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閑話2 暗躍する人達と小話集①

 ○○視点


 ここは王都オルトアのスラム街に佇む一軒の宿。基本的に浮浪者が小金を得た時や犯罪者に近い冒険者達が使う宿の一室。そこには数人の男たちが居た。皆黒いローブを身に着け顔を隠している。彼らは皇国と教会が派遣した工作員だ。彼らはアーランドの王女を調べにここまで派遣された工作員の中でも指揮官クラスである。


「王女の特定は出来たか?」


 工作員の幹部が他の者に問う。


「学生だけで5人可能性があります。特定できないように近い年齢の者を同時に送り込んだようです」


「あの伯爵令嬢はどうだ?噂に違わぬ技術を持っている」


 伯爵令嬢アリス・フルールは既に工作員に顔が知られている。余りに王女の噂に近い人物として要監視とされているのだが…


「他の4人と変わらず、アーランドの暗部が付いており工作員が20名殺されました」


 他の候補者同様調べたのだが、他の候補者を調べた工作員同様に全ての工作員が殺され碌な情報を手に入れる事が出来なかった。彼等が無能なのではない。アーランドの暗部はそれだけの実力を持っているのだ。

 アーランド国内に関して言えばそれ以上の防衛体制で噂もかなりデマが多く、王女の特定を難しくしている。それは王女アリスティアが余り表に出ず、最低限の社交的な動きしかないのも情報が少ない原因だ。事実アーランド貴族も王女の事を詳しく知ってる者は少なく、知ってる者は上層部に位置する愛国者ばかりだ。稀に野心を持つ物から少しばかりの情報も入るがアーランドに居る工作員は見つかる危険が大きいため滅多に報告出来ない。


「教皇陛下は捕まえろと仰せだ。何としてでも探し出せ、手段は問わない」


「王女は…そこまで重要なのですか?」


 一人の工作員が問いかける。実際ここ数日だけで50人以上の工作員が殺されたのだ。殺された彼等も一流の工作員であり、50人以上の工作員を殺されれば普通は消極的になる。明らかにアーランドは本気なのだ。彼等工作員の戦力では勝てない程の暗部が投入されているのは明らかでここは一時撤退するべきかもしれない。


「俺達が知る事では無いが、アーランドがこれ以上の力をつける危険性があるらしい。亜人共がこれ以上増長しないようにアーランドは亡ぼさねばならん。それの邪魔をする可能性のある者も排除するべきだ…しかしあの王女は教皇陛下が有用と判断された。教会で然るべき教育を施し、教会の聖女として運用すると」


「成程」


 教会の教育と言うが実際は洗脳だ。薬と魔法、そして暴力で自我を破壊し従順な聖女を作り出す。ここ200年はこうした聖女を作り出して運用してる教会だが精霊魔法の使い手と治癒魔法の使い手を聖女の条件としており、中々良い人材が出てこない。それは精霊魔法の使い手が魔法使いに比べてはるかに少なく、また聖女である為、男には務まらない。故に見つけ次第強引に捕まえる事も多い。抵抗してもいずれは自我が壊れ従順になるのだ、だから適正が有れば誰でも良いのである。


「数年で帝国も動く、奴らがアーランドに侵攻すれば『勇者達』を動員するそうだ」


「あ奴等を‼」


 工作員が湧く。彼らは工作員の中でもエリートであり他の工作員以上の情報を与えられているのだ。そして勇者達とは勇者召喚で呼ばれた者達で現在数百人皇国に居る。彼等は優れた能力を持ち、隷属の首輪を付けられているので皇国の飼い犬だ。

 数十万の軍に匹敵する勇者達の部隊は投入すればアーランド程度直ぐに亡ぼせると教会・皇国は考えているのだ帝国の動きが鈍い為、投入時期を待っていた。流石に勇者達だけを投入するのは危険と判断されているからだ。

 その危険は2つ。1つはアーランド国王の強さだ。かの国王は常に前線で皇国兵や帝国兵を蹂躙し、その名は世界に轟いている。そしてそれ以上危険は王妃だ。あれは化け物に近い。【幸福】と言う固有魔法を保持し、視界内の全ての事象を自分に有利にされる。この2人が出る戦場では皇国や帝国の兵に取って最悪の条件下で国王を相手にしなければならない為、如何に勇者でも分が悪いのだ。

 だが王妃の弱点は既に見つかっている。視界に入らなければ【幸福】の効果が無い事はスタンビートの時に確認されているのだ。故に次の軍事行動が起こればアーランドは滅びると皇国は考えていた。


