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閑話④ 軍の再建と副王家警備隊増強

次の章はもうちょっとかかりそうです。

アーランド軍は先の帝国との戦争で大打撃を受けた。出陣した軍の半数を失ったのだ。

 王国では祖国大勝利で大騒ぎだが、アリスティアが戦場に出た事で天使派が無力感から握りしめた拳から血を流したり、余りの損害に貴族達も顔面蒼白になるレベルだ。

 当然王国は軍の再建が急務だ。最も再建と同時にアリスティア由来の新兵器を続々導入して再建の暁にはこれまで以上の強力な軍事力を持てるだろう。

 しかし、それには膨大な時間が掛かる。

 元々アーランド王国は万年超祖国戦争状態の国だ。北から人類絶対殺すマンの魔物が雪崩れ込もうと北方砦に攻め込んで来るし、東はアーランド王国を滅ぼして奴隷にする気満々の強欲なグランスール帝国が存在する。

 ぶっちゃけ良く滅びないなと言える状況だ。

 しかし、アリスティアの大攻勢と呼ばれる一転攻勢で帝国軍は崩壊。更に中途半端に貴族と皇族を残す事で次期皇帝を巡って内乱を誘発。これが大成功を収め、現在東の国境は安定している。

 時間は有る。ゆっくり戦力を取り戻そう。王国貴族はしっかりと地に足を着いた軍事力の再建を目指す。それにアリスティアが反発した。

 何時邪神が攻めてくるか分からない状況で呑気に軍の再建なんてやってられない。しかし、アリスティアにはそこら辺の権限が無い。

 無いので良い事を思いついた。元々手を出したかった事だ。

 そう、兵士が足りないなら傷病を理由に退役した兵士を治療すればいいのだ!

 無論無理やり軍に戻す気はない。軍に戻らなくても失った四肢を取り戻した元軍人はそのまま経済に組み込める。誰も損をしない方法だ。ついでに年齢を理由に退役した元軍人はアリスティアが副王家警備隊に雇用する。

 この提案に護国会議の議員達はガチで泣いた。

 ずっと心残りだったのだ。

 これまで王国は祖国の為に戦った戦士達に必要な保障が行えなかった。見捨てて来てしまった。手や足を失い項垂れる将兵たちを財政難が原因で救えなかった。

 それでも退役軍人が歯を食いしばって耐えていたのは王家が常に血を流し続けたからだ。

 このままでは国より先に王家が滅ぶ。誰かが言い放った言葉は王国中を駆け巡っている。

 王家の旗は王の前では無く背に掲げられる。常に戦場に立ち、誰よりも果敢に戦い、その結果王家は滅びの危機に瀕している。

 血を分けた公爵家は全て戦死を理由に途絶。王家の血が入った高位貴族も軒並み断絶。今や次代の王族は僅か3人。

 しかも長女のアリスティアは絶対王国守るマンであり、攻め込んできた帝国に過剰なまでの敵意と殺意を持った戦死候補者。完膚なきまでに勝利した今でも凄まじい憎悪を持っている。

 報復の為に、止める言葉を聞かずに僅かな手勢で帝国に攻め込んだと聞いた時は国民総出で帝国に雪崩れ込みそうになったくらいだ。

 ガチの国民総出で有る。年寄りも子供も男も女も全員で雪崩れ込もうぜ! ってなったくらいだ。止めるギルバートは理解は出来ると言いながら涙目だった。そこまで国民に慕われていると言う意味と、国の経済が死ぬと言う意味で。

