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33 お兄様とお買い物②

 買い物に出て30分。

 私は知らない人に荷物のように脇に抱えられて運ばれてました。新手のタクシー的な物でしょうか?

 薄汚れた服を着た少しやせ気味の人が私を抱えて必死の形相で走ってます。確かに子供とはいえ、人間を運ぶのは大変でしょう。江戸時代の籠?でしたっけ?あれみたいに2人で持っていけばもっと楽そうなのですが収入を考えると一人が一番稼げるのでしょうね。


「あ、そこ右でお願いします。確かそっちに武器屋があったと聞いてるんですが」


「何言ってるんだ?右に行っても武器屋は無いぞ?ロムルスの武器屋なら左だ‼」


「そうでしたか、ありがとうございます。では左でお願いします」


 優しい人ですね。悪い人なら迷った振りして運賃を巻き上げようとか考えそうですが素で道を教えてくれました。私は抱えられながら頭を下げてお礼を言います。感謝の気持ちは重要ですよね。


「君は自分の状況を理解してるのか?」


「?」


 信じられないと言う顔で私に聞いてくるおじさんに私は何を言ってるのか理解出来ませんでした。タクシー的な人じゃないんですか?だってさっきの曲がり角も左に曲がって武器屋の方に向かって走ってますし。

 む‼後方から砂塵を確認。あれはお兄様とアリシアさん、何やら物凄い形相で既に剣を抜いて走ってきます。街中で抜刀するのは危ないから辞めるべきだと思います。


「おにーさまーアリシアさーん、武器は街中じゃ抜いちゃ駄目だよー町の人が怪我する危険があるし騎士団の人達に怒られるよー」


「だまらっしゃーい‼そこの男‼うちの妹を返さんかぁ‼」


「お嬢様は誘拐されてるんですよ‼少しは抵抗してください‼」


「人聞きの悪い事を言っちゃ駄目だよ‼私をロムルスの武器屋?まで運んでくれてるんだよ‼」


 失敬な身内ですみませんねとおじさんに謝ると汗を拭きながら気にしてないと笑うおじさん、心が広い人で助かりました。それに比べてお兄様とアリシアさんはいけませんね、初めて会った人をいきなり批判するのは良くないと思います。私の中で2人の好感度がぐんぐん下がっていきます。あの2人は後でお説教ですね、慈悲は無い。

 すると何をとち狂ったかアリシアさんがククリ刀みたいな剣を投擲してきた。ブーメランのように回転するアリシアさんの剣があろうことかおじさんの膝に当たり(恐らく刃の部分じゃ無い)膝カックンする形になりました。私を抱えたまま転がるおじさん。私はとっさに私とおじさんに【プロテクト】を掛けたので膝以外に怪我は無いと思います。そしてアリシアさんは私を怒らせた。

 おじさんは何度か転がると私を離しました。怪我は軽傷ですね。まずはアリシアさんに謝罪させ主として私も謝罪しなければ、全くこんな親切な人に刃物を投げつける何て、私はそんな凶暴メイドに育てた覚えはありませんよ‼


「アリシアさん‼親切なおじさんに何てことをするの‼直ぐに謝って‼」


「だまらっしゃい‼そこの男‼動けば殺します」


 周りに居た人達がおじさんを押さえつける。何か、見た事のあるような人が何人か居る気がしますが気のせいでしょうか?おじさんも特に抵抗はしてません。当然でしょう、だって悪い事をしてないのにいきなり押さえつけられたら混乱してもおかしくはありません。


「アリス、知らない人間に付いて行ってはいけないんだぞ。ここはアーランドの王都じゃない、あの男は親切で君を運んでたのではなく君を誘拐してただけだ」


「…そうなの?」


 う~ん、判断が付かない、だってあのおじさんは別に剣やナイフを突きつけた訳でもありません。行き成り脇に抱えられたのは驚きましたが縛られても無いですし私から杖を取り上げた訳でもありません。誘拐犯なら普通は身動きが出来ないように縛るなり脅すなりすると思うのですが。

