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閑話⑬ 予算会議

偶に猫を無性にモフモフしたくなる。でも部屋に入れるとパソコンのキーボードの上を占拠するんだよね。

「なんでぇ? 」


 アリスティアの言葉にアルバートが答える。


「姫様は予算請求と言う物をご理解して頂いていない様だ」


「何が? 」


 アリスティアは訳が分からなかった。何で財務大臣じゃなくて陸軍が反発するのだろうか。彼女には理解出来ない。


「それは一体何かね? 」


 アルバートはアリスティアの前に置かれた物を指さす。


「これ? ああ、これは私の富と権力の象徴」


 アリスティアは予算会議の場でオヤツを食べていた。

 現在の時刻は午後3時5分である。オヤツタイムのアリスティアは絶対に仕事をしないし、オヤツを意地でも食べる。なのでオヤツ毎予算会議の為に運ばれてきたのだ。

 まるで市場に出荷される子牛の様だったと目撃者は後に語ったそうだ。


「その富と権力の象徴、今まさに食べられて無くなっているのですが……」


 アリスティアの富と権力の象徴は一枚のアップルパイの様だ。そして今この瞬間もアリスティアの胃の中に消えて行った。

 富と権力の象徴の扱いは、それで良いのか? と会議室の全員が思った。

 ついでに可愛い富と権力の象徴だなとホッコリした。しかし、アリスティアの次の言葉で会議室が凍り付く。


「私はこの一枚に金貨5000枚使った」


「「「「ファッツ! 」」」」


 恐るべき事にガチで富と権力の象徴であった。

 アリスティアは至高のお菓子を求めている。なので自国と同盟国中から素材を集め、銀月に最高のアップルパイの製作を依頼したのだ。

 数多の素材。それも例えば同じ小麦の品種でも、土地毎に僅かに味に差異がある為に全ての土地から小麦を集めた。他の材料も同様だ。

 そして集まった万に近い素材を銀月の亭主が数多の試行錯誤の末に開発した『【現時点】至高のアップルパイ』である。現時点と名乗っている時点で作った本人が更に上を目指している様だ。尚、既に銀月でも販売されているが、一枚金貨10枚の超高額商品だ。割と売れているらしい。ついでに銀月の亭主の体重が20キロ増えたらしい。


「食べて無くなっても、また買えば良いしね」


 アリスティアの富と権力の象徴はパティシエが居れば幾らでも作られる物なのだ!

 驚愕する大臣達にアリスティアは興味なくアルバートに尋ねる。


「今何時だと思ってるの? 私は仮に女神が降臨してもオヤツを優先するって何時も言ってるじゃん」


「正教の神官達が本気で泣いてるから、女神様が降臨した時くらいはそちらを優先してくれ」


「ん、却下」


 哀れな。検討の余地すら存在しない様だ。未だに3時のオヤツ法を提出し続けてるアリスティアにとって女神降臨は些事でしかないのだ。

 アリスティアにとって女神は出汁の取られた後の煮干し以下の存在である。


「もしかして食べたかった? 良いよ。アリシアさん」


「はい」


 アリスティアの後ろで控えていたアリシアが予算会議の為に集まっていた大臣達にアップルパイを配る。

 因みにアーランド王国での予算会議は長いと10日ほど連続で続く(軍が粘る為)ので、会議中の飲食はOKだ。駄目だったらアリスティアはあらゆる手段でオヤツを優先しただろう。


「うんま! 」


「何だコレ! 」


「帰りに買って行こうかな……」


「妻と娘が喜びそう……」


「まずは、家に帰れる時間を捻出せねば」


「「「「……」」」」


 予算の捻出は出来ても時間を捻出出来ないらしい。一部目が死んでいた。尚、空軍と技術開発局から来ている連中はホワイト労働なので生き生きしているぞ。空軍設立時に軍属の文官を奪われた陸軍は泣いて良い。


