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閑話⑤ 王女の秘密の収入源

「殿下、姫様の収支報告書に不自然な点が発見されたのですが……」


 ギルバートが宰相と2人で寂しく執務に励んでいると、1人の官僚がアリスティアの収支報告書を持って入ってきた。

 因みにドラコニアは現在逃亡中で捕縛部隊が展開している。アリスティアは目を離したら消えていた。一応書類仕事は終わっているが、自分の仕事以外は手を貸す気はない様だ。


「アリスが脱税するとは思えないが……記載忘れか納税ミスか? 」


「いえ、それなら姫様でなくポンポコ氏のミスです。姫様の納税関連の業務は彼が押し付けられているので」


「悲しいなぁ……でもアリスの財務も担当してるし妥当か。それで何があった? 」


 アリスティアは多岐に亘る収入を持ち、総額では凄まじい額を稼いでいる。当然納税額なら王国随一だ。

 その納税はポンポコが代わりに行っている。元々副王家の金庫番も兼任している為だ。

 ポンポコはアリスティアに忠誠を誓っている為に脱税はしない。それはアリスティアの名誉を傷つける行為だからだ。

 しかし、収入が多岐に亘る為、ミスが発生する可能性は否定できない。しかし今回は違う様だ。


「こちらの項目なのですが……」


 官僚が書類をギルバートに手渡すと、ギルバートは書類を眺める。


「凄まじい収入だが……ん? この『ぼーえき』と言う奴か?

 税金も納めてあるな……おかしくないか? 」


「はい。姫様の貿易は副王商会連合や王国を通しての物ですので、こちらに記載されています。

 この『ぼーえき』とは何処と貿易しているのでしょうか? 」


「密輸か? いや、でも普通に納税してるしな。それに中央を憎悪してるアリスが中央に利益を流す筈が無い……何だコレ? 」


 アリスティアは嫌いな相手には絶対に利益を与えない人間だ。


「アリスに直接訊ねたのか? 」


「その、姫様はまた城を抜け出して王都へ遊びに行ってるようでして……目下捜索中です」


「全く、父上の悪い所だけ真似するんだから」


 大問題なんだけどなぁ……とギルバートは呟く。王族が護衛も連れずに王都を出歩くなど言語道断だ。多分戻ってきた時にマダムに叱られるだろうが、この手の事でアリスティアが反省する事は無い。


「それと、調査中に気になる報告書を見つけたのですが、帝国との国境警備隊からの報告書なのですが、帝国との国境に複数の姫様が勝手に出入りしている様です」


「はあ!? 」


「こちらが報告書と一緒に送られてきた写真です。

 本体では無い様ですが、姫様かと」


 渡された写真には国境警備隊と記念写真を撮るアリスティアが映っていた。本体は基本的に王都に居るので分身だろう。普通に仲良さそうに写真を撮っていた。

 移動方法はスクーターの様だ。改造されているが。


「何で捕まえない! 」


「会話などは可能なのですが、捕まえようとすると処刑した先代皇帝並の速度で逃げ去るようで……」


 普通に友好的な関係だが、捕まえようとすると逃げ去るので、国境警備隊も困惑している様だ。


「私は先の戦争でアリスの最大の功績は皇帝を捕まえた事だと思う……」


「同感です。自己保身能力に特化した、あの皇帝が捕まるとは思いませんでした」


 グランスール帝国は大陸で最大の国家だ。覇権国家に王手をかけていた。その皇帝が持つ権力は絶大だ。その為、皇族同士の権力争いも凄まじい。

 暗殺等日常茶飯事の国だ。

 しかし、一般的には暗殺とは毒殺などを連想するだろうが、それはグランスール帝国では少ない。

 かつて毒殺が何度も行われた為に、皇族や高位貴族は基本的に高品質の対毒用の魔導具を持っている為に、毒殺は不可能に近いのだ。

 その為、グランスール帝国での暗殺はかなり強引な手法、襲撃等が最も多い。

 そしてアーランドで処刑された先代皇帝は、幾度も無く放たれる襲撃者による襲撃に、自己保身能力から来る直感と自慢の脚力で対処していた。

 王子時代から暗殺未遂は100を超えている男だが、一度も手傷を負った事は無い男である。つまり逃げ足だけは異常に早いのだ。実際シンシアナの出現を知った瞬間に息子を生贄に走って逃走している。


