39話 図書館
入学から1週間が経ちました。私は幼等科と特進クラスを行ったり来たりと忙しいです。しかも日常的に令嬢生活を強いられ、寮に戻る頃にはふにゃぁってなってます。
あの後?アリシアさんは泣きながら縋り付く私を無視してソニックバードに手紙を渡してました。私は最初に見つけた物入れに引き籠り、物入れのドア部分を魔法で施錠、ドア自体も魔法で強化して引き籠ってます。外で何を言おうが反応しません。持ち込んだ毛布に包まり立て籠もります。
「姫様‼今すぐに出てきてください‼硬い、何でそこまで強化するんですか」
ガンガンキンキンと叩いたり剣か何かで切ろうとする音は聞こえますが簡単に壊れる強化ではありません。勿論お兄様の刀でも切れません…しかしお兄様の実力が合わさると怪しいけど。
私は毛布に包まりながら手帳に新しい魔道具の設計図を書いています。明かりの魔道具なんて腐るほどありますし。ペンを持つ反対の手にはクッキーを持ってます。水も魔法で何とかしますし、これならトイレに困るまで引き籠れます。お風呂は寮の部屋のと取り換える予定のが宝物庫にあるので、そこに魔法でお湯を溜めれば入れます。
完璧だ。これでトイレさえあれば問題ありません。しかし宝物庫内にトイレは置きたくない…処理が嫌すぎます。いっそ穴を掘りましょうか?トイレまでの直通ルートを構築し、アリシアさんが折れるまで引き籠るのも良いですね。
あれから教師も目立った接触はありませんが食い入るように私の魔法を見てきてうっとおしいので普通に魔法を使ってたらそれはそれで食い入るように見てきます。どうしろと?魔道具はガチでアリシアさんが妨害してきます。対精神系の魔道具を身に着け【スリープ】も妨害されます。しかしあの時見せた笑顔をもう一度とせがんで来ます。しかし何故か成功したのは一度だけで、あの時しか上手く笑えませんでした。何故しょう?アリシアさんは変顔になる私を見ると横を向いてプルプルしてるので無駄に腹立たしいのです。
「絶対に出てきてもらいますよ」
さらにガンガンキンキン。音が鋭くなってます。ふむ、威力が増してきてますね。魔法的な防御なので適度に掛け直し、私は設計図を書いていく。そう言えばそろそろ図書館に行きたいですね。今までは忙しいのと疲れでふにゃぁってなってたので行けませんでしたがそろそろ限界です。沢山の本に囲まれた生活が私を待ってるのです。目指せ全蔵書制覇‼明日には行きましょう。
しかし外が余りに五月蠅いです。そう言えば帰って来てから一度も部屋から出てませんね。仕方ないそろそろ出ましょう。夕食は時間を過ぎでますがおやつで代用したので今日は要らない。なのでお風呂は入ったから歯を磨いて着替えて寝ましょう。因みにアリシアさんは全無視で。
「……」
「姫様‼返事をしてください。無視しないでください‼」
「……」
私は着替えが終わるとそのままベットに入って寝るのでした。アリシアさんは暫く話しかけられても無視します。
次の日は、いつも通りアリシアさんを捕獲しつつ目が覚めましたがやはり無視。身支度を整え、食堂で食事をとって普通に授業を受けて終了。何度か生徒や先生に軽く絡まれましたがお兄様が速攻で庇ってくれて私は大丈夫でした。いい加減にしてほしいです。ブースターにつけて空に放り出しますよ?…ああそのブースターですが、素材の強度に問題があり、筒部分に亀裂が見つかりました。どうやら設計より若干出力が高く素材の強度をその分だけ超えたようです。これは他の素材に変えれば解消できるので問題無いです。
まあ実験は成功で、ブースターの再現も出来たので制御装置さえ作れればプロペラ機を飛ばしてジェット機が作れますね。しかも魔力さえあればいくらでも飛べるものが、まあ制御を地球と同レベルにすると凄まじい魔道具になり作れても私一人…うん、量産なんて不可能です。私だって疲れます…と言うかめんどくさい。そこまでしなくても、文明なんて進んでないこの世界ではもっと簡単な物でもオーバーテクノロジーになりますし。
「お…お嬢様…」
「…」
無視してますよ。お兄様もアリシアさんに同情的な視線を向けてますが、私に何か言って来る事はありませんでした。恐らく巻き添えを恐れているのでしょう。
アリシアさんは既に涙目です。ライフは既にゼロに近いのでしょう。泣いて謝るのなら許しても良いですよ。今までの無礼の数々も謝罪すれば許してあげます。そこまで行けば国に出してる手紙を検閲すると言う権利も勝ち取れそうですが、流石にそれは難しいかな。だって私の護衛も来てるみたいなので私に見せれない報告書とかもありそうです。
