プロローグ
「こ、これは! 」
「城の地下にこんな施設が有ったとは……」
その日、遂に魔導戦艦が完成した。
集められたのは信頼できる貴族と軍人達。完成したのは、キング・オブ・ドラコニア型魔導戦艦一番艦【キング・オブ・ドラコニア】・プリンス・オブ・ギルバート型魔導戦艦1番艦【プリンス・オブ・ギルバート】の2隻だ。
この船の全長は同じ310mだが、用途が違う。
キング・オブ・ドラコニアは対地砲撃艦で、プリンス・オブ・ギルバートは艦隊決戦用の船だ。
故に装備が違う。キング・オブ・ドラコニアは対地砲撃の為に20インチ砲を搭載しているのに対し、プリンス・オブ・ギルバートは大型の砲塔型レールガンを搭載している。因みに両方2連装砲3基搭載している。
近接防衛用の副砲も有るが、これは予算削減の為に共通化されている事や形状も余り違いはない。
艦橋はアリスティア分身が扶桑派と山城派に別れて仁義なき争いが起こったが、平凡な艦橋になっている。
因みに装甲に至っては巡洋戦艦以下の装甲であり、重巡よりも薄い。
但し全面ダークマター合金が使われている上に強化魔法が付与されている為、あり得ない程に頑丈だ。その上に装甲と周囲に結界まで張られるので鉄の要塞と呼ぶに相応しい船だった。
但し、この船を見ている者の一部は静かに泣いていた。
「う、うぅ……姫様ぁ……」
「何で、何でこんな酷い事を……」
泣いている理由は一つ。この地下ドッグにアリスティア分身が至る所で倒れているからだ。
因みに「生産最優先・安全度外視・事故は連帯責任」とデカデカと書かれた看板が有ったりする。
そう、余りのアリスティア分身の扱いが悪いのだ。
「殿下! これはあんまりではありませんか! 」
「姫様をこんな奴隷以下の扱いをするなんて人の所業ではありませんぞ! 」
「わ た し じゃ な い ! 」
分身を奴隷でも逃げ出す重労働をさせてるのはアリスティア本人だぞ。
基本的に分身と本体は仲が悪いのだ。ギルバートが仲裁しようにも「その面が気に食わない」と互いに主張するだけだ。
同じ人間が二人居ると殺し合いになるらしい。激しく対立しているが、分身は本体の命令に逆らえないので、労働させられていた。
建造に関わったドワーフや技術開発局の技術者達も「解る。俺もアレはどうかと思う」と頷いていた。24時間休みなしの労働を続けて建造されたのだ。
力尽きた分身は溶ける様に姿を消していく。残されたのは「犯人は本体」と書かれたダイイングメッセージだけだ。
それが地下造船所の至る所に掛かれているので、この造船所は呪われているかもしれない。最も呪われていても本体以外に害はないだろうが。
「アリス! これはどういう事だ! 」
ギルバートが隣に居たアリスティアに問いかける。
しかしそこに居たのは本体では無かった。
額に【造船所所長】と書かれた鉢巻を巻いたアリスティア分身だった。非常に偉そうな恰好と態度である。具体的にはワ〇ピースの大将みたいな恰好をしていた。背中のマントには猫と書かれている。本体は既に逃走している様だ。
「連中は反逆者だ。故に労働刑に処されている」
「何をしたんだ」
「本体侮辱罪とオヤツ窃盗罪」
「不当過ぎる! 」
「何、本体が分身を作れば8割はこの罪を犯すから変わりは幾らでも居る」
「残りの2割は? 」
「生み出した瞬間に転移魔法を使って行方不明になる」
それはロストナンバーズだ。
「心の中に闇でも飼っているのかい君は? 」
「人間誰しも闇は有る。私も本体が嫌いだ」
「どういう処がだい? 」
「顔。同じ面してるとか、どう考えても喧嘩売ってるでしょ? 」
「うーん……」
これは如何しようも無いぞ。アリスティアも所詮分身だし何をしても良いと考えている。と言うか分身なんだから同じ顔なのは仕方ないだろう。
同じ存在をここまで邪険に出来るのかと呆れるを通り越して恐怖するレベルだ。
アリスティアには医者が必要なのかも知れない。それも精神専門の医者が必要だ。ちょっと後で調べようとギルバートは心の中にメモを取る。
流石に自分を嫌い過ぎだろう。ちょっとこれは擁護出来なかった。
「それと、君の船が見当たらないようだが? 」
