46 研究所
宰相さんにターゲットにされること2日、やっと諦めてくれました。
私達は城の中から出ませんでしたが見つけても転移で逃げる為捕まえられず、宰相さんが目を離せばお父様とお兄様が逃走して結局仕事が進まないので私は諦めて2人と仕事するそうです。なので私は平穏を保てました。
しかし代償にお父様とお兄様は日々馬車馬のように働かせられ、何度も逃げるを繰り返したそうです。なので宰相さんが私の所に来て、何か拘束出来る物を作ってくださいと依頼されました。
流石に気が引けるのですが、もし作らなければ私も仕事を…とか言い出したので速攻で作りましたよ。開発ナンバー拘束具1-2ふにゃふにゃの鎖です。
つければ力が物凄い落ちる魔道具でこれに拘束された2人は逃げる事無く仕事を続けてるそうです。
ちなみに開発ナンバー1-1は聖骸布です。魔力を抑える作用もあるので拘束にも使えますがあの2人は純粋に力が強いので今回は使いませんでした。
「容赦なくお二人を見捨てましたね姫様」
「私も忙しい。それにあの状態の宰相さんとは仕事したくない」
隈を気にせず仕事に邁進してますからね。今日は嫌がる2人を引きずって解放した魔物の領域の開発具合を視察に行くそうです。
「私はグランツさんと会う。今日は王都に来てるはず」
五候の一人でアーランドの鉱山地帯を治めるグランツさんは私と知り合いだ。元々五候家と王家は仲が良い。なので私も何度も会ってます。最初は余りの職人気質で近づくだけで怒られましたが腰痛位なら治せる魔道具をあげたら私を認めてくれました。まあ最初の理解者です。
「そうですか、念の為ハンコの類は私が持ってます。また変な取引をしたら本当にマダムの元に送りますからね?」
アリシアさんがさり気なく脅迫してきますが私は副王、つまりは偉いのです。部下の脅迫など聞きませんとも。
そして偶々屋敷では無く城にグランツさんが居たので私の工房で話す事になりました。だって応接室だと職人でもあるグランツさんが拒絶反応を起こすんだもん。
「久しぶりだな嬢ちゃん、今日はどんな悪巧みだ?」
がははと笑うグランツさん。引き締まった体は服を着てても筋肉モリモリなのが分かります。見た目は典型的なドワーフです。
「今日も交渉、鉱石を売って欲しい、それもあるだけ」
「姫様‼」
邪魔をしようとするアリシアさんに書類を渡す。これは王家からの依頼書だ。
「う…嘘…こんなの作れませんよ‼」
アリシアさんはそのまま書類をグランツさんに渡すとグランツさんも眉をしかめた。だって書いてあるの飛空船の開発依頼ですからね。
飛空船は古代技術の産物で稀に遺跡から見つかります。基本的に大型の飛空船は国しか所有を認められませんが小型や中型なら貴族も持ってます。今回はそれの大型を作って欲しいとの依頼です。
「こりゃぁまた面倒な依頼を受けたもんだ。恐らく貴族議会の嫌がらせだろう」
「小型を一隻貰えるからそれを参考に作る事になった。これが設計図」
まあ作れるか作れないかと聞かれれば作れますよ?小型でもその設計図毎渡されれば大まかな理論は理解出来ます。問題となる動力は王家の持ってる属性竜の魔玉を使うので何も問題はありません。
「たまげたな…確かにこれなら飛ぶかも知れん。しかし俺に頼むと言う事ならどうするか分かるだろう?面倒だが俺も貴族だからな無益に手を貸す訳には行かねえ。まあ個人的には付き合いたいんだがな‼」
グランツさんは私に書類を投げ渡す。別に無礼とか言いませんよ。公の場以外では五候の人達はこんな感じなのです。
「報酬は大型飛空船を1隻。これの意味分かるよね?グランツさんの領地から王都に運ばれる鉱物の運搬費用が安く、早くなる。グランツさんに渡す飛空船の草案はこれ」
