34 お兄様とお買い物③
甘味禁止だって?よろしいならば戦争です。私は腰から杖を抜くとアリシアさんに向ける。どうやらおじさんは私が魔法使いなのに気が付いて居なかったみたいです。さっきの【ヒール】も混乱で私がやったと思ってなかったのでしょう。直ぐに私から離れました。離れても逃げようとしないのがおじさんの良いところだと思いますよ。約束を守る人は好感を持てますね。
「何の御積もりですか?」
「アリシアさんを倒して甘味を手に入れる。私はアリシアさんより強いんだから」
すーっとアリシアさんの目が細くなる。体中の毛がブワっと逆立ち尻尾に至っては倍以上に膨らんでいる。
作戦は簡単です。アリシアさんを抑え込み、あの膨らんでる至宝に取り付けば私の勝ちは揺るがないでしょう。
「お嬢様は私よりお菓子の方が大切なのですね」
「…ぬ…」
若干寂しそうな顔に私の胸がズキリと痛む。しかし甘味を失えば生きてはいけない。唯でさえ小食で食べるのが苦痛気味なのです。少量で幸福を感じれる甘味は黄金に匹敵します。
「何で…何でいじわるするの…」
「決闘の一件の罰です。お嬢様に効果的な罰は研究資料や素材の没収ですが、どうせあれの中に隠してるでしょうから、今回はお嬢様の楽しみにしてるお菓子を没収します。ご自身の至らなさを恨んでください」
決闘の一件を許してくれていなかったアリシアさんは…あろうことか私のおやつを没収すると言う暴挙に出たようです。ですが甘い、甘すぎます。まるで甘さだけを追求して王家御用達を解かれた菓子店(犯人は私です)のような甘さです。私は買えなくても既にお菓子は持っている。
どうせお金はもうありません。さっきおじさんにあげたお金は、私の手持ちでは全財産なのでアリシアさんがノーと言えば私に使えるお金は無い…あってもお金を出した瞬間に奪われるでしょう。しかし‼アリシアさんは分かって無い。宝物庫は私にとっての宝物庫なのだ‼つまりそこに至高のアリシアさん作のクッキーが数百枚は保管されている事を‼毎日毎日、もっと食べたいのを我慢していざと言う時の為に蓄えた非常用お菓子がある事を。そして現在【クイックドロー】で出したクッキーをもぐもぐと食べてる事をね。
「アリシア落ち着け。アリスはあれにお前の作ったクッキーを入れてるらしいぞ。よく見ろ、既に食べてる」
「むきいいいいいいいいいいい」
私からクッキーの入った袋を奪おうとするも【クイッククローズ】で瞬時に宝物庫入りしてしまうのでアリシアさんは私から甘味を奪えなかった。全く愚かですね。あんな便利な物があるのですから私がそこにお菓子を溜めこむのは当然でしょうに。まあ、あんなアーティファクトにお菓子を隠してるのは世界広しと言え私だけでしょうね。
「もぐもぐ…ゴクン。やはり至高の美味しさ。アリシアさんが自由にお金を使わせてくれればもっと色々と買えるのに」
「まだ自由に使えないのか?」
「お嬢様は一度、全財産を使い込んだんですよ。それで当主夫妻様に私が管理するようにと言われたんです」
失敬な。私は研究に必要だった鉱物を買っただけです。魔道具を作れるので作った魔道具を国に売ってお金を貰ってるのですがいくら貰ってるかなどアリシアさんは教えてくれなかった。しかも一々作るのが面倒になって設計図ごと売るようにしたらかなりの資金が貯まったらしいのです。それは本来、私が将来作る公爵家の運用資産になるのだろうと両親は考えていたらしいのですが、五侯爵の一人でドワーフのグランツさんに買えるだけ売ってと速攻契約書にサインしただけです。確かに良い物を買いました。
「…………どれだけ使ったんだ」
「……せんまい…です」
「何?」
「金貨3千枚です」
「っは‼」
