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転生王女の国家大改造 ~無敵な国を作りましょう~  作者: 窮鼠
激突! アリスティアVSシャハール王国 そして不死鳥のケモナー連合編
376/377

342 治療と交渉

 本国に残っている分身から連絡が来た。

 支部長は無理だったけど、支部長代理と他支部との交渉に関する全権委任状を手に入れたらしい。

 むふー。これで奴の役目は終わった。この一件が片付いたら、あの分身に全ての責任を押し付けて粛清しよう。これで私がアーランド支部を統括すると言う苦行を負う必要も無くなったのだ。わっはっは勝ったな!

 まあ、支部長代理じゃなくなっても他の支部への援助とかは私の方でやるから問題は無い……筈だ。無いよね? 何か背筋に悪寒が……。

 きっと気のせいだ。多分お兄様が王城でシスコンムーヴしているだけだ。婚約者候補を潰して悦に浸っているのだろう。

 どれだけライバルを潰しても、私とお兄様が結婚するルートは存在しないんだけどね。

 ここは社交界のお姉さま方に更に情報を流して、既成事実を作らせよう。

 完璧だ! お兄様の情報を流す事で私は社交界に出ない事を許されるのだ。

 何で出ないの? 王女の義務だろう? って、そりゃ社交界のお姉さま達はとても怖いのだ。そして私を玩具だと思っている。

 社交界に出ると私は捕縛され、着せ替え人形にされたり、何故かアクセサリーを強制装備してくるのだ。この前だって軍服で行ったら物凄い怒られた。軍属だから正装なのに……何で私のサイズのドレスを持って来てるのさ! 

 ヒラヒラなドレスは嫌いだ! アレ着てると、物凄い動きに制限されるのだ。前だって、ドレスで天井の柱にぶら下がって遊んでたらお母様に怒られて酷い目に会った。ちょっと屋根裏を改造しようとしてただけなのに。

 話が逸れてしまった。まあ、仕方がないだろう。だって思考が逸れる程の悪寒だったのだ。

 兎に角、これで私は他の支部と話し合いの出来る身分を手に入れた。

 いや~ケモナーの世界は表の身分とか地面に転がってる石ころ以下の価値しかないからね。「私王女です! とっても偉いです! 」 って言っても「だから何だ? 」で相手にされないんよ。

 お陰でアーランド支部の同志からはクソガキ呼ばわりされている。不敬だぞ!

 ちょっと悪戯心と探求心と遊び心を忘れない王女なだけだ。


「ここが俺達のアジトだ。仲間はここに居る……筈だったんだがなぁ……」


 王都内のとある場所の店の扉を開けると、中は荒れ果てていた。

 争った形跡も多く、摘発に有ったのだろう。埃の積もり具合や飛び散った血液の状態等を考えるに、襲撃されて1か月は経ってそうだ。


「捕まったのかな? 」


「……多分な。だが、なら何故俺を囮に使ったんだ? 」


 確かにカシムは公開処刑されかけた。明らかにカシム救出の為にケモナーをおびき寄せる為の物だった。


「カシム、幹部は逃げれたんじゃない? 」


「マラーシャは逃げ足が速い。奴は逃げ延びてそうだ」


 マラーシャは灼熱の太陽の副首領だ。副首領はカシムとマラーシャの2人だったらしい。

 そしてシャハール支部に所属しつつも灼熱の太陽の運営に力を注いでいたカシムと違って、シャハール支部の運営補助は彼女がやっていたらしい。

 実際シャハール支部の副支部長補佐だった様だ。


「副支部長は? 」


「兄と一緒に処刑された」


「支部長代理は? 」


「選ぶ暇も無かったよ」


 灼熱の太陽の首領にしてシャハール王国支部長だったアラムが死んでから、混乱するシャハール支部は組織を建て直す間もなくシャハール王国から激しい弾圧を受け、逃げて闇に潜むので手一杯だったらしい。

