45 副王家
長いアーランドの歴史において副王家は存在しない。副王とは王族籍で、公爵は貴族籍であり、公爵は王族の臣下なのである。副王も変わらないけど副王に命令出来る貴族は存在しない。臣下であるが王族なのだから。
そんな王国初の副王家を作る理由を聞いたら私も疲れた顔をしてしまった。
「だって娘を部下にしろとか嫌だし、貴族の連中に翻弄される娘を見たくない‼」
その時のお父様は力強く語りました。
娘を手放したくないから新しい地位を作るなんて普通はあり得ません。しかしアーランド王国で国王の権限は強いのです。しかも私の部屋を捜索した際に貴族議会は何か致命的なミスを起こしたようで、何人か処罰されたとか。その影響で仕事大好きの宰相さんも謹慎してるらしいので貴族議会は今は大人しいらしいです。しかも軍部も同じく失態…と言うか私の部屋に惨敗した為この件には関わらないと明言されたそうです。
そしてこういう場合に邪魔をする宰相さんは居ないのでお父様の独裁状態なのだとか。
「それにこれはギルバートも納得してる。と言うか俺とアイツの策だ。これでアリスィアは俺の娘のままだ。わははははははは‼」
天啓を得たりと言うように語ってますが、それには問題があります。私はまだ未成年、つまり役職には就けないですし、領地経営も許されない年齢なのです。
アーランドの法律では未成年は役職に就けず、領地経営は認めないと明記されてます。子供が好き勝手して国を乱すのを許さないと言う事です。
なので副王家を作っても名誉職になります。
「問題ない。その場合は親族か国から代理人か後見人になる。つまりは俺の事だ‼これで貴族が言うように独立させつつ、俺の威光がアリスティアを害する事を許さない。それに領地は暫く無しだな、アリスティアに領地をあげるとどんな魔境を生み出すか俺も分からん」
摩天楼を生み出すのは暫く先になりそうです。しかしそれはほぼ名誉職で給金の無駄では?
「最近アリスちゃんを危惧する馬鹿な貴族が多いのよ。独立させて継承権に関わらない事を明言すれば何にも問題はないんだけど…ドラコがどうしても手放したくないって我儘言いだして、しかもギルと一緒に貴族を脅すは脅すはでこの形になっちゃった」
ふむ玉座には何ら興味も持ってないので盟約を結べば問題ないでしょう。
盟約と言う魔法は約束の強制…普段は商人とかが使う物ですが、こういう場合に使えば私が玉座を求めない証明になります。破れば盟約時に決めた罰を受けるのである意味絶対に敗れないのです。
「私は良いけど…学園と社交界と副王家に研究って私過労死しちゃうよ。今だって学校でふにゃぁってなってるのに」
「いっその事身分をばらすか?その場合騎士団から100人以上護衛に出す事になるが」
「それはそれでめんどくさい。でも王女だって分かれば動きやすいかな…」
ちょっとしょんぼり。だって教師の視線とか一部生徒の視線が少し辛いのです。幸いいじめとかは無いですし、幼等科では3人程仲の良い友達も居ますが特進クラスでは孤立してます。
教師の人だってお兄様と一緒に居なければ露骨に魔法を公開しろとか言い出すし面倒なんですよね。お兄様曰く私から聞き出した魔法を自分が発見したのだと学会に流す程度の考えだそうです。なので私が王族だと話せば干渉してこないでしょう。しかし幼等科の友達達って爵位低いんですよね。遠慮されたり今まで騙してたのかって怒られるかな…気が乗らない。
「暫くこのままで頑張る」
お母様は私の状況を理解してるらしく頭を撫でてくれました。
「無理はしないようにね。余り無理すると強制的に連れ戻しちゃうからね」
それから三日後、アーランド王国初の副王家が誕生した。私は玉座に座るお父様の前に跪き、忠誠を誓う。この副王家創設には貴族の前で制約を結んだ。
副王家は王家の継承権には関与しない。これは王族の直系が続く限りずっとである。今の私の継承権は2位だが、お兄様に子供が出来れば自動的に3位に落ちると言う事だ。
