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閑話⑪ 中央国家連盟会議 1年目 ①

遅れたよ……スランプかなぁ……

「どうしてこうなった……」


アーランドがお祭り騒ぎの1週間後に開催された中央国家連盟会議でとある国の王が青褪めた表情で呟いた。いや、青褪めているのは彼だけではない。2大国を除く全ての国の王が青褪めていた。


「話が違うではないか! これでは我々は大損だ! 」


 帝国の敗北は良い。あの国は最早役目を終えているにも関わらず、自分達飼い主に牙を剥く狂犬だ。

 グランスール帝国は建国当初は中央国家連盟の都合で作られ、繁栄した国だ。

 人魔大戦から始まり魔王降臨を勝利で終えた当時の大陸の被害は凄まじく、存続出来ない程の被害を受けた国も多かった。

 そして当時は融和派も今より強い力を持っていたし、亜人国家も存在した。

 当時の諸王はそれらの全ての問題を当時の混乱で生まれたグランスール帝国に押し付けた。帝国を援助し、融和派や亜人国家と戦わせたのだ。

 報酬はある程度の領土拡大と経済援助。

 グランスール帝国は魔王降臨の際に最も被害の大きい土地で生まれた為に建国当初は経済が弱く、従った。

 しかし、その選択は制御不能の大国を生み出してしまった。

 当時のグランスール帝国の皇帝は卓越した統治者だった。邪魔な融和派を打ち破り、亜人国家を滅ぼして尚も余力を残していた。

 彼等は帝国に利用されたのだ。血を流す役目を帝国に押し付けた周辺国を帝国がどう見ていたか見抜けなかった。

 気がつけば手に負えない超大国の誕生だ。飼い主が飼い犬に転落してしまった。

 そして帝国の統治は極めて悪辣だった。属国や周辺国への離間工作を駆使して国家間をバラバラにし、経済で自国に依存させる事で反発も許さない。

 そして、それが数百年も続くと、周辺国の王達も腐っていく。

 帝国に踏みにじられる他の小国を憐れむのではなく、向ける視線は蔑視と嘲笑。

 まるで奴隷同士が鎖の自慢をするような物だ。踏みつけられるのは愚かだからと蔑みの視線を向け、内心で自分は助かったと安堵する。中央国家連盟が大国クラブとアリスティアが呼ぶ所以だ。中小国は帝国の毒で既に腐りおちているのだ。

 しかし、踏みつけられた国が納得出来る訳ではない。

 遂に忍耐の限界に達した国がアーランド王国と同盟を結び、中央に牙を剥くのは自然の流れだった。アーランドと同盟を結んだ国は帝国に従属しても屈服はしていなかったのだ。

 しかし、それだけなら脅威じゃない。中央国家連盟は大陸の殆どの国が参加している(しない国は袋叩きにされるため)。王国同盟と中央国家連盟の領土の差は中央国家連盟が王国同盟より30倍以上の領土の広さだ。

 領土だけでこの差だ。人口や経済などは更に大きな差が有る。負ける筈が無い。

 だからこそ、当初は嘲笑していた。

 そして帝国が歴史上初の大攻勢を発令。アーランド王国へ総力戦を挑んだ。アリスティアの齎す技術と富を手に入れる為だ。

 当初アーランド王国が勝てると思った国は殆ど無かった。圧倒的な兵力を有するグランスール帝国が本気を出せば、どれだけアーランド軍が精強でも、数だけで圧倒出来るからだ。

 そして当初こそ、その予想は当たっていた。

 アーランド王国は決戦を避け、ゲリラ戦に徹するも帝国の人海戦術には敵わずに敗北。軍の半数を失い砦に籠城した。王も王太子も重症を負った上でだ。これには帝国も中央国家連盟も勝利を確信するのは仕方のない事だった。

 しかし、そこで突如アリスティアが牙を剥いた。

  戦争当初は王都防衛と言う名目で動かなかったアリスティア。しかし、王国軍の敗戦を知ると突如戦場に現れたアリスティアは帝国軍を正面から撃破すると、その勢いのままに帝国領へ逆侵攻を開始し、グランスール帝国を蹂躙し、遂には無条件降伏を勝ち取る。

