閑話 オストランドの屈辱
オストランド王国国王ロウディウスはご機嫌だった。
何もかもが上手くいく。帝国の敗北でオストランドの安全保障は万全な物となった。現在の帝国は軍事力で大陸屈指の弱さを誇るオストランドにすら攻め込む余力は無い。
そして経済ではアーランド王国と言う帝国より遥かに小さいのに帝国よりビックな財布を持つ国が居る。何でも売れる。特に資源なんて在庫を抱える暇が無い程に売れる。
それらの利益でアーランドから高性能かつ安価な魔導具を買ったり、国内の改革資金にする等でオストランドの国力は日々高まっている。
(今までの苦労が報われる様だ……)
涙が出そうだった。
思い返せば自分の人生は苦難の連続だった。
元は第三王子なのに、兄2人は王位を継ぐ事を拒否して婿に行ってしまった。
父である先王が自分に王位を授けると告げた時は殴り合いになった。
しかしオストランドは厳しい国だ。隣国であるグランスール帝国は野心の塊であり、更に隣国アーランド王国は帝国を何度も返り討ちにするイカレタ軍事国家だ。
そしてオストランドは大陸最弱と呼ばれる国家。誇れるのは文化のみであり、それ以外には価値は無いとまで言われる程である。
上手く外交を行わなければ滅びるのだ。帝国に目をつけられない様に立ち回り、アーランドに恨まれない様に立ち回る。
そして中央の傍若無人な留学生達の起こす騒動の後始末まで押し付けられる。何度自室で涙を流した事か。
そしてストレスに比例して、自身の頭部の死の荒野が広がっていく様子を毎日鏡で見ながら血の涙を流した。
彼は傲慢極まりない中央国家連盟の国々が大嫌いだったのだ。今まで大人しかったのは我慢していたから。小国が生き残るにはそれしか無かった。
(それが今や王国同盟のナンバー2。フォッフォッフォ。良い響きじゃ)
アーランド王国はオストランドの外交ルートを通じて中央国家連盟に対抗する為に王国同盟を結成。その際に実質的に同盟を取りまとめたオストランドはナンバー2と言う扱いになった。
そして帝国に勝利した事でオストランドもちゃっかり領土を広げていた。最も無人地帯を自国の防衛に有利な国境になる様に奪い取っただけだが。
「笑いが、笑いが止まらぬ。我が世の春じゃ」
わっはっは! と高笑いするロウディウス。
書類にサインするのも普段より軽やかな動きだった。
国の安全は保障され、経済は最高。外交も邪魔者は瀕死で同盟国とは盟友関係。
後は平和ボケした軍部と貴族の改革が問題だが、帝国戦で貴族も軍人も自分達の至らなさを痛感した為に協力的だ。
笑いながら書類にサインしていると、気になる報告を見つけた。
アーランド王国で映画なる物が開発されたと言う在アーランド大使からの報告書だった。
報告書を読むとロウディウスは少しずつ震えだす。
『何これ! 滅茶苦茶気になる! 見たい! 』
文化強国オストランド。そしてその王ロウディウスは文化に目が無い男だった。
元は王位を継がずに自分で劇団を運営するのが夢だった。夢を潰した父には未だに腹を立てている。最も能力的に自分が継ぐしかなかったので納得もしているが。
そんな彼の元に新しい文化の誕生が告げられたのだ。
これが自国だったらどんなに良かったか。
しかし、現実は悲しい。寄りにも依って脳筋の極みの様な国であるアーランド王国で生まれたのだ。
「良し、まずは視察じゃな。何事も自身の眼で確かめなければ」
ロウディウスは鈴を鳴らす。すると執事が現れた。
「近くアーランド王国へ身分を隠して赴く」
「っえ? 」
行き成り王が前触れも無く他国に行くと言えば執事も驚く。
「アーランド王国では映画なる新しい文化が誕生したそうじゃ。儂自らその眼でどの様な物か確かめなければのう。
ほれ、我が国は文化の国じゃし……気になるし」
後半が本音だなと執事は悟った。目の前の王は政治手腕に不足は無いが芸術に目が無い。
「では大使にアーランドと交渉する様に連絡を取ります」
「うむ、最速で行わせよ」
「はい」
