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48 知らなかった事

「姫様は現在身柄を狙われてます」


 突然だった。しかし考えてもみよう。強大な軍事力を持つアーランドは敵も多い。基本的には引きこもりの国だけど帝国と皇国を筆頭とした種族主義の国は大抵敵です。

 そこに生まれた珍しい魔法使い兼王女。精霊魔法の使い手は教会が欲しがっているのだ。そこに私を献上するだけでも恩は売れますし彼等からすれば敵国アーランドなのだ。恨まれても怖くない…特にアーランドと国境を接して無い国なら考えそうな事です。

 実際私が誘拐されてもアーランドが動けるか?と言えば絶対に動くとは言えない。私一人の価値と国家の価値は比べものにならないのだ。

 だから私には暗部を付けられてるのでしょう。出来る限り守られてる。しかしそれは絶対では無い。もし本気で誰の目も気にせずに私を狙えば私を誘拐する事など簡単だろう。

 魔法は絶対では無い。それは科学が絶対ではないと同義だ。


「具体的に何処が狙ってる?」


「多くの国です。現在私達が多くの偽情報をばら撒いて真偽を伏せてますが、アーランド内にも裏切り者が居るそうです。詳しい事は未だに分かってませんが姫様の事が明るみになるのは時間の問題でしょう」


 ふむ、確かに裏切り者は居るのでしょうね。裏切りの無い国家などあり得ません。アーランドでも種族間の問題は起こる事がありますし、可能性的には普人貴族の可能性が高いのでしょう。

 私も普人だけど他種族の人とは仲が良い…と言うか大半の知り合いが他種族です。ですが普人なら皇国に何かを捧げ庇護を求める事も可能でしょう。皇国も引き渡す物次第では彼等を改心したと受け入れる可能性がミクロレベルで存在します。実際はそう簡単にはいかないでしょうけど、アーランドに見切りをつけた人ならそこに縋る可能性もありと。

 そして私の情報。これは私の見た目や魔法適正や玩具達の事ですね。確かに子供がそこまで出来るか?と聞かれれば私も首を傾げるので納得出来ます。

 しかし今後私が動けば情報操作は出来ない。場合によっては不審者さんご案内状態になりかねないと言う事ですか。


「面倒事ばかりで嫌になる。地下に籠ってれば大丈夫かな?」


「一カ所に籠ればどうこうの状況は既に超えてます。姫様には詳しく話しませんけど留学先では既に多くの間者を排除してます。今後姫様が動くなら姫様にも戦う術を持ってもらいます」


 ん?戦う術って既に持ってますよ。魔道具や攻撃魔法だってあります。


「姫様を観察し続けるのが私の趣味でもありますが、攻撃魔法を人に向けると無意識に手加減してますよね?確かに人に向けれるようになったのでしょうけど、もし私達が力尽きたらどうするんですか?手加減して勝てるのは子供だけです。手加減されて死ぬ事が無いと分かれば相手も躊躇なく姫様を害してきます」


 手加減したつもりは無いんですけどね。要は人を殺せるか?と言う事でしょう。この世界は基本的に治安が悪い。悪い人もかなり多いのだ。貴族であっても人を殺さないといけない事はある。普通なら護衛が付いてる。だがその護衛が倒れればどうするのか?泣き喚いて命乞いでもすれば醜聞です。私の場合はそれをしても見逃して貰えないでしょう。

 強く無ければ意味が無い。アーランドの王家は他の国に比べて異質だ。強さを求め、権力より強い者の血を多く取り込んで来た。お父様が良い例だろう。普通は下級貴族の次男以下が王女に見初められて国王になるなんて御伽話のような事は絶対と言えるレベルで起きない。しかしアーランドの王家は強さが絶対視される。強く無ければ国土は守れない。故に生まれはそこまで問わないのだ。

