333 王女解放 犯人逮捕
良し、これで人攫いもお終いだ。私を監禁した以上、お前達に助かる術はない。
いやー殺人現場じゃなくて良かったよ。コイツ等捕まえれば彼女達も解放できるし、逃がす気はない。
しかし捕まえたのが少女ばかりだな。悪趣味な奴らだ。だけど、気になる事が有る。
アーランド王国は限定的だが、奴隷制を採用している。しかし重犯罪奴隷以外は人権が保障された身分だ。持ち主が好き勝手出来る訳じゃ無い。
そして違法奴隷は所有するだけで重罪だ。元々奴隷制に反発する国民が多いのだ。だが、犯罪者を檻に入れて養う金なんて無かったし、慣例と言う形で残ってた。
だから、違法奴隷はまず売れない。買った相手も所持がバレれば破滅だ。リスクが高すぎる。そしてお兄様は貴族相手でも悪人には容赦しない。貴族もそれを理解してるから違法奴隷なんて手を出さないだろう。
商人達は家に帰る時間も無いから違法奴隷にグヘへな事をする時間が物理的に無いので手を出す可能性が低い。
じゃあ国民? ぶっ殺されるよ。
私の頭の中に最悪の想定が浮かんだ。
聞きなれない訛り。知らない男達。
コイツ等もしかして……外国人か?
ならしゃべる猫の事を知らないのも理解できる。情報収集が粗末すぎるが。
まあ、直ぐに捕まるさ。場所は既にお兄様に報告してるし、尻尾にこっそり付けた発信機も起動させた。私の居場所は王国が完全に把握してる状態だ。
しかし、ここで予想外の事態が発生。
この場に居たのは4人の男達だが、5人目が居たのだ。
「お前等、何を騒いでいる」
「ベス、聞いてくれ。喋る猫を捕まえた。コイツも高く売れるぞ」
「はぁ? 」
ベスと呼ばれた男が私を見る。ふむ、偽名だな。
しかし、顔色がどんどん悪くなっていき、リーダーと思っていた男の胸倉を掴む。
「馬鹿野郎! ゴラ、テメエ……ヘマしやがったな! 」
リーダーと思っていた男はゴラと言う偽名らしい。
ゴラは訳が分からないと言う顔をしている。
「何だよ。少しくらい小遣い稼ぎしても罰は当たらないだろうが。こんな危険な仕事をしてるんだぞ。一々怒るなよ」
「馬鹿野郎! この王都で喋る猫はニャムラス大統領とか言う化け猫か、猫に擬態した王女アリスティアだ! どう見てもテメエが捕まえたのは王女だぞ! 」
あらら、もうバレたっぽい。
「何だと! いや待て王女アリスティアなら高く売れる。おい魔法使い用の隷属の首輪を出せ」
「馬鹿が」
「グフゥ」
ベスがゴラのお腹を蹴る。
「王女を拉致してみろ。暗部の糞共が地獄の果てまで追いかけてくるぞ。逃げ切れるもんか。
作戦は中止だ。直ぐに逃げるぞ」
ッチ。逃げる事を判断するのが早すぎる。王女だぞ。売ればお金になるんだぞ。確かに非売品でお兄様が地獄の果てまで追いかけてくるけどさ。でも、もっと惜しめよ。このままじゃ逃げられるな。
最初の4人は……動きはプロだが、甘い奴らだ。恐らくベスと名乗ってる男と所属が違う気がする。ベスだけはかなりの腕がある。恐らく暗部に匹敵する男だ。諜報のプロだろう。
しかし、情報が足りていない。これ程の男が何でこんな事をしてるんだ? 私の想像だが、コイツは司令官ポジの存在だと思う。こんな末端の作業には本来参加しない筈だ。
やっぱり尋問が必要だ。王族誘拐の罪は誘拐や人身売買とはケタが違う重罪だから尋問も苛烈だろうが、この男が口を割るとも思えない。
まあ、お兄様が何とかするだろう。最近新しい尋問方法を思いついたってはしゃいでたし。
そんな事を考えていると、1人外に出たが直ぐに戻って来た。
「ヤベェここがバレた! 王都の住民が武器を持って集まってるぞ」
私はチラリと採光用の窓を見る。足でいっぱいだった。
何でお兄様より先に……いや、居るっぽい。微かに声が聞こえるが揉めてるらしい。ついでに「「「吊るせ! 吊るせ! 」」」って声も聞こえる。と言うか大声で、明らかに複数の人達が吊るせコールを上げてる。
人攫いの連中の顔が青ざめる。うん捕まったら吊るされそうだね。でも自業自得だよ?
しかし、何で住民が集まってるのだろうか?
