瞬間に反応しない私を見てヤバって顔してましたし。
「そっちは幻覚」
グラディウスの力で幻覚系の魔法は強化されます。それに私の幻影を合わせればお父様も欺ける幻を生み出せるのです。しかもこの幻は唯の幻では無い。これに攻撃されれば傷を負います。高度な幻が与えた傷は相手も傷を受けたと勘違いを起こし、それが具現化してしまう。
「大人しく執務室に戻るの‼ブレイドパラダイス‼」
瞬時に現れた多くの私がお父様に幻の刃を飛ばす。これで勝てねばお父様人外説が有効になりそうです。
「うおおおおおお‼」
しかしやはりお父様だった。全ての幻の刃を躱し一人ずつ幻を切り霧散させられた。そしてお父様は既に私の本体を読んでいる。多くの経験から私がどれかを導き出したのでしょう。流れるような駆け込みですれ違いざまに私の幻を切り裂く。
「術式解凍…あ」
転移で逃げようとしたのですが、既に術式保持で保持してる魔法は回復系のみで逃げれなかった。転移系の詠唱は異常な程長いので間に合わない。
「ふう…流石にこれ以上は疲れるわ」
「もう動けない」
既に炭に近い状態の木剣を首筋に当てられて私の負けです。お父様は埃などで汚れてるものの、怪我は無いようです。やはり勝てませんでした。どうすればお父様に勝てるのか誰か教えてくれませんかね?中級竜なら完封出来そうなコンボを無傷で乗り越えてくる人は既に人間辞めてます。
私は全ての魔法を解除すると地面に直接座り込んだ。近くのアリシアさんが慌てて椅子を2つ程持ってきてますが疲れました。
「無茶し過ぎですよ‼陛下も今日は基礎だけだと言うから参加を認めたんですよ?陛下は姫様を竜退治にでも連れて行くレベルまで鍛える気ですか?」
流石に初日からやるレベルの訓練じゃない…途中から私の方から襲い掛かったような物だけど流石に厳しかった。もう1年分くらい動いた気がします。
「いや、あのレベルの魔法を使われると、つい本気を出してしまった。魔法戦なら既に一流を名乗れそうだな。冒険者ではAランク相当の実力はある」
「SSSランクじゃないの?」
SSSを狙ってる私はちょっとふくれっ面です。お父様の次は私が貰う予定なのです。いずれはそこを目指してます。
「流石にそれは無いな。アリスティアが思うほど甘いランクじゃない。だが出だしからA相当の実力なら将来なれる可能性もあるわな。こりゃギルもおちおちしてられんわ」
お父様も木剣をそこら辺に放り投げるとドカ‼と地面に胡坐をかいて座ります。私はへたり込んでたのですがアリシアさんが手を貸してくれたので、簡素な椅子に座ってます…余り座り心地がよろしくない椅子ですね。取りあえず宝物庫から座布団的な物を取り出してお尻の下に置きます。
「戦えるのは確かめた。よくぞここまで出来たものだ、流石は俺の娘だな。今度一緒に魔物の領域に侵攻に行くぞ‼」
お父様はやはり脳筋族なのでしょうか?いくらなんでも…お兄様は私の歳で一緒に戦ってたんでした。アーランドクオリティー恐るべし。
しかし想像以上に動ける物ですね。途中から私のギアが入ったかのように動けました。まあ勝てないと分かりきってるお父様だからこそ本気を出せたとも言えますが。これなら最低限自分を守る程度は出来るでしょう。後は魔法の保持数を増やせれば尚良しですね。
「私は遠慮する。もし行くなら回復担当でお願い…」
まあ私とお父様とお母様とお兄様が前線に出れば国の被害は減らせそうです。流石の私も魔物には容赦しませんから全力を出せます…クート君的魔物には心を奪われる可能性もありますけど。
「治癒魔法の使い手は少ないからな。だが余り血生臭い所には居て欲しく無い…しかし娘と一緒と言うのも…ぬぐぐ」
父として娘を甘やかせたい気持ちと戦士として一緒に戦いたい気持ちがせめぎあってるみたいです。出来れば前者を選んでください。私は対人戦は護身程度で十分です。これ以上慣れると第二のお父様になりかねない気がします。
「却下です‼姫様は忙しいんですから変な誘いをしないでください。今後は今以上に勉学や作法を学ばせねば」
アリシアさんの無駄な努力はまだまだ続くらしい。けど忙しいのは事実なんですよね。学校に政務勉強…転移の事を話したのは失敗だったかな?まあ学園は2時か3時頃には終わるのでその後に国に戻って政務勉強を1時間程度するくらいですね。私は魔法の練習になるので転移はOKです。勉強もどちらかと言えば好きな分類ですからね。
休みは冒険者活動もしましょう。全然活動してなかったけど最近は余裕も出てきました。魔物相手に魔道具の検証を行うのです。