 当然私にもその血は流れてる筈。いくら魂が別の世界の産物でも体はしっかり両親の子供なのだ。なら私も戦う意思さえ持てれば戦えるはず。


「私も戦う。甘えるだけが私じゃない。私だってアーランドが好き。誰かに大切な物を奪われるくらいなら甘えは捨てる」


 真剣な目でアリシアさんを見る。アリシアさんは私の覚悟を感じ取ったのだろう小さい溜息を吐いた。それはまるで悲しむような雰囲気で。


「正直姫様が戦えるかと言えば戦えないと思います。それは誰もが思いますよ。姫様って物を作るのが大好きなだけですからね。本来平和な時代でこそ真価を発揮できる人です。しかしアーランドには才能のある人間を燻らせる余裕はありません。今後は戦闘に関する訓練も受ける事になるでしょう。正直反対です。姫様には穏やかな生活を送って欲しいです」


 だから私の邪魔をしてたとアリシアさんは語った。どうやらお母様の意向でもあったらしい。確かにメイドの範疇を越えた妨害は多々あったけどアリシアさんが罰せられる事は余り無かった。お父様は家庭内の実権が無いので何も言えなかったのでしょう。


「行き成りアルバートさんとの決闘形式だと嫌だな…あの人って訓練でも手を抜かないしお兄様も痣だらけになってたし」


「流石に姫様に武器を使った武術は求めませんよ。欠片も才能が無いじゃないですか。こっそり木剣を振ってるのを見た事ありますけど腰もへっぴり腰でしたよ。決闘の時に行き成り真剣を使った時は驚きました。何時の間に覚えたんですか?」


 あれは騎士団の訓練で得たデータを基に体を傀儡術で操ってただけと言ったら怒られた。


「基礎的な知識も無しに武器を持たないでくださいね。所詮は自分の実力じゃないのですから。それが有効だったのは相手が油断してたのと未熟だったからです。所詮は奇を狙った戦法です」


 確かにあれは私の実力じゃない。無理な動きは体を傷つけるし元々の体力も筋力も違う人の動きを代償も無しにトレース出来ない。無理な負荷で傷ついた体を治せても体力は減る。継続戦闘力は無くなります。


「体力を考えると魔法かな?そこら辺を考慮して最低限身を護れる魔法とかは作っとく」


 幾つか候補はある。例えば防御魔法。私が使えるのは上級に位置する【イージス・シールド】と【ボルグ】と言う結界魔法だ。どれも使い勝手は良いけどまだまだ結界にはムラが出てる。厚い場所と薄い場所があるのだ。イージスは別に問題ないけどあれも一方向にしか出せない。

 今後の課題は私の身の安全を確保して家族を安心させる事ですね。


「大体理解した。それも研究内容に含めとく。それと研究所の件は絶対にお母様には内緒」


「見つかったらまたお尻を叩かれますね。まあ時間の問題でしょう。何時までも隠し通せませんよ。王妃様はカンが良いので今も薄々何かしてるのは感ずいてるでしょうし」


 見つかっても手遅れが好ましい。それに怒られる時は一緒にね‼と言ったら露骨に嫌な顔をされたけどアリシアさんも諦めがついたみたい。

 それからアリシアさんから色々と報告を受けた。

 今度は副王家の当主として私は行動しないといけない。アリシアさんは私直属の部下なので前のように私に配慮して情報をぼかしたり出来ない。つまりは護衛が何をしてるのかとかも聞く事になった。

 正直しんどいです。かなり人殺しをしてたらしいです。他にも私の護衛をしつつ監視もしてたらしい。まあこれはどうでも良い。だって薄々気づいてたし。

 普通に自由気ままに動く私を放置するなどあり得ない。まあ宝物庫と言うイレギュラーのせいで私の動きを把握しきれなかったと自嘲してたけど。

 後は貴族間の勢力図などもそれなりに教えられたが、私は政治は専門外‼そもそも政治を行う事など無いと思ってたのでそれは勉強してなかった。

 しかし宰相さんはそれを認めないらしい。将来は王家の補佐をしないといけないのでお父様の執務室で書類仕事の手伝いをするらしい。本気で過労死すると主張したらそれこそお得意の魔法で何とかしなさいとの事です。よろしい何とかしてみせますよ‼どうなっても私は責任は取りませんからね‼