 そして最近何とか体制を建て直し、支部長代理を取り敢えず選ぼうとしたところでカシムが捕まったそうだ。

 最もカシムは前記の様に灼熱の太陽の組織再建を行っていた為、もう一人の副首領とは別行動だったらしい。


「どうする? 」


「マラーシャが捕まっていないのは明らかだ。私と彼女が同時に捕まっていれば、この国は盛大に公表して処刑するはずだ。

 多分私を餌にしたものマラーシャを捕まえたかったのだろう」


「仕方ない。マラーシャって人を探そう」


 私の言葉にカシムは気まずそうな顔をする。


「すまない。支部の隠れ家は今何処に有るのか知らないんだ。

 元々使っていた場所はほぼ制圧されてしまっているし、再度確保したのはマラーシャで、私はここと既に潰された拠点しか知らない」


「そこら辺は大丈夫。取り敢えずマラーシャの特徴を教えて」


 私はカシムからマラーシャの身体的特徴を聞き出す。

 そして聞き終わると、近くで寝ていた猫に話しかける。


『へいそこのキャット。ちょっと私とお話しようか』


『こ、コイツ猫語を!? 』


 私が猫語を話せる事に驚いて飛び起きた猫に事情を説明する。


『ああ、アイツ等の事か。良い奴等でよぉ、何時も餌をくれるんだ。

 だから俺達が護ってやってたんだが、流石に騎士? とか言う連中の相手は出来なくてな。

 だけど逃げ切れたし、居場所も知ってるぜ。俺の縄張りに居るしな』


 何と縄張りのボス猫だった様だ。私は丁重にお辞儀をし、貢ぎ物を捧げる。猫の世界ではボス猫には敬意を払うのが義務だ。

 アリアス大統領? アレかなり暴君なところが有るから反乱が起きるのは仕方ないね。

 ついでにこのボス猫が騒いだお陰で襲撃の際に直前でも敵襲に気が付けた為、多くの同志が逃げる事に成功したらしい。何と言うイケメンだ。

 これは秘蔵のマタタビも渡しておこう。ついでにブラッシングしてイケメンレベルを上げておこう……おおう。大金持ちのペットみたいな風格になったぞ。いや、マフィアのボスが飼ってるペルシャ猫みたいな感じだ。長毛種じゃないけど。

 ただ、気になったのはマラーシャが負傷しているらしい。そして負傷して以降、拠点から出てこないそうだ。

 流石のボス猫も拠点内には入らないらしく(入る理由が無いそうだ)、容体は知らないらしい。

 ボス猫さん的には敵襲を教えた時点で恩は返したと言う扱いなので、今はそれ程興味が無いらしい。と言うか逃げ込んだメンバーも余裕が無い様で、餌をくれなくなったから関わりが途切れてしまっている様だ。