初めて会った貴族も多く、私の顔を知らない人も多いらしい。私は各貴族に挨拶をして終わった。
「ぬ~~めんどくさい。これは副王家を事実上の名誉職にして引き籠ろう。いずれは領地を貰えるから領地から出てこない引きこもりになろう」
「その場合陛下が領地に住むとか言い出しそうですね」
それ言い出しそう。しかし疲れました。貴族の人は一部悔しそうにしてたり露骨にお父様とお兄様から目を逸らしたり挙動不審の人が多く居ましたが、お兄様の公務は公務とは名ばかりの脅迫に向かってたらしい。副王家創設の邪魔をしないように根回しをしてたと言うお兄様の顔はとても悪い人の顔だった。
しかし今回の副王家設立の恩恵は大きい。私の研究は王国の直轄で許可されました。成果を渡せば何を作っても良いとの事です。将来は技術大臣にするとか言われましたが私は技術専門で政治は知らんと拒否したらお父様がそれは名実で親子で一緒に仕事がしたいんだ‼と土下座されて懇願されました。
しょうがない人です。お母様もお父様の土下座には勝てないそうで遺伝してしまったようです。私も仕事を手伝うと言う事で、両親の執務室に子供用の机が置かれました(お父様作)。
それと可哀そうなので宰相さんを解放するように進言したらあっさりOKが出ました。被害者の私が許したから問題ないとか?私何かされましたっけ?。
しかし解放された宰相さんはその荒れ狂う本能のままに仕事を再開し、お父様は拘束されました。宰相さんに「さあ溜まった仕事を処理しましょう。1日30分も寝れれば問題ないですよね?幸い姫様が新型の明かりをくださったので昼間と変わらぬ明るさです」と嫌がるお父様を引きずって行きました。
「暫くは…学園に帰るまで執務室には近づかない。兵士達も怯えてる程宰相さんがお父様を道ずれに仕事してる」
「そうですね」
宰相さんの顔を見たお母様もお父様を助ける気は無く自室に戻って寛いでるらしいです。因みにお兄様は引きずられるお父様に道ずれに連れてかれました。どうやらお兄様には夏休みは無いようです。
尚、夏休みと冬休みは2か月程あります。これは留学生が多く、短期間の休みだとほぼ馬車の旅で終わるからだそうですが、そこは貴族有り余るお金を使って竜籠で帰る人も多いそうです。因みに竜籠はかなり高いそうです。
「私は研究をして過ごすけどアリシアさんはどうする?宝物庫に入ってる限り私に危険は無いから休んでても良いよ」
「いえ私も宝物庫に入ります。姫様の好きにさせると何を生み出すか心配で休み何て取れません」
何かの使命感に燃えるアリシアさんしかし。
「アリシアさんは絶対に入れない。勝手に掃除して魔道具とか捨てそうだし」
割と散乱してる宝物庫内も私の使い易いように配置されてるだけです。ちゃんと何が何処にあるのかも分かってるのに整理整頓しましょうと勝手に掃除する某オカンのように片っ端から捨てられたら私も大泣きしますよ?アリシアさんは何があっても宝物庫には入れない…と言うか誰であっても入れませんよ。
「まあまあそんな事を言わずに入れてください。姫様の作る物に興味があるだけです」
何処かの小物のようにモミ手で近寄ってきました。
「本音は?」
「危ない物は撤去しましょうね?」
やっぱり‼絶対に入れないようにしましょう。拷問をしても最後まで徹底抗戦する構えです。
騒ぐアリシアさんを無視して宝物庫に入ります。今日はミニガンの再設計とゴーレムの動きを直します。
ずっとミニガンを撃ってただけですが行軍も経験したので、その動きのデータを使ってさらに普通に動けるように術式を調整していきます。魔道書に乗ってたのはそこら辺の無いまっさらな状態だったので覚えても上手くゴーレムが動かなかったのです。
「~~~~~♪」
鼻歌混じりに設計図を書き直したり素材の選定を行う。ひと段落したら魔法を弄ってゴーレムに掛けては動かして調整を繰り返す。とても落ち着きます。
