44 帰国②
翌日、私はお父様と騎士団の前に居た。今日は王都周辺にある魔物の領域を解放するそうです。
普通ならもっと時間を置いて動くのでしょうけど、そこはアーランドの腰の軽さが影響してます。
アーランドは常に外敵を抱えてるので騎士団は常に国王の指揮下にあり、貴族の議会を通さずにある程度の軍事行動が出来るそうです。
なので今日は王都近くにある魔物の領域を解放する作戦が発令されました。
元々王都の物流を妨げてる位置にある為、前々から掃討作戦は出来てたようで騎士達や兵士、魔法使いなど出来る限りの数で挑むそうです。
魔物の領域に大人数の人が入れば魔物は一気に押し寄せてきます。今回の領域なら1000匹程の魔物がこちらに来るそうです。これを撃退し、領域のトップに居る土竜を倒すのが今回の作戦だそうです。
本来土竜単体ならお父様だけで倒せるそうですが、魔物が邪魔で軍事行動を起こさないとお父様の体力が保たないとか。
「アリスティア、今日は遠慮しなくて良い。作った物を好きに使いなさい」
「分かった。じゃあ私が先陣」
「ちょ‼」
返事を待たずに【飛翔】で私は陣の先端に飛ぶ。そして門を開く。
「開発ナンバー0、ゴーレム軍団。開発ナンバー銃2-1ミニガン」
門から出てくるのは骨組だけのゴーレム。まだ開発段階で魔道書で操作を覚えたばかりなので、動きも鈍い処じゃない。しかし持ってるの筒を幾つも付けたような魔道具。それはM134をモデルにした物で、前世の物と違って毎分1500発程度しか撃てないが、それでもこの世界では十分な火力を誇る。
しかしこれは欠点を抱えています。膨大な弾薬を消費するのは勿論火薬の代用に爆発魔法を使った結果、魔力のコストが悪く、魔玉や魔晶石だと数秒で魔力が切れてしまう為、全てにミスリルを使った導線がひかれ、全ての魔力を私から供給されます。
暫くゴーレムに乗って進軍してると目の前に魔物の群れが出てきました。私が最前線なので20体のゴーレムを横一列に整列させる。まだゴーレムの出力も低いので専用の台車に乗せたミニガンがゴーレムと同数配置され、ゴーレム達が魔物を迎え撃ちます。今日は私とクート君も耳栓を持ってるので近くに居ても大丈夫です。無ければクート君はダッシュで逃げるでしょう。
「攻撃開始」
独特の連射音を響かせながらミニガンが火を噴く。私の後ろに居る兵士達は私の攻撃後に突撃する予定なので後ろに居ますが、後ろを見れば全員口を開けたまま魔物達を見ている。魔物は弾幕を恐れずに突撃してきますが数を物ともせずにミニガンは打ち込み続ける。
結局魔物達はアーランド軍に辿りつけなかった。20個のミニガンが扇状に弾幕を広げると一気に壊滅しだし、私も範囲魔法を撃ったりして2時間程で壊滅した。
余りのスピードに領域のトップはまだ来て無いようだ。
「終わった」
「…これは酷い。全部挽肉じゃないか」
まあ相手の被害は尋常じゃ無いけどこっちの被害も大きい…特に私のお財布が…。
多数の弾だけでなく終わる頃にはゴーレムだけで無く、ミニガンも全部壊れてました。どうやら冷却が甘かったらしいです。しかし絶えず2時間も撃ち続けたのでこれはしょうがないでしょう。
私も気分が悪い光景ですがこの程度で落ち込む程弱く無いです。帰って引きこもりたくなる光景ですが私はこの光景を忘れません。これは私の罪なのです。いずれはこれが人間に向けられるのを理解したうえで出したのです。
そして掃討が終わって10分程で森から雄叫びが聞こえた。どうやら土竜が怒ってるようです。
土竜は空を飛びません。どう見てもトカゲのような姿をしてます。しかも土の塊を飛ばしてきたりします。
鱗も硬いので冒険者でも基本的に相手にしません。勝つのが難しいのが竜種なのです。しかし私は土竜でも相手にします。
「開発ナンバー銃3-1対物ライフル」
ゴーレムの残骸やミニガンの残骸を回収すると、土魔法で簡易的な高台を作る。そこに三脚を付けた対物ライフルを乗せ構える。
対物ライフルは私専用で力を上げる魔法や、反動を抑える魔法が付いており、私でも打てる。しかも銃弾はお兄様の刀と同じ素材で出来ており、竜の鱗も容易に貫ける事は既に実証済みです。まあ古代竜だと厳しいけど。
「指し示せ、我が望むは魔弾の射手。百発百中の弾丸【着弾点予測】」