ほほう、何やら送られてきた鉱物が多いと思ってたらそれだけ持ってたのですか。まあ魔道具の設計図を売るなんて魔道具職人は絶対にしません。普通は秘伝なので高く売れたと言う事でしょう。私も驚きましたがお兄様はさらに驚いていた。
「何でそんなに金を持ってるんだ‼」
「お嬢様があろう事か魔道具を作るのをめんどくさいと仰って設計図毎売りに出したんです。しかもどれもが市販の物より安価かつ高性能の物をですよ、安いくらいです」
魔法式の無駄な部分の削除とか魔道具の部品の簡素化をしたらかなり簡単に作れるようになりましたね。恐らく真似出来ないように歴代の魔法使いが魔法式を弄って滅茶苦茶にしたのでしょう。私はそれを元に戻しただけです。
「…それで、それを全部使い込んだと…何に使えばそんな大金を失うんだ」
「全部、新しい魔道具の材料…主に鉱物に変わりました。私がお茶の代わりを用意してる隙に全財産と等価の鉱物の取引を行ったのです。お嬢様の立場上、一度行った取引をなしには出来ないので一気に無くなりました」
主に1年前ですね。学園に入る前に作るぞー‼と色々してた時です。
「じゃあ、今じゃ無一文?」
お兄様が信じられないと言う顔でアリシアさんに問う。失敬な‼また稼いだもん。
「いえ…遠見の水晶を依頼され、遠見の探索眼を設計図毎売ったので前以上です」
遠見の水晶は性能が悪かったので【サーチ・アイ】と言う魔法で疑似的に作った眼を使い周囲を確認する魔法を応用して、使用者が見たい場所をより詳しく見れる魔道具を作りお父様に売り払った。留学とは物入りなのです。
「依頼品と成果品が別なのか…」
「性能が依頼品より上なので文句は言えないのでしょう」
粗末な作品を作る趣味はありません。私は常に全力で最高の物を作ります。あれだって精霊先生達に5回も駄目出しされて出来た物ですから。まあそこそこの出来ですね。
ちなみに、あれの元ネタはスパイ衛星です。いや~魔法があれば大抵の物が作れるので私も楽しいです。
「所で、武器屋は良いのかい?」
……あ。
と言う訳で武器屋に来ました。
一軒目
「見ろアリス、オリハルコンの剣が置いてあるぞ‼」
「お兄様、それはオリハルコンじゃない紛い物」
武器なんて使えれば何でも良いがお父様の実家の考えらしく、お兄様も同じ考え方になってしまっています。
ちなみに何でも良いとは戦場に出ればいくらでも武器は落ちてるので壊れればそこら辺から拾って使えと言う事らしいです。きっとお父様の一族は戦闘民族なのでしょう。私はお母様似なのでそんな物騒な思考は持ち合わせておりません。なにせ、壊れない武器を作れば良いが私の考え方なのです。お父様は伝説級の戦鎚をダンジョンでゲットしてからはずっと使ってるので武器は問題ないらしい。だけど昔、お母様との決闘で戦鎚にヒビを入れられた事があると言ってました。伝説レベルの武器もお母様には勝てないらしい。
2軒目
「これなんかどうだ?ミスリルの剣だ‼」
「装飾が多すぎて余計な重量と耐久力が低い」
いかにも貴族が喜びそうな剣を掲げるお兄様。絵本の題材としては良いでしょうね。でも、その剣に実用性はありません。剣の全体に色々な模様を彫り込むのは見栄えが良いですが強度を犠牲にし過ぎです。それじゃあっと言う間に剣が折れて使い物にならないでしょう。それは贈呈用や観賞用の剣ですね。
3軒目
「これならどうだ‼見事な作りだ、武骨だが職人の腕の良さを感じられる」
「良い剣だけどそれ鋼製、お兄様の使う剣には相応しくない」
匠の技とも言える名剣を見つけましたが残念ながら素材が駄目、前の世界と違ってオリハルコンとかミスリルとかアダマンタイトのあるこの世界で鋼はそこまで良い素材じゃありません。お兄様の剣なら最低、ダマラカスか属性鉄クラスじゃないと私は認めません。
4軒目
「これならどうだ―‼」