「それまでに王女を探し出し、皇国に御連れしろ、王女は死なすには惜しい人材だ」


「伯爵令嬢は確かに怪しいですが、あのアーランドがそこまであからさまな動きをするとは思えません」


「つまり罠と?」


 工作員達ですら、身元を探れないのに自ら王女の可能性を出す伯爵令嬢は怪しいのだが、それが彼等を混乱させた。何故そこまであからさまに動くのか?普通なら罠だろう。

 だがこれもある意味情報戦なのだ。ギルバートやアリシアがアリスティアの動きを止めないのは、あからさま過ぎるアリスティアを罠と判断させる為でもあるのだがから。


「可能性は高いだろう。しかし監視を続けるべきだな。子供故に自制が出来ていない可能性もある」


「分かりました。それと気になる話が…」


「言え」


「先日王の孫娘を治療した魔法使いを手に入れようとした枢機卿と助祭及び教会騎士が消されました。その魔法使いは冒険者で候補者達がここについたのと時を同じく行動を起こしました。登録名はホロウと名乗ってるそうです」


 幹部は少し考える。アーランドの王族が冒険者になるのは知られている事だ。今回の事例もそれに合致している。王女アリスティアが慈悲深いのはアーランドでは有名で、自分が倒れる程の治癒魔法も平民の為に使う事があるのだ。当然報酬は無い。


「そちらまで手は出せん。工作員の補充は10日後だ、それから調べよう」


 多くの工作員を失った現状で冒険者まで手を伸ばす事は出来ない。恐らく候補者だろうが、人手が足りないのだ。探れば探る程工作員を殺されるので補充が来るまで後回しにする事になった。





 帝国視点


 こちらは帝国…正式名称をグランスール帝国と言う。そこの帝都の中心、つまり帝城のさらに中心にある謁見の間のとなりの会議室。そこには豪華絢爛な衣裳を着た皇帝と帝国幹部が今後の事について話し合っていた。今回の議題は秘密である為、謁見の間は使われていない。


「シルニア共和国の残党もそろそろ終わるでしょう。他もそこまで時間が掛からずに抵抗も辞めるかと」


 宰相が国内の状況を報告する。シルニア共和国は帝国の東に有った小国で帝国の侵攻により現在帝国の一部となっていたが帝国領になっても反乱などが多く、帝国が動けない要因にもなっていた。これは他の帝国領でも多く、抵抗活動は侵略で広げた国土の多くで起きていた。しかし第一騎士団に入ったある男の指揮の元、抵抗活動は武力をもって鎮圧され抵抗活動は弱まっていた。しかし帝国は大陸の中央にあり多くの国を侵略して国土を広げた為に敵国は多い。


「憎きアーランドを亡ぼせば他の国も迂闊に動けないでしょう」


 大臣の一人が言う。その顔には明らかな欲が浮かんでいる。

 アーランドは多くの鉱山を持った国だ。多くの他種族と共存し彼らの力と王家の力で発展しており、小国でありながら500年以上も帝国の侵攻を止めている。しかし帝国とアーランドの中間にあったケルプ多種族連邦は帝国に敗れ滅びた。その際に連邦上層部が多くの他種族をアーランドに亡命させ、アーランドとの国境付近の穀倉地帯をアーランドに与えた為、帝国は碌に得る物は無かった。得たのは人の少なく荒れ果てた領地だけで戦費の補充すら出来なかった。当時の帝国軍も穀倉地帯を手に入れようとしたがアーランド軍の強さは神がかっており返り討ちにされている。

 だが時代が動き、帝国軍はさらに数を増した。帝国内の不穏分子ももうすぐ一掃されるだろう。先ほど発言した大臣はアーランド領に面した場所に領地を持っており、侵略出来れば領地が広がるのだ。

 それだけでは無い。アーランド自体、国際社会に出ないが多くの国に武器や防具を輸出しており、反帝国の御旗になる可能性が有った。

 実際にアーランドが反帝国を掲げ帝国に攻め込めば呼応して他の国も帝国に攻め込むだろう。それだけの強さと影響力のある国なのだ。

 無視できる国では無い。しかもかの国に住む住民の全てが帝国を嫌っている。何時の時代もアーランド脅威論は帝国内に有った。


「帝国による大陸統一。それこそが我が先祖の悲願。これは帝国の前身であるグラン王国から夢だ。かつてグラン王国は魔道戦艦を保持し後一歩で大陸を統一するまでに至ったが統一は出来ず今ではかつての国土で多くの国が出来た。だが大陸の覇者は帝国である」


 皇帝の言葉に周囲の人間が頷く。彼らは自らの私腹を肥やせればいい。そして皇帝もそれを理解しているのだ。従えば利益を与える。そうすれば貴族は従うのだ。倫理や正義感を持っている物は少ない。彼等は所詮侵略者であった。しかもアーランドは多種族国家だ。教会の教えが深い帝国では亜人等、奴隷であり犯そうが殺そうが自由である。