「アリスの行動は予測不可能だからな仕方ない。代わりにポンポコに聞いたのか? 」


「良く分からないそうです。取引内容だけ報告されてはいるので、納税だけ行っていますが、誰と取引しているのかは不明です」


「仕方ない。アリスを捕まえるか」


 休憩する理由が出来たと実は喜んでいるギルバート。しかし休憩中に仕事が溜まる事には目を逸らしていた。

 執務室から出ると、とある廊下に移動するギルバート。


「ここはアリスの分身が移動するルートの一つだ。まだアリスの分身は私がこの廊下に目をつけている事に気が付いていない。

 そしてここに罠を設置する」


 ギルバートは廊下にテーブルと椅子。そしてテーブルの上にケーキを置き廊下の角から罠を眺める。

 暫くすると、分身がクンクンと鼻を動かしながら出現した。


「ケーキ! 」


「確保! 」


「「「うおおおおおお! 」」」


 突撃する騎士。欠片も警戒せずに僅かに微笑んでケーキを食べているロスト・ナンバーズに突撃する。


「え、え、何事! にょわあああああ離せぇ! 」


 捕縛されたロスト・ナンバーズにギルバートが微笑みながら近寄っていく。


「さてアリス。君に聞きたい事が有る」


「ちょ、違うもん。西棟の廊下の絵画に鷲を追加で書いたのは私じゃないもん」


「うん、森の絵が狩猟する鷲の絵に変わってたね。それは後々話すとして、今回は別件だ」


「もしかして壺を黄金のモアイに置き換えた事? だってあの壺絶対趣味悪いよ! 」


「……また色々悪さしているみたいだね。それじゃない」


「?……もしかして……! 

 仲間は売らないよ。向こうの木の下に入口が隠されてるなんて絶対に言わないんだから」


「……あそこの木の下を調べろ」


 仲間を売らないと言いながら仲間を売る。

 まあ、分身同士も決して仲が良い訳じゃ無いのだ。本体と言う共通の敵が居るだけで、本来なら分身同士も敵対関係だったりする。

 今売った分身も敵対してる分身の研究室を教えているだけだ。

 こうして10体のロスト・ナンバーズが捕縛され、怪しげな研究資料の多くが没収された。


「さて、君達に聞きたい事が有る。この収支報告書の『ぼーえき』って何だい? 」


「え、知らないよ? 」


 キョトンとした顔で答えるロスト・ナンバーズ。


「知らないのかい? 」


「何か勘違いしてるかも知れないけど、私達は本体から逃げてる分身だよ?