着弾地点を指し示す魔法を私に掛ける。そして音のする方に銃を向けてスコープをのぞき込む。スコープって作るのが地味に面倒でした。
暫くして森の木々を粉砕しながら土竜が姿を現した。王国軍は無駄な被害を出さないように後ろに後退します。昔から竜を相手にするのは少数精鋭が一番なのです。
今回はお父様とお母様、それとアルバートさんと他数人の騎士が突撃するようです。
私は竜がお父様達に接触する前に右目を打ち抜く。左目は陰になってるので撃てませんでしたが右目に銃弾は命中したようです。
行き成り目を潰され、もがく土竜の左足をお父様が戦鎚で叩き潰す。竜は尻尾を振りましたり残った手や牙でお父様達を攻撃するがお父様は最低限の動きで躱す。アルバートさんは目の前で動き回り土竜の集中を乱す。しかも無視すれば即座に攻撃に回る為、土竜はアルバートさんを倒そうとする。騎士達も残った右足を攻撃してるようです。
私は再び銃を構えると今度は頭を撃つ。しかし頭蓋骨が硬すぎて余り効果が無いようです。流石は竜種、私もこんな玩具では無く本気で行くしか無いでしょう。
私は飛翔を起動させ、土竜の周りを飛び回る。土竜は邪魔そうに首をこちらに向けると土塊を吐き出してくる。
「術式解凍【イージスシールド】」
光る盾が私の前に出現すると土塊を阻む。
「アリスティア」
「大丈夫」
空を飛びながら土竜を窺ってると土竜が行き成り転んだ。騎士が何かしたのでは?と見てみれば彼等は必至で倒れる土竜から逃げていた。どうやらお母様のようです。お母様は火魔法で尻尾を炙ってます。邪魔だったんでしょうね手馴れてます。
「吹き荒れろ風の刃【ウィンドカッター】×5合成【死神の大鎌】」
不可視の刃…しかも超巨大な不可視の刃が出現し土竜の首を落とす。これで終了です。首を落とされた土竜はそのまま動かなくなった。私はそのままお母様の元に降りる。
「これで私も戦える」
「そうね、貴女の事を認めるわ。頑張りなさい」
お母様も私を認めてくれたようです。私の頭をナデナデしてくれました。しかし魔物は恐ろしい程数が居ますね。テンプレだともっと少ないか、何かの予兆にこんな事が起きるのですが…魔物の領域に居る魔物も少し多い気がしました。
まあこれくらいなら私で対処出来ると言う証明にはなったでしょう。数千の魔物を駆逐出来る戦力を持ってるとアピールできました。
「全く、最後を娘に奪われるとは…俺の分まで横取りするな」
お父様が戻ってくると軽く怒られました。しかも私の頭をグリグリしてきます。痛みは無いのですが髪が乱れるので辞めていただきたい。
「お父様嫌い」
そう言うと行き成り泣き崩れた。相変わらず涙脆いと思います。私はお母様のて櫛で髪を整て貰いながら周りを見る。今回は本当に損害が出てません。精々竜と戦った騎士達が掠り傷を受けてるくらいです。それも直ぐに私が治したので被害ゼロです。
「私だってやれば出来るんだから…」
ちょっと疲れましたね。魔力も割と危険域に近かったので土竜もさっさと倒しました。魔力の制御が随分楽になりましたが体力は…うん魔法使いだから仕方ない。別に私が貧弱じゃないだと思います。
「しかし初代の再来かね、アリスティアが強すぎる。と言うかあの武器買っていいか?」
「全部壊れた」
涙目ですよ。弾は後で魔法で回収できますがミニガンは作り直しです。折角のゴーレムも無理やり動かしたので関節部分が壊れたり、反動に耐え切れず自壊したのもありました。
被害総額はかなりの物でしたが、人的被害も無くこの規模の戦闘ではあり得ない程です。なので被害は私だけ…まあ良いでしょう。今回の一件で私の研究も認められればそれ以上の成果になります。
私は手帳に今回の件を踏まえた改善策を書きながら、新しい魔道具を考えてます。しかし手帳に書き込む事に集中し過ぎたようです。横から手帳を取られました。
「これがアリスちゃんの研究手帳か~読めないわね。何て書いてあるの?」
横から手帳を取ったのはお母様でした。しかしお母様は手帳を見ると首を傾げた。
「・・・・・>>?・???。?>。・」
「御免なさい、何を言ってるのか分からないわ」
「当然。言葉する言語じゃない。これは文字だけ、意味はあるけど言葉にしたら私も何を言ってるのか分からない」