 そんな王家だったから、彼等は己の境遇に耐えてきた。そんな者をアリスティアが見捨てる訳が無い。

 幸い今なら資金に余裕が有る。王国と副王家が金と物資を出して生き残っている元軍属の治療が決定された。


「バーナード! 貴様まだ生きていたのか! 」


「ケイン! 貴様こそ無事だったか! 儂がこの程度の傷でくたばる訳が無かろうが! 」


 副王家警備隊隊長のケインの肩を同年代の男--バーナードが叩く。

 ガハハ。と笑うバーナードには右足と手首から先の右手が無かった。


「今まで何処に居たんだ。探してたんだぞ」


「負傷して戦えなくなった者が王都に居ては王家の方々に無用な心配をさせてしまうだろうが。俺は地方に行っていたんだ。

 何、足と手を失ってもオークくらいなら殺せるさ」


「無茶をしおって……」


 バーナードは戦の負傷以外にも体中に傷が有った。

 戦場に出れなくても自力で生きていたのだ。


「相変わらずの泣き虫か。何時になったら卒業するんだ? 」


「馬鹿者が……せめてお前くらいなら俺が……」


「傷の事なら気にするなと言っただろうが。仲間を庇っての負傷は名誉の傷だ。

 それに貴様に養われるなど死んでもご免だ。お前は俺にニンジンを食わせようとしてくるからな」


「好き嫌いするな! まだ嫌いなのか」


「ガハハ。アレは人の食べる物じゃねえ……」


 彼はニンジンが大嫌いだった!

 そんな事で逃げんな! とケインが殴りかかるが、華麗に躱す。

 暫く肉体言語を伴いながら昔話に花を咲かせる。

 そしてバーナードはタバコを一服すると、真剣な顔になる。


「で、だ。話は本当なのか? 再生薬なんて伝説上の存在だぞ。

 仮に存在してても俺達の様な末端に使う代物じゃないな」


「既に伝説上の代物じゃねえよ。それにホラ……再生薬なんて生命の秘薬に比べたら軽い伝説だし。

 アレは存在自体が伝説だったから」


 再生薬はかつて存在したことが確認されている魔法薬で、生命の秘薬は人類の悲願で存在して欲しいと言う類の伝説だった。

 それを言われるとバーナードも反論できない。彼も使っているのだから。そう彼はロン毛だったのだ!


「その似合わない髪は斬れ」


「黙れ! 俺の髪に手を出すな! ぶっ殺すぞ! 」


 途端に髪を抑えて後ずさるバーナード。


「まあ、その……なんだ……確かに生命の秘薬が存在するなら信じられるか……生命の秘薬の値段には非常に文句が有るが」


 俺達の苦悩はこんな安い物じゃ無かった筈だ。銀貨5枚は無いだろうと呟くバーナード。

 安いのは有りがたい。でも、安すぎても軽い悩みだと思われるのが癪に障る。贅沢な悩みだった。

 買いたくても数が限られてる上にぼったくられてる人達も居るんですよ!(中央国家連盟には高値で密輸されてる)

 現在中央国家連盟からは正式な抗議を受けているアーランド王国。

 曰く「生命の秘薬は全人類共有の宝であり、製法の独占と秘匿は人類に対する敵対行為である。文明国であると称するならば、製法を公開するべし」との事だ。当然無視されているが。