「ふむ、美味いな」


  アルバートも上機嫌にアップルパイを食べていた。

 こうして富と権力の象徴と言いながらも、大好きなお菓子を分け与える事に一切の躊躇いが無い事もアリスティアの人気の秘訣だった。本人は無自覚だが。


「ところで予算の件だけど」


「無論反対である」


「なんでぇ(怒)? 」


「姫様は予算の要求方法と言う物をご存じない様だ。

 良いですか? 予算と言う物はその様に傲岸不遜に要求するものではない。

 どれ、儂がまずは手本を見せよう」


 ガタンとアルバートが立ち上がる。その姿は陸軍と騎士団を纏めるに相応しい覇気を纏っていた。まさに戦に赴く英雄の如き姿である。

 そしてアルバートは財務大臣の前に移動すると……


「予算ください! 」


 そのまま土下座した。


「駄ァ目だァ!!!!! 」


 財務大臣はキレていた。主に陸軍の要求額に。腕を組んだまま冷徹な氷の様な視線でアルバートを睨んでいる。

 チラリと顔を横に向けるアルバート。ドヤ顔でアリスティアを見ている。これぞ軍伝統の予算請求である。因みに最長10日間も続いた事も有る。

 英雄が堂々で土下座する事で相手に同情心を持たせたり、周囲からの視線でダメージを与え、譲歩を引き出す高等交渉術だ。尚、使い過ぎて陳腐化している模様。


(異世界人め、余計な文化を伝来させたな)


 アリスティアは別の事を考えていた。まあ、本人も割とやるけど。


「第一! 私だって認めませんよ。何ですかこのふざけた額は! これが一体どれだけの金額か姫様は御分りなのか! 」


 ついでに財務大臣もキレていた。


 因みに陸軍が空軍と技術開発局の予算要求額に反発した理由は主に2つ。 

 1つめがアリスティアの扱いだ。

 元々アーランド王国では王族は総じて軍属だ。例外は無い。

 アリスティアも元々は名目上だが、魔法師団所属であり、そこは現在陸軍の部隊である。

 なのに、アリスティアは何時の間にか創設された空軍のトップだ。

 つまり返して欲しいのだ。実際軍部でのアリスティアはアイドル的存在なので、居なくなった被害は無視出来る物じゃ無い。ついでに予算獲得能力も高い。税収を増加させるプロなので、各大臣が頭が上がらないのだ。恩恵を滅茶苦茶受けてるので。

 アリスティアの背後に居るパッシュ率いる空軍将校達も中指を立てて断固拒否の姿勢を示していた。普段は仲が悪い訳じゃ無いが、この話題は断固拒否である。

そして2つめは請求額其の物。

 陸軍より空軍の予算が多いのは狡くない? と言う物だ。


「一体何処の国に税収を上回る額を要求する軍が居るんですか! そこで土下座ながら知らん顔している貴様もだ! 」


 財務大臣の血管が浮かび上がっている。


 アリスティアが要求した金額は技術開発局と空軍の予算の合計でアーランド王国の税収2年分である。

 アルバートが要求した陸軍予算はアーランド王国の税収の1年分である。

 財務大臣が怒るのも仕方のない話だった。軍が堂々と税収3年分も予算を寄越せと言うのだからキレるのも仕方のない話だった。

 因みにギルバートは紅茶を飲みながら現実逃避していた。


「……取り敢えずアルバート殿は椅子に戻ってください」


「予算を認めるまでここから動かん! 」


「良い加減にしろよ! それで前回私がどんな目で周囲から見られたと思っているんだ! 」


 前回、アルバートの土下座攻勢的交渉術で、周囲から冷徹漢呼ばわりされた財務大臣は引く気が無い様だ。


「第一、何でそんなに予算が要るんですか! そっちの姫様もです! 」


 アルバートとアリスティアは視線を合わせる。

 そして同時に口を開いた。


「「だって軍拡したいんだもん(じゃもん)」」


 その言葉に財務大臣は頭を抱えながら天井を見た。


(駄目だこの二人。早く何とかしないと……)


 自身が確たらんと、王国の財務規律は崩壊してしまう。頼りのギルバートはアリスティアに激甘だ。無論国を揺るがす程ではないが、この手の問題はアリスティアが力技で解決してくるので動く気はないだろう。今も窓の外の縁に止まっている鳥に「君達は自由だな。まるで私の妹の様だ」と話しかけていた。

