30 契約の宝物庫と隠し事①
眠い…どうも寝起きの弱いアリスティア事、私です。
恐らく決闘の後、回復する間もなくダウンしたようですがここは宿の部屋のようです。しかし手をワサワサ動かしてもあるべき杖がありません。
私は基本的に杖を手放しません。寝る時もお風呂の時も手元に置いておくのが自衛の為と教えられたのです。なので杖が無いのは異常事態でどうにも落ち着きません。なので私は渋々首に下げてる鍵を取り出します。
「我は求める。虚空に消えし宝物庫の扉よ、つかの間顕現し我に宝を見せよ」
すると目の前に豪華絢爛なドアが出現する。金や銀に彩られ、各所を宝石で装飾された扉です。そして私は寝ぼけながら鍵穴に鍵を差し込みそのまま回す。
すると扉は勝手に開き、無駄に豪華な部屋が現れる。しかし金品の類は全然無い。何故なら宝物庫と言う名にありながら私はこれを格納庫と呼んでいるからです。
「開発ナンバー、杖の1‐1。竜杖よ我が元に」
私が使ってる杖を呼ぶと宝物庫から布と呪符でグルグル巻きにされた杖が浮かび上がり私の元にやってくる。そして宝物庫の扉は閉まり私が鍵を掛けると虚空に消えていく。
私は杖を抱き寄せるとそのままベットに潜り込んだ。眠いのでもう一度寝ます。
「……ちょっと待ってください」
「…………」
お休みなさい。
「……起きてください‼」
五月蠅いので杖に貼ってある呪符を剥がし【火球】を出す。
「っちょ‼本当に起きてくださいよお嬢様‼」
五月蠅いですね。睡眠は女性にとって大切な事で、子供にとっては成長に重要な要素の一つですよ、邪魔をする者は誰であっても許さない。
「お願いします。起きてください」
余りに五月蠅いので少し乱暴に毛布をどかしてベットに座り込む。そして声の相手を本気で睨みます。もし下らない事で睡眠の邪魔をするのなら朝まで黒焦げ待機を命じましょう。
「何?」
威圧を込めた視線を向けるとアリシアさんが居た。何やらカタカタと震えてるようですが今は関係ない。私はさらに威圧を込めて睨みつける。
「……起きてください…クッキー食べますか?」
恐る恐るクッキーの乗ったお皿を差し出す…まるで檻の中に居る猛獣に手渡しでお肉をあげる人のようで無駄に腹立たしのですが焼きたてのクッキーの匂いに私のお腹がキュウと鳴ったので食べましょう。
そう言えばお昼食べてないですね。私は食べなくても夕食まで持つのでお腹が減ると言う事は結構時間が経ってますね。魔力は何か増えた感じがします。ちょっと頭が痛いのと倦怠感くらいですかね。
「食べる」
モフモフ、サクサクとクッキーを頬張る。私の味覚に合わせて丁度いい甘さです。この世界の甘味は砂糖が高いので兎に角甘くすると言う愚か極まる物で私はアリシアさん作のお菓子以外のお菓子を余り食べません。胸焼けするのとお腹を壊しますので。
数枚食べるとようやく目が覚めてきたので周囲にアリシアさん以外の人が居るのに気が付きました。どうやらお兄様もこの部屋に居るようです。壁に寄りかかって何かを考えているようです。
「お兄様…何故ここに居るのですか?乙女の寝室に無断で侵入すると言う事は叩きだされても文句を言えない所業ですよ?」
「……」
お兄様は何も言わない。しかし閉じていた目を開き、私を見ている。さてどうしたものかと考えているとお兄様が喋りだした。
「…まだ早いと思っていた。確かに私達は家族だが、全てを話せる訳では無い。父上や母上も国王と王妃として私達には言えない事も多いだろう。国の為に悪も成してるだろう。それは分かる。だがアリスティア、君は何を隠してる?君は生まれた時点で他の人間とは違いが有りすぎる。私も他の者も、それを理解はしても誰も何も言わなかったのは、それを聞いたら君が消えてしまうと感じたからだ。君は何処でも生きて行けるだろう、その知性を魔法を技術を活かせば何にでもなれる、それこそアーランドの女王にでもな。だが君はそれをしない。私は君の生き方を見ていた。国の道具として生きる君の姿を。確かに私は王太子で君は王女…つまり君が道具として生きるのは普通なら不思議は無い。だが嫌なら逃げれる実力を持ち、かつその実力すら隠せるだけの知性も持っているのに何も隠さない…いや君はそれを隠さない事で本質を隠してるのでは無いのか?」
…ん?何を行き成り語りだしてるのでしょうか?私が隠し事……うん、かなりありますね。例えば私の作業小屋は実はカモフラージュで地下に研究施設を建造(まだ未完成)してるとか前世の物を魔法を用いて再現してるとかありますが、完璧に隠蔽している筈です。