「直ぐに逃げるぞ。そこの木箱をどけろ」
「捕まえた奴はどうする。商品だぞ」
「命の方が重要だろうが。捨ててくぞ。王女も捨てて置け。人質にもならん」
「人質くらいにはなるだろう! 」
「馬鹿が! コイツが捕まったのはわざとだよ。テメエ如き屑に捕まる訳が無いだろうが」
「いや、普通に猫じゃらしで捕まえたんだが……」
わ、わざとだぞ。私程の魔法使いが猫じゃらし程度で捕まると考えてるなんてゴブリンにも劣る知能の様だ。ちょっとフリフリが気になったし、中々のフリフリだから、もう私の物だけどわざとだから!
「良いから逃げるぞ」
「わ、分かった糞が……」
ゴラと言う男と、その部下っぽい奴3人は納得しきれていないのか、未練がましく私と意識の無い女性や、その人達を詰めた箱を見ながら木箱をどける。
するとそこには抜け道が有った。糞が、そういう店の跡なのかよ。
流石に私が生まれた時には既に廃墟だったので、こんな抜け道があるなんて知らなかった。
私はニャーと鳴く。遠くから返答の鳴き声が微かに聞こえた。ヨシ!
男達は一目散に逃げ出した。私が邪悪に嗤ってるとも知らずに。
その先は猫が知ってるはずだ。そして私の近衛の気配はない。つまりコイツ等が逃げる事を想定して動いている。お兄様の気配も離れて行っている。この様子だと、お兄様は抜け道がある事を知ってたな。
それと同時にドアを開けて騎士団が雪崩れ込んできた。
「姫様ぁ! 」
「ん、ご苦労。この娘達を保護して。犯人は逃亡した」
「人質を取らずにですか? 」
「私の正体が見破られて人質の価値無しだって」
酷いよね。
「……確かに姫様を人質にするなんて命知らずな事をする輩は滅多に居ないでしょうが……」
突入班の隊長が顎に手を当てる。
「判断が早すぎるよね」
「はい。私もそう思います」
「取り敢えず王族誘拐の重犯罪者だから取り調べも無茶が効くよ」
怪しいから罪状を増やしたのだ。
取り敢えず被害女性達は病院に運ばれた。私は――
「ねえ、一つ聞いて良い? 」
「何なりと」
「何で檻から出してくれないの? 」
突入班の隊長アッシュさんは私をゲージに入れたまま運び出している。
「それは殿下が姫様が捕縛されていたら、そのまま連行する様にと厳命なされたからです」
「ふむ……もう一つ聞いて良い? 」
「はい」
「外の人達は何? 」
「情報が漏れた様です」
「何で千人単位で集まってるの? 」
「姫様の御人徳かと」
「つまり、私はこのまま檻に入れられた状態で数千人の国民に恥を晒すことなると? そこんとこどうよ? 」
「はい姫様。良い薬になるかと」
あ、コレ怒ってるパターンだ。この場の騎士達全員ニコニコしてコッチ見てる。
良いじゃん許してよ! 犯罪者捕まえたじゃん。国民集まるなんて予想出来る訳ないじゃん。見世物は嫌だぁ!
「いい加減護衛も付けずに単身で王都を散策する悪癖は辞めていただきたいと、我々王国に仕える者達の総意でございます。
その為なら多少の事も致し方ないでしょう」
「私の尊厳の危機なんだけど? 」
猫だよ? 檻に入ってるよ? こんな姿を国民に晒せと? 王都の子供にやーい檻入り王女って言われるじゃん。確実に煽って来るよ。どうするの?
「些細な問題かと」
「だ、出して~! 」
「城に連行するぞ! 」
「「「ッハ! 」」」
檻から出ようともがく私を無視して騎士達は店跡から私を出すと、店先で集まった群衆に私の入った檻を掲げる。
「「「「うおおおおおおおおおおおお! 」」」」
畜生、絶対許さないからな! 騎士団のトレーニングルームに有るベンチプレスの重量を減らしてやる(現在最高500キロ)。
許さないからな!