 おじさんは抑えられたまま動かない。お兄様の発言に反論すらしない。


「何処か怪我してませんか?手荒になってしまい申し訳ありません。しかしこのままだとお嬢様が…少しは抵抗してくださいよ‼お嬢様なら普通に逃げれたでしょう‼」


 アリシアさんは私の服の埃を落としながらあっちこっち触って怪我が無いかチェックしてる。別に私は怪我をしてません。服が少し汚れた位ですね。

 しかし解せません。いくら私でも誘拐を誘拐と認識出来なければ抵抗も何も無いでしょう。周りの様子から私が誘拐されていたのは事実みたいですがおじさんはそこまで凶悪な顔をしてませんでした。どっちかと言うと普通?の人ですね。


「うん、ごめんなさい。しかし私を誘拐するとは…」


「アリスは他人を警戒する事になれていないからな。これは私やアリシアの責任だ、余り君が気にする事は無いが…クック、まさか…自分が誘拐された事に気が付かないとは…フフ…」


 瞬時に顔が火照りました。恐らく顔中が真っ赤になってるでしょうね。恥ずかしい、誘拐なんて初めての経験でまさか自分がされるとは思いませんでした。普段は騎士の人が近くでこっそり見てたり、お父様がストーキング(お父様はモロバレです)してるので何かある前に誰かが助けてくれました……所で……


「バッサルさん。娘さんはお元気ですか?」


「え、いえ、はい元気ですよ、もうすぐ3歳なんです……っは‼」


 はい確定、どうやら騎士の人が何人かついてきてますね。バッサルさんは1~2年前に一度会話した事があるので覚えています。真面目そうだった彼が今では浮浪者のような格好をしてるのは私にばれないようにしてたのでしょう。他にも数人知ってる人が居ます。

 知ってる騎士や兵士の名前を言うと、言われた騎士や兵士とお兄様とアリシアさんはあちゃーと言う顔をしました。変な貴族の顔と名前を憶えないのは意図して覚えていないだけで覚えようと思った人は生まれてすぐに会った司祭様の顔と名前まで憶えてるんですよ。


「ふっふあははははは。やっぱりばれたな、私も無理だと思ってた」


「他にも居たと思ったけど逃げられた。暗部?っていう組織の人?」


 そう言うとアリシアさんとお兄様の顔が青ざめた。


「何処で知った‼」


「全て話してください」


「生まれた時にお父様が私につけるみたいな事を言ってた。多分国の為に悪い事をする人達なんでしょう?」


 余り考えなかったが最初からその存在は知っています。これはお父様の過失ですね。

 別に暗部の人を否定はしませんよ。出来れば無い方が良いとは思いますが悪い事をしてでも国を守るのが国家ですからね。向こうの世界も似たような物ですので否定は出来ない…出来れば真っ当に生きて欲しいです。


「……平気なのか?」


「悪い事でも…国の為で私情は入って無いのでしょう?出来れば無い方が良いと思うけど無理を言って無くしても独善だし」


 そう言って私はおじさんの所に行き【ヒール】を掛ける。手加減されてたのでしょう。軽い打撲だけなので直ぐに治りました。


「…すまなかったね」


「事情を聴いても良いですか?」


 どう見ても悪い事をする人じゃないおじさんが気になり事情を聴いてみるとどうやら娘さんが悪い病気になってどうしても金貨3枚が必要だったらしい。私をさらってお兄様から身代金を取ろうと考えての行動だと自白しました。しかも治療魔法の聞かない病気らしいので私にも治せません。

 幸い薬さえ飲んでゆっくり休めば治るらしいのですが平民のおじさんに金貨1枚(確か100万円)しか用意できず、私を誘拐したのだと。特に計画なども無く、貴族が止まる宿の外に居た私の身なりが良かったので咄嗟にさらってしまった自供しました。