 それは良かった。

 アーランド王国はこれまでの恨みとばかりに帝国から金も領土も毟り取るだろう。

 金は兎も角、領土を奪うのは良い話だ。

 グランスール帝国は普人至上主義国家だ。アーランド王国と共存出来ない。それは国民レベルの話だ。イデオロギーが違い過ぎる。

 中央国家連盟が帝国の敗北を傍観したのはアーランドに毒を飲ませる為だ。そして、帝国からの解放の為だ。

 アーランドが帝国から奪い取った領地の領民を扇動して内乱を起こさせる。これが彼等の毒の筈だった。屈強な戦士も毒には倒れる。

 そして混乱する帝国からこれまでの借りを返してもらう。内乱を誘発させ、その内乱で稼ぐ。

 そして、その資金で帝国依存の経済を健全化させ、最終的には帝国は複数の国に分裂し、自分達の飼い犬に戻す筈だった。

 アーランド王国は併合した領地での内乱で足を取られ、力を落とし、自分達は帝国の重圧から解放される。帝国民が聞けば激怒しそうな話である。

 しかし、彼等の狙いは外れた。アーランド王国は領土は欲しいが、普人至上主義者は要らなかったのだ。故に自国の防衛に有利になる様に国境の無人地帯を奪っただけで、残りの賠償金はアリスティアが無慈悲に帝国政府と貴族から奪い取って去っていく。

 そして予想通り帝位を巡ってグランスール帝国で内乱が発生した。

 しかし、ここでも彼等の予想は裏切られた。


「ジルビットの金蛆(きんうじ。金に湧く蛆と言うジルビットの蔑称)共め! 我々の富にまで手を出すのか! 」


 帝国の内乱による利益はジルビットが完全に掌握してしまったのだ。

 帝国貴族も周辺国の事など欠片も信用していなかったのである。そしてジルビットは商人の国だった。

 商人は利益の為に生きる生き物だ。国家こそアーランド王国と同盟を結んだが、帝国と繋がりの有る商人は非常に多い。

 帝国貴族にとってジルビットの商人は非常に使い勝手が良い存在だ。対価さえ支払えば文句を言わずに物資を提供する。

 後に自分達が援助する皇族が帝位を継いだ時の報酬を支払う必要も無い。何故ならジルビットはアーランド王国と手を組んだ敵国なのだ。

 恩を返せと言われれば「君達は敵国だろう? 」と返せる。周辺国に無駄に借りを作る必要はない。

 ジルビットが如何に都合の良い存在だと思われているかが分かる事態だが、元々ジルビットは利益の為なら誇りも捨てる精神の国だ。

 這いつくばり金貨を拾い集める姿を嘲笑されても笑顔を浮かべる彼等は帝国だけでなく、中央国家連盟全体で蔑視されているのだ。

 最も去り際に彼等に背を向けたジルビット商人が邪悪な顔を浮かべている事に気が付いてる人間は居ない様だが。

 ジルビットは建国した時から反中央国家連盟の国家だ。金を稼ぐ事で周辺国の富を奪う事を生業としているのが実態である。

 彼等にとって自分達を嘲笑する奴は家畜に過ぎなかったのだ。

 そして、商人の集まり故に、アリスティアの齎す利益の意味をしっかりと理解している。

 今後は中央と組むよりもアーランドと組んだ方が儲かると考えているのだ。飛空船や格安の魔導具。そして経済規模を広げ続けるアーランド王国。

 今はまだ中央国家連盟に劣る国力だ。しかし、凄まじい速度で経済を発展させる姿は、いずれ中央国家連盟を単独で追い抜く可能性を感じる。

 元々ジルビットは普人至上主義の台頭により、国家を滅ぼされたり、国を出て行かざるをえなかった商人達の末裔であり、心情的に中央への反発が有る。

 そこに利益まで得られたのだ。アーランドに対しては邪悪な商人では無く、誠実な商人の顔を向けるのは仕方のない話だった。寧ろ中央国家連盟がジルビットを侮り侮蔑し過ぎていた結果である。中央国家連盟が彼等を侮蔑しなければ、内部に協力者くらい作れただろう。そして、ジルビットの実態を知る事は出来た筈だ。


