36 魔術師
「新入生主席、アリス・フルール前へ」
「はい」
今日は入学式です。体育館的な物がこの学園に存在し、そこで入学式を行っています。恐らくそこら辺も異世界人の影響でしょうか?よく見れば地球と似通った部分も多く見れます。
私は檀上に上がります。新入生、つまり今年入学する生徒で主席を取れたようです。親族席には知らない人が座ってたので恐らく身代りに別の人が親と言う事になってるのでしょう。お父様もお母様も顔が売れてるのと仕事で来れませんからね。
しかし緊張はしますが、恐ろしい入学式です。新入生の殆どが私を睨んでます。確かに主席は誰もが望む物です。前世と違い、学園での成績はその後の人生に直結するので力の入れようが段違いです。この世界の子供は精神的に成長が早いのですね。
「特例としてアリス・フルールを魔術師と認定し、創者の二つ名を与える」
え‼その場がざわめき出しました。魔術師は普通なら卒業時に成績優秀者に与えられる称号です。魔法使いも魔術師も魔導士も基本的に称号なので簡単に手に入る代物ではありません。
しかも入学早々二つ名を与えられるなど前例はないでしょう。教師の人達も目の前の学園長――イグナス老師を見ている。彼はその顔をしてやったりとした顔で笑っていた。
「尚、アリスフルールは特進クラスへと入る事になる。基本的に授業の半分をそこで受けるように」
「……」
何も言いませんよ。私はそれどころじゃありません。流石に背後が怖すぎです。新入生だけじゃ無く、在校生も殺気立ってます。これは新手の嫌がらせですか?そこまで私が嫌いですか?
その後、私の作った馬車や試験での魔法の行使などを賞賛し、主席の証である羽根飾りを渡されました。羽根飾りは見える場所に着けるのですが帽子で良いですね。邪魔にならないので。
こうして殺気立った入学式は終わった。ついでに私も終わりました。
「…ぐす…」
「おおおお嬢様‼落ち着いてください。これは大変名誉な事なんですよ」
「そうだアリス、今からおやつを食べに行こう。流石にアリシアも止めないだろう‼」
余りの恐怖に式後ぐずりだした私を2人が慰めてくれます。名誉なのは分かりますが何であそこまであからさまに殺気を向けられるんですか…凄い怖いじゃないですか。後、おやつは食べます。
「モグモグモグモグモグモグモグ」
一心不乱に食べます。甘味で全てを忘れましょう。
「流石にあれは驚きますよね。しかしお嬢様に二つ名ですか」
「まあ二つ名を持ってる学生は居ないからな、私も驚いた。しかしアリスなら当然だな‼私も兄として嬉しいぞ。それに安心しろアリス、君を苛める輩が居たらお兄ちゃんが守ってやる。流石に私に牙を向ける奴は少ないからな」
元々小食なのでおやつを食べ終えると残ったおやつを【クイック・クローズ】で収納します。アリシアさんは何か言いたそうでしたがストックしておかねば、いざと言う時に食べれません。ここのお店のクッキーは美味しかったです。
「地下に籠りたい…壮大なダンジョンを作って魔王級の魔道具に防衛させれば誰も来ない筈…」
「辞めておけ、父上が平気な顔をしてダンジョンを荒らすだけだ」
「寧ろ血眼で探すでしょうね」
うん、お父様は魔王とでも平気で戦いそうです。
「落ち着いた…もう大丈夫。魔術師?知らない。二つ名?持ってない」
「無かった事にするな」
お兄様に軽くチョップされました。
しかし魔術師ですか…まあ魔術師くらいは魔法が使えるので良いのですが予定より数年早いです。お兄様とアリシアさんに黙っててもらって国に帰った時に驚かせましょうか。幸い2人もこれくらいならと黙っててくれると言ってくれたのでまあ良いです。苛めとかもお兄様にくっついていれば大丈夫でしょう。
それに魔術師になった得点で図書館の閲覧ランクが上がりました‼これで多くの本を閲覧できますし一部ですが禁書や上級魔法の魔道書も見れます。これは夢が広がりますね。
「もう良い。何かあったらお兄様に助けてもらう」
「任せておけ、お兄ちゃんが居れば怖い事など近づけないぞ」
完璧ですね。ついでにお兄様に近づく小娘共からお兄様のお嫁さんに相応しい人物でも探しますか。条件は他国に情報を流さない。お兄様を裏切らない。私を苛めない。散財しないの4つで十分ですね。きっと学園でもモテモテハーレムを構築してる筈なので候補はいくらでも居ますし、全員駄目でも最悪国内のお兄様ラブなお姉さま方から見繕えば良いだけです。何時までもシスコンを続けて手遅れになる前に先手を打たねば…恐らく私が先に結婚する事は無いでしょう。多分ですがお父様とお兄様がタッグを組んで妨害してる筈です。でなければ今頃婚約者の一人でも出来ている筈です。
「取りあえず禁書を読めるだけ読んでみよう。国に有るのはお母様の妨害で読ませて貰えないし、禁術を用れば魔導…魔道具の性能向上も出来そう」
何やら2人から生暖かい視線を感じます。危うく魔導炉の事をバラす所でしたが私の華麗な言い直しで隠し通せました。魔導炉は安定した魔力発生量が10%でこれ以上あげると即暴走するので制御術式を禁術の術式から抽出する予定です。
「魔導炉…絶対作ってるよな…」
「監視を強化しておきます…恐らく無駄でしょうけど」
「ゴーレムの魔法を習得して国境上に10万体くらい置いておけば帝国も諦めるかな?」
軍を常駐させるには莫大な予算が掛かりますがゴーレムなら問題ない。制作コストも私が作れば問題ないですし最終的にはゴーレムにゴーレムを作らせるファクトリーを建造すれば尚問題ないです。
