31 契約の宝物庫と隠し事②
私の持つ宝具は鍵と宝物庫の2つで一つの契約の宝物庫と言う宝具です。これは誰にも手を出す事の出来ない至高の宝物庫で宝物庫自体が世界と少しずれた場所にある為、何処に有るのかは誰も、私も知りません。別にそれ以外の効果はありませんが鍵で扉を呼び出し開けると言う工程が必要なので人前では余り使えないのが欠点です。そしてこれが他の宝具と違う所は実はこの宝具、所有者を変更できます。宝具は個人の能力とされ所有者が死ぬと消えます。だけどこの宝具は予め相続者を設定出来るので私が死ねば他の私が指定した人に鍵が現れる。勿論私が生きてても譲渡出来ますが私が生きてる場合は譲渡しても権限は私なので宝物庫も開けれますしさらに他の人に勝手に渡す事も出来るのです。
ついでに私の目にある刻印も宝具では?と言われているのですが詳細は不明だそうです。時代の節目に現れるらしいのですが何故かどの時代の資料を探しても見つからないそうです。
あと宝物庫の中身もザックリと教えたですが2人の頭の上に?が出た時点で説明を辞めました。無駄な時間過ぎます。
「良く分からないが、かなり重要な物が入っているのだな。確かにどれも特別な管理は必要だろう。アリスティアなら適任だな、君ならば全ての効果や使い方を熟知しているし、その宝物庫は盗難の心配も無いのだろう?ならば、責める事でもあるまい」
「すみません、姫様の説明を理解出来ませんでした。しかし、兵器の類まで作っていたとは…もう少し早く気が付くべきでした。私はメイド失格です」
お兄様は別に怒って無いようですがアリシアさんは私の行動を把握しきれていなかった事がショックみたいです。これは地下に面白半分で研究所を作ろうとしている事は伏せておくべきでしょう。埋めろとか言われたら私は泣きます。服を汚さず、気取られずにコツコツ掘り進めたのに埋めるのはあんまりですから。
「有るべきじゃないからあそこに封印してるんだけど…それに殆どが魔力不足で性能を出し切れないから現状は唯の鉄屑だよ」
魔導炉の開発は現在頓挫してるのであれらの性能をフルに出すなら私が直接魔力を注ぐ必要があるうえ、私個人に魔力供給を頼ればそこまで数を動かせない。調子に乗って魔力効率とか考えなかったのが失敗でした。
「しかし、その歳…いや何時からかは知らないが、君がそこまで国の事を考えていたとは…私が君くらいの歳の時は爺を泣かせてばかりであったな」
確かにお兄様は爺と言う老執事(会話した事が無いので本名不明)を泣かせてましたね。私くらいの歳にお父様と魔物の森に侵攻したり、騎士団の訓練に紛れ込んだりと。
「しかし何処でその知識を手に入れたのですか?姫様の手の届く所にこれらの技術を記した書物はありません。有ったとしても禁書…いえ例え閲覧できても現在では生み出せない物や構造すら我等の理解を超えている物ばかりです」
ここまでは別に良いんですけど、ここからを話して良いのか判断が付きませんね。
「……」
口を開けて言葉を出そうとしますが上手く言葉が出ません。
「どうやらこっちが君の重荷だったか」
深呼吸して、落ち着きましょう。大丈夫。落ち着いて話せば良いだけです。
「私は……転生者です。私の作った道具は前の世界に存在した物を再現した物です」
言ってしまった。ずっと隠してた事、私がこの世界の異物だってことを…
「転生者?つまり君は別の世界で生きてきて死後にこの世界で生まれたと言う事か?」
「そう、こことは違う世界。人は空を飛び星を飛び出す。塔は雲の上まで伸びて町はこの世界の町より遥かに多くの人がひしめきあっていた世界。魔法は無く科学と言う学問で発展した世界」
私は全てを話した。地球の事、テトの事などを。
「信じがたいことだが、優れた科学は魔法と区別がつかない…か。君の話通りの世界なら君がそれだけの知識を持ってるのは理解出来る…だが魔道具は科学と同じなのか?君はその世界で何をして生きていたのか?」
「魔道具は別だけど似通った所は多い、それと前世の知識はあっても記憶は無い。だから前の私が何処で何をして生きていたのかは私も分からない。ただ、技術に携わる事をしていた筈。科学は学問。一つの分野でさえ膨大な知識と技術が必要。それを私が知っている以上、私はそこに関わっていた筈」
若干お兄様の眉間にシワがよりました。私は何か悪い事を言ったのでしょうか?確かに行き成り別の世界が在って私はそこから来たと言われても信じれないでしょう。あちらの世界なら電波?と言われても反論できません。正気を疑われたのでしょうか?
「君の言う事に嘘は無いと思う。地球と言う世界は私も知っている」
‼何故に‼
「異世界人と言うのを知っているかい?彼らは何処からともなく現れ異世界の知識を我等に与えてくれる。代表的なのは勇者召喚だな、皇国はそれを用いて他の世界の住民をこちらに呼べるらしい。制限はあるようだがな。そしてその異世界人の記録に自分は地球と言う所から来たと言った者が居たらしい」
どうやら私が初めてではないようです。しかし生きたまま世界を渡る人も居たのですね。私の場合は死んで転生なので制限があると聞きましたが生きたままならそこまで制限は無いのでしょうか?
「私も異世界人は知っています。余り思い出したくもありませんが」
アリシアさんは苦虫を噛み潰した顔をしています。昔何か有ったのでしょうか?
