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閑話③ 躍進! ニャルベルデ

 早朝の王都は珍しく朝霧に包まれていた。


「珍しいな」


 門番の1人が欠伸をしながら呟く。

 王都の門は現在24時間体制で開かれている。

 物流が加速し、夜であろうとも馬車や魔導車が出入りする為に閉じる事は無いのだ。

 もう門番要らないんじゃね? と言う意見もチラホラ出ている。城門の近くにセントリーガンが置かれているので魔物の襲撃も撃退出来るし、行き成り王都の門前に魔物の集団が来た時点で無能な警備体制と言えるだろう。

 そもそもアーランドの城塞都市は警備の為に積み荷を調べる等は行わない。ただでさえ財政難なのに、物流を妨げれば王国は崩壊していたからだ。

 もっぱら門番の役目は魔物の襲撃を察知したり、警戒網を抜けた単独かごく少数の魔物の迎撃である。


「何時も思うが、俺はこの時間の王都が好きだ」


 隣に立つもう一人の門番が答える。

 霧で薄っすらとしか王都は見えないが、この幻想的な光景が見れるなら退屈な仕事も楽しめる。この時間の最高の光景が見れるのだ。

 しかもレアな朝霧に包まれた王都だ。


「新しい建物が日々増えていくのはいつ見ても飽きないよな」


 誇らしげに王都を見る門番。ちょっとは外を見て欲しいものだ。無論警戒はしているが。

 その時、朝霧が揺れる。


「ん? 何かこっちに……猫だ? 」


「いや、アレおかしいだろう! 」


 ザッザッザと隊列を組んで進む猫の群れが王都の通りを我が物顔で歩く。

 その行進の統率は軍の行進を見慣れている門番ですら絶句する程の統率力だった。

 足並みを揃えるのは当然の事。しかも、揺れる尻尾の動きまで完全にシンクロしている。

 歩く猫の表情は歴戦の勇士そのものである!