 ボス猫さんの案内でシャハール支部の隠れ家にたどり着いた。因みに襲撃者達は縛り上げてアーランド側の隠れ家に連行してある。連中には使い道が有るからね。

 カシムがドンドンとドアを叩くと、一人の男がドアを開けて、カシムを見て硬直する。


「市民に顔を見られると不味い。直ぐに入ってくれ」


「マラーシャは無事なのか! 」


「直ぐに会える」


 私は仮面を付けている。

 男は直ぐに広場でカシムを攫った同志だと理解出来た様で、あっさりと入れてくれた。まあ、同志同士は眼を見ればケモナーだって解りあえるしね。


「マラーシャ! 」


 マラーシャの部屋に案内されると、一人の美女がベットに横たわっていた。

 体中に包帯が巻かれていたが、それは真っ赤に染まり、今にも死にかけと言う有様だった。


「カ……シム。無事……だったのかい? 」


「俺よりお前の方が重傷だろうが! 」


 いや、カシムも十分重傷だったぞ。と言うか、この状態って……。


「退いてカシム」


「何だ? 」


「ここにはヤブ医者しか居ないの? 明らかにこのままだと死ぬよ」


 カシムを退けてマラーシャを診察する。包帯を解き、傷口を確認した私は顔を顰める。


「傷口が化膿してるし、敗血症の疑いも有る。何より毒を使われたね? 既に全身に回って多臓器不全になりかけてる。生きてるのが奇跡的だよ」


「馬鹿な! 医者は同志にも居た筈だぞ! 」


「……済まないカシム。あの襲撃から逃げる時に医者と衛生兵は戦死した。俺達では止血程度しか……」


 医者死んでるんかい。マラーシャは似顔絵が出回っているらしく、王都の医者には看て貰えない。と言うかマラーシャが傷を負った事はシャハール王国も知っているので、闇医者までもが監視されているらしい。後、この場所から動かしたくても動かせる容体では無かったそうだ。


「取り敢えず全員部屋から出て行って。治療を行う」


「出来るのか? マラーシャは助かるのか! 」


「死んでいなければ如何とでもなる」


 このくらい問題ないよ。私は医者でもあるからね。ただ、魔法併用の手術が必要だ。

 全員部屋から叩きだすと、部屋の中を魔法で清める。

 風魔法で埃を全て外に飛ばし、浄化魔法を掛ける。服装も仮面を外して手術しやすい恰好に変えた。


「さて、人体を切り開くのは前世ぶりだけど、基本構造は向こうの人間と変わらないし、大丈夫だろう。

 人工血液が完成してて良かった」


 アリシアさんも手術には役に立たないので、外で待機だ。分身を5体宝物庫から取り出して手術を開始した。














 第三者視点


「彼女は大丈夫なのか? 本当に助かるのか? 」


 カシムはアリシアに詰めかける。本当は本人に尋ねたかったが、凄まじい剣幕で追い出されてしまった。


「姫様で無理なら、誰も助ける事は出来ないでしょう」


 アリシアは淡々と告げる。実際、魔法医療に関しては権威と呼ばれるレベルの医療知識を持っているアリスティアだ。

 しかし、手術の経験は無かった筈。恐らく前世関連で経験が有るのだろうと、思って黙っている。但し、周囲の警戒は怠らない。


「頼むお願いだ神様……彼女を救ってくれ」


 カシムは泣きながら扉の前で祈り始める。他のケモナーも同様だ。

 恐らく彼等もマラーシャを救おうと出来る限りの事はしていたのだろう。それでも追い詰められていた彼等には出来る事は殆ど無かった。


(今祈るべきなのは姫様に対してなのでは? )


 アリシアは女神を信仰していない。祈っても助けてくれる事は無かったと実体験で知っている。

 彼女を助けようとしているのはアリスティアなのだからそちらに祈るべきと考えたが、別に口にする程の事でもないので彼等の様子を眺めていた。実際彼女に出来る事は無い。

 出来れば他のケモナーに、こちらの要件を伝えたいのだが、この状態では難しいだろう。


(それよりも、想定以上に組織が劣化してますね。役に立つのでしょうか? )


 アリシア個人としてはシャハール支部を助けたいと言う思いは有る。

 全国ケモナー連合は確かにテロ組織だ。だが、それは行き過ぎた普人至上主義への反発と弾圧に対する抵抗だ。

 そしてアリシアは普人では無い。彼等は同胞を助ける人々だ。その理念にも共感出来る。だからアリシア個人の感情だけなら、助ける事に異論はない。

 だが、アリシアはアリスティアの近衛の筆頭だ。優先するべきはアリスティアであり、その為なら彼等を切り捨てる選択も躊躇わず選ぶ。

 彼等を助ける事がアリスティアへ負担にならないのか。それだけが心配だった。

 ただでさえアリスティアには余裕が無いのだ。普段は飄々としている為、それを理解出来る人は驚く程に少ない。恐らく周りを不安にさせない為に、あえてそう言う態度を取っている。