ギルバートは思考を切り替えた。と、同時に船が2隻しかない事に疑問に思った。そう言えば3隻作ってるはずだ。
しかし、見回しても空のドッグが有るだけだ。奥にも建造中の船が有るが、サイズが小さい。明らかに別物だ。
「お兄様、この地下造船所のメインシャフトは直径400mしかない。
プリンセス・オブ・アリスティアは船体だけで直径500m有るんだよ? 飛行甲板は更に長いから全長560m。どう考えてもここじゃ作れない」
「大き過ぎないか」
「色々組み込んだ結果。まあ、空母は離着艦が難しいから、少しでも使いやすい様に伸ばした結果だよ。流石にパイロットの育成には手間取ってるしね」
プリンセス・オブ・アリスティアは三段式の飛行甲板を持つ変態空母だ。アリスティアは空飛ぶ立体駐車場と呼んでいる。
通常400機の航空機を運用できる正しく怪物空母だ。因みに居住性とか無視すると600機の運用も可能だ。
それを可能としたのはストレージカードだ。これは航空機を一枚のカードに収容できるのだ。これにより多くの機体を運用できる様になったが、機体への魔力補充などで余剰魔力が無く武装を一切積んでいないのも特徴である。
因みに装甲は薄いがダークマター合金製であり、結界強度は魔導戦艦の3倍だ。足も速い。
航空機輸送艦である。最も戦闘を前提とした輸送艦だ。移動する空軍基地だった。
因みに浮遊島建設のテストも兼ねている。空にラピ〇タを浮かべるのはアリスティアの前世からの夢だったのだ。前世では兵装の再現が出来ずに頓挫していたが。
島を浮かべるくらいは科学だけで出来たらしい。技術開発局のMAD達はアリスティアに影響されてMAD化したのかもしれない。
「因みに2隻の建造経験から更に強化したアーランド型超弩級魔導戦艦の設計をしてみた」
「却下だ却下。過剰戦力過ぎる。
第一これ以上作ると財務大臣がキレるぞ? 」
「何時もキレてるって噂だけど」
「君の本体も原因の一つだからね? 」
「駄目? 」
アリスティア分身は可愛らしく首を傾げておねだりしてみる。実にあざとい仕草だ。プライドのある本体なら決してしないだろう。
「ぐぅ……だ、駄目だ」
荒れ狂うシスコン魂を抑え込んだギルバートが呻く様に反対する。
「わかった」
「諦めが早いな」
ギルバートがギロリとアリスティア分身を睨む。
どうせまた悪い事考えているんだろう? と目が告げていた。
「ネオ・アルカディア計画に加えておく。確かに【現在】は過剰戦力」
「そちらについての進捗は? 」
「現在月面で基地を建設してる。月は色々面白い。この世界の人類の発祥は向こうっぽい」
何気に凄い発見をしたようだ。ギルバートも色々いっぱいいっぱいなのでスル―した。
確かに中央国家連盟を相手にするなら、今の空軍は既に過剰戦力だ。
しかし、その次を見据えると戦力不足だ。アリスティアには割と余裕が無かった。
だからネオ・アルカディア計画を実行している。王国の国力以上の戦力を作るために月に分身を送り込んだのだ。このネオ・アルカディア計画は王家の秘密だ。まだ、早すぎる。情報が洩れればパニックになりかねない。そして中央が動きかねない。
ギルバートがアリスティア分身が帝国で違法な資源採掘を行っているのを黙認しているのも帝国に対する嫌がらせだけで黙認している訳じゃ無い。金自体が目的じゃないのだ。
「間に合うかい? 」
「割とギリギリ。それにアーランド型は完全に新設計だから不具合が有るかもしれない。
確かに今の王国には失敗する可能性のある兵器開発はリスクが大きい。でも将来的には失敗も込みの研究を認めて欲しい」
「それは理解している。たが、現在は限りあるリソースを無駄に出来ない」
2隻の魔導戦艦は前世の設計を受け継いでいる。完全に新規の設計では無い。しかし、アーランド型は違う。これは完全に新設計だ。前世にも存在しなかった物だ。作ってみないと分からない不具合も有るのだ。
そして技術開発とは本来失敗の繰り返しだ。地球でも英国面と笑われるくらい変態兵器を開発しまくったイギリスだが、それは、それだけ失敗しても挽回できる国力の有る証だ。そして失敗を繰り返して成功を収めたからこその大英帝国である。最も悪魔も驚愕する2枚舌も理由だが。
「因みに君の船は何処で作ってるの? 下手な場所で作られて情報が洩れると困るんだが? 」