「遂に猫共が軍隊になりやがった! 」


「王都の猫は何を目指してやがるんだ! ってうちの猫まで混ざってるじゃねえか…………」


 どうやら飼い猫まで混ざっている様だ。

 猫の行軍は門番の前を通る時に、一斉に彼等に顔を向けながら統率の取れた行軍は一切揺らぐ事は無い。

 ぶっちゃけ怖い。


「おい待てカギ尻尾行くな! お前は飼い猫だろ! 」


「ニャー」


 去らばだと、門番の飼い猫は止める飼い主に別れを告げて進む。


「どうするんだよ」


 崩れ落ちる同僚を見ながらもう1人の門番が頭を抱える。

 コレ、報告しないといけないの? 何て報告すれば良いの? 混乱している様だ。







 時間はしばらく進み、太陽が完全に昇り、朝霧も完全に消えた。

 場所は王都の森。

 新王都の内部だが、新王都は人口以上の圧倒的広さを誇る為に、開発されているのはまだ一部だ。ここは王都に必要な木材を確保する為の植林場でもある。

 そして、この森は魔物も普通に暮らす。王都の子供の植民地とも言われる場所だ。

 その森の中で、一匹のゴブリンが欠伸をしながら歩いていた。

 ブンブンと粗末な木のこん棒を振り回しながら眠気を覚ますゴブリン。

 定期的に訪れる絶対強者(王都の子供達)への貢ぎ物と、自分達の食料を探しているのだ。

 正直、あの暴君たちは八つ裂きにしてやりたいが、最近上位種を匿っていた件で群が半壊させられたので、大人しく従っている。

 暫く進むと、開けた場所の岩の上に動物を見つけた。

 ゴブリンは気配を消しながら身を屈める。

 岩の上に居るのは猫だった。

 そう猫だ。多少鋭い爪と牙を持つが、狼に比べれば脆弱な存在だ。ゴブリンは涎を垂らしながら醜悪に微笑む。


「ギギギギアアア」


 作戦などない。自分の力はこの脆弱な動物を上回っている。いたぶって殺して食うだけだ。

 しかし―――


「ニャー」


 岩の上に寝そべっている猫は迫りくるゴブリンを前に動かない。それどころか、自身を嘲笑う様に後ろ足で耳の裏を搔いているいる。

 その光景に自分を馬鹿にしていると思ったゴブリンの顔が怒りで真っ赤に染まる。

 ゴブリンは強者には何処までも卑屈に従うが、自分より弱い物には何処までも残忍でプライドが高い生き物なのだ。目の前の脆弱な生物が自分を嘲笑う等、許される事では無い。

 まずは足を潰そう。そして尻尾もへし折って、自分を嗤った事を後悔させてから殺して食おう。

 ゴブリンはこん棒を振り上げながら目の前の猫を叩き潰そうとして――失敗した。

 突如木の上から数十匹の猫が、ゴブリンに向かって落ちてきたのだ。


「「「「フシャァ! 」」」」


「ギ、ギギ!? 」


 嵌められた! それに気が付いた時には、既に周囲を100を超える猫に囲まれ、自身の体じゅうに猫が噛みついていた。

 猫は一匹を囮に、他の猫は木の上や茂みの中に潜んでいたのだ。

 猫は決して愛玩動物などでは無い。人が考える以上に残忍で狡猾な生き物だ。

 彼等は愛玩動物の振りをしているだけなのだ。そうすれば馬鹿な人間は自分達を排除せず、寧ろ餌をくれたり、上質な餌場(倉庫等)に暮らす事を認める。

 そして猫は獲物で遊ぶ事も有る。痛めつけ、それでも殺さずに嬲る。残忍な生き物である。


「ギアア! 」


 ゴブリンが腕を振り回して猫を振り払おうとする。その度に猫は弾き飛ばされるが、その柔軟な体を駆使して、クルリと回転しながら着地する。

 そして振り解いても振り解いても完璧な連携でゴブリンに牙を剥く。

 しかしアーランドの魔物は強力だ。只のゴブリンであっても他国よりランクが一つ高い。猫の力で倒すのは不可能だ。不可能な筈だった。

 20匹の木の棒を咥えた猫がゴブリンを包囲している猫の群れの後ろで、ゴロゴロと喉を鳴らしながら詠唱を行う。

 そして魔法が放たれる瞬間、射線上の猫と、ゴブリンに噛みついていた猫が下がる。

 突如止んだ攻勢にゴブリンが困惑した瞬間、ゴブリンは風の弾丸を幾つも受ける。

 一つ一つは大した事は無い。しかし、数にして20を超える風の弾丸にゴブリンは弾かれ、後方の木に叩きつけられる。

 ガッハ! っと血が混じった唾を吐くゴブリン。そして、その絶好の好機に再び猫達がゴブリンに殺到する。

 指を噛まれ、こん棒を落とし、足の腱に噛みつき立てなくする。

 そしてゴブリンを生きたまま捕食し始める。体中の肉を、その鋭い牙で引き千切る。


「ギアアアア! 」


 森に哀れなゴブリンの断末魔が響いた。世は正に弱肉強食。ゴブリンは猫より弱かったのだ。





 ガツガツガツとゴブリンの死体を捕食する猫達。

 それをでっぷりと太った小生意気な顔の猫が見ている。


「悪くねえな」


 ニャムラス大統領だ。

 彼は満足げに頷く。

 王都の猫は増加の一途であった。ニャムラス大統領の出現で猫は文明と言うテクノロジーを獲得したのだ!

