343 突撃隣の大監獄
監獄ナウ。どうもアリスティアです。
仮面のケモナーとしてシャハール王国の王都を堂々と闊歩したら5分で捕まると言うミラクルを経験した。
いや~衛兵が出合い頭に跳び膝蹴りをしてくるとは恐れ入る。クリーンヒットした風に受けて気絶した振りをしたら、監獄に収容された。
「この仮面取れねえ! 」
「あだだだだだだ! おい止めろ。それはお前じゃ外せない! 」
現在仮面を剥ごうとしてくる男に抵抗中だ。
この仮面私以外じゃ外せない呪具でもあるんだ。いや、私以外というか、ケモナーしか外せない。つまりお前じゃ無理だ。
どうにもシャハール王国の人達は私の素性にとても興味があるらしく、監獄で拷問を行うらしい。
馬鹿だなぁ。アーランドじゃアリスティアにやってはいけない50ヶ条の一つは決して閉じ込めてはいけないって有名なのに。
私は引き籠るのは大好きだが、閉じ込められるのは大嫌いで有名だ。閉じ込めると無意識で部屋を爆破して逃げると言う悪癖持ちだぞ。
現在私は隷属の首輪を付けられ、鎖付きの手錠をハメられて吊るされている。
「お前は何者だ。この国の人間じゃないだろう? 」
「何でそう思う? 」
「貴様の情報が無いからだ。我々を甘く見るなよ。貴様等テロリストの情報は粗方入手している」
ほほう。中々の諜報力じゃないか。
「抵抗は無駄だ。この監獄から生きて出られた者は居ない。ここはグラム大監獄。難攻不落の収容所だ」
「じゃあ、私が初の脱獄者か」
「何をグハァ! 」
私は背後から男にスタンガンを撃ちこむ。
「残念だったね。それは本体だ」
背後からスタンガンを撃ち込んだのは分身だ。
私は体を振ると、ブランコの様に勢いを付けて、そのまま手錠に足を掛けて、手首を動かして手錠を外す。じゃないと外した瞬間に落ちるからね。
手錠を外すと、そのまま態勢を立て直して安全に降りる。
「ん~安物の手錠だ。ついでに隷属の首輪も安物」
「私を捕らえるには力不足だね」
私は首に着けられた隷属の首輪を掴み、魔力を流す。
パキと言う音と共に隷属の首輪が2つに割れた。
高魔力対策も出来んのかこの国は。
私は通常の魔導具が殆ど使えない。いや、正確には使えるが、自身の魔力で壊れない様に細心の注意が必要だ。実際隷属の首輪の様に私的にはほんの少しでも、魔導具の許容量以上の魔力が流れ込み、破壊してしまった。高圧電線に100v家電のコードを直結するような物だ。
そもそも隷属の首輪は圧倒的各上の存在を縛る力は無い。例えばドラゴンだ。特に純正竜と呼ばれる属性を持ったドラゴンは縛れない。人間だと魔導士がそれに該当する。お母様レベルだと、まずレジスト出来る。それを圧倒する魔力量の私を縛れる道理はない。
私は背伸びをして、関節をポキポキ鳴らす。
「さて、始めようか。全部の門を抑えて誰も逃がさないよ」
「「「りょうかーい! 」」」
宝物庫から分身が数体出てくると、魔法で姿を消しながら牢屋から出て行った。因みに扉の前の牢番は瞬殺された。
(あいつ等……やっぱり姿が変わってる)
宝物庫の中に居た時は同じ容姿だったのに、出た瞬間エクス〇ンダブルズになっていた。
アリシア視点
「貴様も無能な飼い主に飼われたな」
アリシアもまた危険人物として捕まっていた。
最もアリシアは隷属の首輪(偽物)を装備していた為、仮面のケモナーの所有物と言う扱いだった。その為、それほど重要視はされていない。
何せ隷属の首輪をつけているのだ。大した情報を持っているとは思われなかった。
但し、アリシアを牢屋に放り込んだ男は違う視線を彼女に向けている。そう情欲の視線だ。
アリシアの服装は一般的なメイド服だが、そのプロポーションは抜群だ。でる所はしっかりと出ている上に、腰は細い。体つきだけなら一流の娼婦すら劣る。
最も仮面を付けている為、その美貌は誰も解らない。そしてこっちも外せなかった。
「良い体してるじゃねえか。これはじっくりと尋問が必要だよな」
ニヤニヤと嗤う男達。
「仮面で顔が分からねえが、まあ大方ブスが傷物何だろうが、その仮面で見えねえし、問題ないだろう」
「おいおい勘弁してくれよ。口が使えないじゃないか」
「仮面剥いで化けもんだったらどうするんだよ」