「帝国内の不穏分子を排除次第、全軍を持ってアーランドに侵攻するものとする‼各自は準備を始めよ‼帝国軍と皇国軍の連合軍、総数300万でアーランドを攻め滅ぼせ‼」


 始まるのは破壊か、それとも破滅の道か。帝国は動き出す。動き出した歯車は決して他の歯車と噛み合わない。それはこの大陸に不協和音を奏でるだろう。






 とある騎士の日常



 ここはアーランド王国の王都練兵場。ここでは日々騎士や兵士が訓練に励んでいる。槍や剣や弓、己に合った武器を使い、自分自身を鍛え、来るべき戦いに備えているのだが今日は少し空気がどんよりとしていた。


「姫様が留学か~もう少し先だと思ってたんだよな」


 まだ若い騎士見習いが剣を振りながらぼやく。


「まあ王国の学園より進んでるから留学は仕方ないさ…だがもう少し先だと俺も思ってた」


 近くの兵士が呼応してぼやく。今日は騎士達や兵士達のやる気が低いようだ。幸い指揮官級の者は居らず自主訓練に近い。今の会話が上官に聞かれていたら確実に地獄の訓練を課されるだろう。王国軍の訓練はそれほどに厳しいのだ。


「嗚呼…暫く姫様に傷を治して貰えないんだろうな…」


「畜生‼俺はまだ話した事も無いのに‼」


 ここの兵士達は色々と終わっているようだ。


「暇があればあそこの木陰で本を読みながら怪我を治してくれたんだよな…」


「ああ、治療師の治癒魔法より効きが良いんだぜ、治療師の治癒魔法じゃ傷が残るが姫様は直ぐに傷跡も無く治してくれる。しかも治して貰ってる時、すげぇ暖かく感じるし」


 兵士や騎士見習いはアリスティアに会いたいだけのようだ。確かにアリスティアが練兵場に来る事は多い。それは貴族が騎士達に嫌味を言って来る程で密かに騎士達の癒しになっていた。ついでに傷も癒して貰っていたが。


「うちの姫様は無表情だが優しいしな。他の国だったら結構我がままらしいぜ、この国に生まれた俺達は恵まれてるぜ」


「これで攻め込まれずに平和を謳歌出来れば文句無しなんだがな」


 兵士たちは剣を振りながら会話を続ける。もし振るのを止めてサボってた時に上官がこれば死を覚悟する訓練に昇華するからだ。剣を振っていれば上官が来ても会話を止めれば良いと狡賢い考えを持っていた。


「でも…やっぱり姫様も戦場に出るのかねぇ」


 兵士や騎士の懸念。それは王女が戦場に出る事だ。当然国の上層部も出したくはないが有能なので場合によっては戦場に出る可能性がある。それは騎士達には耐えれない苦痛なのだ。

 騎士達は王家を慕っている。常に苦境に身を投じ、今では王族が断絶の危険性も出ている。騎士達の力が足りない訳では無い。歴代の王達が王族が自然と国を愛し、国の為に戦場に出る為だ。前線で兵を鼓舞し常に勝ちを取って来た。その代償が現状だ。

 そして騎士や兵士も気が付いている王女もまた同じなのだと。無表情ながらも国の未来を案じている。侍女に見つからないように剣を振っているのも稀にだが騎士達は見ていた。恐ろしい程に才能が無かったが。


「出るんだろうな…でも姫様って争い事全然だよな…泣くんだろうな」


 無力感。自分達の力だけじゃ国を護れず王族を犠牲にして来た者達の嘆きは強かった。それだけに国の為に命を差し出すのに躊躇しない。彼等も誇りを持っているのだ。彼らの中には帝国に敗れれ帝国領に編入された国の出身者も多い。そしてその後にそこがどうなったかも。

 彼等が恐れるのは戦場に溢れる狂気と慟哭だ。優しい王女は義務感も強い、しかしそれに耐えれる器は無い。彼等はそこを的確に理解していた。戦場に出れば心を砕きつつも戦うかもしれない。それは王家を心棒する者達には耐えがたい事でもあった。


「俺達がもっと頑張るしかないだろう。少しでも平和な国になるようにな」


「そうだな…それに姫様に何かあれば陛下と王太子様が怖いしな‼」


 国王と王太子はある意味、恐怖の代名詞だ。あの2人は王女に内緒で国の掃除を行っている。王女に反逆をそそのかそうとするものが何時の間にか消えてる事も多く、気が付いていないのは王女くらいだろう。反逆を阻止するのは当然だがある意味粛清であるのだ。


「怖いからその話はよそう…噂をしたら陛下が来るかも知れん」


「だな、さて鍛錬だ‼」


「一つ、王国の為、二つ、民の為、三つ、姫様の為」


 彼等は今日も剣を振る。掛け声の三つ目が色々とおかしいが真剣に剣を振り己を鍛えていた。

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