しかし何とかしなければ私もマダム・スミスの再教育が待っている。まだ先の事とは言え、猶予が無いのです。直ぐに手を打たねばあの人の性格上こっちに来ると言い出しかねません。あの人の監視の元で、研究を続けるのは不可能です。何故なら教育中はアリシアさん以上に横に侍って監視されます。それこそ寝相までも…あの時は寝てる時さえ油断できませんでした。アリシアさんの尻尾を抱き込んで起きれば寝起きに鞭です。しかも理由も分からずに寝起きに叩かれる事もありました。
成長期なのにあの時は体重がガチで落ちましたからね。周りに心配もされましたが、マダムは誰に苦言を言われても立派な淑女になる為です‼と聞いてはくれません。あの家は王家の教育係りでもありますし、歴代王族の信頼も得てますので結局終わるまで誰も助けてくれませんでした。
「アリス…そろそろ許してあげないか…」
「暫くあのまま。お蔭で研究も捗る」
若干情緒不安定なので帰宅すれば物入れに引き籠り、魔道具の設計や宝物庫での研究も妨害出来ないようです。今は物入れの扉を壊そうとしてますがあの武器では不可能ですね。
本日も授業終了。基本的に幼等科2時間と特進クラス3時間なので午後には時間が開きます。他の生徒は習い事や鍛錬…まあ冒険者をやってる人も居ますね。お兄様もBランクの冒険者になってましたし。
私は図書館に向かってます。アリシアさんは後ろで凄いやさぐれてますけど普通についてきてます。図書館は一見普通の図書館ですが、大陸一の蔵書を誇る古代から続く図書館です。当然古代の魔法や魔道具が残っており本を探すのも苦労しません。
図書館の司書に生徒手帳を見せて閲覧許可を貰います。ここは一般人立ち入り禁止で許可のある人しか入れないのです。この世界で知識は特権階級が持つ物と言う事でしょう。いずれは変えるので問題ありません。世界の発展は教育からですからね。
図書館内は本棚で溢れてます。中には宙に浮いてる本棚もあり、蔵書数すら誰も知らないそうです。司書の人も整理していない区画には入らないように言われました。整理した区画にある本は100万を超え、まだ数割しか整理できていないのでその数倍はあるそうです。
整理しきれていない理由は魔道書の中にはトラップが掛かってる物も多く、簡単に整理できないからだそうです。私はロビー中央にある水晶の前に居ます。これは閲覧したい本を思い浮かべれば、それが何処にあるのか教えてくれます。今日はクート君と本契約する予定なので使い魔契約の本です…ふむ、100冊程ありますね。取りあえず手頃な本を選ぶとそれがどの棚にあるのか頭に思い浮かびました。B‐195と言う棚にあるそうです。棚は全て番号がふってあるので簡単に見つかります。
「これかな」
20分程で目的の本を見つけました。本契約は必要な魔法陣が書いてありますし、使い魔とは?とか色々書いてますが別にそっちは見なくても良いです。前に読んだ使い魔の本に魔法陣が載って無かっただけなので、魔法陣さえ分かれば問題ありません。一般的には魔法陣を設置した施設があるのですが自分で覚える良い機会なので契約の魔法陣を覚えようと思ったのです。仮契約では使い魔と完全に繋がらず、クート君の意思も何となくしか分からないのですが本契約をすれば私の魂と繋がり、遠くに居ても会話できるのです。当然距離が離れすぎると会話…と言うか念話ですが、それが出来ないそうです。しかしその距離は魔力量に依存するので都市内なら何処でも大丈夫でしょう。まあ結界を張られれば念話も出来ませんけど。
1時間程で必要な情報を頭に叩き込み、次に向かうは禁書棚。これは地下に置かれています。盗難防止の為に騎士団から常に騎士が常駐し、ゴツイ扉の奥に置かれています。
「禁書を閲覧しに来ました。これが生徒手帳です」
「禁書は魔法使い以下には閲覧は許されない…ふむ君が噂の魔術師か。禁書などにはトラップも多い。無理はしないように。それと地下では攻撃に分類される魔法は使えない。それを覚えておきなさい」
古代の遺産とはすばらしいですね。攻撃魔法は使えないようですが、解析等は大丈夫だそうです。アリシアさんは魔術師では無いのでメイドとはいえ入れません。なので入口で待機です。徹底してますね。まあメイド等が何処かの間者である可能性もあるので仕方ないでしょう。それに地下の本は持ち出せば防犯用の魔法が起動しますから基本的には持ち出しできません。魔導士ならその権限で持ち出し出来ますが、持ち出して盗まれれば唯ではすみませんね。