パタンと部屋の扉を閉めて出た執事は深いため息を吐いた。これが無ければ完璧な賢王なのに……どうして芸術狂いなのだと。
取り敢えず王太子に情報を流そう。止めてくれる筈だ。この忙しい時に王が他国に赴くとか大問題だ。
でも王命なので派遣してる大使にも連絡を行う。魔導携帯は便利だった。
その後、息子である王太子と国王の壮絶な殴り合いによる交渉の結果、ロウディウスの華麗なボディーブローにより王太子は撃沈するのだった。強い。
「これで王には見えんだろうな」
ロウディウスは己の姿を鏡で見ながら満足する。そこには威厳のある老紳士が映っていた。王の覇気を抑えた今は、引退した貴族の元当主程度の風格を出している。
そばには疲れ果てた在アーランド大使が項垂れていた。
正直映画の報告をした事を後悔している。彼はどちらかと言えば王太子派の貴族で、王の芸術狂いは噂程度の事しか知らなかったのだ。
まさか報告して直ぐにオストランド王が御忍びでアーランドに来るなんて欠片も思っていなかった。そして、後で王太子に自分が小言を言われると思うと更に胃が痛い。
ロウディウスは項垂れる大使に案内をさせる為に馬車に乗り込む。同じ馬車に王が乗るなんて栄誉極まりない事だが、大使は国に帰りたかった。
ついでに馬車の周囲にはアーランドの用意した護衛も密かに着いてきている。正直この訪問にもアーランド側から仕事が増えるって小言を言われたのだ。
当然だろう。盟友とも言える友好国の王が秘密裏にとは言え、アーランドを訪れるのだ。相応の護衛を用意しなければならないアーランド側は迷惑極まりない事である。
最もアーランドとオストランドが深く繋がるのは良い事なので止める事は無かったが。大使としては止めて欲しかった。
暫く馬車が進む。
「揺れが殆ど無いのぅ」
「道が舗装された結果と、馬車の改良のお陰です。我が国も導入するべきです」
「石油とやらが必要なのだろう? ふむ、探してみるか」
必要な技術はアーランド王国から買えば良い。資金には余裕がある。
ロウディウスは内心で費用対効果を計算する。うん、利益は十分でそうだ。
そして暫くすると、劇場の様な施設にたどり着いた。そこには多くの若者が列を作っている。映画は早くも国民に受け入れられ、人気が高い様だ。
ロウディウスは建物を見る。
(まあ、及第点と言う所か)
彼の審美眼は厳しい様だ。因みにアリスティア分身が3日で建てたと知ったら驚愕するだろう。
映画館は警備の関係から貴族と平民の入り口が違う。貴族用の入り口は平民用と違って人は疎らだった。どうやら貴族より平民に人気の様だ。
ロウディウスはその様子に満足げに頷く。芸術とは貴族や王族だけの独占品ではない。素晴らしき物は多くの観衆に見せるべきだと常々思っている。
入口に入り、チケットを買うと売店が目に入る。
正直劇場で物を食べる行為には忌諱感を持つロウディウス。劇場では劇を楽しむ物だ。しかし、彼は自身の考えを押し付ける気はない。
郷に入っては郷に従う。これがアーランドの芸術鑑賞ならば、それに従おう。
「あそこのポップコーンとコーラとやらを買って来い」
「へ、陛下!? 」
芸術に厳しい拘りを持つロウディウス。彼が芸術鑑賞を飲み食いしながら行う事などあり得ない事だった。
思わず連れてきた執事が彼を陛下と呼んでしまう程の驚きである。
「これ、ここでは伯爵と呼べと言っているであろう。
ここでは芸術を鑑賞しながら飲食を行うのだろう。ならば従うべきじゃ。
それにあの二つは見た事も無いしな」
流石にコーラは、あのコーラではないだろうと呟く。
多くの異世界人が切望しながらコーラは未だにこの世界に存在しないのだ。
しかしアリスティアはコーラのレシピを知っている。コカ・○ーラのレシピだ。
オリジナルは厳重に金庫に入れられているが、製造している工場のコンピューターに不正アクセスすればレシピを盗むのは簡単な事である。
ポップコーンは爆裂種のコーンが発見された結果生まれた物である。