とてもゲスイ男達だ。元であっても、一流の諜報員であったアリシアなら、この程度の拘束を解いて、目の前の男達を八つ裂きにするのは容易い事だ。
しかし、この牢獄に入れられた過程で、アリスティアとは別の場所に収容されてしまった。
アリスティアは危険なテロリスト故に監視レベルの極めて高い場所に送られ、アリシアは慰安の為の場所に送られたのだ。
(さて、この屑共をどう始末しますか……それにしても静かですね)
アリシアは疑問だった。この監獄に送られて既に2時間が経過しているが、爆発音一つしない。
アリシアはアリスティアが赤ん坊の頃からの付き合いだ。閉じ込められたアリスティアが部屋を爆破して逃亡する悪癖持ちなのを重々理解している。ええしてるとも。何度か一緒に吹き飛ばされたのだから。
自由をこよなく愛するアリスティアは己の意思以外で束縛される事を物凄く嫌う女なのだ。
あのマダム・スミスですら、アリスティアへの折檻に監禁を使わないレベルである。
(しかし、このまま待ち続けても、サル共の我慢も限界そうですし、何よりこのフロアに居るのは不愉快極まりないのですよね)
このフロアには多くの女性が閉じ込められている。その目的は監獄の衛兵の慰安だ。つまり、獣欲の臭いが漂っている。半分とは言え獣人の血を引くアリシアには嫌悪感が強い場所だ。後、同じ女としてその様な目には合いたくない。
(正直、ここに居ても碌に情報は集まりそうにありませんね。私も逃げましょう)
2時間耐えたのだ。もう出ても良いだろう。一秒でも耐えただけで褒めて欲しかった。
情報収集をしたかったが、下種に抱かれる趣味は無い。そして、ここには末端の兵士しか居ない様だ。
ついでに情報統制がしっかり出来ているらしく、末端の兵士では大して情報を持ってない様だ。
恐らく区画毎に完全に人員が別けてあるのだろう。
遂に我慢の限界に来た男達がアリシアの居る檻の扉を開けて入って来る。
(ここまでですね)
「さ~て可愛い狐ちゃん。俺達と楽しい事しようぜ」
「最も楽しいのは俺達だけかもしれねえがな」
アリシアは即座に手錠を破壊しようとして、動きを止めた。
「楽しむのは私の方だ。
ひ と の メ イ ド に 何 し て や が る ! 」
全く気配が無かった。アリシアを持ってしても、彼等の背後にアリスティアが居る事を察知出来なかった。
アリスティアは男が振り返る間もなく、剣を背後から胸に突き刺す。
「食い散らせベルゼバブ! 」
アリスティア視点。
全く人のメイドに手を出そうとは、なんて礼儀知らずの男達だ。
アリシアさんを娶るには、まず私を倒して力量を示すのが道理だ。背後のアンブッシュに反応出来ないとはNINJAにすらなれないぞ。
そしてアンブッシュは一度だけらしいので、他の兵士もベルゼバブで切り殺す。
「こんなもん? 弱くない? 」
「所詮は監獄に詰めてる兵士ですよ。それに連中は末端です。慢心は駄目ですよ。
所で一切気配を感じなかったのですが? 」
成程、場所的に精鋭は居ないか……って結構ヤバげな連中がここに来るまでに居たんだよなぁ。
「気配? ああ、ちょっと変身してたから」
私はポフンと猫に姿を変える。
「……変身薬飲んでませんよね? 」
「日常的な変身薬の摂取により、私の体は遺伝子レベルで変身薬の成分を吸収した。
その結果、一日2時間程度は変身薬無しで変身出来る。そして猫化した私のステルス能力は高い」
ニャンコな私は隠れるのが得意なのだ。ニャンコ達に『猫の潜伏術』を学んだ結果である。
猫独自の動きや気配を隠す術をニャルベルデは体系化しているのだ。猫の文明化が止まらない件。この世界の猫はもしかしたら、私の知る猫とは別種の存在なのかもしれない。
アリシアさんは「また謎な力を……」と呆れた顔をしていた。
「さてアリシアさん。情報を共有しよう。
まず、現在この監獄は2つの門が存在し、中央に本部が有る。門2つは今門番が痛い踊りをしてて陥落。本部では監獄長がヘッドスピンしているよ。
だけど、他の兵士の制圧とか囚人解放にはちょっと動いてない。同志達と政治犯の居るエリアには中々の強者が居るみたいで、後回しにしたからね。最も向こうもこちらに気がついていないだろうけど」