 しかし、実際は邪神に対しても中央に対しても誰よりも警戒している。備えている。これ以上の負担はアリスティアが潰れるのではないかと危惧していた。

 唯でさえアリスティアは他人を頼れない人間なのだ。多少の、自分が些事だと思える事は他人に投げるが、重要な部分だけは全て自分で抱え込む。誰にも弱音を吐かず、弱さも見せない。

 きっと英雄なのだろう。王家が望み続けた英雄の姿なのだろう。

 呪われている。そうとしか思えなかった。

 アーランド王家は初代から呪われている。自分を、自身の血族を英雄と言う道具に貶めた。凡庸である事も許さず、力を求めた。そうするしか生き残る術が無かった。

 だから支えるのだ。潰れてしまわぬ様に。決して折れぬように。

 アリシアは唯手術を行っている部屋を見つめ続けた。



 アリスティア視点



 手術は無事に終わった。魔法で血を掃うと、私は部屋から出る。時間は4時間程度か。実に難しい手術だった。いや~地球の医者でも匙を投げそうな状況だったよ。

 正直助ける事を選択したのを後悔したほどだった。


「アリス! 彼女は、彼女は大丈夫なのか! 」


 部屋から出てくると、カシムが私の肩を掴もうとしたが、アリシアさんの手刀で手を払われる。

 助かる。正直眠いんだ。カシムを助けてから寝てないんだ。もう夜明けだよ?

 普通に気絶するよ? 慣れない環境で予想以上に消耗していた様だ。このくらいで疲れ果てるとは修行不足だな。


「容体は安定してるし、傷跡一つ残ってないよ。今は麻酔って言う薬で寝てるから、暫くすれば目を覚ます。

 多分後遺症も残らないけど、暫くは安静にして、その後は動けるようにリハビリが必要だね。消耗した体力や衰えた筋力までは戻らないから。

 それから私は寝る。後は任せた」


 私はそのまま意識を手放した。














 パチリと目が覚めた。と同時に酷い頭痛が走る。私は宝物庫から飴玉を取り出すと、口に放り込む。

 これは前世からの習慣だ。私の脳は常人の数倍活動しており、それだけの糖分を消費している。今世でも同じだ。甘い物は大好きだが、生存に必要な物資でもある。

 ついでにこの体の寝起きは凄い低血圧で怠い。偶に寝てる間に襲撃されるともっと酷い。多分寝てる間に護衛が護ってくれているのだろうが、その事については誰も教えてくれなかったりする。何故か物凄い表情をするが。

 そんな事は如何でも良い。アレから何時間経った? マラーシャの容体は……シュワ型の分身置いてるから大丈夫だろう。


「アリシアさん、どれ位寝てた? 」


「24時間です」


 お、おう。1日寝過ごしてたのか。そしてアリシアさんの眼が冷たい。

 いや、怒ってる理由は解るよ? もっと休みを取れって事でしょ? 確かに私の平均睡眠時間はここ最近だと2~3時間程度だけどさぁ。忙しいんだよ。あ、駄目みたいですね。尻尾がブワーってなってる。ここはブラッシングを……図ったなアリシアさん!

 私の魔法の櫛はアリシアさんの背後の戸棚の上にホルスター毎置かれていた。なんて事を。獣人が何故か王国非公認国宝と呼んでる物を無造作に置くなんて……。


「当たり前みたいに私の思考を読むのは狡いと思うんだ」


「反省してください。今後は睡眠薬を飲ませますよ? 」


 それ体に悪いから。別に不眠症では無いぞ。睡眠時間をある程度コントロール出来るだけだ。


「ならば上半身裸の騎士を傍に配置しましょう。さぞ暑苦しい事でしょう」


「止めて! 」


 別の意味で寝られなくなる。絶対筋トレ始めたり、筋肉自慢してくるパターンじゃん。

 後、そんな事をするとお兄様が荒ぶるぞ。それと変な噂が立つじゃん。私がマッスル好きとか言う風評被害を受けてしまう。唯でさえ私やお兄様は少し筋力不足だからマッスルになれって謎のデモが発生しているのだ。危険過ぎる。

 いや、確かにお兄様は細マッチョだけど、私の腕やお腹はプニプニだ。足りないかも知れない。しかし、この体を鍛えると、縦に伸びなくなる可能性が有る以上は最低限の運動しかしないぞ!

