閑話⑥ 領地開発基金
頑張って連続更新です。
それは映画製作の裏話。
ロケット打ち上げ準備中のシシドウ領。
「拓斗ぉ映画作ろう? 今日から拓斗の領地をハリウッドとする。あそこの崖は既にハリウッド風に改造しておいたよ」
「朝目が覚めたら領地がハリウッドになってた件。って言うか何で!? 」
「異世界転移したら古き良きハリウッド映画作るじゃん? 」
「何で異世界転移したら映画撮影始めるの? 地球で出来るじゃん。と言うか君は転生だよね」
「ド派手なアクション映画が見たいんだよ。最近は変なメッセージを込めたり変な倫理観で俳優がミスマッチだったりしてたし」
「あーうん解る。伝えたいと言う意思は理解出来るけど、見てる側からすればどうでも良いよね。面白さを優先して欲しかった」
「と言う訳でここを拓斗の領地はハリウッドになった」
拓斗もサムズアップで許可してくれたじゃんと告げるアリスティア。まさかこんなに早く始めるとは思っていなかった拓斗だった。
「いや、行き成りは無理だからね? 資金無いし」
「爵位と一緒に報奨金貰ったじゃん」
知っているんだぞと告げるアリスティアに拓斗は首を振った。
「製紙工場と製塩工場の人件費とインフラ整備でそんなはした金無くなったからね。税の徴収が終わるまでは余裕ないから」
「もう、直ぐに無駄使いするんだから。資金には余裕を持つべきなんだよ? 」
「いや、無駄使いじゃないんだけど……って言うか君は前世からお金に困ってなかったね」
金持ちがデフォのアリスティアだ。前世でも一度も金に困った事は無かった。と言うか前世でも今と劣らぬ大富豪である。
「大丈夫? 金貨10万枚あげようか? 」
心配げな顔で拓斗に問いかけるアリスティア。思わず頷きそうになるほどのバブみを感じる。
実を言うと、アリスティアはかなり男を駄目にするタイプだ。基本的に自分で出来る事が多いので、男に何かを求める理由が無い。寧ろ与えまくるタイプだ。
因みに駄目になっても面倒見てくれるが、腐敗すると捨てられるので注意が必要である。自分に甘えるのは許すが、周囲に悪意を振りまきだすと捨てられる。面倒なタイプである。
「いや、流石にそこまで頼れないよ。そうだなぁ……適当に魔物でも狩ってこようかな? 」
「もう、危ない事は駄目なんだよ? 」
「君ってかなり過保護だよね? 今は俺の方が年上だからね!? 」
「かつては私が姉ポジであった事には変わりはない。つまり転生して年下になっても私が姉ポジなんだよ? 」
転生した程度では下剋上は認めない様だ。がっくりと拓斗が項垂れる。昔から拓斗はアイリスに頭が上がらないのだ。尻に敷かれていたとも言う。
「しかしだね、先立つ物が無ければ新事業は無理だからね? せめて税金を徴収してからで良くない? 」
拓斗はしっかりとした予算を組んでいる。現状は出だしなので、出費が嵩んでいるが、それは初期投資だ。領地から集まる税金でしっかりと元を取れる様にしている。
そして税の徴収が終わればある程度の余裕が出来る。映画はそれからでも良いのではないかと考えた。
「え~私早く映画見たいし。じゃあ貸そうか? アーランドは娯楽少ないから売れると思うんだよね」
「君の嗅覚は信用できるからね。売れるんだろうね」
前世から稼ぐのが上手だったアリスティア。その嗅覚の精度は凄まじい。
アリスティアが売れると言うなら、高確率で売れるだろう。資金に余裕が有ればぜひ乗りたい話である。
研究者として有名だったアイリスだが、投資家としても超一流なのは余り有名じゃない。国家を平気で欺く様な投資を幾つも行う黒い投資家だったのだ。
逮捕出来ない状況を生み出し、情報をモモニクⅡで集めてのインサイダー取引など日常茶飯事だ。死後もモモニクⅡはアイリスの遺産を何処にも渡さずに莫大な富を独占してたりする。
「利子は別に良いんだけどね。確実に利益出せるし。失敗しても私の財布がちょっと軽くなる程度だし」
「相変わらず稼いでるようだね。この国の魔導具産業は完全に牛耳ってるよね」
「まあライバル居ないしね」
アーランド王国は魔法後進国であり、魔導具の生産量は雀の涙だった。牛耳るのは容易だ。そして、現在魔導具産業はアーランド王国のドル箱とも言える莫大な富を生み出す。
それを牛耳るアリスティアには莫大な富を齎す。最も9割は各方面への投資を行っていたりするが、残り1割でも途方の無い金額だ。そして秘密の収入も有るので更に懐は温かい。