 因みに明確に反対してるのは陸軍と国土大臣と財務大臣だけだぞ。

 他の大臣は自分の要求した予算は確実に取れると考えているので我関せずの姿勢を貫いている様だ。

 陸軍の反対理由は上記である。

 そして国土大臣の反対理由は、その予算を国内開発に回してほしいという強欲な物だった。お前は、軍以外だと一番多くの予算を要求してるぞ。


「全く、たかが税収3年分程度で大げさな」


「全 然 大 げ さ で は あ り ま せ ん ! 」


「全くだな。そんなに興奮すると倒れるぞ」


「お前も当事者だ! 」


 アルバートは鼻をほじりながら答えると、財務大臣がキレた。キレる中年である。


「良いじゃん。お金なんて何処かの怪盗が宝物庫にいっぱい居れたし、こうパーっと使っちゃおう」


「限度があります」


 私が財務規律を守ると言う鋼の決意を示す財務大臣の鑑である。

 取り敢えず財務大臣を説得するのは後だとアリスティアは考えた。

 こういう時は反対できない様に賛成派で財務大臣を囲めば、大体解決出来るのだ。

 と言う訳でアリスティアは最後のパイを飲み込むと立ち上がり、テクテクとアルバートの元に行くと、宝物庫から出した書類を手渡す。


「これは? 」


「黒騎士と白騎士の仕様書。

 ついでに人工的に聖剣の生産が可能になったよ」


「…………」


「でもぉ~予算無いと量産できないんだよなぁ」


「ひ、卑怯だぞ」


 そう言いながらも血走った眼で書類を見ているアルバート。その顔はどんどん驚愕していき体を震わす。

 恐るべき性能の魔導甲冑が作られていた。

 近接特化魔導甲冑【黒騎士】

 それはダークマター合金を用いた完全密封式の全身鎧だ。

 この鎧の恐ろしい事はセットで開発された人造聖剣【アキレス】の効果である硬質化と鎧の強度&付与魔法により、戦車よりも硬いのだ。

 その強度は127ミリ鉄鋼弾を受けても装備者は無傷且つ、継戦可能と言う恐ろしい防御力である。

 それだけではなく、最高時速100キロで飛行可能な上にBC兵器に対する防護力も極めて高い。

 まだ終わらない。それに宇宙服や潜水服としての機能も持っており、限定的に宇宙や水中でも活動可能だ。こちらは偶然の産物だが。

 更に放射能に対する耐性も高く、臨界状態の原子炉の炉心内部で3時間は安全に活動可能な強度と対放射性能力も持っている。

 アリスティアの過剰処か狂気的かつ変質的な庇護の心の結晶。

 帝国戦で失った騎士達をこれ以上死なせたくないという狂気にまで至った心が生み出した絶対防御の鎧だった。

 そして、広域支援型魔導甲冑「白騎士」

 これは極めて特殊な鎧であり、防御性能は黒騎士に劣るが、精霊と契約している者が装備する事を前提とした装備だ。

 ダークマター合金は極めて精霊と親和性の低い合金で、精霊の忌諱物質である。

 これを基に精霊と親和性の高いライトマター合金を開発し、これを主要素材と使われた物だ。

 装甲こそ黒騎士に劣るが、90ミリクラスの砲弾なら直撃しても問題ない程度の強度を誇る。

 そして契約した精霊の属性によってトリッキーな動きが出来るのが特徴だ。

 この二つの魔導甲冑を騎士団に装備させる計画書をアルバートに渡したのだ。

 恐るべきことに既に各100セットの生産が終わっているらしい。

 アルバートが驚愕したのは、そのあり得ない性能だけじゃない。

 これは世界中の国が一度は夢見ながらも予算と技術力不足で如何なる国も実現できなかった魔導兵計画其の物であるという事だ。

 魔導兵計画とは、その名の通り、極めて高度な魔導具を多数装備した軍勢を作る計画だ。しかし、魔法王国ですら、それだけの魔導具を持たせた軍勢は作れなかった。

 それをアーランド王国が作ろうとしているのだ。

 アルバートは無言で部下に書類を渡す。それを読んだ部下達は会議の場でありながら涙を流し始めた。


「姫様ぁ……」


「俺達は……俺達は……」


 泣いているのは騎士団の者達だ。

 彼等は戦後ずっと不安だったのだ。