「何かあったの?」
「覚えておくといい。君がこのまま国の為に動けばいずれ戦場に出るだろう。そうなったら例え同郷の異世界人でも躊躇わずに殺す事だ。彼らは世界を越える過程で特殊な力を手に入れる事が多い。そして自然現象で出現した異世界人以外は基本的に皇国の傀儡だ」
どう言う事でしょうか?異世界人が居る事すら私は知りませんでしたし自然現象以外…つまり人為的に呼ぶ行為がありそれは皇国が持っている。そして人為的に呼ばれた異世界人は傀儡、つまり皇国は他の世界から人を呼び出し無理やり戦力にしていると言う事でしょうか?それに世界を越える過程で力を得ると言うのは私にも当てはまるのか?例えばこの目やこの魔法を行使するのに特化した体質とか。
謎は多いのですが取りあえず異世界人は注意が必要と言う事でしょう。魔道具で支配されてるのなら私の魔力で魔道具をオーバーヒートさせれるのですが魂を操作等の方法で支配されてたら手の施しようが無いですね。そしてそれが出来るのなら私も対処出来ない。これは対策を取るべきでしょう。暫く図書館に籠る生活が確定しました。
それと絶対に聞いておかないといけない事があります。
「…その、私は……」
言葉を発する前にお兄様とアリシアさんに抱きしめられた。温かく優しく抱きしめられたのは何時以来でしょうか?
「それ以上は言わなくて良い。例え異世界からの転生者であろうともアリスティアと言うのが今の君だ。君は私の妹なのだからな、今後はもっと甘えても良い。君は少し遠慮しすぎだ。家族が家族に甘えるのに躊躇う必要などない。私の可愛い妹よ」
「私は元々姫様の変わりようは知ってますから、それに姫様は私の恩人です。私がこうして居られるのは姫様のお蔭なんですから。例え転生者でも気にしません。それに転生者でも姫様は姫様として生まれたので何ら問題はありません」
少し泣いてしまいました。受け入れられる事は無いとずっと思ってた。話せば終わってしまう気がして誰にも言えなかったのに私の考えすぎだったようです。私は少し泣くと今日はもう遅くなったので眠るようにと言われそのまま眠りにつきました。
ギルバート視点
「どう思う」
俺はアリシアを2人で別室で話をする。アリスティアは少し話疲れたようなので眠るように言ったら直ぐに寝息をたてていた。普段なら誰かに見せないのだがよほど緊張していたのだろう。
「合点がいきました。しかし私は姫様を守るだけです」
アリシアもアリスティアの行動理念を知り安心したようだ。今までは何を考えてるのか分からなかったが少なくとも国を害す考えは持っていない。あの子はやはり優しいな。
「しかし転生者か、皇国は異世界人を隷属させる技術なら大陸一だ。あの子の道具の管理は厳重だが知られる訳にはいくまい」
「しかし姫様の留学は危険から遠ざけるのと姫様の成長を促すための事です。ですが姫様は今後自重しないでしょう。身元がバレるのは時間の問題かと」
確かに全てを話してくれたあの子は今後隠れて何かをする事は無いだろう。元々反乱等考えた事も無いが本人は国に牙を向けると言う考えすら無さそうだ。
だがあれらの物が有れば国の防衛も楽なんだがな。しかし出せば世界を混乱させアーランドの立場を危うくさせかねん。やはりアリスティアがゆっくり出来る時間は少ないのだろう。私は良い、王太子として国に身を捧げる覚悟はあるが幼いあの子に重荷を背負わせたくは無い。
そして話をしている時に感じた違和感もある。
「私はアリスティアが一瞬だけかなり怯えていたように見えたが」
「私もそう感じました。記憶は消えたのでは無く心の奥底に封じられたのでは?つまりあの怯えは姫様の前世に何か因縁があるのでしょう。幸いここは異世界故、姫様の因縁も世界を越えてまでは追ってこないかと」
不安は残る。一瞬とは言え尋常じゃ無い怯えだった。やはりあの子は安定していない。出来る事ならばゆっくりと時間を掛けて成長してほしいものだ。私達に出来る事はその時間を1秒でも延ばす事だろう。幸い明日も休みだ。一日中一緒に居てやろう。国に帰れば公務等で中々会えないからな、私も妹に「将来はお兄様のお嫁さんになりたいです」と言われたいものだ。(言われたら即実行するが)
それとテトと呼ばれる存在、あれは恐らく消えた創造主の一柱だろう。何を考えてるのか理解の及ぶ存在ではないがアリスティアの話を聞く限り悪しき者では無さそうだ。
「暫くは現状維持だな、アリスティアに悪意を近づけ過ぎると感化されかねん。ここならば王宮よりはマシだろう…しかしあの子は友達を作るのが下手だからな…」
偶々同い年の上級貴族の令嬢が居なかった為、私のような友を得られなかったがあの子は人から一線引いて生きていたので知り合いは多くとも友達は少なかった。
心配だ。ここは兄として私がそこら辺をサポートするべきだろう。話は終わったので私も部屋を出る。目的地は唯一つ。
「殿下、姫様は寝ております。就寝中の乙女の寝室には入らないように」
「先ほどは何も言わなかったであろう」
「私はこれより暗部との連絡があります。陛下より寝室に2人きりにしてはならぬと厳命されております」
…流石は父上、私があの子と添い寝したいと言う欲望を察知していましたか。
「…今日は大人しく引くとするか。無理をして寝てる虎を起こせば宿を燃やしかねん」
「賢明なご判断です」
アリスティアにメイドが一人しか居ない理由は簡単だ。あの子の寝起きの悪さは王宮でも有名でアリシア以外に勤まらず、その予測不可能な行動は貴族令嬢でもある王宮のメイドでは荷が重すぎるのだ。後、寝起きのアリスティアは母上よりも遥かに恐ろしい。今日はまだ良い方だったと言っておこう。