ちょっと貸しても問題なかった。
うーん借りようかなと拓斗が悩んでいると、ドアが勢いよく開いた。
「話は聞かせてもらった! 一貴族に過度な肩入れは容認できないな! 」
アリスティアは椅子から立ち上がり、部屋のドアを静かに閉めた。ついでに横の箪笥を魔法で動かしてドアを封鎖した。
「あ、ちょ! ドアを塞ぐんじゃない」
「盗み聞きする悪いお兄様は王都へ出荷するべし」
「ちょ、仕事だからね。ロケット打ち上げ見るのも仕事だから! 」
「仕方のない人だ」
しょうがないなぁと、アリスティアは渋々ギルバートを部屋に入れる。尚、ここは拓斗の屋敷である。
「駄目なの? 」
「構わないよ。その代り王国中の貴族が金の無心に来るし、混乱が発生するよ? 」
手伝わないからね? と告げるギルバートにアリスティアの頬が膨らむ。
「私の仕事じゃないじゃん」
「うん、今でさえ過労死しかねないのに、無駄な諍いまで調停してる暇はないから」
「ウザル男爵の時は誰も文句言わなかったのに」
「彼とタクト・シシドウは状況が違うだろう? ウザル男爵は援助を受けるのは当然の境遇だったから誰も文句を言わなかったし、それを無視する連中は良識のある貴族が自発的に抑えてくれたからね。
でも彼は違うでしょ? 」
「むう……」
正直妹に近い男は皆死ねと思っているギルバートだが、現状は理不尽な事はしない。更に接近すると殺意を持つ可能性が有るが。
なので一応助言してくれる。
実際アリスティアが拓斗に資金を貸せば困窮している貴族が群がってくるのは間違いない。
一度貸したんだから二度三度と頼み込んで来るだろう。
真っ当かつ計画性のある借金なら兎も角、返す当てのない借金は困る。アリスティアの財布はビックだが、無限ではないのだ。
「仕方ない。拓斗、この話は今度にしよう」
「いや、別に俺は急いでないんだけどね」
借りれないなら別に領民の納税後でも別に構わない拓斗だった。
そしてロケットが無事に打ち上げられ、暫く経った王城の一室に財務大臣と国土大臣にポンポコがアリスティアに呼ばれていた。
「姫様……また悪だくみですか? 」
疲れ果てた財務大臣が問いかける。
部屋にはサングラスをかけ、手には白い手袋をはめたゲ○ドウポーズのアリスティアが座っていた。
「ときにポンポコさんよ。ポンポコ商会時代は金貸しを行っていたそうだね」
「え、はい。行っていました。しかし現在は行っていません」
「何でかね? 」
変な話し方だなぁと思いながら答えるポンポコ。
「金貸しは恨まれるからです。借りる時は恩義に感じるのに、時間が経てば不法だと文句を言われ、返す事を惜しむものです。
私は今は副王家の人間ですので、金貸しは行っていません」
貸金業とは難しい職業だ。借りたい人は借りる時だけ恩義に感じるが、その利子の支払いは渋る。そして借りたのは自分なのに、貸した方を憎む事も有る。
実に面倒な仕事である。地球でも中世の頃はそれは凄まじい事になっていた。
ポンポコも金貸しは行っていたが、利率は年間4割。これで良心的と呼ばれていた。
「ところで話が変わるけど、領地開発の件だけど、遅れてるよね? 」
国土大臣に問いかけると彼もため息を吐きながら答えた。
「王家直轄領や褒章用に残している領主不在の領地。そして幾つか余力のある領地の開発は進んでいます。
しかし、多くの領主は財政に余裕がありません。こちらが遅れています。ですが、現在王国全土で好景気の為に、時間が掛かるでだけでいずれ解消するかと」
但し出遅れ組は厳しいままだ。
元々万年超祖国戦争状態だった国だ。余裕のある領主は多くない。
しかし国が援助しようにも、全部を全部国が面倒見る訳にもいかないのが現実だ。
因みに現在の好景気は王家直轄領などの余裕のある土地のインフラ整備によるものだ。
しかし、余裕のない領主の収める土地だってまだまだ開発の余地がある。従来の方法では時間と金が掛かると放置されていた土地も重機を入れれば短時間での開発が可能だ。
「私が資金を出すと言うのは如何だろうか? 」
「姫様! それはいけません。副王家の金庫番として断固反対します! 」
慌てたポンポコが椅子を倒して立ち上がり反論する。話の流れから、彼等に資金を貸す気なのだと判断したのだ。
「副王家は姫様のお陰で彼等に援助する力は有ります。しかし、金貸しは先ほど申し上げた通り恨まれるものです。これ以上手を広げると姫様を妬む者まで出かねません! 」