 彼等は国を、王を、王太子を護れなかった。護ったのは、本来守られるべきアリスティアだった。

 そして活躍したのはアリスティアの生み出した火器やゴーレムだった。

 自分達は最早不要の長物なのかも知れない。

 銃は強力な武器だ。騎士を平民が簡単に殺せる。無論彼等も一方的に殺される気はないが。

 この世界では火器は強力な兵器だが、最強では無い。AK47もどきの7.62ミリ弾も闘気で弾く事が可能だ。無論限度は有るが。

 だが、命無きゴーレムが火器を装備する姿は彼等を絶望させるには十分すぎた。

 自分達が情けないから見限られたのかも知れない。護れなかった自分達は最早不要なのかもしれない。

 ずっと思い詰めていた。その答えがこれだった。

 アリスティアは騎士団を魔導兵として生かす道を選んだのだ。

 実際はこれ以上死なせたくないので、偏執的に防御力を高めた装備で身を固めてくれと言う懇願だが。

 この2つの魔導甲冑の性能に驚愕していた彼等はまだ知らない。この鎧が完全にオーパーツと言う事を。

 この鎧はそのポテンシャルの全てを装備者を護ると言う狂気的な思考の下に作られているのだが、この魔導甲冑は高度過ぎてアリスティア以外に生産は不可能だと言う事に。

 魔導炉がプラモデルだと思えるくらい製作難易度が違う。技術開発局のMAD達ですら、解析不能と匙を投げて頭を抱えた物である。

 そして人造とは言え聖剣を与えられる。聖剣とは騎士の憧れだ。

 彼等はまだ必要とされていると言う事を漸く理解出来た。

 因みにアリスティアは元々騎士不要論は唱えていない。と言うか知り合いの割合なら貴族より騎士の方が遥かに多い。彼等から仕事と誇りを奪う理由も無い。帝国戦での失態はそもそも数が違い過ぎたと言う単純な理由だ。命がけで戦った者に鞭うつ気はなかった。

 「これあげるから、これからも宜しく。もう死なないでね? 」である。

 なので何故号泣し始めたのか理解出来ずに首を傾げていた。

 しかし、彼等はマッスルだ。思考回路が違う。何処か筋肉がショートしたのだろうと考える事にした。血走った眼で号泣する彼等が怖かったから、深く考える事を放棄した訳では決してない。


「……閣下」


 騎士団の者達が涙目でアルバートを見る。

 その眼には「予算くらい良いじゃないですか」と言う意思が宿っていた。所属は違えど我等の姫様が軍属である事に変わりはないのだ。それで良いじゃんと。


「アルバート団長。技術開発局のMAD達が勝手に改良したスパイダーR改を30両程そっちに渡すよ」


「陸軍は空軍及び技術開発局の予算案に賛成である」


 チョロかった。戦車も欲しかった様だ。まだ生産数が少ないから仕方ない。

 因みにスパイダーR改は技術開発局が勝手に陸軍へ送られる分を強奪して改造した物だぞ。引き渡される前だった為、引き渡し自体がもみ消されたのだが。

 アリスティアとアルバートはサムズアップし、友好を深めた。陸軍と空軍はズッ友だよ!

 そして次は国土大臣である。アリスティアは背後から大臣の肩に手をポンと乗せる。


「大臣、空軍の新基地開発に伴う周辺のインフラ開発について後日相談がある」


「悩ましいですなぁ♪」


 コイツは国内開発を行って国土大臣が無用の役職では無い事を示したいだけなので、交渉は簡単だった。

 「空軍が国内開発に手を貸してくれるなら良いですよ」と言う事だった。


 こうして財務大臣は僅かな仲間を失った。

 アリスティアはサムズアップしている。無言のおねだりだ。


「姫様! 会議の場で堂々と裏取引をしないで頂きたい! そう言う物はもっとこっそりと! バレない様にするものです! 後、殿下もしっかりと反対してください! 」


「無理じゃね? 反対派が君しか居ないじゃん」


「予算は有限ですぞ。それに殿下も反対してください! 」


「私は無駄な事はしない主義だ」


 バッサリとギルバートに切り捨てられた。

 アルバートとアリスティアは「「裏取引って何だろうね? 」」と首を傾げている。陸軍と空軍はズッ友だぞ。国土大臣は静かに紅茶を飲んでいた。彼の脳内には国内開発しか考えていない。

