閑話⑫ 中央国家連盟会議 1年目 ②
中央国家連盟の会議から4日後。
1人の男が部屋で暴れていた。
その部屋はその男の為の物だ。豪華絢爛であり、その者の富と権力を表すに相応しい調度品で溢れている。
しかし、その男はそれらを蹴り壊し荒れ狂っていた。
「何故! 何故、我に従わんのだ。あの下賤共がぁ! 」
「へ、陛下、お気を確かに」
側使えが必死に男を宥めるが、男には通じず殴られる。彼は奴隷でもあるのだ。
「黙れ奴隷風情が! 我に気安く触れるな! 」
倒れた奴隷の男を何度も蹴る男はエルニア魔法王国国王ジョゼフ・サラベ・エルニア4世だ。
「何時になったら我の魔導戦艦を取り戻せるのだ! 」
「し、暫く、お待ちを……何せ道理の通じぬ蛮族故……交渉にぐうう! 」
「何時我が交渉しろと命じたのだ! 差し出せと命じたのだぞ! 」
ジョゼフは怒り狂っていた。アーランド王国が帝国戦の最中に発掘した魔導戦艦は明らかにエルニア魔法王国に所有権が有る筈だ。
何故ならば、エルニア魔法王国こそが魔法使いの宗主国であり、古代魔法王朝を正しく継承する国の筈だからだ。古代魔法王朝の遺物は全て後継国である自国が持つべきだと確信していた。
特にジョゼフは帝国戦の最中に魔法王国の間諜が撮影した写真を見た時に一目惚れしてしまった。
ジョゼフの人生は栄光の人生だ。生まれた時から王に成る事が確約され、そして誰に邪魔される事無く王位を継いだジョゼフ。
彼は愚かな王では無い。その統治能力(魔法使いの国民限定)は悪くはない。但し欠点が存在する。それも致命的な欠点が。
それは、彼は我慢と言う事が一切出来ない男だった。
生まれた時から約束された未来を持ち、それを疑わずに育った男だ。そしてエルニア魔法王国は中央国家連盟の盟主の一角である3大国の一つだ。
彼の我儘は全て叶えられる国だった。
欲しい女は相手から差し出す。魔導具産業を牛耳る事で莫大な富が黙っていても転がり込んで来る。地位も名誉も欲しい物は全て手に入るのだ。
その環境で育った故に、彼の辞書に我慢の二文字は存在しなかった。多分母親の腹の中に忘れてしまったのだろう。そして、忘れ物を残したまま母親は既に死んでいるので我慢の二文字の回収も既に不可能である。
「あの美しい船は我が所有してこそ相応しい物なのだぞ! 何時まで汚らわしい獣共に触れさせるつもりだ! 」
「し、しかし! 既に本国に持ち帰られておりぐえええ」
「今すぐに取り戻せ! そして船内を清掃しろ! 蛮族の痕跡一つ残す事は許さん! 」
彼にとって魔導戦艦は自分の権威の象徴にするべき船だ。古代魔法王朝の後継者たる自分が所有してこそ、あの船は輝くのだ。
それを寄りにも依って魔法後進国が手に入れて引き渡さないのだ。
しかも無礼千万な事に国境で使者の入国拒否を行って来る始末である。
前回の使者の態度が酷かったから仕方ないね。
ついでに言うと、最近アーランドで開発されまくってる魔導具の権利と開発者の身柄も要求してる。尚、開発者は王族なので引き渡しは拒否である。
但し、これが魔法王国を非常に激怒させていた。
実はこの国、建国以来衰退が止まらない国なのだ。
建国当初は簡単に作れた魔導具も今では性能が劣化した物すら作るのに苦労する程に技術力が落ちている。
理由は技術を独占し過ぎた事により、競争が無くなった事だ。
更に言えばここ70年は新しい魔導具の開発も行っていない。この国のイノベーションは完全に停滞していた。
技術力が停滞した魔法王国。しかし、問題はそれだけじゃない。行き過ぎた純血主義の結果、近親婚が続き純血魔法使いの遺伝子病等の増加や子供自体が減り始めたのだ。
それを解決しようにも純血主義のせいで魔法王国は純血と称する魔法使いと外血と呼ばれる魔法使いの溝も深い。今は魔法使いと言うだけで特権階級になっている事から外血も大人しいが、魔法王国の在り方に不満を持つ外血は増え続けている。
「我の温情を無視する事も許せん! 早急に解決しろ! 」
彼の温情はアリスティアと自国皇子の婚姻だ。行き過ぎた純血主義の弊害を純血魔法使いも流石に問題視し始めている。故に外血でも能力の高い者を純血魔法使いと番わせる事を認める動きが出ていた。
そしてアリスティアとの婚姻はそれの象徴にする予定だったのだ。しかしアーランド側が断固として認めない為に計画はとん挫した。
この計画の最大の問題点は自国の問題の解決策に友好国でもない処かほぼ敵国の王族を使おうとした事だろう。
アーランド側に利益が無さ過ぎたのだ。魔法技術はアリスティアが居るだけで魔法王国を上回れるアーランドは王族を差し出す必要が無い。
更に言えば、アーランド王国は王族が非常に少なく、王族が絶滅危惧種状態だ。この状況で他国に王族を嫁がせるという選択肢はない。後、某シスコン王太子が絶対に認めない。