「何を言ってるのですか?」
「アリスティア、寝ぼけて周りが見えていなかったな、先ほどの行為も私達は見ている。あれが何かは分からんが中に入っていた物は武器や兵器に準じる物なのは見当がつく、君は武器を作ってたのではなく表に出していないだけなのだな。不安になる必要は無い。私は別に君が反乱を企てるとかは考えていない。表に出さないのも君なりの考えがあるのだろう。」
……………ヤバい。見られた‼あれを‼…どどどどうしましょうか。あそこは私の部屋に保管しているような物じゃないですよ。普通にロケットランチャー的な物とかこの世界に出せばファンタジーな世界観が消えて無くなる…古代には普通に有りましたね。いやそんな物を作ったのがバレれば国家反逆罪とかになりかねません。国の為に頑張るのはOKですが企ててもいない反乱で処刑されるのは流石に嫌です‼
だから私は無かった事にします。
「……お休みなさい」
私はそう言うとベットに潜り込んだ。
「駄目です。流石に目が覚めたのはバレバレです。丁度いいので全てを話してください。流石にあれは見逃せません」
駄目でした‼いえ失敗は成功の元、私も何度も失敗を繰り返して異世界で前世の物を再現できるのか?と言うテーマで研究してたのでそれの正しさは知っています。どうにかして誤魔化すなどの事をして切り抜けないと。
「何を言ってるのか私には分からない。きっと幻覚を見たんだと思うよ?私は疲れたから寝たい」
「ふふ、これほど姫様の慌てる顔を居るのはいつ以来でしょうか、馬車の時もこれほどパニックになってませんでしたしね。ですが私も殿下も姫様の敵ではありません」
「私がアリスティアを罰する等あり得ないな……いやこれを口実に私の妻に…」
アリシアさんは凄い優しい顔で話しかけてきますが、お兄様は途中からかなり悪い顔をしています。まだ諦めてないのですか、別に私に拘らなくてもモテる人なんですけどね。あの顔を見ると腹黒王子にしか見えません。
しかし話して良いのでしょうか。お父様もお母様もお兄様も私にとっては家族ですが向こうは私の話を聞いて同じ考えで居てくれるのか分かりません。記憶は無くとも前世の、しかもかなり高度な知識を保持して生まれた私は果たして娘と妹と呼んで貰えるのでしょうか?ずっと一緒に居たい。それが私がこの世界で得た家族に対して思う事です。その為なら私の知識を出すのもやぶさかではありませんが高度に発展した技術は魔法と変わりません。そして地球の技術はこの世界に出せばこの世界に生きる人の世界観すら覆しません。だから、私の生み出す物は段階を置いて順番に出していこうと思ったのが始まりです。でもあの部屋の物は数百年は出せないでしょう。帝国と皇国と言う強大な国に狙われているアーランドは正直いつ滅んでも不思議ではありません、もしかしたらが、起こる可能性がある以上、それを覆せる物は保持する必要があります。だから作った物とそれの設計図は宝物庫に保管されています。もし私が死んでその後に国の危機が訪れるのならその時に国を守るために。
さて話すべきか、話さないべきか。人は腐ります。便利すぎる物は、強すぎる物は人を傲慢にもします。話すのは簡単ですが、生み出した責任は私にあるので何も考えずに言い出せる事でもありません。
「ふむ、やはり話せないか、いや君の事だ話す事で変わる事を恐れているのだろう。確かに知れば変わる事もある、だが私達は君を不幸にしたくは無い。君の抱えている物は君一人が抱えるには少し大き過ぎるのではないか?誰にも話せない秘密を多く抱えた君は本来なら、同世代の子供と多感に過ごす時期を置き去りにして大人になろうとしている。察するに君の秘密は君が無垢な子供では居れなくなる程の物だろう。私は家族として言う。それを話しなさい。君はありのまま生きて良い、私は君を否定しないし君には年相応に生きて欲しいと思っている」
「私は姫様にはもう少し近くで生きていて欲しいです。姫様は何処か遠くを見ているようで少し怖いです。もしかしたらその何処か遠くに行ってしまうのではないか?と、後は子供らしくしてほしいですね。研究より友達を作って人の輪に入って欲しいです」
真っ直ぐにこちらを見ている2人、私は…何も言えなかった。
「ぅ…あの……」