 何処に道を通そうかなぁ? あそこにダムあると便利だなぁとか。鉄道もっと施設したいなぁ。とかしか考えていないぞ。


「お金が無い? それは困った」


 アリスティアは懐から謎のスイッチを取り出すと、そのまま無言で押して懐に仕舞った。

 何をしたのか分からない全員。でも嫌な予感がした。

 同時に城内に警報が鳴り響く。


「何事だ! 」


「伝令、城内に怪盗アンパン三世が出現。宝物庫に財宝を放り込んで逃げ去りました! それと……中庭の財宝を何処に仕舞いますか? 」


「アリス! 」


 実は前回怪盗アンパン三世の放り込んだ財宝だが、今価値の集計の為に宝物庫から出していたのだ。

 と言うか天井まで積み上げられていた上に入口ギリギリまで置かれていたので、それを取り出さないと他の物が取り出せない。中には式典や儀式に必要な物もある為に整理として一度宝物庫の外に出していたのだ。

 そこにまた詰め込まれたと言う事は、現在整理している財宝を仕舞う場所が無いと言う事であった。


「おっと、お兄様、私はずっとここに居たじゃん。アリバイが有る」


「分身出来る君にアリバイは成立しない! 」


「しょ、証拠が無いし。私が怪盗アンパン三世だと言う物的証拠が無い! 」


 アリスティアと怪盗アンパン三世は別人だぞ。怪盗アンパン三世を捕まえるまでは同一人物だと断言できない。捕まえるまでは最重要容疑者だ。しかも分身出来るから、本体を捕まえていても無駄である。

 尚、アリスティアには最強の言い訳である「分身が勝手にやった」と言う言い訳も用意されていた。実際分身の一部はアリスティアに従わず好き勝手動いている【ロストナンバーズ】が存在する。

 最悪分身に責任を押し付けた上で責任を取って役職を辞すると言う完璧な保身策が用意されていた。役職降りても資金的に困窮する事は無いし、寧ろ仕事が減るのでアリスティアに損はない。


「君ねえ……」


 ギルバートは優秀だ。アリスティアの思惑を全て読んでいた。

 実にたちの悪い相手だ。役職に対する未練が欠片も無い。必要なら王族籍すら捨てかねない。

 しかも国に利益を流す事を第一にしてるのでシンパも多い。

 アリスティアの評価は人格や行動に大問題を抱えているが、基本的に国に有益な存在だ。ただ、偶に法律のグレーゾーンのギリギリを攻めてくる事が有る。

 怪盗アンパン三世騒動も少なくとも捕まるまではアリスティアが犯罪者になる事は無い。そして捕まった場合は証拠も残さずに消えるだろう。結局立証は不可能だ。


「お金有るね。じゃあ承認って事で♪」


「………」


「そんな不満な顔しないでよ。大丈夫大丈夫。この程度の軍事費を出せるくらい税収を増やせば解決できるじゃん。

 来年も商人の尻を蹴り上げていっぱい稼がせるから税収増えるよ」


 商人は犠牲になったのだ。来年も彼等に休みは無い。

 基本的にアリスティアは商人が政治に口出しするのは反対だ。彼等は利益しか見ない。それも将来的な利害関係を軽視するきらいがある。

 イデオロギー的に相いれない国を人件費が安いと言う理由で工場を建てて、結局敵国の国力を上げてしまう事も有るのだ。

 アリスティアは敵国には一切の支援もせずに発展も許さず後進国にしておいた方が安全保障上好都合だと考えていた。駄目だったら叩けばいい。

 なので、彼等は稼がせるが、過労状態にさせて余計な事を考えれない&させない様に統制していた。

 実際アーランドの商人は今の仕事が手一杯で中央と貿易したいとか考えてないぞ。寧ろ中央と貿易するって王国が宣言したら過労死するから止めてくれって懇願するぞ。


(((何でこの人、商人の庇護者って言われてるんだろうなぁ……)))