 取り敢えず宝物庫内の家でお風呂に入り着替える。この国はどうも砂が多すぎて困る。

 ついでに結界を張っている腕輪も交換だな。

 そして身支度を整えると、部屋を出る。カシムは廊下の奥の方で仲間と話している様だ。


「おはよう同志カシム」


「ん、ああおはよう同志。それと彼女を救ってくれた事に感謝する。随分と疲れていたのだろう? 無理をさせて済まなかった」


「気にしないで良いよ。それより彼女は? 」


「もう目が覚めてるよ。彼女は朝が早いからな。まあ、暫くは歩くのも苦労するらしいがな」


「さもありなん」


 重傷だったからね仕方ないね。ついでに心臓の疾患も治しておいたぞ。

 取り敢えずマラーシャの部屋に行くと、彼女は既に同志達に指示を出していた。ついでにむさ苦しい分身は宝物庫に仕舞っておく。


「人間は空間収納に入らない筈だが? 」


「アレ私が魔法で作った分身。この国に入ってバグって姿が変化しただけ」


「凄まじい圧力を放っていたから猛者かと思っていたが……君だったのか」


 見た目はシュワちゃんだが、中身は私だ。シュワちゃんムーブしてるだけだぞ。

 取り敢えずマラーシャに挨拶する。


「初めまして同志マラーシャ。私は全国ケモナー連合アーランド支部、支部長代理のアリスティアだよ」


「平のケモナーじゃなかったか? 」


「昨日承認された。これが委任状。確認後は燃やしてね」


 カシムとマラーシャは委任状を確認すると、頷いて燃やした。我々は書類を残さないのだ。完全に紙が燃え尽きると、それを粉々に砕いて窓から外に撒かれた。


「先日は感謝する同志アリスティア。私が臨時でシャハール支部を纏めているマラーシャだ。支部長と代理は現在空席だ」


「私の目的について聞いている? 」


「カシムから全て聞いた。止める事が出来ずに申し訳ない」


「貴女に非は無い。国王とそれを認める全てが悪いだけだよ」


 謝罪は要らない。彼女達に謝罪する理由は無い。


「こちらの提案の返答が欲しい」


「それについてだが、私は構わないと思う。

 君の意見には私も同意する。正直このままじゃ先が無い。援助については本当に貰えるんだな? 」


「そちらの望む物資と情報は確実に渡す。この件についてはアーランドからも全権を奪い取って来た」


「無茶をする。頼もしいな」


 マラーシャはケラケラと笑う。アリシアさんは渋い顔だ。普通は拉致被害者の奪還と報復に王族が敵国に潜入なんてしないからね。

 だけど、その行為がこちらが如何に本気かを理解させたようだ。


「こちらの支部長はカシムに任せるつもりだ」


「マラーシャ! 何度も言っているが俺には無理だ! 」


「私でも無理だよ。下手を打った。お前は仲間の殆どを逃がせたが、私は幹部の半分が捕まった」


 マラーシャは襲撃の際にシャハール支部の幹部の半数がマラーシャを逃がす為に捕まってしまった様だ。

 逆にカシムは自分以外を全員逃がす事に成功した。


「お前はよくやっている。アラムが死んでから、シャハール支部がこうして辛うじてでも生き残っているのはお前の功績だ」


「俺はシャハール支部の維持にはそれほど関わってないだろう」


「お前が残された最期の希望なんだ。私だけなら組織は瓦解していた。いい加減自分を責めるな。アラムはお前を恨んでいた事など一度も無い」


「だが、俺は……二度も見捨てたんだぞ! 」


「誰にだって動けない時は有る。それにあの状況では何もできなかったっさ。逆に動けばお前も私も捕まっていた。そうなればどうなるか解るだろう? 」


 マラーシャはカシムをトップに据えたいらしい。見る限りどちらもトップに相応しい力量は有りそうだが、周囲の同志の視線はカシムに向いている。その眼には期待と親愛の色が浮かんでいた。