暫くそんな事をしてたら金属音が聞こえてきました。
「五月蠅い」
「読んでも返事すらしてくれなかったんですよ‼いい加減出てきてください。もう食事の時間ですよ」
どうやら門を攻撃する事で中の私に気が付くように音を出してたのでしょう。確かに外の窓を見れば既に真っ暗です。部屋は明かりが点いてて前世の一般的な部屋のような明るさなのと宝物庫内は何時でも明るいので時間を忘れてました」
「今度何か作るから門に攻撃しないでね」
「普通に入れてください」
それと無くしつこいアリシアさんをスルーしつつ身支度を整えて部屋から出ます。我等が王家では可能な限り家族で食事を共にします。今日はお母様と2人だけかな?と思って食事用の部屋(普通の部屋)に行くとお父様もお兄様も居ました。しかし目が死んでます。部屋の外には山積みの書類を持った宰相さんが兵士を従えて待機してたので、食事が終わり次第再び仕事に戻るのでしょう。
「もう嫌だ…退位するからギル後は任せた…」
「ハハハ父上、御自分だけ逃げる御積もりですか?逃がしませんよ、まだまだ書類は残ってます。私はさっさと終わらせてアリスと遊ぶんです…」
お父様はお兄様に王座と一緒に大量の仕事を押し付けようと考えてるようですがお兄様もあの書類の山は嫌だそうです。しかし考えてみてください。いずれはあれをお兄様が処理するのですよ?救いを求めてくる2人の目を出来るだけ見ないようにしながらお母様と楽しく食事をしました。
食後は休憩の間も無く2人は連れていかれました。助けを乞う叫びが2つ聞こえましたが、私にはまだ書類仕事は早いです。後10年くらい早いです。
「お父様…また書類溜めてたんだろうな…」
あり得ない程の書類はお父様が宰相さんが居ない生活で蓄えたのでしょう。流石に巻き込まれたお兄様が不憫ですがそれから3日後には全ての書類をお父様に押し付けてお兄様が脱走したそうです。
「アリス、湖に行こう‼ここに居たら危険だ‼」
アリシアさんとお茶会をしてたらお兄様が乱れた服装も直さずに現れました。近くを通りがかったメイドさんが真っ赤な顔をして手で顔を隠してますがばっちり隙間から見てますね。
「危険なのはお兄様。後ろ後ろ」
私がお兄様の後方を指さすと同じく乱れた服装を直してないお父様が立っていました。お父様の腰には勇敢な兵士がしがみ付いて恐らく部屋に戻そうとしてるのでしょう。しかし馬力が足らずそのまま引きずられてきたと。
「………父上、私は夏休みなのです。妹との憩いの時間を邪魔しないでいただきたい‼」
「認めんぞ‼何で俺だけ仕事しないといけないんだ‼アリスティアなんか仕事しなくても済む道具を作ってくれ‼」
私は某狸型ロボットでは無いのでそんな便利な道具は持ってません。なので無言で首を振る。
そして宰相さんがとても良い笑顔で現れた。数えきれぬ程の騎士を連れて。
「陛下、探しましたよ。勝手に抜け出されては困ります。まだまだ仕事は残ってるのですよ?殿下の分もまだまだありますから仕事に戻りましょう。おや姫様これは丁度良い、今から書類仕事のお勉強をしましょうか?何やら姫様用の机も用意されてるので将来に向けてしっかりとお勉強を」
「術式解凍【短距離転移】」
私はお父様とお兄様を生贄にする事でアリシアさんと部屋に転移で逃げました。丁度お茶会は私の自室から見える場所でしてたのですが、窓から外を見れば2人が多くの騎士達に捕まり叫びながら何処かに連れて行かれました。
「何か宰相さんの目の隈が凄い事になってた」
「流石にあれに巻き込まれるのは…」
やれやれと私とアリシアさんは首を振るのでした。
「姫様‼さあ仕事を‼」
「‼」
どうやら宰相さんは私もターゲットにしてたようです。行き成り部屋に入ってきました。この日は短距離転移で宰相さんが諦めるまでアリシアさんと逃げたのでした。
ちなみにお父様とお兄様は宰相さんが居ない間に町に逃走したそうです。