「冒涜世界」
「あそこなら安心だ。誰も入らないだろう」
冒涜世界はアリスティアが次元転移魔法の開発で見つけた世界だ。何か触手の塊で時間停止とかしてくる怪物が1匹居たが、時間停止した瞬間にアリスティアの魂に握りつぶされ命からがら逃げだした。その際に手に入れた触手はジャンガリアン・ケロべロスのハム右衛門義治。通称ハムに使われている。
その世界へ繋げられるのはアリスティアだけだし、景色が冒涜的過ぎて常人ではSAN値が削られる。
因みにそれを知った拓斗は「何で、銀の鍵無しにそこに行ってるんですかね? 」と言っていた。
「そうか、あの船の説明も頼む」
かなり奥で複数建造されている船を指さすギルバート。
「大分前に書類にして提出した筈だけど? 」
「多分執務室の書類の山の中だな」
天井まで積み上げられた書類で溢れてるぞ。頑張っているが、中々減らなかった。多分減る度に追加が積み上げられるので、何時までも下の方に置かれていたのだろう。
「アレは特殊工作艦だよ」
「武装が少ないな。他にもなんだあの丸いの? 」
その船は砲は前部に2門しか搭載されていなかった。その代りに後部に大きい円形のドームが有る。
「特殊工作艦は情報省への引き渡しだよ。ステルス艦だね。一隻は空軍も貰うけど」
「ああ、何か前に会話で聞いたな。暗部が大喜びしてた奴か。空軍で使うのは知らなかったが」
「北進の事前情報収集の為だね」
地形や魔物の棲息などを調べる予定だ。最も人工衛星の登場で重要性は低いのだが、幾つかの地点が宇宙から観測出来なかったのだ。それの調査目的である。
「上手くいけば古代魔法王朝の首都が有る」
「現存してると思うかい? 」
「可能性は高い。意図的に放棄したらしいからね。都市全体に結界を張って逃げたらしい」
「ほほう。見つけたらまた魔法王国が騒ぎそうだ」
「既得権益の保持しか考えないで魔法の深淵を覗く事を辞めた愚者なんて放置すれば良い。アレは魔法使いの恥だよ」
「厳しいね」
「あの国は建国の理念を忘れた。その内魔法使いからも見捨てられるよ」
「そうだな。処で君の本体は何処に逃げたんだい? 」
「知らない。でも師匠に追いかけられてたから、城には居ないと思うよ」
「今度は何をしたんだ……」
頭が痛くなるギルバートだった。
「ちょっと和の国のお土産のお酒を飲ませまくって泥酔状態の時に製鉄所の譲渡書にサイン書かせて売った事に気が付いたらしい。鬼の形相だった」
アレは怖かったと体を震わす分身。因みに金貨1枚で売り渡された。
「ほんのちょっとで良い。ほんの少しだけ大人しくしてくれないかなぁ……」
「無理だと思うんだ」
「だよね……」
ギルバートはため息を吐くのだった。
一方アリスティア本体。
「そこで私はこう言ってやったのさ「土下座しろ」ってね。あの時の皇帝の屈辱に塗れた表情は傑作だったよ」
「HAHAHAそいつは最高だ! 」
グランツから逃げ切ったアリスティアは王都の一角でアメリカンな模様の猫達と世間話をしていた。
アリスティア帝国戦の話を聞いて爆笑したりゴロゴロ転がっていた。猫の集会である。
しかし、突如アリスティアがピンと立ち上がる。鼻がピクピク動いている。そして尻尾がブワァ! と膨らんだ。
「ん、どうした? 」
「敵の匂いがする」
「マジかよ。昨日掃除したばかりだぜ。この辺りに巣を作るネズミ何てモグリもモグリだぜ」
「スンスン……いや、間違いない敵の匂いだ」
「……オイ」
アメリカンな猫の目つきが変わる。先ほどの陽気さは嘘のように掻き消え、ハンターの表情になる。
「俺の縄張りに挨拶も無しに巣を張るとはとんだネズミだな。テメエらネズミ狩りだ! 」
「「「フシャアアアア! 」」」
彼はこの辺りを縄張りとするボス猫だ。ニャルベルデ四天王の一匹である。
因みにアリスティアはニャルベルデ四天王の縄張りの中心に小さい縄張りを認められ、一流の野良猫の仲間入りを果たしていた。今日はその挨拶に来ていたのだ。
スンスンと鼻を鳴らしながら歩くアリスティアの後ろに数十匹の猫が隊列を組んで移動を開始した。
新たな事件の始まりである。
アリスティア「一流の野良猫になったぞ。長かった」