 基本的に商人が儲けられる様には動いてくれるからだ。内面はポンポコくらいしか気が付いていない。

 そのポンポコはアリスティアに忠誠を誓っているのと、商人の目的である稼ぐ事を侵さないので黙ってるだけだ。分不相応な事をしなければ商人に有益ではある。


「さて、予定より早く終わったね。私は王都の視察に行ってくる」


「待つんだアリス! 会議が終わっても仕事は終わってないから」


「私の分は終わりだよ」


「君、半分くらい書類仕事を宰相に押し付けてるじゃないか! 」


「だって物欲しげな顔で私の書類見てるし」


 アリスティア以上の書類を捌きながらチラチラと物欲しげな視線を向けてくる宰相ボルケン。流石仕事の鬼である。

 ハムスターに餌を与える感覚でアリスティアはボルケンに半分ほど書類を押し付けていた。因みに満面の微笑みで受け取っていた。


「それに王都の視察も仕事」


「屋台で買い食いするのも仕事と言い張る気かな? 」


「お、王都の物価とか……調味料が使われているかとか……国民の食生活に対する視察だし……必要だもん。それに私が王都に出ないと城門前のマッスル軍団のデモが拡大するじゃん」


「いい加減止めて欲しいんだよね、アレ……」


 アリスティアが王都に出ないと、国民が寂しがってデモが発生するぞ。ついでに王太子は筋トレしろデモは少数だが継続してるぞ。

 今も城の前では上半身裸の大男達がマッスルポーズをキメている。暇なのだろうか?


「でも君何時も迷子になるじゃん」


「王都の構造が変化するのが悪い」


「うん、それ君が原因だからね? 」


 王都は全域再開発してるので王都で涙目になってるアリスティアに出会えるぞ。

 まあ、国民かアリシアが連れ帰ってくれるが。

 因みにギルバートが心配してるのは、そのまま国外に出てしまう事である。

 全ての道はローマに通じてるから、何時かは目的地に着くはずだと全力前進するからだ。実際帝国戦でも迷子になっていた。その影響で帝国は碌な防衛が出来なかったが。防衛線とか普通に無視して進軍するから仕方ない。

 何でそこに居るの!? 何でそこ攻めてるの!? 何時の間に移動した!? の連続である。常人には対処出来る筈が無かった。

 結局軍の予算はそのまま通る事になった。


「私が、私がしっかりしなければ! 」


 但し財務大臣の心に焔を灯す事になった様だ。彼は財務の健全化に励み、アリスティアと対立する事になる。最も予算面での争いだけで関係の悪化は無かったが。

 税収増加では割と仲良く腹黒く話し合っている事が有るらしい。ついでに言うと、この対立は一種のプロレスで、外国の調略を試みる工作員ホイホイに使われているのだった。

Qインフレしないの?

Aこれまでデフレで辺境は通貨より物々交換してるレベルなので問題ない。通貨の普及になる。

財務大臣「財務の健全化! 」

アリスティア「税収増やすからヘーキヘーキ」

財務大臣「限度! 」

アリスティア「私の辞書には自重の二文字は存在しない!」

アリスティア「税収増加の為に国内開発もしたいよね」

財務大臣「うん。いっぱいしたい」

ギルバート「仲が良いのか悪いのか解らないなこの二人」

国土大臣「私に良い案が有る! 」


 次からシャハール王国編になります。長かった。まあ、シャハール王国編の途中に帝国戦で合流出来ずに置いてかれた「分身王女は祖国に帰りたい」も居れたいな。因みに帝国を死体蹴りしてます。

 取り敢えずはシャハール王国編優先で。

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[気になる点] 〉次からシャハール王国編になります。長かった。まあ、シャハール王国編の途中に帝国戦で合流出来ずに置いてかれた「分身王女は祖国に帰りたい」も居れたいな。因みに帝国を死体蹴りしてます。 …
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