「どうするのだ! このままでは我が国の経済が破たんするだけではないか! 」


「それも問題だが、アーランド王国だって大問題だぞ! 何で一王女が国軍よりも多くの兵を持ってるのだ! そんな事予測できるか! 」


「普通なら反逆行為だぞ。アーランド王国で混乱が起こっている筈だ。何で兄の王太子と仲良しだなんて噂が流れるのだ! 普通は粛清案件であろうが! 」


 実際王女が国軍を圧倒する軍事力を持つのは大問題だ。

 ただ、アーランドを擁護するなら、彼等もアリスティアがそれ程の戦力を持っている事は知らなかった。

 大半は戦時中に製造された物だし、アリスティアは秘密主義だ。

 最もアーランド貴族はアリスティアが謀反を起こすとは誰も思っていないだろう。

 興味のある事はとことん突き進むアリスティアだが、反面、興味のない事はあらゆる手段を講じて逃れるのもアリスティアだ。

 自由の無い王位を継ぐ気は欠片も無い上に、自分を擁立しようとする者は物理的に攻撃してくる女である。

 ついでにアリスティアの気質的に、王位が欲しければ簒奪では無く適当な無人地域を開発して独立するだろう。或いは適当な理由で帝国に攻め込んで領土を奪うだろう(普人至上主義の帝国民は要らないので全員追放される)。

 どちらにしてもアリスティアが王位を奪う理由は無い。率先してギルバートが王位を継ぐ事を応援する側である。


「しかし、アーランド王国に亀裂を作る良い機会だ。

 戦争に敗北した王太子と完勝した王女。国民や商人達を煽れば国を分断する事も可能な筈だ」


「それは良いな。連中には滅びて貰わねばならん。北で繁栄されれば、いずれ我等を脅かすのは必至だ」


「汚らわしい亜人共が我が物顔で生きる等許せん。連中は我々が適正に管理すればこそ、普人は誰に虐げられる事も無く覇者として生きれるのだ。アーランドの連中はそれが分かっていない。如何なる術を用いてでもアーランドを分断しなければ」


 嘗て普人が世界を支配する前。この世界には多くの種族が平穏に暮らしていた。

 強靭な肉体を有する獣人。長命な寿命と高い魔法適正を持つエルフ。卓越した技術を持つドワーフ。代表的なのは、この三種族だが、他にも一芸に秀でた種族は多い。空を飛べる種族や、水の中に生きる種族。そして魔族と呼ばれた者達。

 彼等は別に普人を支配していた訳では無かった。

 しかし、彼等に比べて普人は弱かった。

 獣人の様に優れた身体能力が有る訳でもなく。

 エルフの様に長い寿命と高い魔法適正も無く。

 ドワーフの様な加工技術も持っていなかった。

 魔族は……まあ、一つの種では無く、常夜の国に暮らす多種多様な亜人達なので、何に秀でているのかは更に細かく分かれる。

 しかし、普人は全ての種族を超える繁殖力を持っていた。だから最終的に勝利出来たのだ。決して彼等より強かった訳じゃ無い。どれだけ犠牲を払おうとも、他の種族より早く立ち直れただけだ。だから彼等を自分達の下に置く事が出来た。

 だが、それは新しい恐怖を生んだだけだ。自分達がそうだった様に、現在虐げられている亜人達はいずれ自分達を支配する事を目論むのではないか。

 だからアーランドの存在を彼等は認めない。彼等を認める存在を決して許さない。草の根をかき分けてでも滅ぼすのだ。


「人を送り扇動させよう。此度の事は我々にも多大な損害を受けた。アーランドだけが勝利する等許されぬ」


「暫くは我々も動けん。それに動けても帝国が混乱していてはアーランドに手を出す事など出来ない。

 ならば連中を混乱させるだけだ。兎に角時間を稼ごう。

 その間に経済を立て直す必要が有るし、情報も足らん。王女の力の根源を探らねばな。何、亀裂は入った筈だ。煽るのは難しい事ではあるまい」


 彼等には鋼の結束を誇ったアーランド王国に亀裂が出来たように見えるだろう。しかし実態は違う

 まずはアーランド国民の認識だ。

 アリスティアは確かに優れているが、精神的に危うい所もある。現状で不満が無ければ、あらゆる面で劇薬のアリスティアを王位につかせるよりも、ギルバートの方が適任だ。ちょっと怖いけど。