「話を戻すが、王家の方々もお前達負傷者の事はずっと気がかりだったのだ。

 幸い資金にも余裕が出てきた。ならば、お前達元軍属の救済を行うのはおかしな話では無かろう」


「その資金に余裕が有るのが信じれないのだがな。どこもかしこも公共事業で盛大にばら撒いてるだろう。何故に余裕が有る? 」


「姫様が資金を出してくれたからな。ついでに言えば再生薬も姫様が作った物だ。ちょっと別の部位が生えてくる可能性も有るが問題は無い」


「うぉい! 手から足が生えてくるのか!? 冗談は止してくれ! 」


「大丈夫大丈夫。その時は、斬り落としてもう一度使えば良いだけの話だから」


「勘弁してくれ……」


「それでも失った四肢が戻ってくるのだ。我慢しろ。大丈夫だ痛みは無い。生えてくる過程が気持ち悪いが見なければ良い」


 最初に骨が生えて神経や筋肉が伸びてくる再生過程は非情にグロテスクである。ケインも出来れば見たくない光景だった。

 そして暫くすると、元軍属の傷病者達が集まり出した。

 場所は王城の練兵場。動けない者は別の場所だが、大体ここに集まる。

 王国騎士団長(兼陸軍元帥)のアルバートが集まった元将兵達に救済が行われる事を改めて宣言する。

 元々救済が行われると集められた。今更裏切られる心配などしてなかったが、騎士団長の言葉に歓声が湧く。

 彼等も心残りだったのだ。傷や病のせいで祖国の為に戦えなかった事が。

 また戦える。戦友と肩を並べられると気炎を吐く者も多かった。

 その中で高齢の者達が表情を歪める。

 治療はありがたい。王国への忠誠を捨てた事も無い。しかし、自分達はもう歳で、軍には戻れないだろう。

 中には、そんな自分に薬を使うより、若い者に使ってくれと思う者まで居た。


「別に治療したから軍に戻れと強制する気はない。今の生活を捨てたくない者も居るだろう。

 王国は忠誠を強制しないぞ。治る事を喜べ。それに全員分の薬が用意してある。予備も十分だぞ」


 アルバートの言葉に高齢の者達が涙する。


「ついでに姫様が副王家警備隊の募集も行っているから仕事には苦労するまい。各商会や工房でも仕事はあるぞ」


 寧ろ治療後の仕事の斡旋も完璧だった。

 各商会や工房の人材雇用担当者が別室で彼等の治療が終わるのを待機していた。

 雇用ノルマが少しでも達成出来ると、彼等は元軍属を獲得するべく、即座に担当者を派遣してきたのだ。彼等は待遇等を纏めた書類に不備が無いか。そして、他社より待遇が劣ってないか互いに火花を散らしながら治療が終わるのを待っていた。

 因みに担当者を派遣してきた商会や工房も資金を自発的に出してたりする。人材不足は深刻なのだ!


「取り敢えずは飯だ! この薬は効果抜群だが、腹が減る。空腹で服用するとぶっ倒れるぞ」


 アルバートの言葉に多くのメイドや使用人達がテーブルや椅子と山ほどの食事を持って現れる。

 それは今まで見た事のない様な豪華な食事だった。

 せめて美味しい物を食べて欲しいとアリスティアが王都中の腕利きのコックに依頼して彼等が王城で腕を振るった食事だった。

 コック達も愛国者達に腕を振るえる上に依頼料も高かった為に喜んで参上した。

 歓声が再び上がり、彼等は美食に舌鼓を打つ。この後に治療が待っている為に酒は出ないが、それに不満を持つ者は誰も居なかった。美味しかったのだ。

 しかし地獄はここからだ。美食に舌鼓を打ち、腹を満たした彼等に告げられる言葉。


「もっと食え。吐く寸前まで食え。但し吐く事は許さん」


 アルバートの言葉に静まり返る練兵場。


「食わねば倒れるぞ。騎士団にも経験者が何人も居るが、満腹程度じゃ足りん。筋力が落ちる」


 一応高栄養剤も有るのだが、そちらを使うとコストの問題が発生する上に、それの生産は多くない。元々アリスティアが自用に作った物だ。量産設備等無いのだ。

 だから食うしかない。

 最も元軍属。食えと言われれば食う。食えない時に備えて食うのも仕事だった男達だ。黙々と食べた。

 そして満腹以上に腹を満たした男達は一人ずつ部屋に運ばれる。


「これは局所麻酔と言います。体の一部を麻痺させて痛みを消します。

 これを使い、こちらの斧で体の一部を切り落とします。でないと傷が塞がってますので」


 医療担当者と腕利きの斧使いが待っている部屋に連れていかれた元兵士は担当者から説明を受ける。


「無論、この場で治療を拒否する事も可能です」


「いや、やってくれ……うぷ……」


「吐かないでくださいね? 」


 彼は左腕の肘から先を失っている。故に失った部分より元の方を斧で切り落とす。外科手術でやった方が安全なのだが、時間が掛かり過ぎる上に、外科手術が可能な医者は極僅かだ。