 本体の行動なんて知る訳ないじゃん。見つかったら地下労働なんだよ? 」


「成程。聞く相手を間違えてしまったか……」


 ギルバートがやはり本体を見つける必要が有ると考え出す。


「じゃあ私達は行くね」


「うん。危険物研究の罪で母上にお説教して貰おうか」


「わ、悪い物なんて作ってないのに! 」


「このハゲるビームって何だい? 発見した騎士が絶叫してたぞ」


「ちゅ、中央の悪い奴に使うかもしれないし……」


「連行しろ。髪を伸ばす研究は兎も角、ハゲさせる技術は禁忌に指定されている」


「「「ハッ! さあ姫様、存在する事を認められない禁忌の技術を生み出した罪を贖って頂きます」」」


「「「ちょ、普人騎士が激オコだ! 待って、良い情報を話すからお母様の元に連行するのだけは」」」


「聞こうではないか」


 ニコニコと答えるギルバート。一見爽やかなイケメンにしか見えないが、ロスト・ナンバーズ達には悪魔より恐ろしい者にしか見えなかった。


「実際何処と貿易してるか私達には確認出来ないけど、推察なら出来るよ」


「ほほう」


「一応私達もアリスティアだしね。本体の考えてる事なら推察出来るから。話すからお説教は本体が肩代わりすると言う方向で……」


「まあ、君達の罪は本体の罪とも言えるか。内容次第では検討しよう」


「勝った! まあ、帝国戦で本体が何してたか考えれば答えが出るんじゃない?」


 ロスト・ナンバーズの言葉にギルバートが困惑する。


「帝国貴族をボコボコにしたりエルフの聖地を持って帰ってきたり? 」


「他にもしてたよね? 」


「それ以外だと……金の採掘……ってまさか! 」


「帝国の無条件降伏を受ける代わりに本体は帰国した。でも分身まで連れ帰るなんて約束してないよ? まだ掘ってるんじゃない? 」


「密貿易は重罪だぞ? 」


「別に帝国と貿易してないと思うんだよね。と言うか今の帝国にそんな事をしてる暇はないよ」


 貿易しようにも敵対派閥の貴族領を通った瞬間荷物は差し押さえられるだろう。

 詳しくは本体をとっ捕まえて取り調べを行うしかない。


「良いだろう。お説教は本体に受けさせよう。但し、禁忌の研究だけは辞めなさい」


「ハゲが禁忌だったなんて知らないんだよなぁ」


「君なら作りかねないと少し前に禁止されたからね。引き籠ってた弊害だね」


 本体は知っている事だ。引き籠ってた分身は知らない事である。

 そして、元軍人の治療後にアリスティアはとっ捕まった。


「離せ~~~! 」


 この場に居る全員が首輪を嫌がる猫の姿が幻視出来る。

 アリスティアは紐でグルグル巻きにされていた。


「さて、アリス。全部話そうか? 」


「フシュ―フシュ―」


 アリスティアは口笛を吹いて誤魔化す。

 ギルバートはベルトに付けている収納袋からぬいぐるみを取り出す。


「話してくれたら、君が欲しがっていたジョゴスのぬいぐるみをあげよう……正直気持ち悪いのだが」


「キモ可愛いんだよ? もう仕方ないなぁお兄様は」


 一転上機嫌になるアリスティア。


「さて、君は誰と貿易しているんだい? 」


「ん~私と? 」


「詳しく」


「王国に居る私(本体)と帝国に居る私(分身)が貿易してるだけだよ? ほら、谷間に有った金山の事を帝国は完全に忘れているっぽいし。

 それ以外にも足りない金属をこっそり輸入? 」


 上機嫌で話し出すアリスティアの恐ろしい貿易にどんどん話を聞いてる王国勢の顔色が悪くなっていく。

 アリスティアの秘密の収入源は帝国領での密採掘だった。掘り出した物をお菓子とトレードで貿易していたのだ!

 アリスティアが山ほどのお菓子を購入しているのは何時もの事だ。気に入った物は保存している事も有るが、この膨大なお菓子は実は孤児院に寄付されてたりする。最もアリスティアは認めないが。

 そしてお菓子を貰えない分身は金属を採掘する事でお菓子を調達しているのだ。

 この分身は帝国に残って未発見の鉱脈を見つけた分身だが、実は一部分身が盗賊と化していたり、帝国内で好き放題に暴れまわっている。盗賊化している事は本体もまだ知らないが。

 そして恐ろしいのがレートだ。金取引の場合、金100キロにホールケーキ一つと言うとんでもないぼったくりレートである。


「そんな事をしていたのか……」


「他国の領内で密採掘してはいけない法律が無かったし」


「それを取り締まるのは我が国の仕事じゃないしなぁ。帝国政府と貴族の仕事だ」


「殿下、現在帝国の中央政府は崩壊してます。貴族達も帝位争いで治安維持すら覚束ない現状です。隠れて密採掘している姫様を見つけ出すのは難しいかと」


「だよなぁ……」


 うーんどうした物かと考えるギルバート。

 別に知られてもアリスティアは証拠隠滅が得意だ。鉱山を爆破して逃げるだろう。そして証拠が無ければシラを切る事も可能だ。

 アーランド王国はこれまで散々帝国に苦しめられてきたので、心情的にはザマーである。

 そして貿易こそしているが、アリスティア同士で完結している為に帝国は一切利益が無い。寧ろ未発見とは言え、領内の資源を勝手に奪われているのでマイナスだ。


「そんなに資源が足りないのかい? 」


「もう全然足りないよ? ついでに王国の税収も増加するから、もっと魔導戦艦を」


「駄目です」


 アリスティアの言葉に財務大臣が断固拒否する。偶然時間が空いていたので、取り調べの場に居るのだ。


「え~後300隻くらい作っても良いじゃん」


「駄目です」


「……」


「駄 目 で す ! 」


「ケチ」


「ケチで結構」


 財務の健全性は俺が護ると言う鋼の意思を感じる返答だった。護れていないが。

 何時か税収増やして文句を言えない様にしてやると決意したアリスティアだった。反省はしていないらしい。


「それで駄目だった? 」


 勝手にやった事を怒られるかと伺う様に尋ねるアリスティア。しかしギルバートは興味なさげに答える。


「ん、何の事だい? 」


「いや、帝国での密採掘の事だけど……」


「はて、そんな事が有ったかな? 」


 ギルバートは集まっていた者達に問いかける。全員笑顔でサムズアップしていた。


「我々は帝国での違法な採掘の事など知りませんなぁ。仮にそれが事実だったとしても、それを取り締まるのはグランスール帝国の仕事ですので」


「そうですね。我々の関知する事ではありませんね……税金収めてるし」


「そうですなぁ……ちょっと家にも鉄を降ろして頂けると更に見向きしないでしょうな」


 アリスティアの拘束が解かれる。


「何だかんだ言って皆も帝国嫌いだよね」


「好いてる人間なんてアーランドに居ないだろう。税金さえ支払ってくれるなら王国政府は見なかった事にするよ」


 ギルバートはどうやって収入を得ているのか知りたかっただけである。帝国への嫌がらせは大歓迎だ。


「一応今後は帝国に嫌がらせする時は事前に教えてね。反対は殆どしないから」


「分かった」


 悪いアーランド王国の一日だった。

因みに分身はアリスティア以外との取引を禁じる命令を受けているので、不平等貿易に甘んじるしかない。

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[一言] 何時も、楽しい読み物を、有難う御座います。
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