第三者視点
「糞が」
店跡から少し離れた路地裏のゴミ置き場の床が外れるとゴラが顔を出した。
「下らん事を吐いてないでとっとと出ろボケナス」
ベスの暴言に顔を顰めながらさっさと抜け穴を出るゴラ。無駄のない動きで他の4人も隙のない動きで出てくる。
「ベス、話が違うぞ。これじゃ予定の報酬にもならねえ。お前言ったよな? アーランドが動く前に、この国からおさらばするってよ。何でこんなに早く国が動くんだよ! 」
ゴラがベスに怒りをぶつける。ベスはため息を吐くと、一瞬でゴラの首を掴むと、そのまま持ち上げる。
「黙れ。任務は失敗だ。直ちに撤収する」
「わ、わがっだがらはなじでぐれ……息が……」
ベスはつまらない顔でゴラを手放す。
(だからこの計画には私は反対だったんだ。いや、計画と呼べない程に杜撰な物だ。
兎に角逃げねばならん。この4人は捨て駒にして私だけでも……)
ベスにとってこの4人は最初から捨て駒だ。
そもそもこの4人とベスは所属が違う。4人は中央の裏ギルド所属の人間だ。ベスは違う。
本来ベスはこんな事をする人間じゃない。悪事を働かないでは無く、彼等に指示を出す側なのだ。
しかし、色々想定外の事が起こり、嫌々彼等を指揮する事になった。
(不味いな、想定よりアーランドの動きが速すぎて目標の数に足りん。王の癇癪を受けるぞ)
本来彼等の目的はアーランド王国で人を攫う事。
しかし、長期的に人を攫う計画じゃない。短期間で人を攫い、王国が動く前に国外に撤収すると言う物だった。
如何にアーランド王国でも、アーランド王国が誇る暗部でも行き成り察知出来る訳じゃ無い。誘拐事件の発覚から、捜査までは時間が掛かる。
そもそも犯罪捜査は暗部の仕事じゃないのだ。衛兵が調査し、怪しいと判断されてから動くのだ。そこにはタイムラグがあり、それを利用してさっさと逃げる方針だった。
長く留まれば確実に捕まるからだ。
(取り敢えず俺の所属が分かる物は持ってない。アーランドとの密約違反を犯した証拠は残らないが、あの王子に捕まる訳には行かない)
「……行くぞ」
ベスの言葉に4人は無言で頷く。
「何処に行くのかね? 」
「んなぐぅ! 」
ゴラが突如として現れた黒ずくめの存在に殴られ、一撃で両ひざをつく。
それを合図に路地裏にゾロゾロと音も無く表れる黒ずくめの集団。
それは異様な恰好だった。天辺のとんがった漆黒の被り物は眼以外の全てを隠している。そして全身真っ黒の、どう見ても悪魔崇拝者の様な者達。
彼等は思い思いの武器を持って隙無く彼等を包囲する。
「「「「フシャー! 」」」」
「ね、猫まで居やがる」
ゴラは屋根や窓の縁に居る数百匹の猫の集団の存在にも気が付く。先ほどまで欠片も気配を感じなかったのにだ。
猫は抜け道がここに出る事を最初から知っていた。彼等がここに出た時には既に包囲し、気配を消していたのだ。
「何だテメエ等! 」
全員が武器を抜く。
「……お前達は罪を犯した」
「なに? 」
「我等が希望にして象徴に、その穢れた手を出したのだ。到底許される事ではない。我等が貴様らを粛清する」
「やれるものならやってみろ! 」
戦闘が始まった。いや、それは蹂躙だった。
狭い場所で剣は扱いにくい。彼等は剣を囮に使いつつナイフでトドメを刺そうと動く。
しかし、それは天使教徒も同じだった。
ゴラのナイフをメリケンで受けると、流れる様な動きで膝蹴りが飛び出す。ゴラは後ろに下がって躱すが、同時に股間に衝撃波を受ける。
声にならない悲鳴をあげて涙目で蹲るゴラ。
魔力の流れを読むと、そこには小さい杖を咥えた猫の集団が居た。ニャルベルデ魔法師団だった。
ナイフを投げようと懐のナイフを掴もうとしたゴラが見たのは天使教徒の足だった。蹲った瞬間にかかと落としをする為に足をあげていたのだ。
「ぐふぅ! 」
「脆いな。脆すぎる。どうした大罪人? その程度では直ぐに終わってしまうぞ? 」
冷徹な瞳で彼等を見つめる複数の眼。一切の油断は無い。
残った四人の背筋が凍る。強かった。
残った4人は即席の連携で抗うが、勢いは完全に天使教徒に有った。
毒を塗った暗器を投げつければ絶妙なタイミングでニャルベルデ魔法師団の魔法で防がれる。
(糞が! カスみたいな魔法の癖に使い方が上手すぎる)
ベスが内心毒づく。ニャルベルデ魔法師団の魔法猫の魔法は非常に弱い。しかし、適格に魔法を使う。そして、そいつ等を排除しようにも目の前の悪魔崇拝者(天使教徒)がそれを許さない。
また1人倒れる。
倒されたのはこれで2人。しかも倒れた2人は路地裏の暗闇に引きずり込まれて行った。それが彼等の恐怖心を煽る。
ヤバい奴らだ。連れていかれた奴がどうなるのか考えたくも無い。実際は邪魔にならない場所で捕縛されているだけだが。