 きっとカシムの存在が彼等の心の拠り所になっていたのだろう。母を殺され、兄を殺され、それでも兄に代わり理想を追い続け、兄の遺した人々を守り続けたのだろう。

 成程、これが多くのアーランド人が尊敬する英雄の弟か。

 まだ、頭に殻の付いた雛だ。だが、育てば英雄に成れる器を持っている。周囲の人達の眼がそれを証明している。


「じゃあ、まずは捕まった幹部の解放を行おう」


「「行き成り何を言ってるんだ! 」」


「だってまだ処刑されていないんでしょ? なら解放してこちらの組織の立て直しをして貰わないと」


 幹部が半分も捕まっているのだぞ? 放置出来る問題じゃない。カシムとマラーシャが頑張っても人を失った組織は瓦解する運命だ。

 人無くして組織は存在しない。

 なら解放しよう。カシムに逃げられた以上は彼等がカシムとマラーシャをおびき出す餌になった。だから今すぐには殺されないだろう。生きている筈だ。


「何処に居るのか解っているのか? グラム監獄だぞ」


 カシムの言葉に私は頷く。グラム監獄の話は知っている。王都の直ぐ近くに有る監獄で、ここから逃げれた者は居ないと言う曰く付きの監獄だ。

 ついでに鉱山も兼ねている。良いね。あそこ金鉱山なんだ。たっぷりと金も置いてあるだろう。私が貰ってあげる。ついでに爆破してやる。


「じゃあ、ちょっくら同志解放してくるから、そっちはゆっくり休んでてよ。

 今はまだ動く時じゃないからね」


 同志達は傷ついている。体だけじゃない。心もだ。ほんの僅かな時間でもゆっくりと休むべきだ。

 私はアリシアさんを連れて拠点を出る。


「正気ですか? 」


「正気も正気。彼等を利用する以上は誠意を見せるべきだ。これは取引だよ? 」


 私が出せるのは物資や資金に情報。彼等が命を賭けるには些か安い対価だ。

 だから彼等の出来ない事をやって見せる。それが誠意と言う物だ。


「あの監獄に忍び込むのは姫様でも難しいですよ……逃げ出すなら出来そうですけど」


 金鉱山を兼ねてる上に王都の直ぐ近くだ。防衛にはかなり力を入れている。


「大丈夫だよ。迎えは既にこの国に入ってる。流石は私の部下だ。もう戦力化に成功したらしい」


 私の部下であるパッシュ大将は開発したばかりの新型の武装飛空船2隻の内一隻をこちらに送ってくれた。

 因みに本来は情報省の仕事なのだが、彼等は飛空船の運用経験が無いので、現在研修中だ。今後は情報省がシャハール支部に物資や資金・情報を送り、亡命希望者の移送も行う予定だ。

 新型武装飛空船。それはステルス艦だ。元々別の用途で開発した物を流用……と言う形でお兄様に接収された物だ。

 本来は北方調査に使う予定だったのに……何故か衛星のカメラを妨害してる地域が結構あるからそれの目視調査を目的に作った。

 ステルス艦である理由は陸も空も完全に魔物の領域だから。

 しかも接収したのは王国なのに財務大臣がチワワみたいな眼で私を見つめてくるんだ。文句は接収したお兄様に言え!


「それに監獄に入るのはとても簡単だよ? ホラ」


 私とアリシアさんは夜明けの王都を平然と歩いている。そして恰好はカシムを攫った時のままだ。

 つまり、目の前には憤怒の表情を浮かべた衛兵がこちらにダッシュしてきていた。

アリスティア「監獄に入るのは簡単だ。捕まれば良い」

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