「副王家の当主って結局名目だけだよね。特に役職も無い法衣貴族?だし」


 話がひと段落して一緒にお茶を飲んでたのですが私の立ち位置が気になってアリシアさんに聞いてみた。


「確かに現在副王と言う役職は作られましたが姫様は就任してません。名目上の副王家でもありますね。これは短時間で無理やり作った弊害でしょうし、現在の姫様に政務までやらせたら確実に陛下と同じく逃げるでしょう。物理的に時間が無いので成人するか予定より早く学園を卒業しない限り役職はありません。まあ転移が使えるので勉強は始める事になるでしょうけど…言っておきますがいつも通りの猫かぶりは宰相様には効きませんよ?」


 確かに雁字搦めレベルでは済まないタイトなスケジュールになりそうですね。これは私もお父様と手を取り合って町に逃亡するでしょう…まあお父様が行くお店は私は入れないけど。

 そして私のスーパーな猫かぶりで表向き勉強を済ますと言う常套手段は通じない…これは既にバレバレですからね。ですが私はお仕事は真面目にしますよ。だって早く終わらせれば自由な時間が出来るのが政務なのです。何処かの宰相のように自ら仕事を求めて彷徨わなければ…


「…副王家のトップが王城で生活するのは問題がある‼つまりは王都に屋敷を購入しよう‼」


 宰相さんのお勉強が始まれば城の内部に安全な場所は無い。ならば王都に屋敷を買うなり建てるなりすれば居留守も使える筈…流石に無断侵入はしてこまい。


「それは却下されました。私も同意見ですが姫様を手放したくないから王族のままにしたのに家から追い出す訳にはいかないと陛下が猛反発しましたので。最低でも成人してからじゃないと認めないそうです。それに今の姫様の後見人は陛下なので城で生活するのは何も問題ありません。元より未成年なので親と過ごす事をとやかく言う輩は無視して結構です」


 相変わらず資金管理をしてるアリシアさんは我が家の家宰にでもなる気でしょうか?これは早々に資金を取り戻さねば…最近資材が減って来たんです。ここでもう一発増やしたい所存です。しかしアリシアさんはそれをさせない…これは秘密裏に再び資金を獲得しなければ…研究費名目でお父様から出させましょう。魔道具を売ればお父様もウハウハ私もウハウハ共にハッピーな生活が待ってます。


「また悪巧みですか…王妃様が今度は秘密裏に国王陛下と取引するのは認めないそうですよ。子供に大金を与えるのは良く無いそうです」


 バレてた…流石お母様。


「功績さえあれば…」


「口癖になってますね」


 資金が無ければ何も出来ないのが研究者。研究にはお金が掛かるのです。幸い飛空船の開発費用は割と出てるので飛空船は作れるでしょう。しかしあれは国家事業とも言えるので他には回せない。正直余り気が進まない。だってこの世界で携帯を作るよりは簡単ですからね。

 小型船は割と簡単な構造でした。何度か実験を繰り返せば安定した運用が出来る実用型も作れるでしょう。実際浮遊馬車とか作ってるので経験はあります。


「明日から訓練ですから今日は早く寝てくださいね?もしも起きてたら…そうですねずっと横に居る事にします。それこそ悪巧み出来ないように」


 それは嬉しさ半分で残りは邪魔だと思うでしょう。ずっと一緒って意外と疲れるんです。アリシアさんもそこら辺を考慮して私だけの時間を割と作ってくれてますので、今は読書時間とかは一人です。それを邪魔されるなら今日の所は大人しくしておきましょう…今日の所は…


「じゃあ今日も本の読み聞かせを要求する」


「分かりました…姫様って意外な所でまだまだ子供ですよね」


 失敬な‼

 その日はやはり途中で寝てしまった。最後まで本の内容が聞ける日が来るのだろうか?

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