「情報量が多すぎです! 一体ここに来るまで何をしていたのですか! 」
えー。門番に痛いダンスを強要したのは分身だし、監獄長は突撃隣の監獄長! を敢行したら汚いピークポッツを見せてきた罰だ。
どうにも私を新しい女だと勘違いしたらしい。あのロリコン野郎め許さん。現在泣きながら高速回転している。
「いや、出入り口と本部の制圧が先でしょ。既に済んでるから、これからこの監獄を制圧するよ」
チラッと見た限り、ここの連中は殺しても問題なさそうだが、監獄自体が結界で閉ざされてる上に、王都が近く、増援を送られやすい。
本部を落とした事と、出入り口を制圧した事で、現在この監獄は外部との連絡手段を失った。更に本部には結界装置も置かれている。
実はこれの奪取が最大目標だった。
コイツ、魔法王国製じゃなくて、古代の遺物なんだよ。つまり、強度だけは凄まじい。動かせないせいで、そのまま使っていたっぽい。
これさえなければ手勢を送り込むのは容易だ。
私とアリシアさんが監獄の広い空き地に出ると同時に装置が停止し、結界が消える。その瞬間、空に一隻の船が姿を現す。
前部に2門の単装速射砲を有し、後部は大きいドーム状の構造物を有する特殊な武装飛空船。
ステルス型武装飛空船2番艦『カイナース』。そして、その艦から、男達が飛び降りてくる。
一切減速せずに私の目の前に落下。砂埃が舞い、それが晴れると、彼等の姿が現れる。
漆黒の鎧に身を包んだ男達は膝を着いて私に頭を下げている。
「姫様。ご命令に従い近衛騎士団選抜20名馳せ参じました」
隊長が頭を上げると、頭部の装甲が開き、彼等の顔が明らかになる。うん、城に居る人達だ。
ただ、ちょっと顔がボロボロだった。
「うん。で、どうやって選抜したの? 」
「近衛騎士団総出で3日間の大乱闘の末に立っていた者達です! 」
お兄様が青筋浮かべてるのが想像できるなぁ……私は悪くねえ!
これ絶対私に文句来る奴じゃん! 何してんのさ! 何で皆誇らしそうな顔してるの? そこ、サムズアップするな。
私はちょっと手が空いてる人を何人か寄越してって言っただけだ。誰も選抜バトルロワイヤルを開催しろとは言っていない。
言いたい事は山ほどあるけど、ドヤ顔の人達に文句を言ってる時間は無い。取り敢えず後で私は悪くないってお兄様にメールしよう。
「それで装備の具合はどう? 」
彼等の装備は王国軍の正式装備から新装備に変わっている。
近接特化魔導甲冑『黒騎士』。それは圧倒的な強度を誇るダークマター合金を加工した魔導甲冑だ。
全身を完全に覆う密閉型であり、水中処かマグマの中でも動けるし、空も飛べれば宇宙空間でも活動可能。
しかし、その本領は圧倒的防御力である。魔法付与の効率が著しく低いダークマター合金を魔力のごり押しで多くの魔法を付与した結果、装備品の人造聖剣【アキレス】との相乗効果で127㎜クラスの徹甲弾の直撃にも平然と耐える圧倒的な頑丈さだ。当然装備者継戦可能だ。
これを装備した人間を確実に倒すなら300㎜クラスの重砲を直撃させなければならないレベルだ。流石にそこまでの威力の攻撃を受けると機能停止するだろう(装備者は生き残れる)。
そして同時に開発した人造聖剣【アキレス】は防御特化の聖剣だ。刀身を私と師匠の共同で作らなければならないと言う欠点以外は特にない。
単に頑丈で、持ってるだけで防御魔法が付与されるだけの辛うじて聖剣を名乗れる程度の物である。
「最高ですな。これさえ有れば、一人でも純正竜を狩れるでしょう。陛下が羨ましそうな顔をしてましたよ」
「お父様用は更にハイグレードだから、まだ完成は先だけど」
かと言って黒騎士は騎士団の為に作った物だから渡す気も無い。家族分は最高級の装備を揃えたいのだ。
ただ、ちょっと欲張り過ぎて現在開発中である。何故かダークマター合金が砕け散るんだ。
ちょっと1000万程術式を刻んだだけなのに……。
まあ良いだろう。そっちは後だ。
「取り敢えず黒騎士とアキレスの性能評価に丁度良い連中が残ってるよ。兵士は全員例外なく殺して」
「「「ハッ! ヒャァ突撃だァ! 」」」
黒騎士達は抜剣すると、建物に突撃していった。
「あの人達人生楽しそうだね」
「もう少し栄養を頭に回して欲しいのですが……」
残った私達はため息を吐いた。