 猫同士で情報共有が行われ、その結果馬車に轢かれたり、物の下敷きになって死ぬ猫は激減した。

 猫は極めて繁殖力の高い動物だ。安全が確保されれば瞬く間に数を増やす。

 食料が足りなくなった。

 ニャムラス大統領は足りない食料の確保に魔物狩りを始めたのだ。

 普通なら無理だ。自分ならゴブリンどころかオークくらい殺せるが、他の猫はどれだけ統率が取れても勝てない筈だった。

 どうしたものか。そう考えている同時期に、アリスティアが興味本位でとある実験を行った。

 動物は魔法を習得できるのか? ベッドで数々の動物が魔法を使って旅をする童話を読んでいたアリスティアはとても気になってしまった。

 だって動物が魔法を使うなんてお伽噺にしか出てこない話なのだから。

 だから実験した。繋がりの有るニャルベルデの猫を調べてみた。

 この世界の生物は全て魔力を持っている。自然に魔法使いに至れるのは僅かだが、持っているのだ。

 当然猫も持っている。しかし少ない。非常に少ない。

 猫を選別し、厳選し、多少はマシな猫に風魔法の【ウィンドバレット】を教えてみた。

 結果、普通に使えた。もっとも魔力量の関係で低威力で単発だったが。

 実験は終了。この時点でアリスティアは興味を喪失してしまった。ここでアリスティアのうっかりが発動する。隠蔽工作も興味と一緒に忘却したのだ。

 ニャムラス大統領の出現で猫は文明と言うテクノロジーを既に獲得している。魔法を獲得した猫はすぐさま情報共有を行う。

 猫達は考えた。

 路地裏で餌を確保しながら。

 屋根の上で日向ぼっこをしながら。

 空き地で円状に集まり、無言で顔を合わせながら。

 アリスティアの依頼で他国のスパイの拠点を襲撃しながら。

 猫達は考え続けた。魔法と言う新しいテクノロジーをどうやって生かすのかと。

 そして、人間を観察する。そして気が付いた。魔法を使う人間は杖と呼ばれる道具を使う。そして、杖なる道具は魔法を増幅するのだと。

 頑張って作ってみた。必死に弱い魔物を数の力と統率力で蹴散らし、魔玉を確保し、捨てられていた砕けた杖の木片を確保した。

 そして肉球で頑張って集めた魔玉を木片を爪で研いだ木の棒に括り付ける。

 これが杖の原型。人類がかつて初めて手にした杖と同じ物。

 現在では洗練され、既に使われなくなった古典的な杖。封入すらない。魔法の増幅効果も微弱な出来損ない。しかし、魔法の杖だった。

 こうして猫の中に魔法使いが誕生した。もっとも威力は相変わらずだし、回数も僅かで、屈強なアーランド人にとっては児戯に等しいレベルだ。

 しかし、これで魔物を狩れる様になってしまった。しかも情報共有で魔法を習得する猫も増えた(ニャムラス大統領は魔術師並の魔力が有るので、普通に覚えた)

 森に転がるゴブリンの残骸。数は10匹。あの後も血の匂いに惹かれてやってきたゴブリン達を同じ戦術で封殺した。

 ゴブリンの死体は人間も食べない不味さだが、猫にとっては貴重な蛋白質だ。虫も平然と食べる猫にとっては御馳走だった。

 勿体なかったので、収納袋を背負っている猫がゴブリンの死体を回収する。これで当分食料には困らない。

 そしてニャムラス大統領の前に猫達がゴブリンの魔玉を銜えて持ってくる。

 ニャムラス大統領はそれを自分の収納袋に入れる。


「ニャアアア! (帰るぞ野郎共! )」


「「「「ニャー(へいボス! )」」」」


 こうして猫の狩りは終了した。

 来た時の様に完璧な隊列を組んで、ドン引きする王都の住民の眼を無視して堂々たる帰還を果たす。

 この時の狩りで死んだ猫は一匹も居なかった。


「おっと、悪猫共。王都へ入るのは構わんが、そこで血を落として貰おうか」


「「「「ニャー」」」」


「そんなめんどくさそうな顔をするなよ! お前等絶対言葉分かってるだろ! 」


 門番に怒られ、アリスティア製の洗浄機。それはトンネルの様な物で、中を通ると汚れを落とし、ノミやダニまで除去してくれる上に、水で洗っている訳では無く、魔法の浄化の為に匂いも落ちない優れものだった。