「怒って攻め込んで来ると思うぞ。どう考えても挑発と思われるだろ」
「そこは最悪ゴーレムの武装をお兄様にあげた剣にすれば問題ない。武装の良さで反応の鈍さを補えば良い。さらに最悪の場合は全部に小型の魔導炉を乗せて傷つけたら大爆発あぶぶぶぶぶ」
アリシアさんにほっぺを引っ張られました。
「自重しましょうね♪国境沿いを穴だらけにする御積もりですか?」
「洒落にならない被害が出るな。と言うか誘爆して全部のゴーレムが爆発するのがオチと見た」
余りの痛さにアリシアさんの耳を引っ張って脱出しました。アリシアさんって耳が4つあるけどどっちで音を聞いてるのか気になりますね。エルフと獣人のハーフなので両方ついてます。
私は痛むほっぺをムニムニとマッサージしながらアリシアさんを睨む。アリシアさんは思った以上にダメージを受けたようで耳をモミモミしている。どうやら対処法はこれと見ました。
おやつタイムも終了したので寮への移動を開始しました。今日中に荷物を運び込む予定なのですが、アリシアさんはあろう事か私の宝物庫に全ての荷物を入れろ、と要求してきたので全て放りこんでから移動です。主の能力に依存しすぎでは?と苦言も言ってみましたが、姫様の能力マジ便利の一言で終わりました。私は運び屋じゃありません。
ついでにお兄様は女子寮に堂々と入ろうとしてましたが門番の女性兵士に止められ渋々撤退しました。バイバイ。
「ふむ、ここは落ち着く。ここにベットを置く」
「お嬢様、そこは物入れです」
ベットを置けば他に何も置けないであろうスペースを見つけたので巣を作ろうとしたら怒られました。部屋は10畳程の部屋が一つと6畳程の従者用の部屋が一つ。それにトイレと小さいお風呂です。どっちも下水道が付いてるのですが少しばっちいですね、改造しても良いのかな?と魔道具用の工具を出したらめっちゃ怒られました。前世のシステムバスを作ろうとしただけなのにどうして怒られるのか分かりません。これはアリシアさんの目を盗んで改造しましょう。
兎に角、明かりがランプだけだったのでLEDライトっぽい魔道具を天井から吊るして、ドアの近くに不審者捕獲用のネット弾を設置。その他の小物も殆どが魔道具に取り換えられました。
「凄い部屋のグレードが上がりましたね。姫様が居ると生活が便利になります」
「泣いて感謝しても良いよ」
「だからと言って認めませんけどね。それと泣く程じゃありません」
アリシアさんはツンデレと言う奴ですね。お父様にはこのライトは要らないと言われましたが理由がこれがあると宰相さんが夜まで仕事を持ってきそうだからだとか。
宰相さんはガチで仕事大好き人間なので放置すると数日間仕事を続けるそうです。何が彼を駆り立てるのか理解出来ません。
しばらくすると窓をコツコツ叩く音がしてアリシアさんが窓を開けました。どうやらソニックバードと言う伝令用の使い魔が来たようです。見た目は普通の鳥ですが恐ろしく早いスピードで空を飛び、指定した場所に手紙を届けてくれます。魔力を食べさせると食べさせた魔力の持ち主を覚えて何処に居ても手紙を届ける有能な鳥さんです。
「どうやら王妃様からの手紙ですね。内容は事務的な物が殆どですが陛下が帰って来いと城の塔に立て籠もってるらしいです」
「早い‼」
何してるんですか‼城の塔って高位貴族や王族を閉じ込める場所ですよ‼何でそんな所に立て籠もるのか全く理解出来ません。
お父様は突拍子もない事を仕出かし過ぎです。これは魔法でちょくちょく戻る必要がありそうです。飛翔の魔法は危ないからと現在使用禁止ですが転移を覚えれれば簡単に帰宅できそうです。現在使える人間はごく少数の転移ですが恐らく私も覚えれる筈です。
「どうしますか?」
「転移を覚えるからそれまで我慢してって書いといて、それと仕事もしないで塔に立て籠もる人は嫌い」
「それなら陛下も出てきますね。……転移を覚える気でしたか」
超便利魔法ですからね。制御用の呪符と併用すれば安全に帰れるでしょう。コストは高くなりますが呪符の代金はお父様のお小遣いから出させれば私に損失は無い。
「取りあえず、明日は授業が終わり次第、図書館に籠る。どうせ変な事とか言って来る人が出るし」
「まあ突っかかって来る馬鹿者は出てきそうですよね。自分の努力不足を人様のせいにしないで欲しいものです」
あの入学式の様子から暫く警戒は必要でしょう。既に決まった事にグチグチ言われても困りますよ。私にどうしろ?と言うのでしょうか。彼等はお兄様に任せ、私は図書館で優雅に読書としゃれ込みましょう。
「それと姫様は授業の半分が特進クラス、つまりは別教室になります。恐らく年齢を考慮しての事ですが、半分は幼等科の貴族クラスに属してます。恐らく一時的な物でしょう。いちお、そこら辺の教育は終わってますからね。無様なマネをしたらマダム・スミス様に報告しますからね」
恐るべき教育者マダム・スミス様。彼女は私にダンスなどの教育を施した王国随一の教育マダムです。傷が残らない魔法の鞭を用いてどんな粗暴な人間も優雅な人に調教します。彼女の授業は短期習得がモットーなので私がこの歳で殆どの教育を終えてるのはそのせいです。そして授業内容は思い出したくもありません。お兄様やお父様もお世話になったそうで頭が上がらないとの事。彼女に教育の成果が無かったと報告されればあの、恐怖の授業が再開されます。恐ろしい…。
「が…頑張る…」