お兄様が掲げるのは明らかにダークなオーラを出してる剣。柄の部分に血走った眼があり、剣の全体を黒い鎖で縛れながらも嫌悪感を感じるオーラを出しています。これはきっと、魔王とか四天王が持つ武器でしょう‼何で町の武器屋にあるんですか‼しかも武器屋のおじさんも明らかに正気を失って「旦那が次の主でさぁ、こいつは血に飢えてる、さあこいつを使って混沌とした世界を…」とか言ってます。これは教会がしっかり浄化するべき事故案件です。
「…今すぐそれを離して。それは人が持つべきアイテムじゃない。絶対に呪われてる」
仕方ないので私が買い取りました。アリシアさんが反対しましたが町の武器屋に置いて良い剣じゃ無いのです。渋々お金を出すと自分が封印すると言うアリシアさん(魔剣により錯乱中)から魔剣を奪い取り、魔力の過剰供給で魔剣を気絶させる?動かなくなっても私に対しても精神支配を行おうとしてきましたが精霊の加護を持つ私を支配等出来ず、私が普段竜杖を封印するのに使ってる聖骸布(魔道具)にグルグル巻きにして【クイッククローズ】で宝物庫に隔離しました。
「「「っは‼」」」
魔剣が消えると案内のおじさんも含めて全員が正気に戻りました。錯乱してても記憶などは飛んでい無いようで、お兄様なんかは剣に負けた‼と落ち込んでいました。私は私でサンプルを手に入れられホクホクです。後で解析しつつ二度と人様に悪さできないように魔改造してしまいましょう魔聖剣とか面白そう。
5軒目途中
「あ~……」
「お嬢様?また散財する気ですか?何度も何度も少しは反省してくださいよ‼お金は有限なんです‼」
「また稼げばいい。何ならいくつかの作品をお父様に売れば良い」
5軒目の武器屋に行く途中に鉱物の商いをしてる商会を見つけフラフラとそっちに行こうとしたらアリシアさんに捕まりました。ミスリルの格安セールが~。きっと近くの鉱山で鉱脈を発見し、ガッポガッポミスリルが出たのでしょう。安いです。ここで資金を全て注ぎ込めば一杯素材が買えます。
「絶対に駄目です‼そんなんだから自由にお金を使わせられないんです」
「納得できた」
くそう、お兄様なら理解してくれると思ったのに‼お兄様だって武器や防具の為ならお小遣い全部使う癖に‼酷い裏切りです。それにアリシアさん?私が稼いだお金を何故使えないのですか?いいじゃん、また稼ぎますし。
私のお金を自由に使えない、総額も教えてくれない…理不尽です‼
5軒目
「駄目だ‼ここには良い物が無い」
「私も無いと思う…置いてあるの中古品ばかり」
「お嬢ちゃん、この国は物騒な国じゃないんだ…流石に王都にはこれ以上良い武器屋は無いぞ。まあ後は闇市くらいだが…お嬢ちゃん達にはちょとな、それに俺も何処でやってるか分かんねぇ」
闇市はちょっと…出所が怪し過ぎますし、元の持ち主の怨念が籠った武器とかに出くわす可能性もあるので却下です。
「まあ平和な国だからな、これ以上はそう出てこないだろう。今日はここまでで良い、報酬は渡したからそれで娘さんを助けてやれ」
「すまなかった。もう二度とこんな事はしないと約束する。君達に受けた恩を忘れず、君達に恥じないように生きるよ」
おじさんは私達にお礼を言って去っていった。
「アリシアさん変な事しないでね。もし、何かしたらもう信用しないから」
「…本当に良いのですか?今日初めて会った人ですよ?法に則れば死刑です」
「偽善って言っても良い、でも何もしない人にはなりたくない」
まったく会った事の無い人の為なら躊躇う、でも会って話した人ならどうしても助けたくなります。お金もいくらでもあるので3枚くらい減っても惜しくないと言うのが私の考えです。嘘だったら悲しいですが、もし本当なら悲しい思いをする人が減ります。家族は一緒に居るのが幸せですから。
「所でさぁ、私の剣はどうするんだ?私は別にこのままでも構わないのだが」
「絶対に許さない」
 