 朝に門番が城に報告したら、アリスティア分身が設置した物である。

 そして王都へ帰還したニャムラス大統領は空き地に集まった猫達に、今回の成果を発表し、狩りに出れない猫達に獲物を分配すると、冒険者ギルドへ訪れる。

 ニャムラス大統領は我が物顔で堂々と腹を左右に揺らしながら冒険者ギルドへ入っていく。


「来やがった」


「アレが大陸史上初の動物の冒険者………」


「と言うか、良いのかよアレ? 」


「規則じゃ禁止されてないしな……」


「そりゃ動物が冒険者登録するなんて誰も想定しねえよ……しかも普通に喋るし。アイツ魔物なんじゃねえのか? 」


「姫様曰く、体内に魔玉が無いから動物だそうだ……」


 ニャムラス大統領を見た冒険者たちが騒めく。


「いらっしゃいませー」


「よう嬢ちゃん。いつものものを頼むぜ」


 実に渋い声で受付嬢に挨拶し、背負っていた収納袋を引き渡す。


「ゴブリンの魔玉の買い取りですね。おや、いつもより多いですね」


「うちの若い者達も漸く使い物になる様になったんでな。狩りが捗るぜ」


「一応ギルドとしては非冒険者と討伐するのは推奨出来ないのですが。

 一応問題にはなりませんが、昇格ポイントにはなりませんよ? 」


 実家の地位を利用して冒険者のランクを上げようとする冒険者は実は一定数存在する。

 アーランドでは貴族不足で、冒険者志願の貴族子弟が極めて少ないために行われないが、実力で成り上がれる上に、貴族らしくないと嫌われる行為な為にこの国では行われないが、他国では実家も継げず、他家の婿に送るには格が下過ぎる末子が実家の兵などをこっそり使い魔物を倒して素材をギルドに売り、ランクを上げようとする者が居るのだ。

 発覚次第降格されるのだが、堂々と行う者も居る。その場合、買い取りは行うがランクは一切上がらない。その代り罰則もこれと言ってないのだ。

 ギルドからすれば依頼や収集を熟せれば良いので問題ないらしい。他の冒険者も最初からそういう奴だって解るし、ランクの上昇などの恩恵が消えるので嫉妬もしない。


「構わねえよ。おりゃぁランクに興味は無い。金さえ入ればどうでも良いさ」


 ニャムラス大統領は猫なのでランクのありがたさなんて興味の欠片も無かった。

 寧ろ余った魔玉が金になるのでどうでも良い話だ。

 アーランド王国ではゴブリンやコボルト程度なら掃いて捨てる程に棲息しているが、大規模な群れにでも成らない限りは討伐依頼が出ない。

 と言うか、冒険者ギルドが依頼を出されても「そのくらい自分で何とかしろ」って断ってしまう。

 魔物の数が多いので、ゴブリンやコボルトの討伐依頼を受けるくらいなら、王国民でも対処出来ない魔物を何とかしてくれと言う方針なのだ。

 しかし最近では、魔導具産業の成長が著しい上に、魔玉の融合技術の確立でゴブリンの魔玉も良い値で売れる。

 ニャムラス大統領は銀貨を数枚受け取ると、上機嫌でカウンターから飛び降りようとして――止めた。


「おいおい、何時からギルドは動物園になったんだ? 何、畜生風情が金貰ってんだよ」


「こんな猫に報酬出す必要なんてねぇよな? おい糞猫、その背負ってる物を置いていけ」


「ああん? 何だテメエら? 」


 今更自分に敵対する馬鹿が居るのかと、ニャムラス大統領が首を傾げる。

 王都に常駐する冒険者はニャムラス大統領の恐ろしさを知っているので、誰も喧嘩は売らない。寧ろ、そのお腹のモチモチ感に魅了されているので、普通に餌をくれる。もっともニャムラス大統領は気分屋の為、気軽に腹は触らせてくれないが。