そこまで作りこむとめんどくさいのです。どうせこの世界…と言うか全世界で使うのは私だけの文字なので書くと読むだけ出来れば十分なのです。
これの事も言ったんですけどね。お母様も実験好きなので実際に見たかったのでしょう。しかしお母様も読めない文字を作るとは…暗号として使えそうですがもし使う場合これの書き方と読み方を一から教える事になるので面倒な事になります。しかもその場合、私の研究手帳の文字を作り直す事になりかねないので、今回は何も言いませんよ。私にもめんどくさいと思う心はあるのです。
お母様は持ってた手帳を返すと抱きしめてくれました。落ち着きますね、和みますね。ここに血の香が漂って無ければ尚良しです。
「熱は無いようだけどかなり消耗してるでしょう。倒れるまで自分を気にしない癖は改めなさい」
確かに疲れました。フットワークが軽すぎませんかねこの国。まさか行き成りこんな戦闘を行うとは思いませんでした。流石に私の準備が甘かったのも否めない結果なので私的には50点くらいです。
「もうちょっと準備期間が欲しかった。手頃な魔道具も調整する時間があれば一気に実験できたのに」
そう言うとお母様は溜息を吐いた。
「は~~少しは自重しなさい。今まで隠してきた弊害かしら、アリスちゃんの自制心が欠片も見当たらないわ」
うむ、確かに消失しました。私は既にスーパーな状態なのです。持てる能力を駆使して豊かな生活を生み出しますよ。
しかしミニガンは耐久性を上げれば問題無さそうです。魔力も魔導炉搭載型の何かに搭載すればさほど問題も無いでしょう。これは頑張って魔道戦艦を作ってみようかな。いちお草案だけ出来てるけど最低でも魔導炉の出力を40%まで上げないと無理ですね…いや動力炉に私が入れば…うん生きた燃料は御免ですね。
「だがこれから忙しくなるぞ。アリスティアも社交界から逃げれなくなるし、ここまで出来るのなら公務も行わなくてはならん。転移魔法でもあれば良いんだが…」
「出来るけど」
図書館の古代魔法に乗ってたので、限定的ですが使えます。
ヤバい魔法でしたよ。魔力回路を改造した私でも制御不能だったので、二つの魔法陣を行き来出来る限定転移を完成させました。まあ転移の難しい所は座標の指定なので予め指定出来れば問題ないのです。しかも視界内の近距離転移は普通にできます。
「出来るのか…俺はもう何も驚かない」
お父様とお母様は悟りを開いたような顔をしてます。
「じゃあ魔道戦艦作って良い?」
「どれだけ俺達を驚かせるきだ‼」
くわ‼っと目を見開くお父様。わーい驚かせる事が出来ました。
しかしアリシアさんは横で頭を抱えてます。まあ気苦労が絶えないのでしょう。しかし私もここまで自由に生きれるとは思いませんでしたね。本当に良い家族の元に生まれました。しかしお父様とお母様もお兄様も私の特異性を何でそこまで気にしないのかと尋ねたのですが、初代が私以上にやりたい放題だったのでそこまで驚かないらしい。
初代国王は全面森で、全てが魔物の森だったこの地をゴリ押しで人間の住める土地にした英雄なので私くらいならまだ可愛い方だと言われました。マジ初代国王の強さが規格外ですね。
「ボルケンが居なくて助かった。シルビア、例の件をゴリ押しするぞ。奴が戻る前に全てを終わらせよう」
お父様がお母様に何か言ってます。例の件は知りませんが私に関係する事でしょう。しかも宰相さんが居るとやり難い事なのでしょう…と言うか宰相さん何処に行ったのでしょう?帰ってから見てません。
「宰相さんは?見てないけど」
「アイツなら現在自分の屋敷で謹慎中だ。お前の部屋を漁った時の罰だな。かなり悪質なトラップに引っかかった責任を軍部に押し付けられて今頃屋敷でゾンビのように仕事させろと喚いてるだろう」
ああ宰相さん仕事大好きで寝る暇より書類寄越せな人でしたね。しかし何か月謹慎させてるのでしょうか?あの人から仕事を取ったら何も残らないのに。
「それで例の件って何?何をすれば良いの?」
そう聞くとお父様が得意げに、それに反してアリシアさんとお母様が少し疲れた顔をしてました。また何か無茶な事でも仕出かしましたか?
「アリスティアを公爵家では無く、副王家にする‼」