執事が直ぐに買いに走る姿を見ながら、ロウディウスは貴人用の席に座る。周囲はアリスティア製の防弾ガラスで覆われているが、良い場所である。
そして彼は執事からポップコーンとコーラを受け取る。丁度上映の時間になり、部屋の中が暗くなる。
そして彼は新しい芸術を目の当たりにした。
どんよりとした空気でロウディウスは帰国した。
彼は帰国するや否や、自室に籠る。そして、ベットにうつぶせに横たわると、泣きながら枕を叩く。
彼が王に成ってから、どうしても我慢が出来ない時はこうしてストレスを発散するのだ。
王は弱みを見せてはならない。人に八つ当たりしてはならない。父である先王の教えである。
(何故じゃ! 何故、映画が我が国で芽生えなかったのだ! )
映画の内容は地球ではカビが生える程ありふれた物だった。
解り易い正義のヒーローが解り易い悪の組織をド派手なアクションと演出でバッタバタと薙ぎ倒す勧善微悪物だ。
予算はそれなりに使ったが、短時間で作られたB級映画である。
(儂ならもっと上手く作れる。俳優の演技も素人に毛が生えた程度じゃ! 我が国の役者ならば、もっと面白く出来る筈じゃ! )
映画の出来は地球人が見れば陳腐だと言えるだろう。ありふれたシナリオ。俳優の演技は素人レベル。演出と編集はアリスティアが行ったのでプロレベルだが。
しかし、ロウディウスには新しい芸術の芽生えに見えた。
役者の演技は正直プロを名乗るのは笑止と言うレベルだが、何故か楽しかった。
気が付いたら映画は終わっており、手元のポップコーンとコーラは空だった。
オストランド人はアーランドに軍事でも経済でも負ける事は納得出来る。
しかし、たった一つだけ……文化で負ける事だけは決して納得出来ない。
【あの脳筋国家に文化だけは負けたくない】
同盟を結んで以降、多くの国民と貴族が内心考えていた事だった。ロウディウスも同じだった。
芸術と文化しか取り柄の無い国。そう嗤われる国オストランド。だからこそ負けたくないと強く思っていた。
何故、何故我が国で芽生えなかったのかと、血の涙を流しそうな程に慟哭していた。
気が付けば数日間部屋に籠っていた。
悔しくて悔しくて、羨ましくて羨ましくてたまらない。
そんな中、部屋の扉がトントンとノックされる。
「誰じゃ、今は誰も来ない様に命じておるじゃろう! 」
珍しく怒声が響く。何時如何なる時も王は取り乱してはならないと言う父である先王の教えに背いてしまった事にロウディウスは顔を顰める。
「陛下、我々でございます。王太子殿下の命により馳せ参じました」
「我々が来たからには、もう安心でございます」
「左様、悲しい時は我等と共に芸術の話に花を咲かせましょうぞ」
聞こえてきた声はオストランド王ロウディウスの腹心にして、同じ部屋に4人で集まる事を息子である王太子に禁じられた部下であり、親友達だった。
まさか息子がこの3人を送り込むとは思っても居なかった。
慌ててロウディウスは扉を開くと、3人の初老の男が立っていた。
外務大臣にして、自身もオペラ劇団のオーナーを務めているラウドア・トルニクス侯爵。
国務大臣の中堅の部下に当たり、建築家で劇場の設計はこの男と呼ばれたり、設計能力だけで爵位を得た男とも呼ばれるエーベルト・ルンドルフ男爵。
そして音響ならばこの男以上の者は存在しないと呼ばれ、ルンドルフ男爵と同じく劇場設計に携わり、合理的な家屋の研究も行っている。フォーマン・ドルフ子爵。この男は引退している元領主だ。
最も家屋等の研究を行っている為、息子とは別に子爵位を持っているので、現在も子爵である。
そして複数の劇団のオーナーであるオストランド王ロウディウス。
芸術と文化大国オストランドが世界に恥じ入る芸術狂い4人衆である。
何せ、この4人が同じ部屋に集まると最低1週間は仕事を放棄して芸術話に花を咲かせるのだ。何度文句を言っても改める事が無い為に、王太子命令で一つの部屋に集う事を禁止される程である。
「陛下、我々が陛下のお悩みを聞きましょう。