「何だ、こんな田舎の国じゃ俺様の名前が届いてないのか。Aランク冒険者で迅雷の二つ名持ちのシュナイダーとは俺の事だ! 」


 その言葉を聞いた瞬間、ギルドに居た冒険者達が大爆笑を始めた。

 中には顔を真っ赤にしながら追加の乾杯を行う者まで居る。

 王国名物。他国出身の冒険者がランクで威張るである。ついでに恥ずかしい二つ名を堂々と名乗る。


「何だテメエら! 俺達に喧嘩を売ってるのか! 」


 シュナイダーの仲間が顔を真っ赤にして叫ぶ。


「Aランク程度の冒険者なんて掃いて捨てる程居るぜ。いちいち粋がんなよ。ククッ! 」


「おいおい、その程度にしておけって。余り笑わせんな」


 他国基準ならAランク冒険者は長年地道に続けるか、力ある冒険者がたどり着くランクだろう。

 シュナイダーは20代半ば。ならば才能と実力があるからこそのAランク。

 しかし、アーランド王国は冒険者の本場と呼ばれる国だ。

 魔物の数は膨大で、かつ、強力。たとえゴブリンでも他国のゴブリンよりランクが一つ高い。

 オークなんかオーガ並に強い国だ。故にアーランドの魔物の素材の価値も他国とは違う。

 冒険者は金になるからアーランドに集まるのだ。

 強力な魔物を蹴散らすアーランド冒険者が他国のぬるま湯で育った冒険者に負ける訳が無い。

 シュナイダーは未だ未熟だが、相手を見抜く眼を持っていた。だから顔を真っ赤にして周囲を睨んだ瞬間に悟る。

――ここの連中には勝てない――

 もっとも、ニャムラス大統領にも勝てないだろう。外には既にニャルベルデの猫が集まっている。情報の回りは以上に速いのだ。冒険者ギルドで冒険者の食べてる食事を分けて貰いながら情報収集していた猫が招集を掛けていた。