工業地帯は離れてる上、山あり魔物の領域ありで運ぶのも時間が掛かります。しかも盗賊の危険もあるのですが、飛空船なら途中の邪魔が入りません。
これは宰相さんも許可をくれたので問題は無い。量産できれば一部の信頼出来る貴族が大型の飛空船を持つ事も認められるそうです。
そしてグランツさんに渡す飛空船はスピードは他の飛空船より劣りますが、積載量を他の飛空船より高くした貨物型です。これにより物流速度を上げるのが今回の目的ですが飛空船を作るなんて出来ないだろうと軽い嫌がらせ&私の技術力の確認でしょう。
元々一杯あれば便利だなと軽く作れないか考えてたので草案はありました。
暫くは小型を制作して制作経験を積む予定ですがいずれは作ります。
「確かにこれがあれば俺の領地から早く鉱物を送れるな。しかも武器や防具なんかも他の領地に供給できる。悪く無い報酬だ。しかしこんな物を作る場所なんて無いぞ?」
これは私が地下に施設を建造中なのですがまだ誰にも話してません。だって怒られますし。
地下から練兵場に出れる隠しドッグを作ればカッコいい秘密の研究所になるんだよな~とせっせと穴堀&地盤強化中です。
「そこは内緒。アリシアさんに怒られるから」
「この悪ガキめ、また悪さしてると尻を叩かれるぞ。しかし気に入った‼嬢ちゃん意外と貴族がしょうにあってるんじゃねえか?人見知りさえなければ普通に交渉できるじゃねえか、こりゃ今まで猫かぶってた訳か。まあ金さえ払えば鉱物は問題ねえ、しかし‼これを作るんなら俺も手伝うぜ‼な~に領地の事なら部下に任せれば問題ねえ、俺は元々技術屋だからな領地の事は基本的に余り見てねえ」
「じゃあまずはアリシアさんを拘束しようか、邪魔されると面倒だから」
素早く動こうとしたアリシアさんをグランツさんはそれを上回るスピードで取り押さえる。彼も戦士なのです。しかも五候家のトップは皆アリシアさんより強いと言うチートっぷりです。情けなくもあっさり捕まったアリシアさんから護身用の魔道具を取り上げ魔法で眠らせます。研究所の事は伏せねばならないのです。
「じゃあこれが見取り図。私の工房から下に降りれるように建造してる。将来はこんな感じにしてここにドッグを作る」
「ぐははははこれは男心を擽るねえ、確かにばれたら大目玉だ‼しかしこんな場所に作れるのか?言っちゃあなんだがここらの地盤は固いぞ」
「だからゴーレム使いの魔法を覚えてきた。私が居なくても作業できるようにゴーレムを配置する。今年中には本格的に着工したい。グランツさんは研究所が出来次第手伝って」
それからグランツさんの工房を何処に置くかなどや地下の施設の事を打ち合わせて終了。まだ草案状態なのですがこっそりお父様の許可を取ってるので問題ない。お父様も地下に施設を作ると言ってら王都に影響が出なければ問題ないとの事です。しかし邪魔をされると困るのでこれは密約状態なのです。
「さあ全て白状しましょうね?何を話してたんですか?あんな機嫌の良いグランツ卿は初めて見ましたよ。全て話してください」
起きたアリシアさんは経験から短剣を隠してたらしく紐を切って自由になると私につめ寄りました。
「秘密。アリシアさんが何処かに報告する可能性がある以上は話せない。これは私直轄のプロジェクトなんだから」
「酷いです…」
しかし何とかアリシアさんをこちら側に引き入れれないですかね?元々義務感が強い人なので、仕えてる国を裏切る事は出来ないだろう。まあ私が国を裏切ってる行動はしてないけど見つかればお尻を叩かれる程度の事はしてます。しかしそれは私にとって脅威なのでアリシアさんに全て話せないのです。
そう言えば私って王族のままなんですよね…確かお父様があれを選べって言ってたのでそれを利用して…お父様が油断してればアリシアさんを国から私の部下に出来そうですが、可能性は低いでしょう。流石にお父様も油断はしない筈です。でも成功すればアリシアさんは私の物になります。