何、今丁度腕の良い画家を育ててましてな。その者の絵を見れば気分は直ぐに良くなるはずです」
トルニクス侯爵が新鋭気鋭の画家の絵を収納袋から取り出し、自慢げに見せる。
「待て待て、私原案の新しいオペラの話が先であろう」
設計だけでは我慢出来ずに遂にシナリオにまで手を広げだしたルンドルフ男爵。
「私が抱えている音楽家の音楽も忘れられては困るな」
自慢の音楽家達の事を話すドルフ子爵。
さあ、我らにその心をお話しくださいと告げる3人にロウディウスは涙を浮かべた。
そうだ。自分には相談出来る親友が居るのだ。何を自分一人で抱え込む必要が有るのだ。
そしてロウディウスは己の心を彼等に語る。時折芸術話を繰り広げながらら。そしてワインを楽しみながら。
相談をし、芸術を語らい、ワインとつまみと楽しむ。素晴らしき日だった。
気が付けば3日経っていた。王太子はキレて良い。
しかも、その間にこっそり映画を見に行く程である。
「何と言う事だ……映画なる新たな文化は我が国にこそ相応しい。
宜しい。私にお任せください。早急にアーランドと交渉を行い、映画に必要な機材を調達してみせましょう」
外務大臣を務めるトルニクス侯爵が真剣な顔で告げる。完全に公私混合だ。自身の職権を利用するのに躊躇いが無かった。
「では私は早速映画館の設計を行いましょう。ドルフ子爵手を貸して貰えるのだろうな? 」
「無論だとも。必ずやアーランドに勝る映画を作って見せようぞ! 」
頼もしい仲間達にロウディウスは胸がいっぱいだ。
「ならば儂は役者を揃えるとしよう。な~に、儂の抱える劇団に所属する役者ならば、素晴らしい映画を生み出すじゃろう」
こうして1週間以上自室に引きこもっていた王は威厳と共に部屋から出てきた。
そして覇王の風格を漂わせながら執務室へ赴く。
「父上、大丈夫ですか? 」
「うむ、心配をかけたな。もう大丈夫じゃ」
戻ってきた時は死にかけの老人にしか見えなかった父が王の風格を取り戻している事に安堵する王太子アルディウス。
しかし、次の言葉に表情が凍り付く。
「儂ももう歳じゃ。そろそろ退位してお前に王位を譲る事とした」
「はぁ? 父上、一体何を言ってるのですか! 」
「儂は己の生まれた意味を悟ったのだ」
遂にボケたのかと失礼な事を考える王太子アルディウス。
「そう、儂は映画監督になる為に生まれてきたのだ!
今こそ退位し、儂は己の運命に従うのだ! 」
「この情勢で王の交代等出来る筈が無いでしょうが! やはりあのアホ3人に任せたのが失敗だったか……」
オストランドは未だに厳しい情勢である。王の交代なんかしている暇はない。
ロウディウスの政治手腕はこれからも発揮して貰わねば困るのだ。元々王国同盟ナンバー2もロウディウスの政治手腕が有ってこそなのだ。
「さあ、王位を受け取るのだ! 」
威厳と共に王冠と王錫を息子に渡すロウディウス。返礼は強烈なボディーブローだった。
「ぐふぅ! む、息子よ……随分鋭い拳を放つ様になったではないか……やはり王に相応しい……受け取るのだ」
両ひざを床に着き、脂汗を浮かべながら尚もロウディウスは王位を譲ろうとする。その眼には不退転の覚悟が有った。
「父上は錯乱している。椅子に縛り付けて執務を行わせる様に。
それと、後10年はこのまま王でいて貰いますよ」
問答無用で近衛騎士達がロウディウスを椅子に縛り付ける。
「待て、儂はまだ王じゃぞ!? 貴様等離せ無礼者が! こんな所までアーランドの真似をするではないわ! 」
「良いぞ縛り付けろ。仕事漬けにして正気に戻せ」
容赦なく命じる息子に戦慄の表情を浮かべる。
「離せえええええええ! 儂は映画監督になるんじゃああああああ! 」
ロウディウスの退位騒動は王宮から一切漏れる事無く終結するのだった。
その後、トルニクス侯爵の優れた交渉で映画撮影と編集に必要な機材。そして上映に必要な機材一式がアーランド王国から輸入され、オストランドでは国を挙げての映画撮影が始まる。