「お兄様、おじさんをどうするの?」


「騎士団に引き渡すしかないだろう。他国の貴族階級を誘拐したんだ。処刑されても文句は言えまい」


 ですよね。でもそれだと娘さんも死なせる事になってしまいますね。うーんそれは寝起きが悪い。


「じゃあ今日一日、町の道案内として雇います。【クイックドロー】」


 私は宝具、契約の宝物庫から自分の手で持てる物を引き出せるショートカット機能(鍵の機能なので魔法では無い)を使い、倉庫内にある真のお小遣い――私の所持金は現在アリシアさんに管理されてるので自由に使えない。から金貨3枚を取り出しておじさんに渡す。おじさんはあっけにとられていた。


「娘さんには悪いですがそこまで急に病状が悪化する訳じゃないのですよね?今日一日、私達を道案内すれば報酬としてそれをあげます」


「良いのか。これは君が考える以上の大金だぞ…俺に言える事ではないが・・・しかも多いし」


「別に良いですよ。それは私のお金ですから。他の人に何か言われる筋合いはありません」


 おやつを秘密裏に入手する為に溜めてたのですが【クイックドロー】【クイッククローズ】を発見した時点で安定してアリシアさん作のクッキーを溜めこむ事が出来るので買う事が無くなり、そのまま宝物庫の片隅に置かれてた物です。


「何処から…あれか」


「お嬢様…何でお金持ってるんですかね?全部私が管理してるのに…計算にミスは無いはずなのに」


 宝物庫の事を知ってる2人は私がいきなり金貨を出した事には驚きませんでしたがアリシアさんは私がお金を持ってる事実を見逃しませんでした。私は王族で偉いから触る必要は無いと言うアリシアさんは私の個人資産を全て管理しています。なので私もお金を触った事があまり無い。前に猫の貯金箱を陶器で作ってじゃらじゃらして遊んでたのですがあれだと直ぐにいっぱいになるとかで何処かに運ばれて以降私はいくら自分が使えるのか知りません。使う時はアリシアさんに足りるか聞くだけですし聞いても足りない事はありませんでした。

 貴族の人と同じく私も貯金は好きです。しかしお金は必要としてる人が持つべきでしょうし持ってても使い道がないお金は報酬に出しても問題は無い。


「分かった。君の依頼を受ける。俺には拒否する理由は無いしな。その後は騎士団に引き渡すなり好きにしてくれ」


「別に引き渡さないけど」


 情状酌量の余地がありますし今後悪い事をしないのなら騎士団に引き渡す必要は無いでしょうと言うと高速で首を上下させるおじさん。


「いや、良くないだろう。こういう前例は作るべきじゃない」


「そうですよ‼」


「誘拐事件なんてあったっけ?」


 その後、食い掛かるように怒る2人と事件は何も起こって無いと言い張る私、そして困惑するおじさんの4人で10分程お話をしたのですが、気が付いたら護衛をしていた人達は居ませんでした。恐らく既に危険は無いと判断したか、これ以上私に顔を覚えられないように逃げたかのどちらかでしょうね。まあ危険は既に無いですし、私に何かあればまた何処かから出てくるでしょう。今回のお礼はその時に言いましょう。


「武器屋の前に喫茶店でおやつを食べよう‼おじさん、この近くに美味しいお菓子を置いてるお店はありませんか?」


「5分くらい歩けばあるけど…良いのか嬢ちゃん」


 おじさんは未だに納得していない二人を見てるけど、私は既に疲れた。ならば甘味を取らねば動く気すら無くなりアリシアさんの前で隠してたクッキーを食べる羽目になるでしょう。ばれたら怒られます。アリシアさんのお菓子は大変美味しいのですが、アリシアさんは極度の出来たて主義なので保存してたクッキー…しかも自分の物は絶対に出さない。持ってるのを知られればまた五月蠅くなります。まあ甘味が尽きれば普通に食べますけどね。


「聞いてますか?聞いてますよねお嬢様~」


「諦めろ。既に興味を失ってる。アリスの頭の中にはお菓子の事しか考えてないだろう」


「っあ、お嬢様、お茶を嗜むのは良いですが甘味は暫く禁止ですよ」


 何ですと――――――‼


アリスティアは対外用に丁寧な言葉使いもしますが嫌いな人間や身内と判断した人には素の状態で会話しますので言葉使いは割と変わります

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