現在はとある理由でアリスティアを妬んだり恨む者は商人を含めてそれ程多くは居ない。だが、金貸しは恩を売るだけでは無く恨みを買うものだ。
「うん。私も面倒な事になるってお兄様に言われたよ」
「ならばご再考を」
「だから3人を呼んだんだよ。私は副王家を通さずにお金を貸そうと思う。そう基金を設立する。
副王家は運用資金を出すけど、基金の運営には一切関与しない。魔法契約を行う。
基金の運営はポンポコさんが抱えていた金融部門から一部人を出すのと、財務大臣と国土大臣に手を貸してほしい。
基金は合理的な開発を行う場合は低金利での融資を行う。リスクの高い物は利子を高めに設定しよう。
そうだね。財務大臣と国土大臣の部下を納得できる案件なら1%程度で良いんじゃない? 」
「それでは利益が出ません! 」
「赤字にならなければ良いよ。
別に基金で利益を出す必要はない。基金によってインフラ整備が進めば副王商会連合が儲かるからね。一応言っておくけど、基金を通して融資を得たからって事業を独占するのは駄目だからね。そこらへんも魔法契約で縛ろう」
要はインフラ整備を行わせてそれで稼げば良いと言う話だ。
そのインフラ開発事業に食い込めなくても道具が売れる。重機などは副王商会連合しか作っていないので、確実に儲けが出る。
「それに私の所に資金が溜まって滞ってるじゃん。盛大に吐き出してもっと稼げるように呼び水に使う方が良いよ」
金は天下の回り物。貯めるより動かす方が儲かるのだ。
ポンポコは頭の中で計算する。どれだけ儲けられるか。そして、莫大な利益が出せる。
基金其の物に噛まない為に不平不満から逃れる事が出来るし、基金はアリスティアが資金を出す為、多くの貴族は恩義に感じるだろう。
そして基金の目的も明確だ。貸す相手は基本的に領主と言う安定的な収入を持つ者で、国を噛ませて厳重に審査させれば赤字にはなり難い。無論審査には多少時間は掛かるだろうが。
そして誰もが認める事業なら金利は低い。国土大臣を噛ませるのは、彼の部署が一番土地の資料を持っているからだ。場合に寄っては基金側から借主側の開発計画を修正させる事も可能だ。
「うーむ………確かに姫様にも間接的な利益は出せるか」
財務大臣もこの提案には乗り気だった。仕事が増えるのは面倒だが、財務大臣としては税収を国民に負担無く増やしたい。国内開発は王国の急務だ。来たる大戦までにどれだけ国力を高められるかが勝敗を決する。
国土大臣は仕事が得られるとニッコニコだった。彼はどんなにブラックな仕事でも、仕事を得られるだけで喜ぶだろう。今まで存在意義がほぼなかったからだ。
そしてアリスティアはアリシアに資料を出させる。それは基金の人員や運営マニュアルだ。
組織構築にもアリスティアは凄まじい才能を発揮していた。これさえ有れば、人員を集めるだけで運営出来る程の物だ。
「で、皆これで良い? 」
「「「………解りました」」」
ここまで準備されていたら反論できない。渡された資料にはこの基金による経済効果や、予想される税金の増加まで記されている文句の言えない物だ。
こうして国家開発基金が設立された。
「やってくれたね」
「頑張ってみた」
むふーっと満足気な顔のアリスティアに対して、ギルバートは呆れ果てていた。
諦めるかと思っていたが、アリスティアは諦める気は欠片も無かった様だ。
正直拓斗に金を貸す為に、王国中の貴族に金を貸しつつも自分は面倒事から逃れる完璧な布陣だった。アリスティアは金と僅かな人員を送っただけだ。
その送った人員も基金の職員になり、副王商会連合や副王家に恣意的に利益を流さないと魔法契約を行っている。
因みに基金利用の第一号は拓斗だった。領地の開発とは若干離れているが、映画は領地の特産とも言えるし、用意した書類は一切文句の言えない物だった。流石に最低利率では無かったが、文句のない低金利だった。
「しかし、凄まじい額を吐き出した物だ」
「ちょっと財布が軽くなったね。他にも基金を作ろうかな」
「………」
後にアリスティアは学業基金や魔法や化学奨励の基金に商業基金等多くの基金を生み出す事になる。
領主「低金利で金が借りれるぞ! やったぜ!」
商人「忙しくなるぞ(白目)」
ポンポコ「インフラ事業は他の商人に押し付けて道具を売る方に専念しよう(暗黒微笑)」
商人「させねえよ! お前も受注するんだよ! 」
ポンポコ「あっあっあ……」