 再生薬なら多少は乱暴でも問題ないと既に王国軍の将兵で実践されているので、斧で切り落とす。

 血はそれ程噴出さなかった。ゴム紐で一応止血しているからだ。医療担当者が傷口に注射器を打ち込み、再生薬を流し込む。

 すると、まずは骨が伸びてくる。そして骨を覆う様に神経や血管・筋肉が伸び、最後に皮膚が再生していく。割とグロテスクだが、再生薬を投与して数分で腕が再生した。

 更にこの再生薬は脳の機能にまで効果が及ぶので動かすのも不便しない。但し、長年使っていなかった為に感覚を取り戻すリハビリが必要だが。


「腕が、腕が戻った」


 自らの手を開いたり閉じたりする元兵士。麻酔は再生薬の効果で直ぐに切れた為に、長年失っていた腕の感覚は直ぐに戻った。


「気分は如何ですか? 何か体調に不備を感じませんか? 」


「いや、何も問題ない。腕が……俺の腕が」


 涙を流す元兵士は嗚咽しながら質問に答えていく。


「では問題ないでしょう。後は各自でリハビリが必要ですが……後にしないと聞いてませんよね? 次の方」


「ありがとう……ありがとう……皆! 俺の腕が元に戻ったぞ! 」


「「「「うおおおおおおおお! 」」」」


 こうして治療は進む。

 この治療は数週間行われ、元軍属は続々と負傷を治療していった。

 最も、稀に別の部位が生えてきて再び切り落とす事になる者も少し居たが治ったのだ!

 ついでに再生は可能だが、再生した部位の筋力がかなり低いのでリハビリが必要なのだが、余りその話を聞いてくれる人は居なかった。

 治療された彼等からすれば、四肢さえ元通りになれば鍛えなおせば良いだけと言う超脳筋思考だったのだ。

 治療された者達から多くの将兵が軍に戻り、兵数不足も解消され始めた。元々万年超祖国戦争の国のアーランド王国だ。負傷兵等幾らでも居るのだ。

 アリスティアの使った資金は凄まじかった。


「アリス、感謝するよ」


 歓声に沸く練兵場を王城から見るギルバートが視線をそのままにアリスティアに感謝する。


「別にどうってことは無いよ? 」


「物凄い資金が掛かった筈だが? 君に負担を押し付けてしまった。本来なら国が成すべき事なのだがな」


 ギルバートも鬼では無い。祖国の為に戦った将兵を助けたかった。だから、この話に反対はしなかった。しかし、アリスティアの使った資金は余りにも途方の無い金額だった。


「別にお金なんて、また稼げるし。それにちょっと減っただけだし」


 恐ろしい事にアリスティアは物凄い資金を放出しても困っていなかった。

 アリスティアはじ~っと彼等を見ている。

 その視線の先は練兵場では無い。救えなかった将兵達の眠る墓地だった。戦後アリスティアはそこに立ち入れなかった。入口で足が止まってしまった。


「私が躊躇わなければもっと被害は少なかったのに」


 本当ならもっと救えた筈だったのに。本当に救いたかった者達はもう死んでいる。

 項垂れるアリスティアの頭にギルバートが手を乗せる。


「君は頑張ったさ。今も頑張ってる。彼等が君を責める事は無い筈だ」


 だって彼等はアリスティアを護りたかったのだ。戦場に出したくなかったのだ。だから果敢に戦った。

 暫くしんみりした空気が流れる。しかし、10分程でアリスティアの放つ空気は元に戻った。後悔は後にするものだ。今は進むときなのだ。

 アリスティアが部屋に戻ろうとすると、再びギルバートが頭に手を乗せた。


「ところで君の収支報告書におかしな点があるのだが、君は一体何処と貿易して資金を得ているんだい? 」


 無言でアリスティアは駆け出した。


「あ、ちょ! 逃げるんじゃない! 」


 アリスティアは凄まじい速度で逃げ去った。

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