ついでに言うと、外国にアリスティアを嫁がせると天使教徒が暴動を起こすぞ。彼等はアリスティアの結婚には反対しないが、ストー……アリスティアを眺める事が出来なくなるのは認めないのだ。
更に残酷な事にアリスティアが魔法王国に欠片も関心が無い。と言うか終わってる国と言う認識だ。
実際間違いではない。既に既得権益の維持すら覚束ない状況の国家だ。
アリスティアがこの国が終わっていると考えてる理由だが、この国では新しい魔導具が開発された場合は、まず、何処の一族がそれの権益を独占するか話し合う事から始まると言う時点で終わっている。開発者が哀れすぎだ。一応結構な報奨金が出るけど。
「良いか! 早急にこの件を終わらせよ。我が国の譲歩は一切認めない! 」
動かない従者を蹴りながら吐き捨てると部屋から出て行くジョゼフだった。
その後、余りにしつこく使者を送って来る魔法王国にキレたギルバートが、船の前半分が解体された魔導戦艦の写真を贈った事で更に魔法王国とアーランドの仲は険悪になるのだった(即時開戦にならなかったのは国土が隣接してないのと、通り道の帝国が絶賛内乱中の為)。
しかし、魔導戦艦解体と言う大事件の陰で、解体された古代魔法王朝の魔導戦艦はアリスティア式魔導戦艦の建造素材にされている事はまだ他国は知らない。後、アリスティアの引き渡しは、ドラコニアが鼻をほじりながら拒否した。そして使者は国境線を超えると攻撃すると宣言も受けた。余りに送り過ぎたのと、態度の悪さが国境警備隊を激怒させたのが原因だが、魔法王国に反省の二文字は存在しなかった。
教皇視点
彼は混乱する中央国家連盟の諸王達の姿を楽し気に見ていた。実に上機嫌だった。
「猊下……楽しそうですね」
部下が疲れた表情で話しかける。
「そりゃそうだ。実に良い流れだ」
中央国家連盟はアーランド王国に怯えている。自分達がしてきた迫害の歴史が逆転する事を恐れてる。
「我々の損害も馬鹿になりませんでしたが? 」
皇国は帝国戦に乗じてアリスティアを確保しようとして失敗していた。
貴重な戦闘用異世界人すらうしなったのだ。何故楽しそうなのか理解できない。
「世界は再び一つになるんだ。多少の犠牲は歴史を彩る些細な事件に過ぎないよ。
それよりも勇者と精神剣が揃った。後は聖女を手に入れれば、全てが叶う。
そう、私は諦めていない! 」
僕こそが最後の皇族だ。滅び去った祖国を復興し、今後こそ全てを手に入れる。
見ているか! 嘗て失敗作と断じられ封じられた僕はお前たちが出来なかった事を成し遂げるのだ。
僕と言う新しい神の下に全てが跪くのだ!
「まだ手は有るさ。それに王女の傾向も見れた。カードは僕たちの方がまだ多い。
それに切り札も残っているしね」
皇族たる自分を不老不死の実験材料にした挙句、怪物の制御装置にまでした古代魔法王朝。あの時は腸が煮えくり返る思いだったが、それも昔の事だ。
自分を掘り起こした教団を乗っ取るのに100年掛かった。魔王降臨の際に精神剣を使う事も出来なかった上に出来そこないの勇者に奪われた。
だが、自分には悠久の時間が有る。魔法を失った事だけが気に食わないが、得た物も多い。そして、現代には自分を失敗作だと罵る存在も全て死んでいる。
あの怪物の場所も既に特定済みだ。和の国だ。
あの国を構成する島々の半分は古代魔法王朝時代の浮遊島だ。その一つにそれは居る。
古代魔法王朝ですら制御出来ずに封印した怪物を自分は掌握出来る。未だに残っている筈だ。自分が残っている様に。
教皇は間違った。確かにそれは残っているが、現在太陽に向かって出荷された後だと言う事に気が付かなかったのだ。
だが、それを知らない彼の眼には栄光しか映っていなかった。
一方その頃のアーランド王国
予算会議中の会議室は異様な闘争を繰り広げていた。
「陸軍は空軍及び技術開発局の予算案に反対である」
アルバートが重々しく告げる。
対するアリスティアは上機嫌にアップルパイを頬張っていた。
そしてアルバートの言葉を受けると、パイを飲み込み、紅茶を一口飲む。そして答えた。
「なんでぇ? 」
意味が分からないと言う風に告げるアリスティアの対面にはアルバート。そしてその後ろに控える将校達が垂れ幕を持っていた。
『空軍予算ヲ削減セヨ』
『姫様ヲ陸軍ニ返還セヨ』
その垂れ幕を見たアリスティアは再び口を開く。
「なんでぇ? 」
会議室は異様な雰囲気に包まれていた。そしてアリスティアとアルバートを財務大臣が真っ赤な顔で睨んでいた。
アーランド王国の王族は名目上でも軍人です。アリスティアは一応魔法師団の所属でしたが、空軍設立で空軍に所属が変わってます。
陸軍「……返して」
空軍「ヤダよ」
財務大臣「そんな事より謝る事が有るでしょう?」