そしてとうとうベス1人になってしまった。
彼も無傷では無い。しかし、目の前の集団は無傷だ。傷を与えると後方に消え、別の者が前に出てくる。
「使いたくなかったが仕方ない! 」
このままじゃ逃げきれない。ベスは魔装を展開する。
彼の闘気と魔力量では30分も保たない上に、解除したら戦闘不能になる。
しかしここで使わなければ嬲り殺される。
結果、形勢は逆転。天使教徒は闘気使いは多いが、流石に魔装を展開出来る者は殆ど居ない。
「毒ガス部隊前に出ろ」
無駄に威厳のある言葉が路地裏に響く。ニャムラス大統領の声だ。
天使教徒の肩がビクンと動くと、いそいそとマスクらしい物をつけ始めた。
そしてベスの前には猫の集団が現れる。
「フシャー! 」
「糞猫が! 」
ベスはもう油断しない。この猫も敵だ。だが、所詮は猫。魔装を展開した彼に彼等の魔法は最早通じない。そして牙や爪も同様だ。彼等に自分を害する手段は無い。
しかし、彼は罠にハマってしまった。足元に出てきた猫は囮だ。本命は今まさに屋根から飛び降りてきた猫達だ。
一切気配を感じず、行き成り落ちてきた彼は猫が視界に入るまで、その存在に気が付かなかった。
そして落ちてきた猫は全員尻を彼に向けていた。
プスー
「ウゲェ……オエェ……て、テメエ! 何食ってやがる! 」
その一撃は致命的だった。周囲に漂う悪臭は我慢できる物じゃ無かった。
ベスは悶え苦しむ。咳が止まらず、眼から涙が溢れ出す。
猫達は腹の中で生成した毒ガスを尻から散布したのだ。しかも顔の目の前で。
一部着地後に別の生成物をそのまま排泄しているが、その匂いは彼から戦闘力を奪うには十分すぎる悪臭だった。因みに天使教徒はダッシュで防毒マスクを着用していたが、半数が間に合わず、ダッシュで路地裏から逃げ出していた。
ニャルベルデのおなら爆弾は暴徒鎮圧が可能なレベルの悪臭だった。アーランドの王都の住民が猫を虐げないのは虐げるとおならで反撃してくるからだぞ。
因みに、普段食べている物は残飯・小動物・虫・ゴブリン・コボルト・ウルフ等のゲテモノだ。偶に共食いもしている。
魔装は身体能力を極限まで強化する物だ。嗅覚も副次的に強化される。故に彼に大ダメージを与えてしまった。因みに目の前の天使教徒は猫のこの切り札を知っているので魔装を展開しなかったのだ。巻き込まれるのはご免だ。半数が巻き込まれて悶え苦しんでるが。
しかし残った半数は涙を流しながらせき込んでいるベスを容赦なくこん棒で殴打する。滅多打ちにして逃げれない様に袋叩きにした。
「良し、連行するぞ」
天使教徒は捕まえた5人を引きずって連れて行く。路地裏を出ると、そこにはギルバート率いる近衛とアリシア率いる近衛が居た。
「何処に連れて行くつもりだい? 」
ギルバートは猫の毒ガス攻撃を警戒して近くで待機していたのだ。と言うか天使教徒の中にはギルバートの密偵も居るので行動は把握していた。トップもギルバートだし。
「これはこれは王太子殿下」
この場のリーダー格の男が胸に手を当てて礼をする。
「我々は不届き者を捕らえただけです。衛兵の詰め所にでも連行しようかと思いまして」
「そっちは天使教の大聖堂のある方角だが? ついでに衛兵の詰め所はあっちだ」
天使教の大聖堂の方角に詰め所は無いぞ。治安良いからね。
「……少々彼等に話を聞きたいので」
「まあ、私は君達が妹を信望するのは止める気はない。悪事を働かなければ抑圧もしないが、そいつ等は引き渡して貰おうか? 」
「ッチ。分かりました」
ちょっと説教したかったのに。と文句を言いながら族を引き渡す天使教徒達。ギルバートと敵対するのは流石に不味かった。
それに、ギルバートの手に渡ったコイツ等の末路も大体想像がつく。もう少ししばき倒したかったが諦めるしかない。
天使教徒はギルバートに5人を引き渡すと、スーっと路地裏に消えて行った。
「さて、コイツ等を城の特別室に連行しろ。私が直々に尋問しよう」
「拷問官が居ますが? 」
「アリスが捕まえさせた相手だ。裏がありそうだしね。出なければ、救援要請じゃなくて自分で制圧してるだろう」
「成程」
「さて、君達は一体何者なのかな? 」
ギルバートは邪悪な顔つきで笑う。新しい玩具を手に入れたらしい。ついでに尋問を理由に書類仕事をサボれそうだと考えていた。
アリスティア「大事になり過ぎた! 流石にここまでする気はなかったのに……後、見世物にしないでよ! 」
天使教徒「ッチ……邪魔が入ったか」
次回尋問シーンがありますが、芸術鑑賞を伴う人道的な尋問です! ちょっと廃人になる危険がありますが、薬物や物理的拷問は有りません!