 実際アリスティアの齎す新技術の山を最小限の混乱に収め。かつ、最大限の利益を出すのはアリスティアには不可能だ。政治家としての技量はアリスティアを遥かに凌駕している。アリスティアの本質は秩序の破壊者である。統治者の能力は無い。

 現在の体制で不満が無い以上国民は騒がない。アリスティアは国民の眼を繁栄に向けさせている為に、騒ぐ理由も無い。誰だって細かい事よりも目の前の栄華を目指す生き物だ。その点ではアリスティアは人の本質をよく理解しているだろう。自分の都合を優先しつつ国民に利益をばら撒き、王位継承へ口出ししない様に誘導している。気が付く人間が居ても誰も不利益が無いので文句を言わない。寧ろ「そこまで嫌か」と呆れるだけだ。

 では貴族は如何だ?

 誰だって貴族議会の二の舞は御免である。潰された事例が有る以上、二度目も同じ末路を辿ると誰だって解るだろう。後は【生命の秘薬】や【魔法の櫛】と言う弱点を握られているので、怒らせたくない。

 では商人は如何だ?

 アリスティアは自身で商会を作り、莫大な富を稼いでいる。妬まれるだろう。

 しかし、商人もアリスティアの王位継承の為には動かない。

 妬みは有る。しかし、アリスティアは富を独占しない。莫大な富を稼ぐが、それはアリスティアの懐に入るのではなく、更なる富の呼び水として市場にばら撒かれる。富の独占を行わずに市場にばら撒くアリスティアへの妬みは少ない。

 何故ならば、アリスティアが市場に金をばら撒けば、確かにアリスティアは更に莫大な富を稼ぐが、同時に商人達にも莫大な富を齎す。

 嫉妬に狂い、足を掴もうにも踏み潰されるだけだ。ならばアリスティアの指さす方向に全力で駆ける方が合理的だ。

 何故ならば、アリスティアの指さす方向には抱えきれない富が有ると信じられるからだ。そして商人は全力で走る。走り続ける。アリスティアに余計な事を考えない様に全力で走り続ける事を強いられているとも知らずに。

 商人達の認識ではアリスティアは経済の水先案内人である。実際はパシリだが。

 では軍部は如何だろうか?

 基本的にアリスティアと親しい騎士団はアリスティアが戦場に出るのは反対の立場だ。しかし、アーランドの王は英雄だ。英雄でなければならない。アリスティアが王位を継げば、ドラコニア以上に前に出るだろう。味方の犠牲を減らす為に。

 それに彼等はアリスティアシンパも多い。アリスティアが王位継承を拒否していて、それで王国に問題が起こっていないなら担ぎ上げる理由が無い。特に交流が有るので、アリスティアと言う人間をよく理解しているのも大きい。担ぎ上げても逃げると言う事をよく知っているので、担ぎ上げる事も無いだろう。何も無い神輿を担ぐ事程空しい事は無い。

 諸王達はここで間違った。国民を扇動しても誰も動かない。アリスティアに野心を持たせなければアーランドに亀裂を入れる事が不可能な状態をギルバートとアリスティアは既に構築済みなのだ。


「まだ我々が負けた訳ではない」


 とある王が呟く。

 彼等は知らない。既に自分達がアリスティアの持つフライパンの上に居る事を。既に大陸を焼き尽くす業火の火は放たれたのだ。

 彼等は知らない。アリスティアの目的が時間稼ぎだと言う事を。





 後の歴史書にはこう記される。


「アーランド王国を滅ぼすには、この時しか機会は無かった。

 この時、中央国家連盟が総力を挙げてアーランド王国に攻め込めば勝てる可能性は確かに有った。しかし、それも可能性が有ると言うだけだ。追い詰められたアリスティアは何をするか誰も予測できないだろう」


 そして中央国家連盟会議にて大国のトップ二人は沈黙を保っていた。

 混乱し、アーランド王国の台頭に恐怖する諸王を楽し気に眺める教皇。そして荒れ狂う内心を押さえるのに全力を尽くし、話を聞いていない魔法王。

 帝国が脱落し、中央国家連盟の2大国となった2名は全く別の事を考えていたのだった。

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[一言] 中央国家群はアーランド国に潜入させた密偵が誰も帰って来ないから永遠に勘違いし続ける。
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