言葉が出ません。何を話せば良いのか。何処まで話して良いのか、自分で考えて自分で行動する私は人に頼ると言う手段が出来ません。自分は出来るからと出来てしまうからと無意識レベルで人を頼ったりしません。自分で出来るなら自分でやれば良い。正しい事だと思います。でも王女として生まれた私はそれをして良いのか?人に頼り人の意見を聞き最良の考えを出すのも必要では?私はどれだけ自分勝手に生きてたのでしょうね。全部話すのは怖い。もしかしたら何処かに一人で閉じ込められるかもしれない。もう一人は嫌だ。
「っつ‼姫様‼」
アリシアさんが私を抱きしめる。体が震える。頭の痛みが酷い。何処かでこの気持ちを感じた気がします。
そのとき私は見た。薄暗い部屋で一人で居る少女を、一人で泣きながら何かをしている少女の姿を、そしてそれをあざ笑う無数の大人たちを。
(ふむ…人間の記憶を封印するのはこうも難しいのか。完全に消せば人格に多大な影響が出てしまう。だが…もし君が全てを思い出しても生きていけるようにサポートするのも僕の仕事だからね)
何か声が聞こえるとスーっと体の震えが落ち着きだした。誰かが何かを言っていた気がしますが思い出せませんし、思い出す気もしない不思議な感覚ですし、先ほど何かを見た気がしますが思い出せません。何故私がああも震えていたのかも分かりませんが、確かに皆に話すには良い機会かもしれません。
何処まで話せるかは分かりませんが取りあえず宝物庫はばれたので話すしか無いでしょう。中身については話して理解できるかは分かりませんが出来るだけ正直に話します。
「ん、大丈夫だから」
「本当ですか?もし話すのが辛いのなら私は聞きません。外で待機しています」
「無理ならまだ話さなくても良い。行き成りで君も混乱しているだろう、少し間をあけても構わないが」
少し心配させてしまったようです。しかし体調は軽い倦怠感のみで頭痛は無くなりました。心なしか心も軽いです。今なら話せる気がします。
「大丈夫、でも話を聞いたら誰にも言えないよ?あそこは禁忌の宝物庫だから。私は全部の効果を把握してるけど他の…この世界の人には理解出来ないと思う」
「ふむ、私達に見せてきた物が玩具に見える物と言う事か?」
お兄様の言う通り。私が出してきたのは日常生活を豊かに楽にする為に術式を簡素化した異世界の道具類の模造品です。
「玩具では無いけどレベルが違う。もし貴族の人達が知ったら帝国・皇国を亡ぼそうと考えるかもしれない。そして多分それは出来る」
あれらは試作品故数が無いのですがどれも傑作と言える出来です。現在研究中の魔導炉が完成出来れば全て動かせる。
魔導炉とは古代に魔道具が発展した時代に存在した魔力増幅炉の事です。大型の魔玉を用いて効率的に魔力を生み出す魔導炉は地球ので言うと永久機関になりえます。しかしそれの制御は神がかった技術が必要で魔道具が盛んだったその時代は超大型魔導炉の駆動実験の失敗で国土の全ての人が死に魔導炉もそれの影響で壊れたそうです。幸い魔導炉が無くても魔玉だけで飛空船などは動かせる為、魔導炉の事は忘れられ多くの人は存在しない架空の物だと言っていますが私は存在したと思います。多用すればかの国の如く消えゆく危険な代物ですが製造が精霊魔法の使い手によって行われていたと言う記述から私が良く使っている【合成】を用いて複数の魔玉を一つにして大型の魔玉を作っていたのでしょう。だから多くの精霊魔法の使い手が消えた現在では作れない物なのです。
「今は動きません…いえ動かそうと思えば動くでしょうけど多くの魔力を使います。でも私が居れば動く、だから表に出せない。あれはもし国がどうしても避けれない苦難にあった時に覚悟ある人が使う物。だからこの鍵が無いと、あの宝物庫と契約しないと誰も手に入れれない。そしてこの鍵は私以外には触れない」
「アーティファクトか。その目もそうだがやはり持っていたか」
アーティファクトは宝具とも言われるアイテムです。生まれた時点で既に持っていて何時か自覚出来た時に使えるようになると言われる物ですね。人によっては死ぬ寸前に持ってるのを自覚する事があるので、何時使えるかは人次第、運次第です。そして生まれた時から精霊と強い繋がりのある人は持っている事が多い。
まずはこの宝具の説明をしないといけませんね。これは他の宝具とは違う物なので。
アリスティアの技術力は前世の影響です。
後々にそこら辺を出す予定です
後、事故死は事実ですが元々普通とはかけ離れた生活をしていました。