「指し示せ、我が望む本よ」
水晶に結界やマジックシールドの本を検索するといくつかの本の候補が出てきました。しかし一部本の名前が灰色です。これは私では閲覧出来ない本なのでしょう。水晶も魔術師専用の物なので見れない物は基本的に灰色です。
何故禁書棚の魔道書を見に来たかと言えば、覚えるなら効果の高い魔法が良かったからです。私の身体能力では魔物に勝てませんし防御力は紙以下です。ゲームのように良い防具をつければ強く成るわけでもありませんので防御魔法は魔法使いに必須です。
古代の魔法は今と同じですが術式が割と違います。現在の魔法は結構簡略化されてるのです。なので基本的には同じ魔法でも古代の魔法の方が効果が高いです。
まあ歴代の魔法使いが同じ【ファイヤーボール】を使っても個人で改良してたりするわけです。燃費を上げたり威力を上げたりなど。なので【ファイヤーボール】でも結構種類があります。
今日覚えるのは、結界・シールド・バインドの3つです。これがあれば私は大体の状況に対応出来ます。それと帰りに魔法の術式関係の本を借りてきましょう。いちお借りれる本の中に幾つかあるはずです。
「余り難しくは無い。やっぱり私に苦手な魔法って無いんだろうな。これはテトに感謝しなきゃ。しかしここに引き籠りたい…魔導士になればこの先まで入れるのにな」
魔道書を読めば必要な情報が頭に叩き込まれます。もし使えなければ何も置きませんし、キャパスティーを超えると頭がパーになる可能性もありますが今日読んだ魔道書で頭が痛む事はありません。それだけ私の魔法資質が高いのでしょう。
2時間程で読み終わりました。後は実地で使い方に慣れるだけですね。私は詠唱保持を使い、覚えた魔法をいつでも使えるようにしました。起動してないのでここのセキュリティーに引っかかる事もありません。現在私は15個まで保持出来るので常に何個かの魔法を保持しています。これでいつでも無詠唱に近い魔法を使える訳です。欠点はずっと保持してると消える事がある位ですね。1週間も使わないと勝手に解けます。それに一度使えば再度詠唱は必要です。
「終わりました」
「持ち出しは…無いようだな。すまないね。これも規則な物で」
近くに居た女性騎士の人に身体チェックを受ける。禁書のある地下では空間収納系の魔法やアイテムは使えないので体をチェックするだけだそうです。しかし私の宝物庫は出せるんですよね…言わないでおきましょう。当然、持ち出しはしませんけどね。
話しかけてくるアリシアさんを放置して、借りていく本を受付で処理すると帰宅します。
そう言えば早速クート君と契約しましょう。魔法陣自体は杖で出せますから直ぐに終わります。必要な物は魔法陣とお互いの血だけです。仮契約してるので触媒とかは要りません。
「クート君、本当に良いの?」
「わふ‼」
オーケー、ならば契約です。使い魔契約は特殊な魔法陣で一時的に魔物や神獣などを呼んだりするものですが、私のように出会った魔物と契約する事もあります。どっちも魔物側が何か要求する事があるのですがクート君の場合は食事が今の基準なら良いそうです。安いですね誇り高い銀狼とは思えません。既に飼い犬と言う事でしょう。
契約は契約用の魔法陣にお互いの血を一滴垂らすだけです。別にそれ以外は無いですよ。私とクート君に針で血を取り魔法陣に垂らすだけです。
最初に私が指に針を刺し…地味に痛い。クート君は平気そうです。耳から血を取りました。それを魔法陣に垂らすと魔法陣が光を放ち、数秒で消えた。
「聞こえる?」
「聞こえるぞ我が主」
成功ですね。私限定ですが、クート君の声がしっかりと聞こえます。意外と渋い声をしてますね。声だけなら威厳を感じます。しかし見た目は大型犬で尻尾をフリフリしてるので凄い可愛いです。
「威厳が足りない気がする…少し太った?」
「っそ、そんな事は無い‼我は体の大きさを自由に変えられるのだぞ、太ったとしても変わらんはずだ。それに太るほど食べて無い」
サイズは変わっても体型は変わらない事を私は知っています。しかしこれでクート君としっかりとした意思疎通が出来ます。今後はより実験に協力してもらいますよ。
「よろしくね」
「こちらこそ我が主よ」