アーランドに負けるなと映画を作り出したのだ。
そして後にこれがアーランド王国とオストランド王国両国の建国史上初の紛争である映画紛争の始まりである。
莫大な資金を元に大規模な動員を行ったり、演出に優れ、アクション映画を得意とするアーランド王国。
見る者の感情を操るような演技とシナリオ等で特にラブロマンス等の愛憎劇を得意とするオストランド。
アーランド王国は負ける物かと王立芸術学園を設立する。絵画から俳優まであらゆる文化人を育成する事を目的とした学園だ。
そして、それを知ったオストランドも負ける物かと同じく芸術学園を設立する。
紛争と呼ばれているが、両国の関係は悪化はしなかった。両国の芸術学校は交換留学が盛んになる程に仲が良かった。
しかし、この熾烈な争いは他の同盟国を呆れさせるほどであった。
そして200年後、とある評論家が「同じ映画でも得意なのは別ジャンルだし、喧嘩する程の事か? 」と主張するまで文化競争は続くのだった。
尚、オストランド王ロウディウスは国王兼映画監督として映画史に名前を残すことになる。
「あの、陛下……家畜の餌の件ですが、アーランド王国とオストランド王国から増産の依頼が来てます」
ファフール騎士国の王宮では家臣の貴族が騎士王シルドレッド・ナイ・ファフールは部下から報告を受けていた。
始まりは貿易の事だった。この国、実はそれほど資源が豊かではない。但し、農地は豊かだ。最も帝国との小競り合いのせいで荒廃していたが。
しかし、帝国の敗北で最低限の警戒で済むようになると、国内の立て直しに走る事になる。
しかし、長年の帝国との小競り合いで国は疲弊しており、先立つ物が何もなかった。
その時目をつけたのが家畜の餌に使っていた作物だ。これは人の食料として見られておらず、食べるのはスラム民程度の認識だった。
食料に余裕は無いが、家畜の餌には多少の余裕が有る。正直硬いので食べたくないと言う国民ばかりで人気の無い商品だった。
シルドレッドはアーランドに派遣した大使にこれを何とか売る様に命じたのだ。
命じられた大使も困惑した。彼の認識でも家畜の餌である。
しかし、王命は絶対。少しでも高く売れないかと交渉を行ったが、その時丁度アリスティアの眼に止まったのが幸運の始まり。
それは爆裂種のトウモロコシで有った。アリスティアは即決で購入を決めるとポップコーンにして売り始める。
アーランド人はこのポップコーンの新触感を受け入れ大ヒットしたのだ。
そして映画を通じてオストランドでも流行が始まった。
困惑したのはファフール騎士国である。
家畜の餌がお菓子としてヒットしたのだ。大使は驚愕した。
「まさか家畜の餌がこれ程売れるとは思わんかったな……」
シルドレッドもここまで売れるとは考えてなかった。
「如何しますか? 」
家臣の言葉にシルドレッドは答える。
「無論増産だ。もっと作付けを増やすように各方面に命じろ」
「畏まりました。それと両国から作物の名前を変えて欲しいとの要請を受けています。流石に家畜の餌では具合が悪いと」
「確かに家畜の餌は食べる気が失せるな……う~む。行き成り言われても思いつかん。そうだ、アリスティア王女は何か言ってなかった? 」
「コーンと呼んでました」
「良し、コーンで良いだろう。そちらの方が受けが良さそうだ」
アリスティア命名なら更にアーランド人に受け入れられ、更に売れるだろうと考えたシルドレッド。
「ではそのように」
部下は各方面に命令を告げる為に部屋から出て行った。
「何が売れるのか分からん物だな」
シルドレッドはポップコーンを食べながら呟くのだった。
映画紛争最大の勝者はファフール騎士国だった。
オストランド「負けねえ。俺達の方が面白い映画が作れるんだ! 」
アーランド「(笑いながら)なんだぁテメエ」
他の同盟国「なにやってるんだコイツ等……」
オストランド王の後世の評価は、老いてからが本番と言われる程です。若い頃もバランス感覚の優れた人なんですけどね。