そして私の部下になったアリシアさんは私が国を裏切らない限りは私を裏切れなくなる…可能性に賭けましょう。
「まあ今度全部話す」
「姫様凄い悪い顔してます」
アリシアさんが若干引いていた。しかしこれは天啓。まさに普段通りのお父様を使った策なのです。
さて交渉も終わり、現在は工房に籠ってます。邪魔なので一人にしてってアリシアさんを追い出し、部屋に私の幻影を放つ。幻影は棚の本を取り出して一定時間後に戻して別の本を取ると言う幻影です。本も幻影ですが、これなら窓から覘きこんでも私が読書してると思われる筈です。
私は本棚にある大陸史第2巻を奥に押し込みます。すると本棚が横にスライドし、奥の階段が出てきました。これは私のカッコいい研究所予定地への通路です。これから2時間はこの地下空間を広げていきます。
土魔法を駆使して空間を広げ、余った土を宝物庫に放り込む。それと出来た空間を土魔法で強化して落盤も防ぎます。現在は体育館程のスペースが出来ました。
「ここ掘れクート君」
「わふ‼」
クート君は暇そうだったのでそこら辺を掘り掘りするように命じると喜んで穴掘りに興じてるようです。偶に金属の鉱石を見つけては私に持ってきてくれますから、お礼に干し肉をプレゼント。ご機嫌で穴掘りしてます。
それから2時間程でまた体育館一個分程空間が広がりました。後でばれないように土を何処かに捨てればパーフェクトです。
これ以上の誤魔化しはアリシアさんに不信感を持たれるので今日はここまで。少しずつカッコいい研究所を作って出来たらお父様とお兄様に自慢しましょう。きっと悔しがりますよ。
「お嬢様、今日はこれくらいにしましょう。お勉強の時間です」
「うん」
日が暮れて食事までの時間に宿題やアリシアさんの個人授業の時間です。最近の私の行いに憤慨したアリシアさんが独自に私の王女力を向上させる為に色々と習い事をしてるのです。
例としては頭に本を乗せて姿勢良く歩く練習…これがこの世界にあるのに驚きを隠せませんが数冊程度なら大丈夫です。但し、本が重いと潰れます。
座学は教わる側では無く、私の学力がアリシアさんを上回ってしまったので無しです。刺繍とかもします。音楽は前衛的だと言われ余りしません。刺繍もそれ自体が魔法陣になる物を織ったら怒られました。
「は~~今日はここまでです。少し休憩したら食事の時間ですね」
「無駄な時間だと思う」
余り効果が出ない勉強の時間にアリシアさんの心が折れそうです。
考えても見てください。この歳でマダムの教育を終えてるのですよ?私の自由気ままな行動は教育のせいでは無く私の本質です。いくら教えても使わなければ意味はありません。
「礼儀も作法も出来るのに…何で普段から使ってくれないんですか。普通の王女なら言葉使いだってもっと丁寧ですよ」
「そこはアーランドクオリティー」
周りにそんな人が一人しか居ませんし、基本的にその人は王都に居ないので、私がですわ口調に育つ事はあり得ない。そう言えば孫姫さんもそんな話し方をしてたような…そこまで口調に興味が無かったので覚えてない。元気だと良いな。
今日はお兄様とお父様が執務室で屍と化して動かなくなったそうで、私とお母様と2人で食事をしました。
さり気なくお父様達の状況を聞いてヤバかったら治療しようと考えてましたがお母様がそれをしたら宰相さんからエンドレスの依頼が来るから落ち着くまで放っておきなさいと言われた。
食後はお風呂に入り、着替えると読書タイム。今日はアリシアさんが童話を聞かせてくれるそうです……はい寝る前の読み聞かせです。それで寝てしまう我が身が恨めしい。
 