 大人しく謝る。これが最も賢い選択。しかし、若さ故に、プライド故に選べない。

 怒りに握りしめた拳を振り上げようにも目の前の冒険者には勝てない。そして丁度良い事に目の前に弱者が居た。


「クソが! 」


 振り下ろされる拳。しかしニャムラス大統領は残像を残すようにバックする。拳はカウンターを叩きつけた。


「何しやがるんだテメエ」


 無駄に渋い声を怒気と共に放つニャムラス大統領はジャンプすると、闘気を纏った猫パンチを放つ。

 そのスピードに動揺していたシュナイダーは反応出来なかった。普段なら躱すなり防御するなり出来ただろう。一瞬の動揺が彼から反応を奪う。


「うぎゃ! 」


 ゴロゴロと床を転がるシュナイダー。しかしニャムラス大統領は無慈悲な宣告を告げる。


「やれ」


「「「「フシャー! (ヒャッハー報復だー)」」」」


 ギルドの外から猫の群れが押し寄せる。そしてそのままシュナイダー達に襲い掛かった。

 動揺して武器を抜く前に纏わりつかれる。そしてニャルベルデの魔法使い猫が男達の足や股間に風魔法を放つ。

 足に直撃すれば姿勢が崩れるし、股間は鍛えようがない。実に嫌らしい攻撃だ。


「あぁ~だから止めたのにな」


「馬鹿だなぁ。この王都で猫に喧嘩を売るなんてこうなるに決まってら」


「と言うかあいつ等のバックに居るの絶対姫様だしな」


「特注の収納袋を持ってる時点で間違いないな」


「可愛いバック……欲しい」


 一部女性冒険者はバック型の収納袋を背負う猫に魅了されている様だ。

 冒険者達は最近の猫の恐ろしさを知っているので猫を虐げない。ニャルベルデは確実に報復を行うからだ。

 更に集団で動くので、王都のネズミが激減する等の恩恵もある為、誰も虐げない。

 ボコボコにされたシュナイダー一行を放置してニャムラス大統領達は去っていった。


「大丈夫か? 早速洗礼を受けたな」


 ほらポーションを飲めと他の冒険者達がシュナイダー達を解放する。鎧で覆われていない部分がボロボロだった。

 その後シュナイダー一行は王都の冒険者の奢りで酒を飲み、数か月もすると完全に馴染んで他国から来る粋がった冒険者を笑う側になったそうだ。

 因みに彼等は生涯絶対に猫を虐げないと心に誓っていた。






 一方ニャムラス大統領は王城のアリスティアの私室に居た。


「…………すまない、大統領。私の力が及ばずに……」


 無念そうにベットに横たわるアリスティア。お尻に氷嚢が乗せられていた。


「良いって事よ。お前はよくやってくれてる。ちょっと俺達が増え過ぎただけだ」


 ニャルベルデは文明と言うテクノロジーを手にした事と、猫由来の高い繁殖力。

 そして冒険者活動を行う事でポーションを手に入れられるようになった。

 その為、死亡率が激減し、数が増え続けた。

 その理由はもう一つ存在する。

 新王都の一角の未開発地帯の一部にアリスティア所有の土地がある。

 そこは未だ開発されておらず、森の中だ。

 しかし、その地下にはシェルターが存在した。そのシェルターはアリスティアの夢の一つであるコロニー建設の為の技術習得として作られた完全独立型シェルターだ。

 ニャルベルデは自室に居るアリスティアを強襲し、そのモフモフでアリスティアを魅了した。

 ニャルベルデが去った時に残されていたのはアリスティアのサインが入ったシェルターの譲渡書である。

 まあ、別にまた作れば良いかとアリスティアは放置してたのだが、そこには小規模の自律型食料プラントも建設されていたのだ。もっとも実験用のごく小規模の物だが。

 そして、そのシェルター。ギルバートにばれた。新王都の一角とは言え、誰も来ない場所にあるアリスティアの土地。しかも複数の分身が物資と共に出入りしてるのに、地上施設は何もない。怪しいので強襲したら、地下にシェルターが存在した。

 取り敢えずシェルターに入ると、そこは猫の楽園だった。

 アリスティアは先ほどまでマダム・スミスと母であるシルビアにお尻をドラムの様に叩かれていたのだ。

 そして増え過ぎた猫の去勢か、殺処分が求められた。


「お兄様はシェルターの重要性が分かってないんだ。核シェルターを持つのは先進国の嗜みなのに……」


 因みに王都に常設で張られている多層結界はソビエトが開発した人類最大の水爆を投入しても平然と耐える上に放射線も通さない高性能な結界の為、シェルターを持つ必要は無い。


「奪い取ったのは俺達なんだがなぁ」


「まあ、放置したのも私だし。猫相手だから奪い返すのは簡単な話だしね。

 取り敢えずシェルターはそのまま使っていいよ。と言うか取り返すと王城に住むでしょ?」


「まあな」


 ニヤリと嗤うニャムラス大統領。ようやく手に入れた安住の地だ。簡単には手放す気はない。取り上げたら返してくれるまで嫌がらせを行うだろう。


「ところで増え過ぎた数の件だけど」


「まあ、俺達の方で何とかするさ。数も増えたし発情期に我慢すれば問題ない」


 どうやら発情期に盛る事を抑える事で、数の増加を抑制するそうだ。


「うん、その方向でお兄様に話してみるよ。悪いね私達人の事なのに」


「良いさ。トイレの件も了解した」


 実は増えた猫の糞尿の問題も有ったのだが、それらは森で排泄するか、アリスティアが自費で公共トイレを王都中に作るので、そこでする事になる。猫用の流すボタンを追加で設置するだけだ。

 因みに王都が臭いのは嫌なので、自費で公共トイレを作るつもりだったので問題ない。

 縄張りの主張は自分の体をこすり付けて匂いを付ける方針へ転向するらしい。既に猫なのかおかしいレベルだった。


「そうありがとう……ところでそのお腹をモフモフさせて欲しいんだけど」


「今日はそんな気分じゃないんでね」


「そんなぁ」


(´・ω・`) こんな顔をするアリスティアを無視してニャムラス大統領は部屋から出て行くのだった。

 その日の晩、王都を離れる馬車や魔導車の荷台に複数の猫が紛れ込んでいた。

 増え過ぎたのならば別の町に行けば良い。ついでに現地の猫もニャルベルデに服従させればいい。

 ニャルベルデは誰にも気が付かれずに勢力を拡大するのだった。

ニャムラス大統領は冒険者だけど永年最低ランクです。

商人「最近デブ猫が普通にポーションを買っていく……いや、金を払うなら売るけどね」

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― 新着の感想 ―
[一言] あのさ、『ネコ』でいいの?ニャムラス大統領。 実は実験の影響で産まれた『ニャジラ』でね?
[気になる点] イザークって今まで出てきたキャラでしたっけ?
[気になる点] 誤字多過ぎ。 報告に上げましたけど、一話でこれだけ誤字があるのは、ちょっと初めてかも。
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